No.229490

真・恋姫†無双~恋と共に~ 番外編 そのご

一郎太さん

お久しぶりです。色々忙しくて、そして大学のテスト期間で書く時間をとれずにいたらこんなに空いてしまった………。
というわけで、番外編そのごです。
ゆっくり読んでやってください。
これからまた少しペースを戻しますので、見捨てないでおくれorz

2011-07-21 17:25:21 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:10103   閲覧ユーザー数:6671

 

 

 

番外編 そのご

 

 

南陽の街を出て数え役満姉妹と共に旅をしてきた一刀たちは、益州へと入っていた。益州との州境―――とはいえ、だいたいこの辺りだという事しか聞いてはいなかったが―――を超え、最初の街へと入り、宿をとる。

護衛の意味も兼ねてだろうが、三姉妹の泊まるグレードの高い宿屋に兵たちも泊まらせるとは、どうやら華琳の城の財政は上手くいっているらしい。

 

「それじゃ、また後でね、一刀」

 

天和たちの見送りを受け、一刀たちは別行動をとる事となる。天和たちは公演を行える場所の確保とその許可を得る為に動くとの事だ。

 

「さて、どうする?」

 

問いかける一刀も、益州については詳しくない。かつて天水を出て南蛮まで南下した一刀と恋だったが、宿泊をした程度で観光をしていた訳ではなかった。

 

「えぇと、私も益州は初めてですので………」

「風もです。まぁ、何処を見るにしても――――――」

「………おなかすいた」

 

きゅるるる、という可愛いお腹の虫の音と共に恋が言葉を出す。

 

「――――――とりあえずは腹ごしらえですねー」

 

風の言葉の通り、恋は空腹により悲しげな表情をしている。こうなってしまっては何をする訳にもいかない。まずは、その空腹を満たす事を最優先事項とする。

 

 

 

 

 

 

適当な店で食事を終えた一刀たちは街を歩いていた。ついこの間まで過ごした南陽の街とは比ぶるべくもないが、ある程度は栄え、店もそれなりに林立している。と、恋が立ち止まった。

 

「どうした?」

 

一刀の問いに応えず、恋はキョロキョロた自分の足元を見回す。

 

「いない…」

「何がですかー?」

「………………セキト」

 

 

という訳で、一刀たちはいま来たばかりの道を戻る。

 

「見当たりませんねー」

「珍しいですよね。セキトちゃんが勝手に何処かに行っちゃうなんて」

「メスの美犬でも見かけたのだろうか」

「………一刀と、一緒にしない」

「………………」

 

路地や物陰を覗き込みながら、最近空気となっていた恋の弟分を探すも、なかなか見つからない。ついには先ほど昼食をとった店まで戻り、いよいよどうしたものかと考えていると、通りの向こうから騒がしい音が聞こえてきた。

 

「――――――ぁぁああ」

「「「「「――――――――――――」」」」」

 

何者かの叫び声と共に、どどどどど……と複数のけたたましい足音も風に乗って流れてくる。

 

「何やら危険な香りがするのですがー」

「そうだな。お前ら、壁沿いに整列だ………番号!」

「………いち」

「にー」

「えぇと、さんっ!?」

 

会話をする間も騒音は近づいている。一刀の掛け声に3人は壁沿いに並び、点呼を行う。

 

「やっぱり、いない……」

 

だが、いつも4番目に吠える犬はやはりいなかった。そして――――――

 

「だからついて来るなよぉぉおおおおぉおおおおおっ!!」

 

――――――ひとりの黒髪の女性が4人の目の前の通りを駆け抜ける。

 

「「「「「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ――――――」」」」」

 

そのすぐ後を、種々雑多な犬の群れが追いかけて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

「―――恋さんっ!?」

 

犬の大群が通り抜けたかと思うと、恋が飛び出し、その後を追い始めた。先ほどの女性も相当の速さで走っていたが、恋もまた、それに負けないほどの速度で瞬く間にその背を小さくしていく。

 

