俺たちは街の長老たちと街で八百屋を運営している中で視察を買ってでた人たちを連れて裴元紹たちが居る森に来ていた。
昨夜言っていたように孔明も倉も連れてきている。
「…おじさま!」
「おお、倉…!元気してたか!」
「…うん!」
森の前で迎えに出ていた裴元紹を見て、倉は一気に彼に飛びついた。
久しぶりの再見。
今までおとなしくしていたけど、それもまたこの日のため、ということなのだろう。
ちなみに倉の塾での生活だが、
奏曰く、『あの娘って不思議な感じですよね。初めてはまるで森の中で狼たちと一緖に住んでいて狼のように過ごしていた子供みたいな感じだったのに、すっかりここの生活に懐いちゃって…勉強とか他の仕事とかもすごく飲み込むのが早くて賢い子です』
まぁ、一言で言うと、やらせたら何でもできる、らしい。
お勉強の時も文字の練習はあっという間に終わらせ、一度教えたことは直ぐに理解、記憶、他に料理や薬菜採集なども一緖にしたようだが、事々飲み込みが早くて…おかげで奏の変な性格が混ざる隙がなかったことに俺はすごく感謝している。
「北郷」
「…約束通りにやってきたぜ。後はあなた次第だ」
「ああ…」
基本的に、これからは俺は手を出すつもりはない。
後は裴元紹にすべて任せるつもりである。そうやて事を彼らと街人たちの間の話で進ませないと、いつまでも話が進展を見せない。
俺という第三者の調整がなくとも、この話がすんなりと通るようになれば、それからは流れに乗ってそのまま計画を成功するだろう。
最終的に裴元紹たたちが賊ではなく普通の平民たちに戻れることが出来るはずだ。
「あんたが長老さんか…以前の事故はほんとに申し訳ないと思っている。どうか許してくれ」
裴元紹は真っ先に街の長老さんの代表に手を出した。
「……話は御使さまや水鏡先生の弟子の方に聞いておる。お主らを責めるつもりはない」
「…そうか」
「じゃが、だからとて忘れることもおらぬ。奴らによって俺たちの街が多くの被害を受けたことは確か。そしてそれ以前にも、お主らが賊であって、人たちを殺していたことに変わりはおらぬ。そんなことを考えるとこうして君たちと交流するなどあるまじきことじゃ」
「…」
「あんだと、てめぇ」
「お頭になんて言葉を…」
「やめんか、お前ら!」
後についてきた二人の部下が長老の言葉に怒りを示したが、直ぐに裴元紹に制止され後に下がった。
「あんたの言う通りだろう。だが、俺たちといって人を殺したくてそうやってきたわけではない。住んでいた街が天災と腐った官軍たちの圧政に荒らされ、居場所を失ったところ仕方なく生きるために他の街を襲うしかなかった。そういう輩がほとんどだ。本当は皆、この世がこうも乱れてなければあんたたちのように普通に生きていられたんだ」
「…ただ運が悪かったといいたいわけか」
「ああ、…それでも人を殺したことに変わりはないが…それでも俺たちは生きたい。あの生活に戻りたい。そのためにあんたたちの協力が必要だ。どうか、力を貸してくれ」
裴元紹は頭まで下げて長老ににそう自分の本心をぶつけた。
「………」
「長老さん」
「……わかりました。取り敢えず、畑というところまで案内させていただきます。話はまずそれからです」
「…わかった。こっちに」
裴元紹たちは長老たちを連れて山を登り始めた。
倉は…もうとっくに行ってるか。
「雛里、俺たちも行く……雛里?」
後を向いたら、そこに居ると思った雛里が居なかった。どこに…
「北郷さん、何してるんですか。早く来ないと置いて行かれちゃいますよ」
「あ」
いつの間に街人たちの群れと一緖にいた孔明のn側に雛里が居た。
