泰山での調査も終わり、下山した頃にはすっかり日も暮れており辺りに村も無い為野宿する事となった。
夕食を済ませ、司馬懿は先ほどの行為を考えていた。
(私はなぜあんな事をしてしまったのでしょう…。)
今まで異性に興味を持たず特に意識した事が無い。
北郷一刀…、今回偶然にも司馬懿の前に現れ一緒に旅をすることなった。
武も智も特に秀でてるわけでもなく、目立った所と言えばお人好しな所である。
彼のおかげでここへ来るまで予想以上に時間がかかった。
というのも一刀が勝手に隊商の護衛を引き受け、それが別方向に行く事もあったりした。時には酒家で食事をしたはいいが路銀を無くしている事に気づきしばらくそこで働くなどもしていたからである。
これまでの事を思い出しても司馬懿は面白かったと思っていた。そんな自分の心境の変化に驚いてはいたが悪くは無いと感じていた。
一刀の方を見れば既に寝ていた、あれほど寝てまた寝ている事に呆ていた。だが元々夜更かしをするほうでは無く以前の外史での生活習慣の日が落ちれば寝るというのが身に付いてるのであろう。
もっとも朝は弱いようで放って置けばいつまでも寝ているのだ。そんな寝顔を見て心地良い気分のまま司馬懿も眠りに付いた。
翌朝
日が昇り明るさを感じて目を覚ました。辺りを見渡し一刀が居ない事に気が付き一瞬焦ったが、気配を探り近くにいる事が分かり安堵し、
すぐに冷静さを取り戻す。どうやら顔を洗いに行っているみたいだ。
彼が居ない事に焦り、彼の存在を確認出来れば安堵する。そんな自分の状態にフッと笑みを浮かべる。
(まるで恋する乙女ですね。)
何気なく呟いたのだが、恋という言葉に反応していた。
(恋?誰が?私が?誰に?北郷さんに?まさか、ね………)
深く考えていたらしく、一刀が戻って声を掛けられるまでぶつぶつと呟いてる様を見られた司馬懿はしばらく凹む事となった。
そして途中通りかかった邑で隊商が都までの護衛を募集していたのでそれに同行することになった、
特に何も無いまま数日後、商売と休憩の為に小さな邑立ち寄ったのだが、出発時間になっても一人が現れない為一刀達が付近を探すことになった。
しばらく探しているとわずかに声が聞こえ、それを辿り一刀は目的の商人を見つけ声を掛けようとしたが、近くに人がいた。
しかしどう見ても和やかに談笑している様子は無い、なぜなら三人のうち一人が商人の方に剣を突き付けているからだ。おそらく賊であろう。
そしてそれを見た瞬間考える間も無く、一刀は商人と賊と思われる者達の間に剣を構え立ち塞がっていた。
「あん?なんだてめえは?」
「兄ちゃん、そんなへっぴり腰で俺達に敵うと思ってんか?」
「そこのおっさん置いてとっとと立ち去りな!そうすりゃ命だけは助けてやるよ!」
三人は間には言ってきた一刀に立ち去るように脅しかけてくる。一刀の方も逃げ出したい衝動に駆られたがそんな事をすれば護衛としてはそれは任務失敗、また自分自身がそういうことを見逃せないでいたから。
(大丈夫だ、冷静にやれば。この人達は司馬懿や愛紗達なんかに比べれば怖く無い。…後は俺の覚悟だけ!)
一呼吸おいて賊の剣を弾く。賊の方は反撃をしてくるとは思っていなかったらしく焦りはしたがすぐに残りの二人に指示を出す。
「おい、ぼさっとしてねえでさっさとこいつを殺っちまえ!」言われた残りの二人も一刀を囲む。
一方、司馬懿も商人の捜索に出、気配を探っていたが微弱なため難航していた。そして一刀の気配が動いていない事に気づき其処へむかって走っていた。
司馬懿が到着し見た光景は既に絶命した賊と血塗れになっている一刀。
「北郷さん、おじさん、大丈夫ですか!?」
近寄り商人と一刀の声を掛ける。
「…あ、ああ私は大丈夫だ、この兄さんのおかげで助かったんだが…」
けれどもと商人が一刀を見やる、司馬懿も同じように見ると放心状態の一刀がいた。
「賊を退治した後からこの状態で動かないんだよ。」
「…こちらの事は任せておいてください。先に他の方と合流していただけますか?」
商人は分かったと言い、この場を立ち去っていった。
司馬懿は一刀に近寄ると大きな声で叫んだ。
「北郷さん!北郷さん!」
「あ…、司馬懿なんでここに?」
声を掛けられ肩を揺すられて一刀はようやく司馬懿がここにいる事に気が付いた。一刀に怪我が無いようで一先ず安心する。
「あなた方を探していたんですよ、商人の方は先に戻っていかれましたよ。」
一刀は言われ周りを見渡せば商人の姿は無く、あるのは賊達の死体だった。
それを見た一刀は走り出し茂みに入り嘔吐していた。一瞬司馬懿も驚いたが茂みで嘔吐しているのが分かると一刀が出てくるまでそこで待つ事にした。
しばらくして出てきた一刀は憔悴していた。そんな一刀に司馬懿は
「北郷さん、気分はどうですか?」
「最悪ですよ。人を殺したんですから…」