「えぇと、あの、恋さんがついていっちゃいましたよ!?」

「ふむ……風はどう見る?」

「そですねー。おそらくあのお姉さんから美味しそうな匂いがしたのではないでしょうか。恋ちゃんの食欲をそそる程のものかもしれません」

「なるほど」

「おにーさんはどう思いますか?」

「おそらくあの女は笛吹きだ。俺達一般人には聞こえない笛の音で犬たちと、野生の強い恋を惹きつけたのかもしれない」

「どこのはーめるんですか、まったく」

 

慌てる香とは対照的に、一刀と風は落ち着いている。恋の消えた先と一刀達を交互に見やる香だったが、ようやく諦観の溜息を吐くと、再び問い直す。

 

「………で、どうするんですか?」

「とりあえず、追いかけるか」

「はぁ……最初からそう言ってくださいよ、もう」

「――――――香がな」

「うぇっ!?」

 

突然の命令(?)に奇声をあげるも、とっくの昔に慣れきってしまっているのだろう。香は再び溜息を吐きながらも、恋の後を追って走り出した。

 

「おやおや、すっかり調教済みですねー」

「黙れ。そんな事を言うなら、風も調教して―――いや、なんでもない」

「残念ですー」

 

言葉とは裏腹に、風はにゅふふと笑いながら飴を舐めていた。

 

 

 

 

 

 

「ま、香がいるならちゃんと宿に戻ってくるだろ。俺たちは適当にぶらつくか」

「そですねー。風としてはお城がどのような感じなのかが気になりますが」

「城と言っても本城ではないけどな」

 

益州は広い。洛陽や長安に近い北部では都市の間隔が狭く、州としての領地も狭いが、中央から遠ざかる程に都市間は広くなり、その分領地もまた広くなる。一刀達がいるこの街も、益州の中心からはだいぶ離れた地にあった。

 

「だが、流石の俺でもここに知り合いはいないぞ?」

「そこはほら、おにーさんの『天の御遣い』の名を使ってウハウハです」

「………………まぁ、いっか」

 

風の策が成るとは思わないが、他にする事もないしと(※恋は香任せ)、一刀は風と共に街の中心部へと向かうのだった。

 

 

どんっ―――

 

そんな音と共に、一刀の右脚に衝撃が与えられる。それは彼を転ばせる事はしないが、予想外のものだったらしく、わずかにふらつかせた。体勢を整えた一刀は、その衝撃の元を見下ろす。

 

「あ…あぁ………」

 

そこにいたのは、ちいさな女の子。痛いところにぶつかってしまったのだろうか。少女は言葉にならない声で俯いていた。

 

「おっと。ごめんな、怪我はないかい?」

 

返事はない。よほど痛みがあったのか、少女はいまだ下を向いてぷるぷると震えている。と、そこで一刀は気がついた。彼女の視線のさき、自分たちの足下に落ちたそれを。

 

「あちゃぁ、落としちゃったか………」

「………うん」

 

一刀が膝を曲げ、少女の視線の高さに自分のそれを合せる。彼が問いかけると、少女も目に涙を浮かべながら頷いた。

 

「君のおやつかい?」

 

首をぷるぷると振り、少女は口を開く。

 

「お母さんに………」

「お母さん?」

「うん……お母さん、お仕事でこの街に来てるんだけど、いそがしそうだからお土産に、って………でも、お小遣いぜんぶ使っちゃったから………もう、買えなくなっちゃった」

「そうか……」

 

彼女の説明に、一刀は少しだけ考える素振りを見せたが、すぐに懐に手をやった。出てきたのは彼の財布。

 

「お嬢ちゃん、手を出して?」

「………え?」

「いいから。ホラ」

 

そう言って、差し出された小さな手のひらに、いくらかの銅銭を乗せた。

 

「………いいの?」

「もともとは俺が避けられなかったのが原因だからね。いいよ。お仕事を頑張ってるお母さんにお土産を買っていってあげな」

「おやおや、おにーさん。今度はこんな幼女にまで食指を動かすのですか?」

「違うというに」

 

からかいを流された風だが、それを気にした様子もなく少女の頭を撫でた。

 

「お嬢ちゃんはお母さん想いですね。そんなお嬢ちゃんに、風がご褒美をあげましょう」

 

風は袖に手を突っ込んで、自身が咥えているそれと色違いの飴を取り出す。

 

