No.250963

異聞~真・恋姫†無双:十六

ですてにさん

前回のあらすじ:種馬が雛里のおかげで死亡フラグを立て、于吉さんが暴走し、1日後にフラグが成立する見込み。

**************

戦闘描写が致命的でごめんなさい。

続きを表示

2011-07-31 20:33:57 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:10489   閲覧ユーザー数:7007

俺が于吉に一日後の死亡フラグを立てられた頃、俺の誇れる頭脳集団が、状況の解決に動き出していた。

 

「稟ちゃん、急いで劉備さんを探しましょう。話が明らかにおかしな方向へ進んでます」

 

「ええ、関羽や張飛がいるということは近くにいるはず。士元、諸葛亮に話を速やかに通す為、協力願います」

 

「はい、ま、任せてください。ご主人様を早く助けないと」

 

(本当に、自然に『ご主人様』と呼ぶんですね~。これは強敵です)

 

(ふむ・・・私も、何か特別な呼び方を考えて、距離感を近づける手法を取るべきでしょうか)

 

「・・・お二人とも、どうかしましたか?」

 

「なんでもありませんよ」

 

「どうもしませんよ~」

 

・・・私的な思考も混じってはいるようだったが。

 

 

「戯言は終わりだ、北郷。さて、身体能力がどの程度上がったか。早速試させてもらおう」

 

左慈の威圧に向き直り、俺は模擬刀を鞘から抜き放ち、正眼に構える。

ふっと息を吐いた瞬間、氣をまとった左慈の拳と脚が連撃となって、矢継ぎ早に繰り出されてくる!

 

「ぐぁ、つっつっつ・・・!」

 

気脈が活性化したおかげで、なんとか、その速度に眼も身体の対応もついていく。

だけど、それが精いっぱい。捌く以外に何かをさせてもらえるなんて思えない。

 

殆どの攻撃が身体の急所狙い。食らったらそれだけで終わる!

 

「まだまだ速度は上がるぞ! そらそら、そらそらそら!」

 

「ち、く、しょ・・・うっ!」

 

左慈の拳や蹴りは、星の突きと殆ど同じ速さか、それ以上だ。くそっ!

 

細かい打撲や、氣を伴う蹴りによる切り傷を受けながらも、なんとか俺は後方に飛んで、一時的な距離を取る。

そして、素早く納刀。鞘を左手で抱え、柄に静かに手を添える。

 

「・・・そうだ、その眼だ。諦めることを知らぬ、その眼が! 力や知もずば抜けたものなど持たないお前が!

人形どもを圧する、その強靭な意志が! 俺は憎い! その意志を砕く為に、俺は力を磨き続けてきた!」

 

「俺を殺せば、それで終わるのに?」

 

「あぁ、英傑の力を持たんお前を殺すのは容易い。

 

ただ、お前はその強い意志で、新しい外史の扉を開き、魏に、呉に天下をもたらした! 

意志と覚悟だけで、武を持たぬ貴様が、正史の曹操でも不可能だったことをやってのけた!

 

・・・ゆえに、その精神ごと砕かぬ限り! 俺は本当にお前を殺したとは言えんのだ!」

 

「だから、管理者としての力を、一番お前が得意とする武に特化させて、それを磨き上げた、ってことか?

ずいぶん高く、評価してくれたもんじゃないか。涙が出るよ」

 

ただな、左慈。俺の心なんて、すぐに折れるんだよ。そんな武に特化させなくても。

 

「・・・搦め手を使えば、一発だろうに」

 

「ふん、見くびるなよ? お前の心を殺すために、なぜ人形どもに手を出さねばならん。必要などない。

それに、この外史からは、お前は必ず放り出される定めにある。ならば、管理者としての役割など、知ったことか」

 

わかっていて、やらないってことだ。意外に、気高い奴だったんだな。あぁ、悪くない。悪くないさ。

ただ、だからといって、むざむざやられてやるわけにもいかない。

 

「・・・不器用だな、お前。俺も、似たようなもんだけど」

 

気脈を無理やりに活発化させてもらって、やっとお前の攻撃が見える。それでも防ぐので精一杯。

ただ、俺も、元の世界に帰ってから、一日も修練を欠かしたことは無いんだ。

 

「今の俺の精一杯を見せる。砕いてみせろよ、左慈」

 

