まだまだ暑さの残る9月。
頭上の太陽は、暖め足りないとばかりにその熱を放出し続けている。
そんな中、学園へと向かう生徒達。
下敷きを扇ぎながら、なんとか暑さを和らげようとしている。
そういうものを持たない生徒は、首元やお腹の辺りの制服を扇いでなんとか涼を得ようとしている。
圧倒的に多い女生徒のそんな姿に、周りの男性の目は泳いでいた。
教室に入った生徒達は、夏休みの思い出話に花を咲かせていた。
携帯で撮った写真を見せ合ったりお土産を渡したりと、それはほほえましい学生生活の1ページだった。
しばらくして始業のチャイムと同時に皆が講堂へと移動する。
始業式……、別名校長のありがたくもない長話を聞かされる式である。
もっとも、この学園の場合校長ではなく理事長になるのだが……。
唯一の救いは、講堂には冷房が完備され割と快適に過ごせることだった。
式を終え、あとは担任からの話を聞いて帰宅する。
通常はそれだけのはずなのだが、この暑ささえも吹き飛ばす事が起こったのである。
大量の女生徒が転入してきたのだった。
その誰もが異性からはもちろん同性からみても魅力溢れる女性である。
さらに、彼女の全てが普通の男子学生である北郷一刀に惹かれているのであった。
こうして、一刀は学園一有名な男子生徒になったのである。
その衝撃から数週間後。
本日の授業を終えいつもの帰宅風景がそこにあった。
それは、学園一有名人になった一刀でも変わらない。
一刀は鞄を持ち上げると、校内にある剣道場に向けて歩き出した。
その途中で彼女達からの熱い挨拶が待っているのだが……。
今日は、ちょっと勝手が違ったようだ。
「愛紗、また明日」
「あっ、一刀さん。また明日」
あちらの世界で一刀の事はご主人様と呼んでいたのだが、こちらの世界では違和感がありすぎる。
なので、名前で呼ぶようにしているのである。
当初相当抵抗があったのだが、一刀の必死の説得でなんとかさせる事が出来た。
「そう言えば鈴々は?」
愛紗といえば鈴々。
鈴々といえば愛紗。
というくらい、いつも一緒にいる二人なのだが、今日は違っていた。
「最近、鈴々は学校が終わるとすぐに帰ってしまうのです」
「そうなんだ」
「寮で聞いても教えてくれなくて……」
「ようやく、鈴々も愛紗離れが出来たんじゃないかな」
「だといいのですが……。私もようやく肩の荷が下ろせますよ」
そういう愛紗の表情は、言葉とは裏腹にちょっと心配そうな顔をしていた。
「心配なら、俺が時期を見て聞いてみるよ」
「えっ、心配なんてしていませんよ」
そう言って手を振る愛紗の姿がおかしくて、一刀は思わず笑ってしまった。
「何がおかしいんですか!!」
「いや……。あっ、もうこんな時間だ、早く部活に行かないと!! それじゃ、愛紗また」
「逃げるなー!!」
一刀は、すぐにその場を逃げ出した。
(鈴々か……。ちょっと気になるな)
一刀はそんな事を思いながら、剣道場へかけていった。
一方、愛紗もかなり気になっていた。
一刀への手前、心配していないと言ったが正直心配だった。
あちらの世界と違い、こちらが平和というのは分かった。
戦争状態ではないのであちらのような危険は無いだろう。
もっとも、こと戦いに関して鈴々を心配する必要はないのだが……。
不安な要素は、この平和な世界にもあった。
色々学んでいくうちに、こちらの世界ではあちらでは考えられなかったような危険が潜んでいる事が分かった。
鈴々はああ見えて、純真無垢だ。
ちょっとでも甘い言葉を言われれば、知らない相手でもついて行くかもしれない。
そうしたら……。
そんな事を考えながら、愛紗は思わずその場面を想像してしまい顔を赤くした。
そして、首を振ってその考えを頭から振り払った。
「よしっ!!」
愛紗は一度拳を握りしめると帰宅の足を速めた。
翌日、学校の授業はいつも通りに終わった。
「愛紗ー!! また明日なのだー!!」
鈴々は終業の合図と同時に鞄を担ぐと、愛紗に別れの挨拶を済ませ教室を後にした。
「ああ、また」
愛紗は軽くそう言ったが、その視線は鈴々を捉えて放さなかった。
そして、その後を付いていったのである。
鈴々は足早に商店街をかけていく。
愛紗もそんな鈴々を見失わないよう、慎重に後を付いていった。
しばらくして、鈴々は近所の駅とは反対側の普段学生が行かないような場所に入っていった。
愛紗はそうとは気付かずそのまま付いていく。
そんな中を歩いて少し、鈴々は見知らぬ男性と会い話し始めた。
と、ここで愛紗は自分が居る場所に気が付いた。
そこは、ラブホテルや風俗店などいわゆる大人の繁華街と呼ばれる場所だった。
そこで見知らぬ男性と話す鈴々。
愛紗はこのシチュエーションから、昨日思い浮かんだいかがわしい想像をしてしまった。
そんな想像をしている愛紗にみられているとはつゆ知らず、鈴々はしばらく話した後その男性と一緒に歩き出した。
止めなければ。
愛紗はそう思い駆け出した。
「りん……」
鈴々に声をかけようとしたのだが、その時に肩に手をかけられた。