「うわぁ、きれい………」

「今度は走っちゃダメですよ?ちゃんと前も見るように約束できますか?」

「うん!」

「いいお返事です。では、こちらを進呈するのですよー」

 

少女の瞳はすでに濡れていない。元気な声に頷くと、風は彼女に棒付きの飴を差し出した。

 

「おにーちゃん、おねーちゃん、ありがとー!」

 

そう言って、少女は手を振りながら走り去っていく。

 

「すでに走っているが、いいのか?」

「空気を読めです、この〇リコン野郎」

 

そんな会話をしながら、2人は少女の背を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

「やっと追いつきました」

「……香」

 

喋りながらも並走する2人。彼女たちの少し先には、いまだ数十匹の犬が女性を追いかけている。

 

「セキトちゃんはいましたか?」

「ん…あそこ」

 

香の問いに、指で示す恋。確かに彼女の言う通り、犬の集団の先頭に赤い布を巻いた犬が走っていた。

 

「先頭を走ってるじゃないですか。さすが大陸を渡り歩いた犬ですね」

「ん…」

 

感心したようにいう香に、恋は誇らしげだ。

 

「で、どうします?」

「あの女の人から、いい匂いがしてる……たぶん、それが犬を惹きつけてる」

「風ちゃんの言った通りですね………とりあえず、あの人を引き離します」

「ん」

 

恋が頷き香はだっと脚を速める。そのまま犬たちを追い越して、悲鳴を上げながら逃げ続ける女性の隣に並んだ。

 

「大丈夫ですか?」

「はぁっ、はぁっ……もう、無理………」

「一旦犬から離れます。ついて来てください」

「離れるって言っても―――」

 

香は返事を聞かずにさらに前へと飛び出し、民家の壁沿いに置かれた木箱を足場として屋根の上へと跳び乗った。

 

「こっちです」

「………わかった」

 

香が屋根の上から手を差し出す。しかし、女性はそれを掴むことなく、ひと息に屋根へと跳び上がった。

 

「あらら。出来るなら初めから上に逃げればよかったでしょうに」

「………慌てていて思いつかなかったんだ」

 

屋根に両手を突いて呼吸を整えている。身体能力で言えば、香よりも上のようだ。おそらく武人なのだろう。そんな彼女がただ逃げ回っていたというのならば、よほど動揺していたに違いない。

 

「……でも、これからどうするんだ?逃げるにしても、結局は地上に降りなければいけないし」

「あぁ、それなら大丈夫ですよ。下を見てください」

「下?」

 

荒く息を吐きながら問う女性に、香は屋根から身を乗り出しながら返す。彼女も同様に、恐る恐る路地に顔を出した。

 

「セキト…めっ」

「きゅぅぅん………」

 

見れば、壁沿いで屋根を見上げる犬の集団の前に、恋が立っている。彼女の叱咤に、セキトは尾と耳を垂らしていた。

 

「みんなにも言う。あの人を、追いかけたらダメ……」

「わふっ…」

 

恋が言うとセキトは振り返り、周りの犬たちと鼻を近づけ合う。しばらくそうしていたかと思うと、犬たちは三々五々と散っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、城までやって来たはいいが………」

「どしましょー?」

 

一刀と風は、街の中心にある城へとやって来た。城と言ってもそれほど大きなものでもなく、役所と表した方がよさそうだ。

 

「………忍び込みますか?」

「流石にそれはどうかと―――」

「あれっ?」

 

どうやって中に入ろうか考えていると、背後から驚いた声が聞こえてきた。2人が振り返れば、はたしてそこには先ほど街で出会った少女が立っていた。その手には、点心が入った袋が抱えられていた。

 

「おやおや、先ほどのお嬢ちゃんではありませんか」

「どうしたんだい、こんな所で?」

「うん、お母さんにお土産買ってきたのー!」

 

その言葉に、風と一刀は視線を交わす。一瞬の邂逅。それでいて2人は互いが意図するところを察したようだ。

 

「そうか。今度は落とさなかったみたいだな」

「うん!」

 

元気よく返事をする少女の頭を撫でてやる。

 