「………」
「……」
…
「ああ、直ぐに行く」
甚だしいのな~、俺って。
昨夜あんなことしておいて、隣に雛里が居るだろうと思うなんて……
半刻後、裴元紹たちの居場所も通って俺たちは裴元紹たちの畑に向かった。
畑には多くの裴元紹の部下たちが畑で仕事をしていた。
「ほぉ…これはすごくいい畑ですね。土も肥沃で、こんなところがあったとは……」
先に口を出したのは視察に来ていた商人側の者だった。
「すごい…ほんとうに賊の人たちがこんなに広い畑を持っていたなんて……」
「…朱里ちゃん、私のこと信じてなかったの?」
「はわわっ!?いや、そういうんじゃなくて…ただ、ちょっとびっくりしただけだよ」
「…ほんと?」
「ほんとほんと。私が雛里ちゃんを疑うわけないじゃない」
「……うん、そうだね」
………ほっとくか。
「人数だけはあるんだ。何もしてないときはここに集めさせて畑を作らせていたからな。最初は鬱蒼な森だったけど、今じゃ結構な広さになったさ」
「この広さにこの質……」
商人は畑を見ながら呟いた。
そして、長老に頭を頷いた。
「よろしければ、少し我々だけで話させていただけるかね」
「ああ、構わん」
長老たちが集まって自分たちで話をしている間、裴元紹と倉が俺の方に来た。
「ありがとう、北郷」
「…まだ決まったわけじゃないだろ」
「いや、倉のことだよ」
「?」
俺が首を傾げると、裴元紹が補足した。
「こいつ、ここに来る間俺にあそこに居た時のこと全部話したんだ。勉強教わったことや、友たちができたこととか、嬉しそうにしながら…」
「そりゃ二週間も会ってなければそれぐらい話したくなるだろ」
「…普段は質問することだけに短く答えるほどしかしなかったんだ。それが今は自分のことお自らすらすらと話している。余程のことじゃなければちゃんとした一文章で話すこともなかったのによ」
「多分、男しかねー物騒なところから自分の年頃の娘たちに会ったのが余程ためになったんだろう。お前は居なければ出来なかったことだ」
「…………」
「…一刀」
今度は倉から
「…ありがとう」
「……俺がお前にやってあげたこともないだろ。ずっと忙しくて塾でちゃんと見ても居なかったのに」
「………ありがとう」
「っ」
「………ありがとう」
そう感謝の気持ちを全部ぶつけて来られても……
「…どういたしまして」
「……<<ニコッ>>」
あ、笑った。
「<<チュッ>>」
「…え?」
「……ありがとう」
…倉…おま……いきなり人の頬に口づけするか。
「…奏が教えたのか?」
「…うん、こうしながら言うと一刀喜ぶって」
へー、死にたいんだ、奏。
「………」
「…おじさまもして欲しい」
「なっ!ば、馬鹿言え!てめぇ!<<ゴン>>」
「いったーい!」
??SIDE
「それで、どう思うか?」
「アイツが言った通りです。これはかなりの儲け物になります。作物も中原から来る残り物とは比べ物にならないほど高級品ですし、ここさえ手に入れればここを私たちの村の特産物にすることもできます。そしたら俺たちの村は荊州でも一頭地を抜くほどのいい街に育てることができます」
「しかし、長老。いくらなんでもあんなことはできますまい。相手は人殺しが慣れかけてる賊たちですぞ。俺たちの手ではとても…」
「安心せい。既にあ奴と話が済んでいる。俺たちは血一滴流さずにここを頂くことになるんだ。
「どういうことです?」
「ここ近くに、孫堅軍が居るという話しさ」
「孫堅というと…あの江東の虎…!どうしてこんな荊州の奥に…!」
「まぁ、それは詳しくは知らん。恐らく賊が手に余った荊州の官軍たちが先に賊どもを片付けた孫堅に助けを申し出たのであろう。まあ、とは言え、ここに来ているのはその娘の方だけどな」
