No.239147

異聞~真・恋姫†無双:十四

ですてにさん

前回のあらすじ:種馬のキラースキル発動。雛里は八割方陥落した! 星や風は通常運転だった。

2011-07-28 11:42:04 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:9300   閲覧ユーザー数:6690

「士元どのに頂いた情報から判断するに、諸葛孔明どのが、この町に滞在している可能性は高いと思うのですが」

 

「偵察用の式もこの町に辿り着くまでの間、周辺をたえず飛ばしておきましたが、反応もありませんでしたし」

 

「・・・愛しの左慈も見つからず?」

 

「はぁ、残念ながら。いったい、どの辺りを彷徨っているのやら・・・」

 

「あの連合が組まれるまで待てば、確実な気もするけれど。有名どころの武将は皆集まることだしね」

 

近くの町で宿を取る事にした俺たち。

鳳統さんにもらった、朱里の名前を含めた情報を元に、移動しているであろう範囲を絞り込んでいく。

 

于吉は並行して、左慈を探しているようだが、これといった情報は入ってこないらしい。

ただ、反董卓連合となれば、そこを狙って、左慈がやってくるというのはすごくあり得そうな話で。

逆に言えば、俺はそれまでに左慈に殺されないように、対策を練るしかないんだが・・・これなんて無理ゲ?

 

「連合までが俺の命か・・・」

 

「北郷さま? 北郷さま~?! あわわ、目もうつろです」

 

「大丈夫よぉん、こんな時はわたしの熱い接吻でぇ・・・♪」

 

「!・・・この悪寒は、って貂蝉、そんな近づくなぁああああああ!!!!!」

 

「おごぅ!? な、なんて熱のこもった右ストレート・・・がくっ♪」

 

「・・・左慈といい勝負ができそうな気がしてきましたよ」

 

「今の早さ、重さ、なかなかね。あとは安定してこの力が出せればいいのだけれど。

死の淵に何度か追い込めば覚醒するかしらね・・・」

 

「華琳さん、冷静に恐ろしいこと言わないで!?」

 

「うむ、私が変にいじらなくても、華琳どのと于吉が主をいじり抜いてくれる。毎日酒ウマですな」

 

嬉しそうにメンマと酒を飲み喰らう星。くそぅ、少しぐらい反撃を・・・。

 

「・・・次の援助物資で、俺が考案した新しい製法のメンマが来るはずだったんだけど、

来なくなるかもしれないなぁ。ああ、残念」

 

「華琳どの! 于吉! 主で遊ぶのはそれまでにしてもらおうか!」

 

俺の言葉に即反応。龍牙を構え、引き締まった表情で、俺の前に素早く立つ星。

うん、横顔はすごく凛々しいのに、漂うこの白けた空気がもう・・・。

 

「星ちゃん、変わり身が早すぎなのです」

 

「というか、露骨過ぎですね。メンマのためなら、一刀どのを売りかねません」

 

「これはさすがに醜いわね・・・」

 

「子龍どの、さすがにどうかと思いますよ」

 

「はっはっは! メンマは至高! その為なら、この趙子龍! 多少の辱めなど耐え切ってみせよう!」

 

「うわー、俺ってメンマ以下って公言されたようなもんだな・・・」

 

皆の嫌味なんて何のその、その通りだと得意顔の星。

反撃したはずなのに、精神的にダメージを受けたのは俺という・・・。

 

「あ、あの、北郷さま。大丈夫ですか? ・・・今日、何回か同じこと言ってる気がしましゅが」

 

「士元さんはいい娘だなぁ・・・ありがとう」

 

帽子の上から、思わずなでなで。優しさが身に染みるよ、まったく・・・。

 

「あわ、あわわわわ・・・」

 

おっと、衝動的に頭を撫でてしまったけど、さすがに失礼だったかな?

しかし、この撫で心地・・・月や朱里に並ぶ一品(?)だぞ、これ。

 

「あぅ・・・」

 

拒否しないってことは、続けていいのかな。あー、しかしこれは癒される・・・。

なでなで・・・。

 

「・・・おにぃさん?」

 

風のどすのきいた低音域の声で、はっと現実世界に呼び戻される俺。

ふと、撫でっ放しだった鳳統さんを見れば、頭から湯気の錯覚が見えるほどに、顔が紅潮してしまっていた。

 

ところで、なんで風はすごく不機嫌そうな顔なんだろう。女の子はいつまでたっても難しい。

 

「おぉ、風、よく止めてくれたね。こりゃまずいな、士元さん熱出てるんじゃないか?」

 

ちょいと失礼して、おでこに手を当てる。

 

「あわー!?」

 

まずい、熱があるな。びっくりした声を上げられたけど、ちょっと形振り構っていられないだろう。

強引だが、無理やり士元さんを抱え上げ、寝室へと移動を開始する。

 

「稟、おでこを冷やす氷嚢を準備してくれ。華琳や風は悪いけど、彼女の着替えを手伝ってやって。

部屋まではこのまま連れて行くから」

 

「だっ、だっ、大丈夫でふっ! あわ、噛んじゃいました・・・」

 

「大丈夫じゃないよ、こんな熱で。じっとしてて、すぐ寝室に連れて行くから」

 

「わかりました、というか、一刀殿は気づいていないのか・・・」

 

「こ・の・鈍感種馬男は本っ当にわかってないのですよ~」

 

「いまさらよ、風。さ、諦めてさっさと移動するわよ」

 

風の声に非難めいたものが混じったり、華琳や稟の声が心底呆れたものであるのは気になるが、今はそれどころじゃない。

まずは彼女を休ませないとな。

 