「お嬢ちゃんのお母さんは、このお城で働いているのですか?」

「そうだよ。そうだ!お姉ちゃんたちも一緒に来る?」

「いいのかい?」

「うん!助けてもらったら、ちゃんとお礼しなさいってお母さんがいつも言ってるから、お礼をしなくちゃいけないの!」

「おおっ、お若いのにしっかりとした礼節ですねー。これは無下にする訳にはいきませんよ?」

「そうだな。それじゃぁ、お世話になるとするよ」

「うん!」

 

再三元気よく返事をし、少女は一刀たちを引き連れて、城門へと入っていく。それなりに上の立場の者の子なのかもしれない。兵たちもその顔を見ただけで、そのまま城内へと3人を通した。

 

 

「お母さん、ただいまー!」

「おかえりなさい、璃々」

 

少女の案内で場内を歩き、とある一室に入る。休憩中なのか、部屋のなかでは2人の妙齢の女性が茶を飲んでいた。いや、1人が茶を啜り、もう1人は酒を飲んでいる。

 

「これ、お土産!」

「あらあら、ありがとう。………あら、そちらの方々は?」

 

少女から点心の入った包みを受け取り、ようやく母親の注意が扉へと向く。酒を飲んでいた方の女性は最初から気づいていたのか、杯を呷る手を止め、じっと一刀たちに視線を注いでいた。

 

「えっとねー、実は璃々――――――」

 

母親の問いに、娘がじゃれつきながら説明をする。一度土産を買ったが、転んで落としてしまった事、一刀がお金をくれた事、城門で再開した事、お礼をしたいという事―――。

 

「あらあら、それはとんだご迷惑を。御代の方は払いますので………」

「いや、気にしないでくれ。俺もちゃんと周りを見ていればよかったんだから」

「ですが………」

 

少女の説明に申し訳なさそうな顔で一刀と遣り取りする女性に、もう一人が口を挟んだ。

 

「よいではないか、紫苑。くれると言っているのだから貰っておけ。だが璃々の礼も大事にせねばな………どうだ、御二方?一緒に茶でも飲まないか?」

「おぉ、なんという魅惑的な響き。これはご相伴に預からなければ、風たちがお嬢ちゃんの礼を軽んじる事になってしまいますねー」

「お母さん……」

 

同僚の問いと風の返事、そして娘の視線に、女性は笑顔で侍女を呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

「助かったよ、2人とも」

「………ん、問題ない」

 

犬たちが解散し、逃げていた女性と香は連れ立って屋根から降りる。恋がセキトを抱えているが、1匹ならなんとか我慢できるらしい。彼女は2人に魏延と名乗る。

 

「それにしても参ったよ。たまにあるんだが、どうも私は犬の好む匂いを発しているらしい」

「それ恋さんも言ってましたね」

「ん…魏延はいい匂い」

「勘弁してくれ………」

 

本当に参ったと、魏延は片手で顔を覆う。

 

「でもセキトちゃんが宥めてくれましたし、しばらくは大丈夫だと思いますよ」

「セキト、だいじょぶ?」

「わんっ」

「ひゃぁっ!?」

 

恋の問いかけに元気よく返事をするセキト。どうやら彼女は犬自体が苦手のようだ。吠え声に仰け反ってしまう。

 

「セキト、静かに…」

「わふぅ………」

「い、いや大丈夫だ………セキトもありがとうな」

 

項垂れる犬に礼を言うと、セキトは吠える事はしなかったが、元気よく尻尾を振り出した。

 

 

「お前達は旅の者か?」

「はい。色々と大陸を見てまわっている最中です」

「見たところ、それなりの武を持ってはいるようだが、危険ではないのか?」

「まぁ、最近は各地の治安も改善されてますし、自衛程度でしたら――――――」

 

そんな会話をしながら歩いているなか、魏延がふと思いついたように口を開いた。

 

「そういえば、礼をしていないな。私は城で武官をしているんだが、よかったら城に来ないか?」

「ありがたいのですが、連れが待って―――」

 

香が断りを入れようとしたその時、袖を引っ張って止める手。振り返れば、恋が何やら考えていた。

 

「お世話に、なる…」

「そうかそうか。食事くらいなら出してやれるからな」

「………一刀さん達はいいんですか?」

「たぶん、一刀もお城にいる……と思う」

「またよくわからない電波を………」

「だって、一刀だから」

「………あー」

 