「それじゃあ、つまり……」
「そうさ、ここをあいつらに知らせるんだ。そしたら一晩も経たず間にここの賊どもは皆殺しよ」
「なるほど……それなら確かに何の問題もなく…!」
「素晴らしいではありませんか!これであの醜い賊どもの駆逐と、街の発展を同時計らう素晴らしい策です!」
「うむ…それでは、皆のもの異議はないな」
「はい」
「しかし…水鏡先生の弟子とかの御使いには悪いことをしてしまいましたね。あんなに頑張って街中を回ったというのに」
「ふん、所詮は童二人よ。一度事が進めばどうしようもない。それに、これこそ本当に街の為にすることさ。賊どもと手を組む理由なんてない」
「…そうですね」
「それでは…全員異議はないのだな」
「はい」
「それでは……」
雛里SIDE
街の人たちと裴元紹さんたちの協商はうまく行き、三日後街から人を出して商売を行うという形でまずは話をまとめることができました。
私たちはほぼ一緖に居ただけで、特に問題も起こらず、街の人たちも好意的に意見を出してくれたおかげで、大した摩擦もなく終えることが出来ました。
「何?このまま帰るのか?今日はお祝いの宴をやるからお前たちも残ったらどうだ?」
「気持ちは嬉しいがな。あっちに報告しなければならないこともあるし…孔明と雛里は帰らせてもらわないといけないしな。このまま行かせてもらう」
「そうか、残念だな」
街の人たちが先に帰って、協商がうまく行ったことを祝うために裴元紹さんたちはまだ宴会をすると言ってきましたが、私たちももう帰らなければなりませんので一刀さんはそれを断りました。
「あ、でも、倉は居たいというなら残っていてもいいぞ。元々おすいうことになってたし」
「……<<コクッ>>ここに居る」
「いいんですか、北郷さん。倉だけここに置いて行っちゃって…」
朱里ちゃんがそう心配そうに言いましたが、
「まぁ、そう心配することも分かるけどな。でも倉はむしろここに居るのが自然だからさ。ここに居る人たち全員家族なわけだから」
「……そうですか」
「奏にも既にそう言っているからな、問題ないよ」
「…わかりました」
そうやって倉はここに残ることになりました。
後は帰るだけです。
「ありがとうよ、お嬢ちゃん、北郷」
「あ」
「またそれか、もういいだろ」
裴元紹さんが今日何度目か分からないぐらいにした行動をまた繰り返しました。
「俺たちだけじゃ思いも遠かったことを、お前たちはほぼ半月で成し遂げたんだ。ありがたく思わないわけがねー」
「…ふっ、そんなにありがたかったら、後で水鏡塾でも野菜入れてくれよ。ただで」
か、一刀さん、そんな露骨に…
「がっはっはー、まあそのうちにな!」
「………じゃあ、帰る」
「ああ、また後でな」
「………」
一刀さんはそのまま後を向いて私たちを一度見てから山の下り道に向かいました。
「……雛里ちゃん」
「…うん?」
「私、なんかちょっと分からないけど、北郷さんっていつもあんな感じなの?」
「…どういうこと?」
朱里ちゃんの問いに私は頭を傾げました。
「私が見ていた時、雛里ちゃんと一緖にいる北郷さんはすごく活発で、雛里とも良く話してたのに、今日は全然だったよ。いつもの活気が見当たらなかった。……雛里ちゃんも」
「…………」
「昨夜は何も聞かなかったけど、今日二人を見ると只事じゃないことはわかったよ。……何があったの。一人で悩まないで私にも教えて。友たちでしょ?」
「………」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「愛してる」
