十五歳の時、北郷一刀は人を殺めた……
初めて人を斬る感覚を知ったあの夏……
初めて人に殺意を持ったあの夏……
それは十四歳の時に祖父から『北郷一天流』を引き継ぎ、周囲から『天才』の賞賛を浴び続けた彼にとって、当時の出来事は人生唯一の汚点であり、人生最大の敗北だった……
だから誓った
二度と負けないと
だから誓った
大切な人を守り続けると
大切な人を守るためなら
己の刀を
己の手を
どんなに汚そうと構わない覚悟を持ち続ける。
それが『天才』北郷一刀が辿り着いた。
たった一つの答えだった……
大陸に一筋の----否、三つの流星が降り立った。
その流星がもたらすものは
『幸福』か
『破滅』か
それとも……
一刀が目覚めると、そこには果てしなく続く荒野が広がっていた。
一刀は広がる荒野の先に見える山の形状から自身が居る場所が日本ではないのだと感じ取った。
一刀「ふうっ……一体何がどうなったんだ?」
一刀は自身の現状を確認するために辺りを見回したが、街らしきものは見当たらなかった。
一刀の周りには荒野がただただ広がっているだけで、とてもではないが人の気配がする様子ではなかった。
一刀はゆっくりと辺りを見回した後、自身の持ち物を確認した。
一刀「うん、どうやら『天牙』と『狼牙』は無事みたいだな」
一刀は自身が『天牙』、『狼牙』と呼ぶ二本の刀を握り締めると、それを腰に差して歩き出した。
一刀は歩きながらも、自身の現状を冷静に分析するためにあの夜の出来事を思い出していた。
一刀(鏡の警護についたあの夜……確かに俺達は学園にいたはずだ。なのに気付いたら荒野の真ん中で倒れているなんて、どう考えても説明が出来ない。……それに、鏡を盗みに来た左慈と名乗った男と、その左慈に于吉と呼ばれていた眼鏡の男。あの二人の目的は一体なんだったのだろう?)
???「おい…………ちゃん……てん……かよ」
一刀(鏡を盗みに来てはいたが、どちらかというとやつらの口調からして、本当の目的は俺だったような気がする。考えすぎだとは思うが、やつらが言っていた予定とか外史とかいう言葉も気になるからな。少し調べてみる必要があるな)
???「おい……聞いて……かよ……」
一刀(兵衛と烈矢のことも心配だからな……。あいつらを探しつつ、まずは街を見つけることに専念するか)
???「おい!!」
一刀が考えをまとめると、後ろから男が大きな声で一刀を呼び止めた。
一刀「はい?」
一刀が振り返るとそこには人相の悪い三人組が一刀のことを睨み付けていた。
男達は三人とも黄色い布を巻いており、その姿は一刀が好んで読んでいた三国志に出てくる黄巾党を想像させるものだった。
男達は一刀が自分達に気付いたのを理解すると、三人で一刀の周りを囲むように動き出した。
一刀「失礼ですが……一体何の真似ですか?」
一刀は自分が何をされようとしているのか理解していたが、あえて三人組のリーダーらしき男に質問した。
リーダー「へっ!何の真似だって?決まってんだろ!てめーのその腰に差してるモン奪うんだよ!ついでにその高価そうな服も頂いて、てめーはこの場で八つ裂きだぁ!!こんな所で一人で暢気に歩いている自分の馬鹿さ加減を呪うんだな!ギャハハハッ!!」
リーダーらしき男の下卑た笑いに同調するように、横にいたチビの男とデブの男も笑い出した。
男達の下卑た笑いを聞きながら、一刀は一つため息を吐いて、腰の天牙に手をかけた。
リーダー「あん?」
チビ「へ?」
デブ「ぬん?」
男達の間抜けな反応と同時に一刀は天牙を真横に振り抜いた。
一刀が天牙を振り抜くと、遅れて強烈な突風が発生し、三人組を吹き飛ばした。
三人「「「ギャアアアッ」」」
三人組は吹き飛ばされた勢いで数メートル後方に吹き飛ばされ、勢いよく地面に叩きつけられた。
男達がよろよろと立ち上がると、目に前には天牙を突きつける一刀の姿があった。
一刀「まだ……やりますか?」
一刀の抑揚のない言葉に男達は恐怖に体を震わせることしかできなかった。
次の瞬間、男達は悲鳴を上げ、猛烈な勢いで逃げていった。
一刀は天牙を鞘に収めると溜息を吐いて、後ろの岩陰に向かって呼びかけた。
一刀「そろそろ出てきなよ。覗き見なんて趣味が良いとは言えないよ」
一刀の呼びかけに岩陰から三つの影が姿を現した。
その三人は全員が女性だった。
