ち明けてどうなるんだって思いましたね?」
「いっいや、そんな事は」
「いえいえ、顔に書いてありますって。悩みを打ち明けるという事は、思ったより大変で尊い行為。一人で抱え込むのは誰の信頼も求めていないことの裏返しだと思うんです。あえて秘密を言わないことも信頼の証の1つになりえますが、貴方は私に打ち明けた。それだけで貴方は偉いんです」
「だが、話したところで何も進まぬ事もあるが」
「確かに、誰かに話しても何の見返りも期待できないことはあります。しかぁし、私には貴方の問題を万事解決しちゃう事が出来るんです!」
「…まさか、何かを生贄に差し出せというのか?例えば僕の残りの齢を半分とか」
「いえいえ、本作冒頭に『報酬ですか? いえ、お金は頂いておりません。お客様が満足頂ければ、それが何よりの報酬でございます。』って書いてるじゃありませんか。つまりは、そういう事です」
「そっそうか…」
もう、何を疑問にすればいいのかすら分からなくなっている彼。…今の場合彼女はメタな発言をしているので至極当然といえるのだが。
「それはとにかく、詰まるところ貴方に必要なのは諸国放浪の表立った理由付け。それを助けてくれる権力。それなら、いと容易きことですよ」
「容易き事…なのか?」
「それじゃあ、ちゃっちゃと済ませちゃいましょう。…それっ!」
彼の呟きを無視するかのように何かに祈るように両手を合わせ、目を閉じる少女。
「待て、一体何を…うっ」
彼は声を掛けようとしたが、突如感じた体の違和感にそれを遮られる。
「がっ、ぐぅ…」
彼は違和感を感じているにも拘らず、それを具体的に表現することができないしどうする事もできない。それは、熱さと疼きとほんの僅かの快楽が織り交じり、文字通り得体の知れない感覚を彼に与えている。そして、彼から抵抗する力すらも奪っているように思える。
「く…うぐっ、あぁっ」
暇を置かずに違和感が胸部に集中していく。思わず、刀を放り出して両手で胸を押さえる。すると、押さえた胸が押し返してくる感触がどんどん強くなってくる。おまけに、胸が押しつぶされる感触も胸そのものの重みも比例して増長していく。
(これは…まさか、乳房っ!?)
彼が変わりゆく自分の体への疑問を抱いた時にはもう次の変化が始まっていた。肋骨の辺りが軽くなったかと思うと腰のやや上部、和服に触れていた部分から服の感触が無くなり、内側に向かって収束していくような感覚を感じる。それと同時に全身の肌から感じる情報がより鋭敏になり、微風すらも感じ取ってしまう。
(間違いない、これは…っ)
彼は自分の体に何が起きているかその答えを捻り出した。しかし、無常にもその考察と結論に掛けた時間中にも視界に映る指や腕がいつしか白粉の如く白くなっており、その上みるみるうちにか細くなっていく。
「そっそなた、僕を女子に変化さ、…!?」
少女に問いかけた声が途中から急激に甲高くなったのに気づき、思わずその先を言おうとした発音が、呼吸が止まる。その刹那に、頭髪が一瞬で生長して腰まで伸びる。彼からは見えないのだが、後髪の先端はどれも同じ長さで恐ろしいほどの調和美を感じさせる。
「うぅ…、あぅ…ぐぁ、あうっ」
足が強制的に内側にひしゃげていく。それに伴って腰の下、臀部が発芽した芽の如く膨張し持ち上がっていく。
「あっ、ああぁぁっ!」
止めとばかりに秘所に存在したモノが内側に入り込み変質していく感触に只でさえ甲高くなった声をより一層甲高くして放ってしまう。
「はぁっ、はぁっ…」
冒頭と同じように息を荒げる(今は彼女だが便宜上は)彼。しかし、その意味合いは先程とは全く異なる。
「んー、体はこれでよし!次は、と」
「まだっ…何かする気なのかっ!?…あっ、あなやぁ~~」
着ていた着物がまるで粥の如くとろみ、変形していく。体の変化とは違い、こちらは一瞬で終わった。
「…これは、巫女装束?」
彼の視界には数年前、神社にいた頃によく見かけた白い上袴に赤い下袴の装束を纏った自分の体が映っていた。
「よし!こんなものかな?いやー、あなたのおかげで私も助かりましたー」
「何故に…?」
