行動を共にするようになってしばらくたった頃だと思う。
仲魔が一匹死んだ。
誰が・・・いや、何が死んだかはっきりは覚えていない。
俺にとってはどうでもいい、ただの悪魔。
殆ど区別だってしてやいなかった。
ただ・・・・そう、それほど強いやつではなく、これから先に進むには、少しだけ足を引っ張ってたヤツだ。
だから、そいつが死んでも玲治はそいつに蘇生を行わなかった。
悪魔は、人間でいう死を迎えることはないが、それでも、一度骸と化せば、生としてあった時の人格のようなものは消える。
死ではないが・・・それは死に近しい。
弱いものはこの先にはいけない。
もてる戦力は少ない。
先に進むなら、切り捨てなくてはいけない。
それがルール。
俺は何の感慨も持たなかった。
あいつらは奉仕するための僕(しもべ)
役に立たない僕はいらない。
だから、亡骸を捨て置き、去ろうとした俺に、少し待ってくれと玲治が言った時、俺は不快感に眉をしかめた。
召喚されていたもう一匹の悪魔は、壁際の影に入り気配を消した。
俺は黙って、半身で玲治を見ていた。
玲治は俺に背を向け、かつての仲魔の死骸を跪き覗き込んでいる。
しばらくしても動かない玲治。
何をするでもなくただ座り込む玲治に次第に俺は苛立つ。
5分ほどはまっただろうか、俺は耐え切れなくなって口を開こうとした、だが
「まって」
玲治のほうが早かった。
「もう少し待って」
その言葉に俺は開きかけた口を閉じた。
先ほどまでぴくりとも動かなかった玲治が動く。
ハーフパンツのポケットを探り、何かを取り出すと、
「おい、何を・・・!」
俺が止める間もなく、玲治はそれをどうやら自分の顔につきたてたようだった。
そして、左から右へと腕を動かす。
慌てて、玲治にかけよると、玲治は目の下のあたりを左から右へと一直線に切り裂いていた。
玲治の手を見ると、血に濡れたガラス片が握られている。
傷口からジワリと赤い血が浮き出したかと思うと、次には勢いよく頬を伝い、鼻を伝い、彼の顔の半分を赤く染め上げた。
「玲治・・・?」
気でも狂ったのかと思ったが、玲治の顔は静かだった。
俺が掴んだ腕を振り解き、屍に覆いかぶさるようにした。
「何を・・・?」
「俺には・・・涙が流せないから」
言って、さらさらと塵に孵ろうとする悪魔に手を触れた。
そのわずかな重みですら、消えゆく肉体は支えきれず、そこから崩れ落ちる。
ボソリ・・・
玲治の手が、塵となった身体を通り抜け、地につく。
ぽたりぽたりと赤い血が落ち、灰の塊になってしまったかのような悪魔の身体に吸い込まれていく。
「俺には、泣くことができないから」
血をぬぐうこともせずに流れ落ちるままにさせる玲治。
俺はそれから目が離せなくなった。
人間と悪魔のハーフのような、子供と大人のちょうど中間にいるような、脆弱に見えて、それでいて強いからだ。
顔は、全く表情を伴っていないが、そこには深い悲哀があった。
「だから・・・これが涙の代わり・・・・」
言って、両手で己の顔を覆った。
背を丸めて、まるで本当に泣いているように。
「君のために・・・涙を・・・」
細く、強く・・・そして弱い悪魔。
俺はかける言葉すら無く、ただただ・・・・それを見ていた。
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人修羅の名前:沓名 玲治(くつな れいじ)
多少グロい 期待されるほどグロくはない。