そして、桃色の髪をした少女一歩前に出て一刀に頭を下げた。
???「黙って見ていてごめんなさい!決して覗きたくて覗いたわけじゃないんです!」
桃色の髪の少女は必死に一刀に謝った。
一刀は苦笑いを浮かべると、ゆっくりと彼女に近づき、彼女の頭を優しく撫でた。
一刀「ごめんごめん、別に責めたわけじゃないんだよ」
一刀が優しく少女の頭を撫でていると少女は気持ちよさそうに目を細めた。
すると、横から一筋の刃が一刀目掛けて迫ってきた。
一刀は少女の頭から手を離すと、その刃を避けるために大きく後ろに飛び退いた。
刃は桃色の髪をした少女と一緒にいた黒髪の少女のものだった。
一刀「随分と乱暴な事をするんですね?」
一刀は黒髪の少女に問いかける。
???「黙れ!!桃香様の頭に気安く触れおって、この場で叩き斬ってくれるわ!」
黒髪の少女は一刀が桃香と呼ぶ少女の頭を撫でたことに激昂しているようだった。
一刀「それは失礼しました。どうかお許しください。しかし、いかに粗相をした人間とはいえ、いきなり刃を向けるのは感心しませんよ?」
一刀の言葉に黒髪の少女は怒りで赤くしていた顔を更に真っ赤に染めると今にも一刀に飛び掛らんとしていた。
しかし、彼女が飛びかかろうとした瞬間、一人の少女が叫んだ。
桃香「やめて、愛紗ちゃん!!」
桃色の髪の少女---
桃香だった。
桃香の静止で愛紗と呼ばれた黒髪の少女も落ち着きを取り戻した。
桃香「落ち着いた、愛紗ちゃん?」
桃香は愛紗に問いかける。
愛紗「はい……見苦しいところをお見せしてしまい、誠に申し訳ございません桃香様」
先ほどの自分の行動を恥じているのか愛紗は俯きながら答えた。
???「まったく、愛紗は怒りんぼすぎるのだ。このお兄ちゃんはただ桃香お姉ちゃんの頭を撫でてただけなのだ。そことまで怒る事じゃないと思うのだ」
愛紗「鈴々!?」
愛紗に鈴々と呼ばれた活発そうな少女は、彼女の反応に「にゃははっ」と笑って応えていた。
愛紗が落ち着くのを確認した桃香は一刀にまたも頭を下げた。
桃香「本当にごめんなさい!愛紗ちゃんはとってもいい子なんです!ただ、私のことを心配してくれてるから、どうしても知らない人にはこうなっちゃうんです」
一刀はまたも彼女に頭を下げられるとは思っていなかったため、彼女のその姿に思わず笑いがこみ上げた。
一刀「ぷっ…………あはははは」
一刀の笑い声に三人は目が点になる。
桃香「ふえ!?どっ、どうして笑うんですか!?私何か面白いこと言いました!?」
桃香は何がなんだか分からないという風に首を傾げるばかりだった。
一刀「いやいや、まさか初対面の人に二度も頭を下げられると思わなくてね。とても意外だったから、ついね?」
一刀の言葉に安心したのか、桃香は話を続けた。
桃香「それじゃ、話を続けるね。お互い仲直りしたところで、自己紹介したいんだけどいいかな?」
一刀「ああ、別に構わないよ」
一刀の言葉に桃香は笑顔で話を続け、自身の自己紹介をはじめた。
桃香「まず、私からね。名は劉備、字は玄徳っていいます!よろしくね♪」
愛紗「我が名は関羽、字は雲長だ……」
鈴々「鈴々は張飛、字は翼徳なのだ!」
一刀「は?」
三人の言葉に一刀は目を丸くした。
あまりの信じられない一言に一刀は再度彼女達に問いかける。
一刀「ごめんもう一度いいかな?」
桃香「ええ~~、今度はちゃんと聞いてくださいよ?私は劉備玄徳です」
愛紗「関羽雲長だ……」
鈴々「張飛翼徳なのだ!」
一刀「……どうやら間違いじゃないようだ」
一刀は目を閉じると一つの結論を導いた。
一刀(これ……三国志じゃん…………)
三人の自己紹介が終えると一刀も自身の名を名乗った。
一刀「俺の名前は北郷一刀。出身は日本の東京で聖フランチェスカ学園の二年だ」
一刀の自己紹介に三人は困惑していた。
桃香「……ニッポン?トウ……キョウ??」
愛紗「なんのことだかさっぱりだ……」
鈴々「鈴々もわかんないのだ~」
一刀は三人の反応見て苦笑いを浮かべるしかなかった。
一刀「つまり、簡単に言うと俺はこの世界の人間じゃないってこと」
一刀は簡潔に三人に説明をした。
桃香「つまり~、一刀さんは天の国から来たってことでいいのかな?」
一刀「まあ、正確じゃないけどそんな感じだと思ってもらっても構わないよ」
一刀の答えに桃香はパアッと輝くような笑顔になったかと思うと、一刀の手を握り締めた。
