「こ、これは……!いや、あの人には似合わない。……おぉ!これも美し……いやいや、ないな。……このイヤリングのブルートパーズがあの人に……、いや、こんな繊細な造りのモノをあげても……」
ショーウインドの前で顔を輝かせては俯き、独り何かを言いながら考え込むヒューバート。
端から見ると不審者以外の何者でもなかった。
何度か同じような仕草を繰り返し、大きな溜息を吐いてショーウインドに手をついた。
「……はぁ。プレゼントなんて……やっぱり僕には荷が重すぎるんだ。大体あの人にはバナナ上げとけば……」
「弟くーんっ」
「え!わ……っ」
馴染みのある呼ばれ方。
慌てて振り返ろうとしたが、その前に背後から伸びた手によって、両目を塞がれた。
「だーれだっ」
と、可愛らしい無垢な声。
無理して手を伸ばしているのと、眼鏡によって目をうまく塞げていない不器用さ。
「…………ソフィ」
「ぶっぶー」
と言って手を離す。
振り返ると、少し不服そうなソフィが立っていた。
「嘘はいけませんよ、ソフィ」
「正解はね、パスカルの真似をする私、だよ」
「……」
この揚げ足取りの様な、ひねくれた回答。ソフィから視線を外して辺りを見回す。
「どうしたのヒューバート?」
「貴方にそう教えたのは教官ですね」
辺りを窺いながらそう断定すると、ソフィは目を丸くして驚きの声を上げた。
「どうして分かったの?」
「日頃の行いです」
「おこな…い…」
「いつも通りって事です」
「そっか、いつも教官は私に色んな事、教えてくれるもんね」
「大体が余計な事ですけどね」
そのせいで、シェリアの怒り顔を何度も見ている。
その怒り顔も、自分が標的にされる事で初めて共感出来た。
「居ないですね」
「ヒューバートは教官を探してるの?」
「えぇ」
「教官ならさっきあっちに居たよ」
と指を指したのはヒューバートが背を向けていた方の曲がり角。
走り出そうとしたが、ソフィに腕を掴まれた。
「もう居ないよ」
「教官が居なくなったのはいつ頃の事ですか?」
まだ追い掛ければ技くらいはお見舞い出来るのではと思い、早口で問いただした。
「え?えっと……ヒューバートがキョロキョロし出した時」
「……成る程」
それでは、もう間に合わないだろう。
溜め息をつき、ひとまず教官への怒りを落ち着かせる。
「ヒューバートは何をしてたの?」
と、ソフィは先程までヒューバートが立っていたショーウインドの位置に立ち、同じ様にその中に飾られている女性モノの洋服やアクセサリーを眺める。
そして、その視線が真っ直ぐヒューバートに向いた。
「これ、着たいの?」
「ちっ、違います!そっ、それは、断じて、僕が着る訳じゃないですよ……!」
「違うの?」
「違います……!」
「でも、ヒューバート、ずっと見てた」
と、ショーウインドを指差す。
「ソフィはずっと僕を見てたんですか」
「うん」
頷く。
「教官がね、面白いものが見れるからって」
ヒューバートの心の火に油を注いだ。
後で秘奥義を教官にぶちかます事を心に決めた。
「…………プ、プレゼントですよ」
「プレゼント?」
「と、とある女性にプレゼントを渡そうと思いまして」
「シェリアに?」
「いえ、違います」
「パスカル?」
「…………」
「パスカル?」
「…………」
返事をしたら肯定になってしまう。黙っていると、ソフィは少しむくれた。
「ヒューバート、返事をしないのはいけない事なんだよ」
まるで子供に言いきかせる様な言い方だった。
「……まあ……その……そんな所です」
「そっか。私ね、パスカルにはこれが似合うと思うの」
指差した先には先程考えていたイヤリング。透明で繊細な白いクリスタルとブルートパーズが交互に並べられ、見る向きによって印象が変わる。印象的なブルートパーズは、まるで大紅蓮石とは対の輝きを放っているようで。
(可笑しなくらい前向きで、真実しか目がなくて、馬鹿みたいに明るくて、それでもいざというときは冷静で、このイヤリングの様に接する度にコロコロ表情が変わる……)
「キラキラしてて、綺麗。パスカルみたい」
「そうですか……やっぱり、それですか……」
独り言のように呟く。え?とソフィが振り向いた。
「ヒューバートもコレ?」
「えぇ、同じです」
ソフィが笑い、つられて笑う。
「じゃあ、コレだね」
「そう……ですね」
ソフィが店の中へと手を引っ張る。店員の女性に外のショーケースのイヤリングの事を話すと、にこやかに店の奥から同じモノを持って来て見せてくれた。
「いかがですか?」女性が柔らかめの声で問う。
「やっぱり綺麗だね、外で見たらきっともっと綺麗」
「えぇ、僕もそう思います」
太陽に反射する青の石。それは、ショーケース越しに見るよりも、きっと、とても綺麗な筈で。
代金を支払い、二人のアイデアのイヤリングを買う。
「ありがとう、ソフィ」
「ううん、ヒューバートが嬉しそうで、私も嬉しいの」
「そうだ」
と、店内の可愛らしい花の形のキーホルダーを二つ手に取り、レジに持って行く。
ソフィに一つ渡す。
「一緒に選んでくれたお礼です」
「わあ……!」
目を輝かせるソフィに、少しだけ、懐かしい気持ちを思い出す。
「ありがとう、ヒューバート!」
大事そうにキーホルダーを握りしめる。
そして、笑う。二人で、同じキーホルダーも持って笑う。
笑った瞬間に、時間が過去へ遡ったような気がした。
ソフィよりも背が小さく、泣き虫だった、あの頃の自分自身。
過去と今。
変わる気持ち、変わる心、変わる身体。
と共に、変わらないものもあるのかもしれない、と、ソフィを見ながらヒューバートは笑った。
子供の頃のように。ただただ、その瞬間を胸に。
end
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ヒュ→パス前提のヒュ+ソフィです。どんなに大人になっても、ソフィと一緒に居れば素直な頃に戻れるヒューバートと、(素直過ぎて可愛いエフィネアに舞い降りた天使)ソフィの話です。グレイセスっこ可愛すぎてたまらんです。