突然の事に驚いて振り向く愛紗。
そこには見慣れた顔があった。
「一刀さん」
「やあ、愛紗」
そう、そこには北郷一刀の姿があった。
「なぜここに……」
「愛紗の暴走を止めるためだよ」
「暴走って私は!!」
「しっ」
大声を出そうとする愛紗の口を塞ぐ一刀。
そして、愛紗に指差した。
愛紗は指の差された先を見てみた。
そこには、小さな喫茶店で見慣れないユニフォームを着て働く鈴々の姿があった。
たどたどしい感じではあったが、その愛らしい姿から結構な人気があることが見て取れた。
「なんか、アルバイトをしているみたいなんだよ」
「アルバイト……」
その姿を見てホッとする愛紗。
しかし、別の疑問がわいてきた。
「なぜ、私に黙って……」
「それは、俺にも分からない。けどさ、愛紗に黙ってまでやっているんだ。あえて聞く事じゃないだろ」
「……そうですね」
そう言って頭を上げた愛紗の表情は非常に晴れやかだった。
「それはそうと、なぜ一刀さんは鈴々の事を?」
「いや、昨日言われて気になったからちょっと探してみたんだ」
「それで、ここに……。けれど、ここって普通の学生は来ないですよね?」
「それは……まあ……」
曖昧に答える一刀。
「まさか、誰かと……」
「えっ!!」
「その反応……、もしかして図星ですか……」
「ノーコメント!!」
そう言って駆け出す一刀。
「待てー!!」
一刀を追いかける愛紗。
屋外のそんな状況など知らず、鈴々は一生懸命働いていた。
数日後……。
「愛紗ー!!」
「鈴々。今日は早く帰らなくてもいいのか?」
「もうそれはいいのだ」
「そうか」
鈴々の言葉に、うなずく愛紗。
そんな愛紗を前にモジモジとしている鈴々。
「鈴々、どうした?」
「愛紗……、これ」
「これは……あっ」
鈴々から小箱を渡されそれを開ける愛紗。
そこには、銀色の腕輪が入っていた。
「鈴々とお揃いなのだー!!」
そう言って、鈴々は自分の腕を見せた。
そこには、小箱と同じデザインの腕輪がされていた。
「なんだって、こんな……」
「だって、今日は愛紗と鈴々が初めて会った日だから」
「あっ、そうか」
鈴々に言われて愛紗は初めて気が付いた。
確かに今日は、愛紗と鈴々が初めて出会った日だった。
しかし、あちらの世界とこちらの世界では暦が違う。
なので、見た目が同じ日であってもそれが同じとは限らない。
普通ならそれは黙っておくべき事だろう。
だが、真面目な愛紗は思わず口に出してしまった。
「しかし、鈴々。あちらの世界とこちらでは暦が違うから、今日が同じ日とは限らんぞ」
愛紗に言われてハッとなる鈴々。
そして、そのままうつむいてしまった。
「鈴々……、また間違えちゃったのだ……」
そんな鈴々にふうっと溜息をつくと、愛紗は鈴々の頭に手を乗せて撫で始めた。
愛紗のそんな行動に、鈴々はうつむいていた顔を上向きにした。
「愛紗?」
「けれど、私でも忘れかけていた事を覚えていてくれるなんて。鈴々、ありがとう。これからもずっと一緒だ」
この言葉に、鈴々の表情はみるみる明るくなった。
そして、愛紗に抱き付いた。
「愛紗ー!! 大好きなのだー!!」
あとがき
今回の話は、いかがでしたでしょうか。
風ストーリーを色々考えているうちに、今回の話を思い浮かんで忘れないようにと書いたところ筆が進んで結果完成できました。
久々の愛紗&鈴々ストーリーです。
色々キャラを出すとめんどうなので、最低限で話を進めてみました。
もうちょっと思わせぶりな感じに書ければ面白かったかもなんて思いますが、私の技量ではこれが限界です。
特に他の作品を見ずに書いているので、このシチュで他の方が書かれているのであればごめんなさい……。
愛紗の話し方。
あまりにも久し振りのためこれで合っているのかちょっと疑問です。
出会った日というのも、正直微妙です。
当初は誕生日というのも考えたんですが、それは愛紗自身も思い浮かぶので、当人にしか分からないような記念日にしてみました。
あと、プレゼントする内容もちょっと考えちゃいましたね。
ペア物を考えていたので、指輪かなとも思ったのですが、指輪じゃ合わないなぁとか勝手に思って腕輪にしてみました。
今風なら、携帯ストラップとかの方がよかったかな。
でも、愛紗も鈴々も携帯持っているイメージがわかないです。
息抜きはこれくらいにして早く風ストーリーを完成させなきゃと思いつつ脱線ばっかり。
でも、なんとか頑張って話を進めるつもりでいます。
近々アップできればなんて思っていますが、そう言って一ヶ月以上かかるんだろうなぁ。
気長にお待ちいただけると嬉しいです。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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恋姫無双の二次小説です。
現代を舞台にしています。
タイトルが思わせぶりですが、アダルト要素は皆無です(笑
感想などお待ちしております。