一刀「あの……何かな?」
一刀の問いに桃香は真剣な面持ちで答える。
桃香「一刀さん、私達の仲間になってください!お願いします!」
一刀「どういうことだい?理由を教えてくれないか?」
桃香「はい。・・・私たち三人は、弱い人たちが傷つき無念を抱いて倒れていくことに我慢が出来なくて、少しでも力になれるならって今まで旅をしてきました。けれど、所詮今の私たちは、まだ名も売れていないしがない旅人。この時代で理想を成そうと思えば、それ相応の力と風評が必要になります」
桃香に続いて愛紗が口を開く。
愛紗「官匪の横行、太守の暴政。漢王朝は衰退し、やがては諸侯による群雄割拠の時代に突入するでしょう。だから我々は少しでも力をつけなければならない。弱い民達を守るにはどうしても力と風評必要なのです」
一刀「それと俺と何の関係があるんだい?イマイチ要領を得ないんだが……」
桃香「一刀さん、正直に申し上げます。私達は一刀さんに風評を得てほしいのです。……一刀さんは管輅という占い師が言っていた『天の御遣い』とまったく同じなんです」
一刀「『天の御遣い』?」
桃香「はい、占い師は言いました。『大陸を切り裂く三つの流星が舞い降りる、その流星から三人の御遣いが現れ、大陸の行く末を大きく変えるだろう』って」
一刀「俺がその『天の御遣い』だって言うのかい?」
桃香「はい!間違いありません!!その光る服が何よりの証拠です」
桃香はそう言うと一刀が着ている制服を指差した。
一刀「いや、これただの制服だから……」
一刀は呆れながら説明するが、桃香は首を傾げるだけだった。
一刀「まあいいや、どちらにしても俺には無理だよ。俺はただの一般人だ。そんな大した人間じゃないよ」
一刀は同情しながらも彼女の願いを断った。
しかし、桃香はそれでも喰らいつくように頭を下げる。
桃香「お願いします!一刀さんにしか頼めないんです。真の平和を得るために!みんなが安心して暮らせる世を作るために!私たちは前を向いて・・・そして闘わなくてはいけないんです!!だから、お願い力を貸して!!!」
一刀「…………」
桃香のその姿勢はあまりにも誠実で、あまりにも真っ直ぐで、あまりにも悲痛なものだった。
一刀は頭を下げ続ける桃香の姿を見て、力になりたいと感じた。
その一生懸命な姿勢に自身が憧れた女性である不動の姿が重なった。
桃香に不動の姿を見た一刀は覚悟を決めることにした。
一刀「いいよ、なってあげるよ『天の御遣い』に」
一刀の言葉に桃香達は手放しに喜んだ。
桃香「ありがとうございます!!本当にありがとうございます!!」
一刀「これからよろしくね」
桃香「はい!それじゃ、改めて自己紹介しますね」
一刀「え?さっき自己紹介はしたんじゃ……」
桃香「ううん、今回のは真名っていう、誰しもが持っているもう一つの名。家族や親しき者以外には教えてはならない、神聖なもののだよ」
一刀「そんな大切な名をいいのかい?」
桃香「もちろんだよ♪仲間なんだから当たり前だよ!それじゃ改めて自己紹介するね。姓は劉、名は備。字は玄徳。真名は桃香だよ」
桃香が名乗るとそれに愛紗と鈴々が続いた。
愛紗「先ほどの非礼をお詫びします。私は関羽。字は雲長。真名を愛紗と申します」
鈴々「鈴々は張飛で翼徳で、真名は鈴々なのだ~」
一刀「こちらこそ、俺には真名がないから一刀って呼んでくれ」
桃香「それじゃあ、一刀さんって呼ばせて貰うね?」
愛紗「私は、一刀殿と。私のことは、愛紗とお呼びください」
鈴々「鈴々はお兄ちゃんって呼ぶのだ~」
一刀「はははっ、よろしくね皆」
一刀は三人から真名を受け取ると心の底から笑った。
あとがき
どうも勇心です。
やっぱり三国志をよく知らないから文章がツッコミどころ満載ですね。
コメントをくださる方達には少しでも要望に応えられる様に頑張りたいとは思っていますので、
どしどしコメントしてください。
アドバイスには前向きに検討し、皆様の期待に応えられるように書いていこうと思うので、応援宜しくお願いします。
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どうも勇心です。
遂に恋姫の世界に突入です。
ツッコミどころの多い話ですが、少しでも楽しんでくだされば嬉しく思います。