「星。念のため、この町を回ってみてくれ。孔明さんが見つかったら、士元さんと合流したことを伝えてくれ」

 

「承知。貂蝉や于吉に手伝ってもらっても?」

 

「判断は任せる。頼むね」

 

 

まったく、あの種馬は。無意識という辺りが相変わらず、性質が悪い。

天の世界での一年余りで、それは本当に思い知らされたこと。

無自覚で口説いて、私の存在を知って、知らず知らず失恋して涙を流す娘をどれだけ見たことか。

 

たまに特攻してくる娘もいたけれど、一刀はあっさり断るから、不憫としか言いようが無かった。

 

私だけを見てくれる、というのは本当に幸せなこと。

ただ、だからといって、慕ってくれる女の子を無意識に泣かす恋人というのも、私としては勘弁して欲しいものだった。

 

風が怒るのも無理はない。これ以上、競争相手を増やされてたまるか、というところなのだろう。

迷いも無く、天の世界に帰る時に同行すると公言した、風の一刀に対する想いの強さ。

 

ただね、風。一刀の恋人候補は、記憶を取り戻しさえすれば、とんでもない数になるのよ・・・。

知らなかった方が幸せかも、と思う程度には。

 

「だから、華琳さまももっと怒るべきなのですよ・・・!」

 

普段の風からは考えられないぐらいに、本気で怒っている。ほんとに可愛いわね、ふふふ。

 

「でも、やられた本人はまったく怒っていないわよ? ねぇ、士元」

 

「あわっ!? ちゃ、ちゃんと寝たふりをしてたのに・・・!?」

 

男に慣れていないゆえの知恵熱。

おまけに、一刀の笑顔や、無自覚な優しさは、免疫の無い娘には、ある意味本当に毒みたいなもの。

気づけば、身体と心を侵食され、逃れることが出来ない想いに身を焦がされることになる、甘い魔性の毒。

 

そう、風が『らしさ』を失うぐらいに。寝たふりをしている彼女に気づけないぐらい、自分を見失っている。

 

「慣れないと、大変という意味、わかったかしら」

 

「はひ・・・よく、わかりました・・・」

 

「あれ、全部無意識よ。たとえ王族でも、武威に溢れた将軍も、智謀に長けた軍師であっても、

あいつの前では、みんな、ただの女の子にしか見えない。

普段、本来の自分を隠したり、偽ったりしている者ほど、気づけば堕ちているわ」

 

「怖いぐらいです・・・だって、私、もう真名を預けていいって、思ってしまってます・・・。

今日会ったばかりの人なのに」

 

「うーっ」

 

風はまだ唸っている。ま、直接一刀に当たりに行かない分、優しいのよね。

 

「あ、あのっ、失礼なことをお伺いするようなのですが、蘭樹さまは、北郷さまの恋人さん、なんですか?」

 

あら、意外と直接的に来たわ。興味が強く出ると、引っ込み思案の気もどこへやらという感じなのね。

 

「一刀はそう言ってくれるわね。まぁ、私もそのつもりなのだけど。むしろ、一刀が私のものというか」

 

「・・・おっ、大人の発言ですぅ」

 

「そして、第二夫人が風なのです」

 

よどみなく言い切る風の強い語気に、私も苦笑混じりに肯定するしかなくて。

 

「と、なっているわ。『色を好む』という点では、一刀は間違いなく英雄の器でしょう」

 

「それに関わらず、女性の感情の機敏には疎いのですから。鈍感すぎるのにも程があります」

 

稟の放たれる言葉に対し、込められた感情は『仕方のない人です』と、どこか優しさが含まれていて。

そう、結局はみんな一刀に惚れてしまっていて。それを判って愚痴りあっている。

一人の女として、好きな男のことでとりとめのない会話を楽しむ。

なんて、非建設的で。それでいて、どこかホッとする時間。

 

「・・・決めました」

 

「どうしたのですか、士元ちゃん」

 

風。多分、聞くまでもないわよ? ほら、あの瞳。貴女もよく知っているはず。

これで、鳳士元は、かつての外史よりも恐ろしく早く、その才を大きく開花させるだろう。

女性として愛する喜びを知れば、それに尽くすために、あっという間に成長していく。

 

既に一度戦乱を戦い抜いた風、稟たちは軍師の先輩格として、格好の見本となることだろう。

 

「わたし、北郷さまに真名をお預けします」

 

誰かが言っていたわね。恋する女は無敵だって。こうなった以上、彼女も好敵手の一員に加わる日はそう遠くない。

 

一刀、ほんとにどうするの?

あの世界に帰るのはいいけれど、これだけの女の子たちを放り出して行くなんて、貴方の性格じゃ無理。

世界に決着をつけるだけでなく、寄せられる思慕にも折り合いをちゃんとつけてあげないといけない。

 

・・・第二、第三の華琳を、生み出さないために。

 

「士元、貴女はもっと慎重な人間と見ていたのだけど、意外ね?」

 

「・・・直感に従うべき時もある。時に軍略にも、通じることだと思います」

 

まだ、おどおどしている様子は散見しているけれど、芯はしっかりと通ったようだ。

あとは、戦場の厳しさを直に触れ、その恐ろしさを飲み込めれば、すぐに一介の軍師になれる。

 

「直感ですか。軍師としては受け入れがたい考え方ですね」

 

「風は判る気がするのですよ~」

 

こんこん!

 

部屋の扉を『のっく』する音。少しの焦りが見られる叩き方に、孔明の捜索に進展があったのだと判る。

 

「入ってきて大丈夫よ、一刀。諸葛孔明を保護できた知らせでも持ってきた?」


 
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