一刀はなぜそんな事を聞くんだと思い搾り出すような声で答えていた。
「北郷さん一つお聞きします。今日あなたは人を殺しました。そしてそれと同時にあなたは人を助けました。人を殺す事と助ける事、あなたはどちらに心を置きますか?」
「…何が言いたいんですか?」
司馬懿の言おうとしてることが分からず一刀は困惑する。
「これは、考えておいてください。とりあえず皆さんと合流し、邑で血を洗い流しましょう。」
邑に戻り合流後礼を言われたり血を洗い流したりした為、かなり予定の時間を過ぎてしまったが一行は気を取り直して出発する事となった。
その後一刀は誰に話しかけられても気の無い返答ばかりで、司馬懿にどうしたんだと問いかけてみたも曖昧に返答するだけで結局隊商の目的地の都に着くまで誰も二人に話しかけられずにいた。
都に着いてから数日、一刀と司馬懿は別行動をとっていた。一刀は都の少し離れた所で鍛錬を、司馬懿はなにやら人々から話を聞いているようだった。
この数日会話らしい会話も無く過ごしていたある日、鍛錬している一刀の元に司馬懿が訪れた。
突然現れた司馬懿に驚いたが直ぐにここに来た意味を理解した。
「北郷さん、あなたの答えを聞かせてください。」
「司馬懿、俺の答えは…」
話は少しさかのぼる。
一刀はここ数日都の近くの森で鍛錬をしに来ていたのだが、先日賊を斬り殺した感触が忘れられず身が入ってなかった。
時折それを思い出し気分が悪くなり吐いたりし、酷い時には気を失うこともあった。かなり精神的に消耗していた。
それでも一刀は気に病んでいても解決しない事を分かっているため必死に答えを探していた。
そんなある日今日も一人で鍛錬をしていた一刀に声を掛けた人物がいた。
「そこで何をしている?」
見ると独りの兵士がいた。一刀が逗留している都の警備兵だろうか、兵装は何度か都で見かけた事がある。歳の方は大方四十過ぎた頃だろうか、落ち着いた感が見受けられる。
「民から報告を受けて、最近この森に怪しい人物が出入りしていると聞いてな、来て見たんだが君が一人で鍛錬していたのか。」
兵はどうやら調査に来たみたいで一刀が怪しい人物で無いと分かると警戒を解いた。
「君は随分迷っているようだな。」
一刀は初対面の相手にいきなりそのような事を言われて驚いた。
「ははは、いきなりですまない。少し見ていたのだが剣が乱れているように見えたものでな、つい。おせっかいついでに私でよければ話を聞くが?」
一刀も一瞬どうしようか考えたが、自分に迷いがあることを見抜いたこの人ならと思い話し始めた。
話を聞き終えた兵は少し考えこういった。
「どちらに心をおく…か。簡単なようで難しいな。…少し私の昔話をしよう。」
参考になるかは分からないがと付け足し自分に起きた事話し始めた。
それは兵として初めての戦で始めて人を殺し続けた、戦だからとわかっていても苦しかった。そして戦が終わり苦悩のまま都へ凱旋、その時の民達の笑顔を見、賊を追い払った事に礼を言われたときた時、この笑顔を守ったんだなと思った。そして人を殺した罪悪感みたいなものが少しばかり和らいでいった事を感じた。
だが決してそれが無くなったわけでは無い。しかし自分達が戦わなければ多くの人が悲しみ、そして自分達の帰る場所を無くしてしまう。そう思い死と共に今を生きていると兵は一刀の語った。
話を終え立ち去る兵に礼を言いその後、一刀は嘗て自分達もそうやって戦っていた事を思い出していた。ヒントは意外と身近な所にあったのだ。
立ち去った兵の方角へ向かって今度は頭を下げて礼をした。
「司馬懿、俺の答えはどちらにも心は置かない。」
「…どういうことですか?」
一刀の意外とも言える答えに司馬懿は問い尋ねる。
「少し言い方が変だったかな。正確にはその両方の真ん中に心を置くんだ。俺はどっちも背負う為に。」
どうかなと目で問いかけて見る。
「その覚悟があるならいいでしょう。」
一刀は自分の想いが司馬懿に届いたと思いほっとする。
「なあ司馬懿、もし間違っていたらどうするつもりだったんだ。」
「その時は師としてけじめを取るまでです。私はあなたの剣の師なのですから。弟子が誤った道に行くのなら師が責任を取る、只それだけです。」
あとがき
…やっと出来ました。
この話一刀の決心を出すのに随分時間が掛かってしまいました。
どう描写しようか、散々迷いました。巧い事描けてるかホント不安です。
分かりにくかったらゴメンナサイ。作者の力量不足です。
誰か『物書き+2』のスキルください。
ではではまた次回~
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第7話
一刀はとうとう人を殺めてしまいます。
その苦悩の果てに何を掴む?
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