No.250325

ランチタイム

音坂さん

うちの人参夫婦

*方言しゃべります
*学パロです
*サムネは頂いたイラストよりお借りしてます

2011-07-31 13:04:16 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:657   閲覧ユーザー数:647

 

「……なんやねんこれ」

「そんなことも分からんのんか」

「いや、せやのうてな……」

 無愛想に包みを突き付けてきた相手は、目が合うや否や、不機嫌そうに顔を逸らした。

 そうだ、聞く間でもないのである。誰が見てもこの包みは弁当。しかも、手作りらしい一品だ。

 突き付けられた方は屈んだままの姿勢でクラスメイトを見上げ、がしがしと頭を掻いた。

 女子から手作り弁当である。嬉しくないわけがない。

 だが今、彼の胸中にはその喜びを上回るものが渦巻いていた。

 気遣いに礼も言わず、そちらを先に吐き出すことが失礼だとは分かっている。

 けれど、伸びやかに鳴った鐘の音に、自制は呆気なく吹き飛んでしまったのだった。

「お前、なんでこのタイミングやねん! 昼休み終わってもうたやんけ! あとなあ悪いけどなあ、俺もう昼食てもうたんやわ!」

 既に、辺りに人の気配はない。

 彼女がここへやって来たのが始業五分前の鐘が鳴る頃なのだから、当然である。

 グミヤの強い口調に、グミは背けていた顔を再び彼へと向ける。

「うるさいわい!」

 鋭い一喝が、静かな空気を震わせた。

「なんで先食とんねん! 一緒に昼食うって約束しとったやんか!」

「そっ……俺かて予鈴の五分前まで待っとったわ! 自分何しとったん? 昼休みの四十五分間、自分一体何しとったん!? 俺一人で待ちぼうけしとってんけど!」

「携帯落としてもうて、必死こいて探しとったんや! ホンマもう深刻やってんからな!」

「自分ホンマ鈍臭いな!」

「うああ、もおお、ないわあ!」

 ぱっと包みを握り締めていた手を離す。真っ直ぐに落下する弁当箱を慌てて受け止めて、グミヤはまた叫んだ。

 授業は始まっているものの、幸いこの場所は休み時間ですら人気のない場所である。

 もっとも、「彼が居る」という事実が、更にそれを促進させているのかもしれないが。

「ちゅーか、なんで食べモン持っとんよ、自分」

「あー、もろてん。一年の子に」

「……女か」

「その目やめえ。別に、重たそうな荷物持っとったから、手伝ったっただけや」

「ああ、そうかいな」

 

 お聞きのとおり、彼──グミヤは、わざわざ振り分ける間でもない善人だ。

 ただ、コミニュケーションが下手で、目付きと挙動が少し不良じみている節があるだけ。

 可哀想なことに、たったそれだけで周りに怖がられているのである。

 

 だが、素直に言ってグミは、それを惜しくも思っていたが、また都合良くも思っていた。

 この愉快な青年を自分一人で独占できるというのも、彼女にとっては嬉しいことである。

(まあ、言わへんけど……)

 にや、とグミヤが笑ったのを見て、ぎくりとする。

『喋るんちゃうぞ』と一瞬のうちで許される限り唱えてみても、彼は機嫌良さそうに言う。

「なんや、妬いとんのんか、グミ子」

「アっ、アホかお前、死ねやああ!」

「ほー、そうかそうか、ああもうしゃあないわあ。しゃあないから弁当食お」

「自分授業ええんかい!」

「んなことしとる間に十分ちょい経過してもうたし、ええやんどーせ五時間目調理実習やん」

「いやいや調理実習やからこそ班とかめっちゃ大事やねんで。確かに遅刻しとるけど!」

「……ええよ別に……」

「いや……拗ねんといてえな、これをきっかけにみんなと仲良くなれるかもしれへんやろ」

「ええねん別に! もう高三の二学期やで、正直今更やん!」

「おいちょお、ぐっぴー!」

「そのあだ名使うんやめてんか」

 じろりとグミを睨んで、人参の絵柄が施されたランチクロスを解く。

「何しとん、はよ座れや。自分昼食てへんねやろ」

「せやけど……調理実習どないすんのよ」

「大丈夫やろ、俺らの班始音くんおったし……とりあえず飯抜きはあかんから、食え」

 言っているうちに、グミヤは二食目に箸をつけ始めている。

 弁当箱の中身があっという間に消えていくのを見て、改めて男子の食欲旺盛さには驚かされる思いだった。

 諦めて、グミも自分の分の弁当を広げる。空腹なのも事実である。

「──ほんで?」

「あん?」

「貰いモンとうちの弁当、どっちが旨いんよ」

「……」

 黙々と箸を進めるだけの彼が、心底面倒くさそうに横目でグミを見た。

「しょーもないこと聞かんといて」


 
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