恋の言葉に、根拠もない納得をせざるを得ない香であった。

 

「どうした?行くぞ」

「あ、はいっ!」

 

どちらにしろ、宿泊する宿の場所はわかっている。少しくらいならば問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

「ほぅら、次はもっと高く行くぞー!」

「あはははー」

 

城の中庭に据えられた四阿で茶を飲む風と黄忠、そして酒を飲む厳顔の視線の先では、一刀が璃々と遊んでいた。

 

「そういえば、旅をしていると言っておったな。どの辺りを回ってきたのだ?」

 

きゃっきゃっとはしゃぐ璃々の様子に目を細めながら、厳顔は風に問いかける。

 

「そですねー、最近で言えば長沙や南陽にしばし滞在して、次がこの街なのです」

「ほぅ。それはなかなかに長い旅だな。しかし2人での旅というのも危なくはないか?」

「いえいえ、他にもう2人旅の連れがいます。3人は、それはもう見事な武の腕前でー」

「程立は違うのか?」

「おや、厳顔さんともあろう御方が風の武の腕を見抜けぬとは思いませんが?」

「ふふっ、そうだな」

 

ジト目で見つめる風に、厳顔はたった今思い出したというようにからからと笑う。性格的には祭と似たようなところがあるらしい。風もすぐにそれがわかったのだろう、ふっと溜息を吐くとすぐにいつもの眠たそうな目に戻る。

 

「ま、そんなことより、何か面白い旅の話はないか?儂らはこの益州から出たことなどないからのう」

「それは私もお聞きしたいですわ。『天の御遣い』と言われる御方がどのような道程を辿ったのか」

 

その言葉に、風と厳顔の目がすっと細まる。

 

「お気づきでしたかー」

「えぇ、もちろんよ。この世にふたつとない白銀に輝く衣を纏い、その武は無双を誇る………こんな田舎でも、反董卓連合の噂くらい届いてきますのよ?」

「ま、隠すほどでもないのですがー」

 

艶やかな微笑みで語る黄忠の表情は、何かを隠しているようで何も隠していない、それこそ風とはまた別の心理的な何かが介在していた。

 

「そですねー…いくら風がおにーさんに愛されているからとはいえ、勝手にお話ししては怒られる事もあるので、そちらの質問に風が答えるという形では如何ですか?」

「ふむ、それも面白そうだな。ちなみに、勝手に話して怒られるとは、どういった類の話だ?」

「色々とありますが、やはりおにーさんが未だ童て――――――」

 

ドガッ

 

短く低い音が響く。見れば、風が座る席の目の前に、短刀が斜めに突き刺さっていた。

 

「悪い悪い、すっぽ抜けちまった」

 

苦笑しながら一刀が璃々ちゃんを肩に乗せてやってくる。

 

「風、失礼のないようにな?」

「もちのろんですー」

 

さて、それは誰に対する失礼だったのか。一刀は卓に刺さった短刀を引き抜いて腰に挿し直すと、風の耳にそっと口を近づけた。

 

「………風、口は災いの元、って言葉知ってるか?」

「風の口は、それはもう虎牢関よりも固いのでご安心をー」

「3日で抜かれる関を固いとは言わないからな」

 

それだけ言うと、一刀は再び日の当たる中庭へと戻る。璃々は何が起こったのかよく分かっていないようだったが、再び振り回され、その度に明るい声を上げていた。

 

「―――とまぁ、このような感じなのです」

「あらあら、面白い御方なのね」

「ふむ、儂らが目で追えぬとは、なかなか………」

 

ほんのわずかに揺れる瞳で解説する風に、老将2人は不適に微笑み合う。と、その時だった――――――。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、こっちだ」

「お邪魔しまーす」

 

魏延に案内されて、恋と香は城へと入っていく。今日は来客が多いなとひとりごちる門番の兵の言葉も耳に入らず、3人は歩を進めた。

 

「この時間だと中庭かな」

 

ひとり呟き、魏延は2人と1匹を引き連れて建物には入らず、ぐるりと迂回して中庭へと向かった。その時―――

 

「――――――きゃぁっ」

「この声っ!?」

 