「……ごめんなさい」
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今日、塾からここに来るまで、一刀さんは私に一言も言いませんでした。
私も、一刀さんに一言も話しませんでした。
今まで二人で気まずいことは何回がありました。
でも、それでも一刀さんと私はその事を思い出さないように、そういうことで二人がやっていることに邪魔にならないように態とその話を避けて、話し合い続けました。
だけど、今回は違いました。
一刀さんも、私も、互いに声をかけることが出来ません。
どこからどう言えばいいのかさっぱりわかりませんでした。
「朱里ちゃん……」
「うん」
「……私、一刀さんに嫌われちゃったのかもしれない」
「どうして…」
「……私が……一刀さんに酷いこといっちゃったから」
「雛里ちゃんがそんなこと言ったはずないじゃない」
「ううん、言ったの」
自分で先に行ったくせに…先に逃げたのは私の方。
一刀さんが傷ついて当然だった。
「……雛里ちゃん、私は二人がどれだけ仲が良くなったかは詳しく分からないよ。だけど、雛里ちゃんのことは分かってる」
朱里ちゃんは弱々しくしている私の肩を掴んでそう言いました。
以前ならとても自然だった光景。何もかも怖がる私に力をつけてくれる朱里ちゃん。
その光景が、とても久しぶりに感じられます。
それは、今まで朱里ちゃんの代わりに一刀さんからその勇気をもらっていたから。
「雛里ちゃんは人の事を傷つくほど酷いことなんて言えないよ。だから、北郷さんはきっと、雛里ちゃんが思ってるほど傷ついてなんか居ない。今雛里ちゃんがこうして北郷さんのことを放っておくと、どんどん二人の仲が悪くなるだけだよ」
「それは…分かってるけど…」
一体どうすれば…
「鳳統ちゃん」
「あ」
倉ちゃん。
「…一刀と…喧嘩した?」
「うっ…」
倉ちゃんにまでバレていたなんて…そんなに、私と一刀さんっていつもはくっついていたというわけでしょうか。
「…一刀…なんかいつもより元気なかった……鳳統ちゃんも元気ない」
「そ、それは……」
「…大丈夫」
「え?」
「一刀、いい人。きっと、怒ってなんかない。……いつもみたいにしたら、きっと大丈夫」
「………倉ちゃん…ありがとう」
「……<<チュッ>>」
「あわっ!」
突然、倉ちゃんが頬に口づけしてきてびっくりしました。
「……元気出して」
「倉ちゃん……」
「……一刀と鳳統ちゃん、仲直りした方がいい」
「…うん、わかったよ、倉ちゃん」
「…<<ニコッ>>」
一刀SIDE
「…あれ?」
孔明たち付いてこないじゃん。
「…………何やってんだよ、俺…」
完全に雛里のこと無視しやがって……これじゃいつまで経っても仲直りできないじゃないか。
「嫌、むしろ仲直りできるのかよ」
できないだろ。
ぶっちゃけ告白してフラれた形なんだし…
ってか俺馬鹿すぎるだろ。何思ったことありのまま口走ってるんだよ。二週間前にだってそうした挙句今この状況まで来ているというのに…
「はぁ……もう駄目かも」
バサッ
「うん?」
「!」
「み、御使い殿?!」
「長老さんたち?どうしてここに…」
茂みの中から長老と街の人たちが出てきた。
おかしいな。もうとっくに降りて行ったのかと思ったんだけどな。どうしてあんなところから出てくるんだ。
「い、いや…その……」
「案内してくれていた方が突然居なくなってしまいましてですな。俺たちだけでは戻り道が分からなくて困っていたところでしたぞ」
「え、マジで?」
おかしいな。案内してた奴何処行ったんだ?
