「だんちょー・・・しぬー」
「もーだめ」
「あるけねぇ・・・」
「頭ガンガンしてきた」
「あー俺も・・・・あぢぃ・・・・・」
そんな声を背に受け、セシルは振り返った。
そこには、40人ほどの暗黒騎士団のメンバーは、それぞれ、殆ど肌の見えぬ真っ黒な甲冑を着てへろへろになっている。炎天下の訓練は、漆黒の鎧をまとった彼らにはいかにも辛かった。
「皆、なさけないなぁ・・・」
どこか、飄々とてセシルがそういえば、
「団長は人間じゃねぇ!」
「鬼だ!!!いや悪魔だ!!!」
「うごけねぇええええ」
「やすませろーーーーー!」
っといつもは、一匹狼ばかりの彼らが団結したかのようにヤジを飛ばす。
それにセシルが驚いたように少し身を引けば、
「お前等!上官に対してなんていう口の聞き方だ!!!!」
っと、隣に立っていた副官のエンリが激怒する。
「うるせーーー、部下の体調にも気をつかえーーー」
「そうだそうだーーー」
「だんちょーきゅうけーーい」
「きゅーけ!きゅーけ!」
百戦錬磨の暗黒騎士団とはいえ・・・・此処までくれば、悪がきと対して変わらない。
そもそも、彼らは戦いに特化した存在で、今日のような訓練には向かないのだ。
休憩コールに、エンリが奥歯をギリリと鳴らし、肩を震わせる。
セシルは、それに少し気の毒になり、彼の肩に手を置いた。
「まぁ、仕方ないよ。血も流れない訓練なんて、彼らにとっては遠足と変わらないしね」
「でも!」
「まぁいいじゃない。戦闘となれば、これ以上に頼もしいヤツラはいないし」
いかつい兜のせいで、表情こそ見えないものの、セシルがにっこりと微笑んでいるのがわかり、エンリは大げさに息をついて肩を落とした。
そのエンリを慰めるように二度肩をたたいてやったセシルは、あらためて自分の部下を振り返った。
途端、休憩コールはにわかに消える。
そして、団長の指示をまった。猟犬が飼い主の指示をきく時ような態度。
― ほんとうに・・・いいやつらなんだけどなぁ・・・ ―
彼らは、もし、自分が少し声を硬くして訓練の続行を告げたなら、もう文句はきっと言わないだろう・・・。
そう思いながらも、甘い自分はそんなことがいえない。
兜の中で、セシルは苦笑して、口を開いた。
「仕方ないから、此処で休憩にしよう。」
途端、わっと歓声。
隣でエンリが、皆に睨みをきかせているが、なんの抑止にもらない。
セシルはもう一度苦笑し、口を開いた。
「では、10分間の休憩とする。ただし・・・勝手に遠くにいかないように!」
遠足の引率の先生のようなことをセシルがいうのを、またもや彼らはじっと聞く。
そして
「では休憩!」
告げると共に、肩の力が抜けたようにその場に座り込む団員たちに苦笑する。
それぞれが、兜をはずし、涼を求めだしたのを確認して、セシルもまた兜を取る。
途端、熱気が湯気となって外に出たような気がした。
髪が汗でべったりと肌に張り付いている。
前髪のそれを引き離し、息をついた。
ふと隣をみると、彼の副官もまた兜をとっている。
そして、セシルの視線に気付くと、暑いですね と言った。
「本当に。今年は秋が遅く感じられるね」
「えぇ、まだ夏真っ盛りといったような感じです。」
言いながら、彼はセシルのために、小さな椅子を組み立てそれをすすめる。
指揮官を地に座らせるわけにはいかないというエンリ。
セシル自身はそういう特別扱いは居心地がわるいのだが、軍規が乱れるといわれれば従うしかない。
セシルが大人しく座ったのを見て、エンリは皆に水分を十分に取るように指示してくると歩いていってしまった。
本当によく出来た副官だと、セシルは苦笑する。
自分にはもったいないほどによくできた副官。
自分が部下たちに慕われているのはわかるが、それはエンリの力も大きいのだろうとセシルは思った。
自分ひとりでは此処まで兵をまとめることは出来ない。
有能な副官があって、今の暗黒騎士団がある。
もし、エンリがかけていて・・・自分だけだったなら・・・
ただの殺戮集団に成り下がっていたかもしれない・・・。
「どうかしましたか・・・?」
そんなことをぼんやりと考えていると、エンリがすぐ傍に戻っていた。
「あぁ・・・いや」
「なにをぼんやりしてるんですか。団長が熱射病で倒れたら示しがつかないんですから、
きちんと水分はとってくださいね。」
言って、皮袋を渡される。
それを、うけとり、一口飲んだとき・・・。
青空に、何か小さな点のようなものが複数あるのに気付いた。
あれは・・・?