爺ちゃんに習った戦い方の中で、これが一番速度を出せる。

居合いの一の太刀。今の俺は、それ以外で、あいつの早さに対抗できる術を知らない。

 

「主!」

 

「ご主人様!」

 

「お兄ちゃん!」

 

「・・・一刀」

 

「見届けましょう、華琳ちゃん。今のご主人様に手出しは無用よ」

 

「・・・わかっているわ。ただ、心配なだけ」

 

「ふ、ふふ・・・北郷どの、左慈を懲らしめてしまってください・・・貴方なら出来る、出来ますよ、くくく・・・」

 

皆、近くまで来たようだ。さすがに顔を向ける余裕なんて、無いけど。

 

「邪魔だてするなよ・・・! こんなに肌があわ立つ感覚は初めてだからな!」

 

左慈が咆哮を上げれば、俺も息を細く吐き出しつつ、大地をしっかりと踏み締め、いつでも踏み込み抜刀できる体勢を保つ。

 

「失望させるなよ・・・! 行くぞ、北郷!」

 

爺ちゃんから託されたこの模擬刀は、切断は出来なくとも、磨き上げられた刀ゆえに相手を殺傷する破壊力が十分ある。

ただ、躊躇えば、命を落とすのは自分・・・今までの経験でそれは思い知っている。

 

左慈が疾駆する。俺は右足を踏み込み、左慈の蹴り込まれる氣を纏った足に向かって、

鞘から模擬刀を滑らし、迷うことなく振り抜く!

 

ぎぃぃぃぃいん!

 

刃がぶつかり合うな音と共に、お互いに相手を吹き飛ばそうとする圧力がせめぎ合い、

その苦しさに俺は思わずうめき声を漏らす・・・!

 

「ぐぅうううう!!!」

 

「ちぃぃぃ!」

 

お互いに一歩も引くまいと、気合いで踏み止まるも、次の瞬間。

 

ぼんっ!

 

・・・俺は光と共に爆風に身体を吹き飛ばされていた。

受身などうまく取れるはずも無く、地面に身体を打ちつけ、転がる。

 

「がふっ、い、いて、って、ててって!!!!」

 

なんとか、手放さずにいた模擬刀を地面に引っ掛け、やっとのことで自分の身体を止めると。

左慈も吹き飛ばされたものの、受身を取った様子で、地面に片膝をつくような格好となっていた。

 

・・・結構な距離が空いている。しかし、今の爆発は何だったんだ・・・。

 

「痣だらけだけど、どこか折れたりはしてない?」

 

「あ、あぁ、華琳。それは大丈夫っぽい・・・」

 

地面に突っ伏す俺を助け起こしながら、どこか心配そうな華琳の姿。瞳にわずかに潤んで見えるのは気のせいだろうか。

 

「本当に一人で立ち向かうなんて、思ってなかったわ。馬鹿、何かあったらどうするのよ・・・」

 

「ごめん。爆風のおかげでかえって助かったかもな。ただ、なんで急に・・・」

 

「・・・一刀と左慈の氣が濃縮されて、一気に弾けたのよ。凪が似たようなことをしていたでしょう?」

 

「うわ、そういうことか。普段からこんな氣をぶつけあって戦ってる皆って・・・」

 

俺の制服についた土をはたき落としながら、優しく俺の身体の各位を押していく華琳。

実際に、ひびとか骨折箇所が無いかの確認だろう。

『心配ばかり掛けて・・・』と呟く愛しい彼女に、

俺は軽く抱き寄せ、ごめん、と繰り返しとなる詫びの言葉を口にするのだった。

 

 

「もうやめて、ご主人様! あの人の格好、ご主人様と同じ天の世界の服装だよ!? 同じ世界の人と戦う必要なんてない!