「取り敢えず、俺と一緖に降りましょう」
「あ、ありがとうございます。助かりますぞ」
雛里たちのことは……後でまた上がって連れてくるか。
俺はそう思いながら、長老たちを連れて山を降りてきた。
その後、長老たちを先に帰らせて山道を上がる途中で降りてくる雛里たちに会って、塾に戻って来るともう日が暮れていた。
そして、そのまま水鏡先生への報告は二人に任せて部屋に戻ろうとしたら手前に奏が立っていた。
「キャハ、そうですか。倉ちゃんはそこに留まったんですか」
「ああ……ところで奏。倉に変なことを教えたようだが?」
「キャハ?チューされました?気持ちよかったでしょ?」
「殴っていいか?」
「どっちかと言うと奏はいじめられるのよりもいじめさせてくれた方がご褒美になるのですよー」
「褒めてねー<<ゴン!>>」
「痛っ!」
頭をケンコツで殴られた奏は頭をその場に居座って頭を撫でた。
「もう…奏が馬鹿になっちゃったらどう責任を取るつもりですか」
「人間の頭蓋骨そんなに弱くないから大丈夫だ」
「……キャハ、でもこれで、少しは機嫌が良くなったようでよかったですよ」
「…は?」
何を言ってるんだ?
「一刀さん、鳳統ちゃんとはまだ話しをしてないのですか?」
「…っ、お前がどうしてそれを…」
「もうすぐ雛里ちゃんが一刀さんに話にくると思いますから、その時には奏に感謝すればいいのですよ」
「知ってたのか?」
「キャハ、もう朝になってた時点でバレバレだったのですよ」
そんなに朝から気まずそうにしてたかな、俺と雛里。
というか全然話しあってなかったからな。当然といえば当然かもしれない。
「…キャハ、奏は、一刀さんと雛里ちゃんがいい仲になってもらわないと困るのですよ。このままだと孔明ちゃんがまた雛里ちゃんにくっついちゃいますから……奏はあくまで孔明ちゃんを手に入れるためだけに、一刀さんを助けてあげてるんですよ」
「……奏………お前…」
「キャハ、言ったじゃないですか。一刀さんは奏と同類なのですよ。一度愛した人をこうも簡単に見逃すほどのみじんこが男ではないはずなのですよ」
さりげなく酷いこと言うな。
だけど、
「取り敢えず礼を言っておこう、奏」
「キャハ、奏は奏と孔明ちゃんのためだけに動くのですよ。一刀さんに感謝される理由なんてないのですよ」
奏はそのまま俺を通り過ぎて俺の部屋を後にした。
「……参ったな。ここに来てから、人に絡みすぎて、一々反応に困る」
雛里SIDE
ガラッ
「鳳統ちゃん」
「!元直ちゃん…どうしたn…」
「大変なのですよ!か、一刀さんが…一刀さんが…!!」
突然部屋を開けてきた元直ちゃんが顔を真っ白にしてそう何か言ってました。
「北郷さんがどうかしたの、カナちゃん」
「か、一刀さんが…人生悲観して部屋の中で首を絞って自殺を……!」
……え?
「えええええ!!!」
「はわわ!!」
「早く、早く行ってみて。じゃないと一刀さん死んじゃうの、早く、雛里ちゃん!私が水鏡先生後で連れて行くから」
「あわわ!わ、分かったよ」
何が何だか、状況が理解できなかったけど、取り敢えず元直ちゃんに押されて一刀さんのところに向かいました。
・・・
・・
・
「はぁ……はぁ……」
ここまで来るのに…走り過ぎて息が辛い。
「はぁ……はぁ…あれ、一刀さん」
「……雛里?」
一刀さんは部屋の外に居ました。
いつか倉ちゃんからもらった剣を持っていました。
「……良く考えてみると、首を絞って自殺しようとしていたら、ここに来ないで直ぐに止めるべきだったよね」
「何?何の話?」
「いえ、何でもありません。こっちの話しです」
ハメられました。
元直ちゃんにハメられましたよ。
でも、どうしてこんなこと……
「…ほら、水」
「あ、ありがとうございます」
一刀さんから水の瓶をもらって取り敢えずここまで走ってきて乾いた喉を潤わせました。
「……あれ?これってなんですか?」
ふと飲み終わっていたら、見たことのない形の水の瓶でした。
「あ、それスポーツドリンク用の……俺が居る世界で運動する時に水を入れる瓶だよ」
