ビアフ国の滅亡
C1 入電
ビアフ国議事堂。
ホログラム映写機がゼン・ラ帝国皇帝ゼン・ラと配下の話術士イッコ・クードの姿を映し出す。
ビアフ国指導者ビアンと側近の者がそれを円状に取り囲む。
ゼン・ラ『今、貴国に向かっているところだが・・・ブドド帝国とイオ共和国による大規模な海上閉鎖により、足止めを余儀なくされている。本来ならスムーズに貴国に進める手筈だったのだが・・・、無論、できる限りの努力はするが事態は好ましくない状況だ。真に申し訳ない。』
ゼン・ラは深々と頭を下げる。
ビアン『ゼン・ラ殿・・・その心遣いだけでもありがたい。』
ゼン・ラ『いやいや、貴殿の理想はこの大騒乱を終結させ、太平の世の模範となるべきもの。できることがあれば我々は微々たる力ながら何でもしよう。では・・・お互いに世界の未来のために健闘を。』
ビアン『ゼン・ラ殿、ありがとう。』
ゼン・ラ帝国からの通電が切れる。
ビアンは椅子に座り、モニターに映るクリシュナ艦隊を見つめる。
C1 入電 END
C2 入場
迫りくるクリシュナ王国艦隊がモニターに映っている。
オペレーター達の機械を操作する音のみが響く。
議事堂のドアが開き、軍靴の音と共に亡命軍人ウォレス入場。
ウォレス『ビアン殿!クリシュナ艦隊が戦闘準備に入った。今が転機。武器ならある!兵士もいる!どうか出撃命令を!!』
ビアンは立ち上がり、ウォレスの方を向く。
ビアン『ウォレス殿。武力の行使は平和主義とユートピア構想を主体とする我が国の理念に背く。平和と平等、そして共存の理念は乱世を終焉させる共通の夢のハズ…。理知的な存在の我々がそれを卓上で分かりあえぬハズはない。話し合いこそが最善の策なのだ。』
ビアンはオペレーター達の方を向き、指示を出す。
ビアン『そのまま続けてくれ。』
フォレスは靴音を議事堂内に響かせ、一歩前に出る。
ウォレス『ビアフ殿!先程から通信を試みているが、まったく応答は無い。クリシュナ王国は話し合いどころか、卓上にさえも着こうともしない輩どもではないか!』
ビアンはウォレスの方を見てゆっくりと口を動かす。
ビアン『・・・貴賤関係無く我々は同じ魂を持つ。あちら側が答えないのであれば、こちら側の努力が足りないだけだ。これ以上応答がなければ、私がクリシュナ王国艦隊の下へ直接行こう。』
ウォレス『危険だ!』
モニターに映るクリシュナ王国艦隊の砲塔が回転し、火を噴く。
ウォレスの言葉を遮り、オペレーターの1人の報告が響く。
ビアフ国オペレーター1『クリシュナ王国艦隊発砲確認!!被弾まであと・・・』
議事堂が揺れ、バランスを崩す者多数。ビアンは椅子にしがみつき、叫ぶ。
ビアン『被害状況は!!?』
ビアフ国オペレーター2『ハッ、はい!・・・B-7居住区が半壊…。幸い避難により人的被害は・・・』
ウォレスの怒声が議事堂内に響く。
ウォレス『わざと居住区を狙っているのだ!貴族に逆らった者への見せしめとして!既に機を逃した、残念だが、我々の持ちうる武力では奴らに対抗できぬ。』
ビアン『・・・ユランシアに古より栄える貴族が、こんな野蛮な行為を行なうとは・・・。』
側近の一人頭を抱え、呟く。
側近A『ああ・・・どうすれば!!』
ウォレス『ここは・・・我々が定住の地に選んだカルテカテナ島を放棄すべきだ。そして、我々の理解者であるゼン・ラ帝国に亡命を。』
ビアンはウォレスの方を見つめ、少しの間をおいて口を動かす。
ビアン『・・・しかたあるまい。』
ビアンは手を振り上げ、宣言する。
ビアン『我々はカルテカテナ島を放棄する。国民の脱出を。』
ウォレス『その間、我々が囮となろう。』
ビアンは無言のままウォレスの方を向き、頷く。
C2 入場 END
C3 招かれざるもの
カルテカテナ島から発進したウォレス率いるランス突撃艇は次々と単縦陣をとるクリシュナ艦隊の側面に猛スピードで突進していく。
その光景を背景にして、人々が次々と脱出艇に乗り込む。議事堂内にてビアンと側近の者達は脱出の誘導の指揮をしている。
遠くではクリシュナ艦隊の砲撃や回避行動は間に合わず、艦腹を次々とランス突撃艇の艦首にある巨大な槍に衝かれ、煙を吐き、戦列から落伍していく艦船多数。
側近の一人、ビアンに言及。
側近B『もうすぐ避難は完了です。我々も行きましょう。』