話し合えばわかってもらえるよ!」

 

「・・・玄徳、相変わらず頭が沸いてるのか?」

 

「ぶーぶー! いろいろひどいよ、ご主人様! それに私は『桃香』って呼んでって言ってるのに~」

 

距離が開く形となった、俺と左慈の間に飛び込んできたのは、天下の大徳・劉玄徳。

皆で手を取り合い、進んでいこうと公言する彼女。

わけ隔てなく向けられる、その優しさは、民の希望となり、三国の一角を担うに至る。

 

ただ、本当に王になどなりたくなかったと叫ぶ、弱い彼女を、俺は知っていた。

ゆえに、覚悟を突きつける。曲がりなりにも、この大陸を一度は統べた、王の端くれとして。

 

その上で、必ず立ち上がってくれるはずだと、希望を込めて。

俺は痛みをこらえて、立ち上がり、劉備さんの方へ歩を進めた。

左慈も『今日の戦いは終わりだ』とばかり、地面に腰を下ろしたまま、様子をただ見ている。

 

「話し合えばわかってもらえる。本気で、言ってるのか?」

 

「え、あ、当たり前です!」

 

「・・・左慈が許された、君の真名を呼ばないのも判る気がする」

 

「なっ! 桃香さまを侮辱するのか!」

 

「ほら、君を否定されると、すぐに側近が恫喝を行う状態で、話し合い?

君がやっているのは拳を振り上げながら、手を差し出しているのとなんら変わらない」

 

「・・・貴様ぁっ!」

 

怒りに任せた愛紗の一撃を、事も無げに華琳が『陽』で弾く。感情に流された攻撃など、彼女が止められないわけが無い。

 

「部下のしつけがなってないわよ」

 

「あ、あぅ、ご、ごめんなさい! 愛紗ちゃん、手を引いて!」

 

「しかし、桃香さま!」

 

「華琳、いい。鎌を下ろしてくれ」

 

「一刀・・・」

 

「・・・俺の役割だ、これは。お前には、もう背負わせない。背負わせてなど、やらない」

 

言葉を続けようとする華琳は、冷徹な施政者を装う俺の表情を見て、静かに押し黙る。

華琳は、もう十分に王としての責務を果たした。この外史でまで、そんな役割をさせて溜まるものか。

 

周りを見れば、俺に向かい静かに礼を取る、風、稟、星、雛里の姿。

于吉、貂蝉までもが、伏し目がちにやや下を向き、俺を立てるような様子をする。

 

「すごいのだ・・・」

 

鈴々が驚嘆の声をあげ、朱里も『はわわ・・・』と慌てている。

そう、まるで威厳があるように見えるんだ。フリであったとしても。

 

「・・・ちゃんと話を聞いておけ、玄徳。その上で、お前は自分自身で考え抜かねばならない」

 

「ご主人様・・・」

 

「・・・続けるよ。そちらにいるのは、君の軍師かな。一緒に聞いて、補足してもらえるとありがたい」

 

「は、はひっ」

 

「諸葛、孔明さんだね。雛里から話は聞いている。あとで時間をとるから、今は俺の話を聞いて欲しい」

 

「わ、わかりまひた!」

 

「さて、君は話し合えばわかってもらえると、本気で信じていると言いながら、

やっているのは拳を振り上げながら、手を差し出しているのとなんら変わらない状況。そこまではいいかな」

 

「・・・はい」

 

視界の端には、怒りを押さえきれない愛紗の姿が入る。もともと、愛紗は盲目的に主を信じる傾向が強い。

だから、劉備さんを信じる彼女には、俺の声が罵倒や侮辱以外の何物にも思えない。

愛紗、感情に囚われすぎて、それじゃ俺にも隙だらけだ。

 

次の刹那、于吉を見る。彼はそれだけで何をするべきか察してくれたようだ。

 

「ただね、それでもいいんだよ。ちゃんと矛盾を自覚していれば」

 

「・・・へ?」

 

素っ頓狂な表情の劉備さん。それは、かつて俺が通った道。理想は持ち続ければいい。

但し、現実との矛盾にちゃんと眼を向け、自分に問いかけながら進んでいくこと。

 

「喧嘩も、争いも、それこそ、国同士の戦いってあったとしても。話し合いで済むのが一番いいのさ」

 

「そっ、そうですよね!」

 

「ただ、実際にこんな風に、自分たちに刃を向ける人間と、徒手空拳で話し合うことができる?」

 

俺の声にすうっと華琳が陽の刃を、愛紗に突きつける。

普通ならば抵抗するはずの彼女の瞳は空ろ。偃月刀をだらりと垂らした無防備な姿があった。

 

「・・・愛紗ちゃん!」

 

「さぁ、劉備。この状態で何を話し合うことが出来る? お互いに刃を収め、仲良くしましょうなどと、まだ言えるの?」

 

 

「放して! 愛紗ちゃんを放してください!」

 

・・・半狂乱に近い状態になる劉備さん。予想通りの反応し、俺は静かに息をついた。

 