セシルが目を凝らすと、隣にいたエンリもまたそれに気付き視線を上げた。
そして、
「あぁ、あれは、竜騎士じゃないですか・・・?
あんなに高くに飛んでいる・・・・上空はさぞ涼しいんでしょうね。」
言われて見れば、それは竜のようにも見える。両手には届かないほどの数。
ゆっくりと旋回している。
「訓練かな」
「じゃないですかね・・・?」
何故そんなことを聞くんだというようなエンリを置いて、セシルは立ち上がった。
そして、スラリと剣を抜く。
「だ・団長?」
驚いたエンリ、それに気付いて団員たちもにわかに緊張感を増す。
それに気付いていながら、セシルはそれを無視し、剣を水平に構え角度を調整した。
剣が、太陽の光を反射し、自分に気付いてもらえるように。
すると、ケィィィンっというような、高い竜の雄たけびが小さく聞こえた。
「気付いた」
にっこりと笑うセシル、エンリは不思議そうにそれを見やる。
「団長・・・?一体・・・?」
エンリの質問に、セシルは剣を収め、それから天を指差した。
「来るよ。」
「来る?」
「うん。来る。」
「・・・・?」
セシルはずっと上を見上げている。エンリは首を傾げながらもセシルの視線を追い・・・
「うあああああああ!!!!」
急降下してくる竜の一団に気付いた。
ものすごい勢いで・・・まるで、海鳥が水中に泳ぐ魚を狙うような勢いで一直線に・・・降ってくる。
「ぎゃーーーーー!!!」
エンリは自分が食われるのではないかと思った。そして、思わず剣の柄に手が伸びそうになる。
それを、横から伸びたセシルの手が制する。
「だ・・だ・・団長!?」
「大丈夫だよ。」
さわやかに微笑まれて、エンリは引きつりながらそれでも柄から手を離し、上を見た。
そして・・・・
食われる!!!!!
エンリがそう思ったとき、竜はにわかに、身体をそらし、地面すれすれ・・・
エンリやセシルの頭よりも少し上を、見事な編隊飛行をしてみせた。
8匹ほどの竜が次々に、先頭の竜を追うように超低空飛行で彼らの頭上を泳ぐように飛んでいく。
エンリがぽかんとしていると・・・
すぐに8匹の竜は通り過ぎ、ついで、ものすごい風が彼らを襲った。
それは、上空の冷やされた清らかな風。
一気に気温が5度ほどは下がったように感じる。
湿気がにわかにさり、汗をかいてぐったりとしていた団員たちの疲れを取る。
団員たちが笑顔をみせ、立ち上がりその清らかな空気を楽しむ。
それに気付いて、感心したようにエンリが傍らのセシルを見やると、セシルは上空に向って手をふっていた。
つられてそちらを見れば、すでに、竜たちははるか上空に上っている。
そして、目を凝らすと・・・
その先頭にいる竜に跨った人物が、左手で長い槍を振っているのが見えた。
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本編前 暗黒騎士団と竜騎士団 普通に竜がいる。
セシル、カイン、あとはモブ