淡い爆発音。
クリシュナ艦隊の旗艦よりヘリコプターが上空へ舞って行く。弓撃と砲撃が多数飛び交うが、それには届かない。
ビアンの眼がグリーンアイス連邦のマークが描かれた多数の潜水空母群を捉える。それはカタパルトの上にDBx-1177級の人型機構を多数配置し、弓撃と砲撃と絶妙な距離によりクリシュナ王国艦船、ウォレス率いる艦隊の艦船を次々と破壊する。
ビアン『あれは・・・グリーンアイス連邦!!』
側近A『・・・なんと!どこに潜んでいたのだ!!』
側近B『クリシュナ王国だけでなくグリーンアイス連邦まで・・・。急がねば・・・。さ、ビアン様お早く!』
ビアンは無言で頷き、側近たちは扉に向かって駆けていく。
側近たちが議事堂を出ると、後ろから施錠の音がする。慌てて、扉に飛びつく二人。
側近A『ビアン様!何を!!』
扉の奥からビアンの声がする。
ビアン『さあ、行くんだ。』
側近B『そんなことはできません。あなたを置いていくなんて。』
ビアン『指導者命令だ。貴公達にはこの国の民衆を守る役目がある。』
側近A『しかし!!』
ビアン『頼む。私が脱出艇に乗ってしまえば、グリーンアイスの猛攻を脱出艇が受けてしまうやもしれぬ。頼む。行ってくれ。これ以上、皆を危険な目に合わせるわけにはいかぬ。』
側近B『ビアン様!!』
側近二人、泣きながら去る。
扉から遠ざかっていくビアンの靴音が響く。
C3 招かれざるもの END
C4 信念
ビアン、ウォレスに通電。モニターには穴の開いた艦橋と煤で汚れた顔のウォレスが映る。
ウォレス『おお、ビアン殿。こちらはようやく持ちこたえているところだ。首尾は?』
ビアン『脱出は完了した。』
ビアンうつむき言葉を述べる。
ウォレス『完了?ビアン殿。しかし、そこは議事堂では?』
ビアンは頭を上げ、ウォレスを見つめる。
ビアン『後は私がやろう。貴殿らも脱出してくれ。』
ウォレス『ビアン殿!何を考えているんだ!』
議事堂内に通信によるウォレスの声が響き渡る。
ビアン『私の理想は私の能力の範疇を超えた過ぎた夢。頭脳も無ければ、ウォレス殿、貴殿のような勇気も無い。この様な男ができることはただ人を信ずることと自分の信念を貫く覚悟のみ。クリシュナ王国と違い、グリーンアイス連邦は対話に応じてくれるかも知れぬ。しかし、これ以上民衆を巻き込む訳にはいかぬ。ウォレス殿、貴殿は生き延びて、民衆を守ってくれ。』
ウォレス『ビアン殿!分かっているのか!!皆この騒乱の世から逃れる理想郷を目指してあなたについてきた!あなたは・・・』
ビアン『生きていれば・・・また会おう。皆に、ゼン・ラ殿に宜しく伝えてくれ。』
ビアンは言い終わらぬうちに通信を切り、議事堂内からウォレスの声が途絶える。
ウォレス率いる艦隊はグリーンアイス連邦潜水空母群に突撃をする。バランスを崩した彼らの弓撃と砲撃の連携が乱れる。その間にウォレス率いる艦隊は敵前において急速旋回を行い、退却する。グリーンアイス連邦潜水空母群はそれを追撃をする。
ビアンはしきりにグリーンアイス連邦潜水空母群に電波を送信する。応答は無いものの、グリーンアイス連邦潜水空母群は追撃を止め、カルテカテナ島に向け航路を取る。
C4 信念 END
C5 ビアン殺害
モニターに映りこむ大多数のグリーンアイス連邦の兵士達。
彼らは瞬く間に議事堂を埋め尽くし、ビアンを取り囲む。
ビアンは重く腰を上げ、口を動かす。
ビアン『諸君らはいずれ分かるはずだ。我々は理知的存在であり、話しあえば理解しあえることを。そして、それこそがこの混沌たる大騒乱からの解放であり、武力を用いぬ完全な平和主義であることを。』
議事堂に鳴り響く銃声。
ビアンの額に穴が開き、後頭部から脳みその破片と血が勢いよく吹き出して床と壁を朱に染める。彼の死体はゆっくりと前向きに倒れ、手前の机上に突っ伏した。プレシオサウルス獣人でグリーンアイス連邦潜水空母部隊司令官のアシュッド・プレシオスは地面に唾を吐き、銃口からでる煙を吹き消して呟く。
アシュッド・プレシオス『あの世でやってろ。犯罪者が。』
C5 ビアン殺害 END
END
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根曲(ねぐせ)