「お兄ちゃん、らしくないやり方はやめるのだ」

 

そんな、落胆を見せる俺に、真意をしっかり捉えた末妹が、代わりに口を開く。

 

「・・・・・・」

 

「鈴々ちゃん・・・?」

 

「お姉ちゃんも落ち着くのだ。こんなに愛紗の自由をたやすく奪えるなら、

本気でこっちをやっつけるつもりなら、とっくにやられてるのだ。な、朱里」

 

「・・・はい、鈴々ちゃんの言う通りです。桃香さま」

 

「お兄ちゃんは、お姉ちゃんがやってるのはこういうことだっていうのを、逆に見せてくれただけなのだ」

 

「え、え、えーっ!」

 

「にしし・・・。それに、お兄ちゃん。そんな厳しい辛い顔、もうやめて欲しいのだ」

 

二度も、鈴々は俺の顔を見て、はっきりと『お兄ちゃん』と呼んだ。忘れるはずのない、あの明るい声色で。

 

「・・・思い出したのか?」

 

「なんか混乱してるけどなー。でも、鈴々にとってのお兄ちゃんは、やっぱり『一刀』お兄ちゃんだけなのだ」

 

「・・・思い出させずに、行こうと思った。左慈がそっちについたのなら、なおさらだ」

 

「甘いのだ。お兄ちゃんの声を聞けば、そんなのすぐなのだ。愛紗は頭に血がのぼってたから、ダメだったみたいだけど」

 

「・・・そっか、り、いや、翼徳は相変わらず賢いな」

 

「え? え? ど、どういうこと、鈴々ちゃん?」

 

「桃香さま。あとで説明致しますので、今は」

 

「う、うん・・・」

 

劉備さんの頭にたくさんの?マークが浮かんでいるのが、見て取れるようだ。

笑顔の鈴々、目線を合わせて頷いてみせた朱里。

 

直接呼びかけてはいないのに、二人は記憶を取り戻してみせたという。

・・・なんだよ、みんな。どんだけ、俺を信じてくれてるんだよ。

 

「まだ、頭にもやがかかっているところがあるみたいだから、お兄ちゃん、早く真名を呼んで欲しいのだ」

 

「私もお願いします、『ご主人様』。どうかもう一度、あの大好きな笑顔で、真名を呼んで下さい」

 

「・・・一緒に行けるとは、限らないんだぞ。それに、また消えることだって、確定してる」

 

君たちを捨てて、天の世界に帰る事実はきっと変わらないんだぞ。

なのに、真名を呼ぶ資格なんて、俺にあるのか?

 

出立前日に秋蘭が見せた、あの今にも泣きそうな笑顔。

下手に思い出して、一緒に行けないなんて、それってどれだけ残酷なんだって、思い知って。

 

それでも、俺はただ一人を確実に幸せにしたいと願ったから。誓ったから。

 

「難しい事はよくわからないのだ。でも、鈴々はお兄ちゃんがお兄ちゃんらしくいられるのが一番なのだ」

 

鈴々の声が。

 

「主。どうぞ、呼んであげて下され。選ぶのは、あやつ等自身。主は選択肢を与えてやれば宜しい」

 

星の背中を押すような、励ましが。

 

「えへっ。そんな困り顔を見るのも、本当に久し振りです」

 

向日葵のような、朱里の笑顔が。

 

「なんか、悩んでるのが馬鹿みたいじゃないか」

 

頬を伝う熱いものがある。俺はあえて拭おうとともせずに、精一杯笑って見せた。

 

「鈴々、朱里。・・・ただいま」

 

「お兄ちゃん、お帰りなのだ!」

 

「ご主人様っ! お帰りなさい!」

 

胸に飛び込んでくる二人を、俺はただただ、強く抱き止める。二人も必死に抱きついてくる。

離れていた時を、ひたすら埋めるかのように。

 

「士元。あとで私からも説明する。少しだけ、待ってあげて」

 

「蘭樹さま、ありがとうございます。だけど、朱里ちゃんがあんな幸せそうな顔をするなら、きっと大丈夫」

 

俺たちが再会を分かち会う中、華琳は混乱の極みにある劉備さんや、

状況が飲み込みきれない、雛里のフォローをしてくれていたのを、後で知り、また一つ頭が上がらなくなったのは、余談だ。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
69
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択