「運動…?一刀さんそういえばその剣って」
「ああ、最近ちょっと鍛錬を怠っていたからな。ちょっとね」
「はぁ……」
そう言えば、一刀さんって以前街で戦っていた時にすごく強かったですよね。
「天の世界でもそういう戦いとかが良くあったのですか?」
「うん?……ああ、違う違う。俺の世界では剣道とかはただの精神修練のためのものさ。一種の教養科目みたいなやつ?」
「その割には、すごく強かったですよね。戦う時にも全然怖がったりしませんでしたし」
「まぁね…一応俺、一つの道場の師範だったからね」
「師範って……じゃあ、一番強い人」
「ああ、ここで言うと、水鏡先生だね」
「ほぉ……」
考えていたより、一刀さんってずっとすごい人だったんですね。
年も私より二歳上なだけなのに、人たちを教える先生の立場だなんて……
「……すごいですよね、一刀さんって」
「………そ、そう?」
「はい、だって、まだ若いのに皆の先生だなんて……すごいと思います」
「……あまり、そんな風に思ったことはないな。祖父さんの後を継いだだけだったし……まぁ、道場の人たちを相手する時はいつも絶対に負けず、師範としての振る舞いをすりょうにしていたけどね。死んだ祖父さんの教えだったよ。『師範たる者、弟子たちに弱い姿を見せてはいけない』ってね。
なんか、一刀さんが嬉しそうに話し始めました。
……もしかしたら、ちょっと照れているのかもしれません。
「………」
「……あ」
あ、不味い。話が切れました。
このままだとまた気まずそうな雰囲気に。
「あの……一刀さん」
「あのさ、昨日のことだけど…」
「!」
一刀さんが先に話を振ってきました。
もう、こうなった以上逃げることはできません。
「本当にごめん……俺が自分のことばかり考えて……雛里のことはまったく考えなくて…」
「いいえ…私こそ…自分から話しだしておいて逃げちゃって……ごめんなさい」
「いや、逃げて当然だろ。いきなりそんなこと言われたりしたら……一人で熱くなって…馬鹿なことやっちゃったって思ってる」
「………」
どうして、一刀さんはこうも私に謝るのでしょうか。
悪いのは私の方なんですよ。
人の想いを聞いておいて、それが耐えられないからって勝手に逃げてきたのは私なのに……謝らなければいけないのは私の方なんです。
一刀さんはただ…私が聞いたから言ってくれただけなのに。
「でも、忘れてくれとか言うつもりはない」
「……へ?」
一刀さん。
「他のなら、あの事は忘れてくれとか言うところだけど、俺は嘘はつけない性格だ。自分のことだけ考えたら、正直な話、雛里に昨日のことをなかったことにしてもらいたくはない」
「…そ、それじゃ……昨日の…ことは……本当にそうなんですか?」
本当に……それほど私のこと…
「うん…雛里はそのせいで俺のことが嫌いになったかもしれないけど……」
!
「ち、違いましゅ!」
それだけは、
それだけは全否定させていただきます。
「……!?」
「一刀さんが嫌いだなんて、そんなこと思ったこともありません」
「雛里?」
「一刀さん、実は、ずっと前から話そうとしたことがあります」
あの流れ星に願ったこと。
それからその流星とと一緖に一刀さんが現れました。
あの夜狼に食われそうになりながら一緖に過ごしていた時。
そして街に広まってた予言を見た時…。
一緖に山賊の群れに入った時、
それから一緖に裴元紹さんと倉ちゃんたちを助けるために今までやってきた事。
昔から臆病で、外に怖いものばかりだった私が今まで一刀さんと一緖に居たこと。
……でなければ、今までこうしてきたはずがありません。
ずっと、言おうとしていた事。
昨日、あまりにも怖くて言い切れなかったこと。
「一刀さん……私」
「雛里ちゃん、大変だよー!!!」
「「!!」」
一刀SIDE
雛里の言葉が、突然現れた孔明の急いでるような叫びに塞がれた。
「あわっ!?朱里ちゃん、どうしたの?」
「せー…せー…大変だよ。今、塾の前に男の人が血を来たんだけど、その人……あの山賊の群れの人のようだけど今すごく怪我していて…」
「!」
何!?