進行方向の先から、女の子の高い声が届く。その声の主を知っているのか、魏延は脚を速め、建物の角からそっと中庭を覗き見た。恋たちも続いて顔を出す。

 

「………璃々」

 

3人の視線の先には一人の少女がおり、彼女は若い男に両手で抱えられていた。

 

「………まさか、賊か?」

 

見たところ危害を加えられてはいないようだが、男が少女を離す様子はない。

 

「………恋さん」

「おもしろそうだから、しぃ…」

「仕方がないですね」

 

壁の向こうを覗き見つつ、不安そうに問いかける香に、恋は人差し指を口に当てる。少しずつ一刀の性格が伝染ってしまっているらしい。香も慣れたもので、眉間を指で押さえつつも口を噤んだ。

そんな様子にも気づかず、魏延は2人に声をかけた。

 

「すまないが此処で待っていてくれ。賊が出たとなればすぐに衛兵も来るだろうが、人質をとられてしまっているからには、ゆっくり待ってなどいられない」

「ん…」

「では、行ってくる」

 

そう言うと、魏延はどこから出したのか大きな鉄の棍棒を手に、壁からそっと出て行った。

 

「………いいんですか?」

「まぁ、一刀なら………」

 

 

 

 

 

 

「もっと高くー!」

「了解!」

 

璃々のおねだりに、一刀が思い切り璃々を上空に放り投げた時だった。

 

「――――――璃々を離せぇぇえええっ!!」

 

一刀に背後から近づいた影が、その手の獲物を振り抜いた。しかし手応えはない。

 

「くっ、どこに!?」

 

武器―――鈍砕骨を振り抜いた姿勢のまま周囲を見回す。と、背後からかかる声。

 

「いきなり危ないじゃないか。なぁ、璃々ちゃん?」

「一刀お兄ちゃん凄いねーっ!」

「っ!?」

 

そして振り向けば、そこには先の男と少女の姿。ただし、2人は水平に伸ばされた鈍砕骨の先端の上にいた。

 

「こいつ、賊のくせに………!」

「誰が賊だ」

「うるさいっ!璃々を離せ」

「仕方がないなぁ、ほら」

 

魏延の要求に素直に従う一刀。璃々を腕から解放し、そっと降ろした―――いまだ伸ばされたままの鈍砕骨の上に。

 

「な、おい、危ないだろうが!?」

「ほらほら、揺らしたら璃々ちゃんが落ちるぞ」

「焔耶お姉ちゃん、すごーい」

「こら、璃々!あまり動き回るな―――」

「あははー」

 

璃々を解放させる事に成功はしたものの、得物の上を歩く少女を落とさないようにと腕をぷるぷる震わせる焔耶だった。

 

「止めないでよろしいのですかー?」

「なに、状況判断が甘いあやつへの罰だ。気にするでない」

「璃々、上手よー」

 

四阿では、三者三様にその光景を眺めている。中庭に、璃々の楽しそうな笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

「さて、次はどこに向かいますー?」

「そうだなぁ、そろそろ月達に会いに行くのもいいなぁ」

 

平原を3頭の馬が進む。馬上には1人の青年と3人の少女。馬にくくられた大きな荷物からも、彼らが旅人であることが窺える。

 

「――――――って、待ってください!いつのまに桔梗さんたちの城を出たのですか!?」

「なんだ、藪からスティックに」

「いやいや、全員揃ってこれから面白くなるっていうのに、本編全部すっ飛ばしちゃってますよ!」

 

珍しくツッコミを入れる香に、一刀と風、恋は顔を見合わせる。しばらく視線で言葉を交わし、そして恋が香に向かって口を開いた。

 

 

 

 

 

「………………飽きた」

「そんなぁ、適当すぎますよぅ………」

 

 

 

 

 

さて、次の目的地は何処かや。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

気付けば1か月も前回の投稿から空いてしまっていた。

でも許しておくれ。バイトと学校とテストで死にそうだったんだ………。

 

という訳で、番外編そのごでした。

月のところいったら、そろそろ本編に戻ろうかなーとか考えてます。

これからは時間に余裕が出来るので、またちょくちょく上げていきたいと思ってます。

コメントしてくれたらありがたいぜ。

 

それではまた次回お会いしましょう。

 

バイバイ。

 

 


 
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