No.234520

忘却曲線のワンダー

asa_koさん

True end後のるか+まゆり。皆が持ってる”リーディングシュタイナー”の結果、悲しくなったるかを書きたくて妄想。まゆしぃとるかは良い友達だと思うのです。シュタゲ初妄想がコレだよ!タイトルは「記憶」の中を彷徨うという意味で適当につけました厨二!

2011-07-26 17:08:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:853   閲覧ユーザー数:816

柳林神社に二人の人影。

るかは妖刀「五月雨」を構え、必死に、丁寧に素振りをしていた。

賽銭箱の前の段差にはまゆりが座り、るかの様子を眺めている。

 

可憐で清楚で”女の子”を体現している少年。

(羨ましい、なあ)

無意識に、言葉が頭の中に生まれた。

 

そんなまゆりを、るかも横目で見ていた。

何をするでも、誰かを待つでもなく、るか自身を見ている。

(てっきり、此処で凶真さんと待ち合わせをしているのかと思ったんですけど……)

岡部が現れるのを、少しだけドキドキしながら素振りをしていた。

しかし、素振りが目標回数を達成しても来ない。上がった息を整えながら、まゆりの隣に腰を下ろす。

 

「るかくんお疲れ様~」

 

と、鞄からペットボトルを取り出す。スポーツドリンクだった。

 

「あ、ありがとう、まゆりちゃん」

 

それを受け取り、ゆっくりと喉へ流し込む。熱かった体は水が喉を通り、少しずつ冷えていく。

そして、静寂。まゆりは足をぶらぶらとし、今度は空を眺めている。

どうして此処にずっと居るのか、もしかしたら本当に待っているだけなのかもしれない、とるかは思い直した。

 

「あの、今日は凶真さんは……いつ……」

来るのですか?と問う前に、まゆりの口が開いた。

 

「オカリンはぁ……」語尾を伸ばし、ぼんやりとしながら中空を見つめ。

 

「クリスちゃんと、デートだよ」

 

そう言って、中空からこちらに視線を向け、笑った。

その笑顔はいつもの朗らかで幸せそうな笑顔とは少し違う気がした。

しかし、そのまゆりへの違和感と同時に、聞き慣れない単語にぼんやりと。

「デー……ト?」繰り返してしまった。

 

「岡部さんが、デート……ですか……」

 

ショックを受ける事ではない。むしろ喜ぶか、岡部と仲の良かったまゆりを慰めるべき場面の筈だ。

しかし、その揺らぎは心の中心で波紋を広げていく。

 

「デート……、岡部さんが……」

 

その言葉が引き金になったのか、分からない。

ただ、ここ数日の違和感が記憶と成って頭の中を占めていく。

ある筈のない、岡部とのデートの記憶が、朧気だけれども、蘇る。

 

あまり会話は弾まなかった、けれど。

一緒に居るだけで、この場所で修行をするだけで楽しかった。

もっと、デートをしたかった。もっと、傍に居たかった。

 

その有り得ない記憶の洪水が溢れ出す。

 

「…………っ、そうか……僕……は……」

 

(今の僕、ではない、けれど。)

 

涙が、溢れる。

嗚咽が止まらない。

 

「るかくん……?大丈夫?」

 

心配そうに背中をさするまゆりの手。

その体温が切なくて更に涙は流れる。

 

「すみません……っ、あの、僕……何だか、悲しくて……っ」

 

「うん」

 

「僕、岡部さんの事が……、好きだった……ような、気もして」

 

「うん」

 

「でも、それは僕じゃなくて、でも、僕で……っ、だから、悲しいんです……」

 

まゆりは静かにその言葉を受け止める。

るかの心が、感情を受け止められるまで。

 

 

 

 

 

夕焼けと夜空の狭間で、るかはようやく涙が止まった。

夏とはいえ夜になれば少し肌寒い。背中をさするまゆりの手の暖かさが心地よい。

 

「ありがとう……まゆりちゃん……」

 

るかは目が腫れ、声が少し枯れている。

 

「ううん、まゆしぃは何もしてないよ」

 

「……まゆりちゃんは、その、大丈夫……?」

 

散々泣いた後で、まゆりの様子がおかしかった事に気付く。

原因は”岡部さん”だったのは明白で。

 

「まゆしぃは大丈夫だよ~。だってね、まゆしぃは、オカリンの人質だから」

 

しかし、その表情は晴れない。それは暗闇が近いからだろうか。

 

「でもね、それも、もう終わりなのかなって」

 

「え?」

 

「オカリンには、クリスちゃんが居るし、私はもう大丈夫だから」

 

そう言って夜空に片手を伸ばす。掴めない想いを、願いを掴む様に。

瞬間、地面にある片手を握り締めていた。まるで、繋ぎ止めるように。

その感触で、まゆりの意識は急激にこちらへと戻ってきた。そして、るかに向き直り、小さく呟く。

 

「るかくん……ごめんね。まゆしぃは、るかくんも、クリスちゃんも羨ましくて仕方がないのです」

 

「え?」

 

「まゆしぃには、オカリンとデートなんて記憶がないから」

 

「でも、まゆりちゃんは岡部さんのすぐ傍にずっと……」

 

「うん、だからまゆしぃは、ワガママなだけなんだぁ」

 

「…………まゆりちゃん、」

 

言葉が出ない、どう言えばいいのか。

 

「ごめんねぇ……、ごめん……」

と言いながら涙を目に溜めて笑うまゆりの手を、ぎゅっと握り締めた。言葉を飲み込むように。

まゆりは小さく泣いた。暗闇の中で。るかの手の温もりだけを、目印にして。

 

 

 

end

 

 

 

”人質”という設定で一緒に居てくれたオカリンとの距離の狭間でゆらゆら揺れるまゆりも描きたかったので、ちょっと満足です(笑)オカリンとまゆりの関係も好きです。だから、クリスendの時はちょっと切ない。


 
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