「実はもう1人お客様がいたのですが、その方の依頼とあなたの依頼がちょうどいい塩梅に重なっていたんですよ。あ、そろそろその方がこちらにいらっしゃる頃だわ」
ガサガサと物音が近づいてくる。普段の彼ならもっと小さい音でもとうに気付いている筈だが、身に起こった事態のあまりの異常さに全く悟れなかったのだ。
「おお、女子!其の者が件の?」
「なっ!?」
突然草陰から見るからに武士な男が飛び出してくる。
「はい、情報を集める力・己の身を守る力その他色々な技量を身に付けた巫女さんです」
「…えーと、話が見えませぬが」
「汝か!汝が我等を救う神風となるのか!」
彼の質問は完全に無視されている。それにしても、この男も人一人に対して大げさである。
「ええ!そうです!」
「…(もう、この身を何とでも好きにしてくれ…)」
彼は心の中で既に諦めていた。
「さぁ、拙者に付いて参れ。心配は無用だ、悪いようにはせぬ」
男はそう言うと、先程現れた草陰に再び消えていった。彼はため息をつくと、草陰に向かった。
「お二方、お大事に~~!!」
少女は手を振っている。しかし、彼はそれを見る事無く草陰を潜り抜けた…。
「…では、そなたは魑魅魍魎を狩る為に諸国放浪していたと申すのか」
「はい…」
その後、男の後を追従した結果、最終的にいかにも典型的な武家屋敷の中にへと誘われた。
「ふむぅ…、今の世はこの乱世。女子の身には業がきつかろうて」
「ええ、色々な苦労も致しました」
彼の口からは女子の言葉が自然と出てくる。恐らく、あの少女に何かしらされたのだろう。
「では、早速で申し訳ないが明日には御館親方様にお目通り願おうか。何せ、人手が不足しておる。余り教育を要さない戦力である汝にきっと喜んで下さるだろう」
「この日まで続けていた私の諸行はこれからも許されましょうか?」
「うむ、その事については拙者から言っておこう。ただ、謀報に都合の悪しき場合もあると思われるが」
「謀報…。己の諸行が認められぬ覚悟は出来ているつもりでございまする」
(そういう噂は聞いていたが、まさか自分がそういう身分になるとは…)
彼は思い出していた。この国の領主が身寄りの無い幼き娘を引き取り、忍としての教育を行ってから表向き巫女として諸国で謀報活動をさせているという噂を。そして、こう思った。
(恐らく、この男はその巫女の管理を担当しており、何かしらの原因で彼女らの人数が不足して、すぐさま戦力になるものが欲しいなどとあの少女に言ったのであろう。確かに、自分は情報を集める能力も人知れず命を奪う為の技量もある。しかし、それは全て魑魅魍魎を狩るためにあるのだが…)
「あ、すっかり忘れておったが汝の名前はなんと申すのだ?」
だが、この状況にこの体。後戻りしようと思っても出来ない。彼…彼女は意を決して新たな名を告げた。
「はい、私の名前は…お澄と申します」
今回の依頼はほんと、ラッキーでした。私も都合上、いくつかの依頼を掛け持ちする事があるのですが、今回みたいに互いの需要と供給がここまできれいに噛み合うなんて事は殆ど無いんです。
1人目の依頼人さんは部下の巫女さん達がそろって食中毒で倒れるという思わぬアクシデントにてんてこ舞い。最初は正面に立った私にすら気付きませんでしたねぇ。声を掛けてみても風林火山に潰されるとか何とか呟いて全然耳を貸さないし。依頼を達成するよりもこちらの存在をアピールするのに苦労しましたよ。
そうそう、2人目の依頼人さん。あれから全国各地で活動しつつひっそりと各地にネットワークを作り上げて、雇い主が滅んだ後も魑魅魍魎をやっつける活動を続けたとか。私に会えたのは本当に運が良かったです。いやぁ、まさに人生の転機!
それでは、私はこれにて。今度の依頼人は、もしかすると…あなたかもしれませんね。
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昔、少年少女文庫に投稿した作品が出てきたのでついでに公開。この作品以降書いてないけどまた華代ちゃん書きたいなぁ。…何ぃ、意味が解からない?これを見れ! http://ts.novels.jp/novel/kayo_chan/index.html
っていうかこれR15だよね…