「今どこに居る」
「まだそこに…水鏡先生が見ていらっしゃるはずです」
「早く行こう」
「あ、一刀さん!」
一体何があったっていうんだ。
まさか、今になってそんなことが……
・・・
・・
・
「うぅぅ……」
「しっかりしなさい。もう直ぐ北郷さんと雛里たちが来ます」
「あぁぁ………」
そこに行ってみると、裴元紹の群れの一人を水鏡先生が診ていた。
「!お前は…」
こいつは…最初街が襲われて時、裴元紹が俺に付けていた監視役の奴……
それでここまで来られたのか。
「……あぁ……」
「何だ、一体何があったんだ?!一体誰がこんなことを……」
「あまり大声を出さないように…」
「っ!」
どうなってんだ。彼らはもう夢を目前としていた。
賊の名を捨てて、平民に戻れる寸前まで来ているんだ。
なのに何故こんな……!
「お頭を……助けてくれ」
「誰だ。一体誰にやられたんだ」
「………街の…人に…」
「!!」
なん・・・だと?
「おい、それは……何の冗談だよ」
「……昼に、あいつらを連れて山を降りる時に……偶然…聞いた。あいつら…俺たちの群れの居場所を官軍に突きつけるつもりだった……それをバレて……俺は一気に襲われて……」
「!」
昼のアレは……長老たちを案内していたのがこいつだとしたら……
「あの野郎どもが……!!」
表で笑顔のようにして、裏でこんなことを……!
「俺が気がついた時には……陣はもう襲われていた。皆…昼から祝うとか言って酒など呑んでちゃんと戦えてない……頼む…お頭を……うぅ」
「!しっかりしなさい!」
「いえ、もう結構です!命は大丈夫なのですか?」
「…ええ、血をたくさん流したけど…おそらく大丈夫よ」
この体で……あの森からここまで街の連中に気付かれず来たのだ。
……俺に知らせるために…………
「どうするつもり?」
「決まっています」
裴元紹たちを助けに行きます。
「くふっ!まさか俺たちの部下たちが…こんな簡単に官軍どもにやられるなんて……酒さえ呑んでなければ……」
さしゅっ
「火矢か!」
「ひぃっ!」
「怯むな、お前ら!落ち着いて消火に当たれい!残った連中で動ける奴らは防衛に当たる!」
「おじさま!」
「倉!お前は早く逃げろ!北郷の奴らのところに行ったら…」
「嫌!あたしも戦う!」
「馬鹿言え!これは遊びじゃねえ。いつもお前に面白半分でやられてくれる連中とは話が違う!負けたら死ぬぞ!」
「…おじさまも同じ」
「……ええいっ!どうにでもなれ!勝手にしろ!」
「…うん!
・・・
・・
・
「なーんか釈然としないんだよね……街の人に頼まれて来たまではいいのだけれど、来てみたら連中は酒で酔いつぶれているし」
「そうだな、都合が良すぎる……何か裏があるのか、それとも……」
「まぁ、そうこういっていても仕方ないわ。火計はこれでいいでしょ?そろそろ出るわよ、『冥琳』」
「ああ、気をつけてな。『雪蓮』」
「分かってるって。安心しなさい。あんな賊の『獣』どもに負ける私じゃないから☆」
「ふっ、たしかにな…」
「じゃあ、行くわよ。孫家の勇者たちよ!」
おおおおーーー!!
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真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。