「ちょっとそこの貴女」
いつものようにぼろろがへにょへにょと道を歩いていると、突然声を
かけられた。 普通なら無視するのかもしれないが、何故か律儀に
返事をする。
「はい? 私?」
「そう、貴女です」
そう言ってぼろろを手招きしているのは、いかにも、という感じの胡散臭い
占い師であった。お決まりの黒いフード付きの妖しいローブを身にまとい、
道ばたで歩行者の邪魔をするべく生まれてきたかのように変な台を
設置し、その上にはもちろん水晶玉があった。そして、何故か
タロットカードや虫眼鏡、易者がよく使う変な棒まで置いてある。
何占いなのかさっぱりだ。
「何か御用ですか・・・って、貴女山田さん?」
ゆっくりと近づいたぼろろが、フードの陰から見出したのは、
お馴染みの顔であった。すなわち、山田である。
「何を言っているのですか。私は山田などではありません。 ましてや、
山田だったり、山田じゃなかったり、たわしだったり、山田であったり、
そんなこともありません。絶対に。たとえそうだとしても、それに
何の意味があるでしょう。貴女は大人しく占われているべきです。
そうでなければ、九州大学に行きなさい。そして、チャカポコ言って
いればいいのです」
口調は丁寧だが、言っていることは無茶苦茶である。
第一、これを見ている人間の一体何割が九州大学でチャカポコ言うことの
意味が分かるのだろう。
とりあえず、どこからどう見ても山田であるのに否定する、妖しい占い師の
迫力に圧され、仕方なく占われることにした。
「あの、それで、何を占ってくれるんですか。っていうか、
何占いですか・・・やたら道具がありますけど」
当然の質問である。何故ならば、彼女は普通人間だからだ。
「いえ、特に何も占いません。そして、私の占いは占星術です。
この格好でどうして分からないかなぁ」
誰がどう見ても分からないと思うが、山田だから訳が分からなくても
仕方ない。諦めて大人しくしていれば何とかなるかもしれない。
「いや、占星術ならタロットとか水晶玉はいらないんじゃ・・・」
「!!!!!!」
ぼろろが言いかけると、山田は鳩が豆鉄砲を喰らいそうになって、
寸前で避けた時のようなすごい形相で、ぼろろの口をふさいだ。
ガムテープで。
「しゃべってはいけません。しゃべると口が動きます。口が動くと
この冬の乾燥している時期、ぴしぴし切れてしまうから」
何だか泣きそうになっているぼろろを無視して、山田は一人で占っている。
・・・・・・・・・らしい。
空を仰いで何やらぶつぶつ言っている。空には星も出ていないのに、
星に語りかけているつもりらしい。
と、突然空が明るくなった。太陽とは違う明るさである。
何だか知らないがやたらたくさんの光があちこちから飛びながら
近づいてくる。山田めがけて。物凄い勢いで。
しばらくはその正体が分からなかったが、よく見ると、どうも巷でよく
言われている未確認飛行物体、いわゆるUFOというやつらしい。
それに気づくと、山田は大慌てでローブを脱いだ。
そして爽やかに微笑んで言った。
「あみ君、後は任せた。私の役目はここまでだ。今回の事件は
君に任せるよ。私が出るほどの事件ではないからね。というより、
何やら面倒なことになりそうだからね。面倒なことはやりたくないからね。
さあ、君のお手並み拝見といこう。私は安全なところから
見守るよ。今回の私の役目は見守り係だ」
言いながら、さり気なくぼろろを台に縛り付けている。
どこから縄を出してきたのかがよく分からないが、そこは山田のことだ。
抜かりなく用意してあったのだろう。
そして、山田が風のように颯爽と消えた後には、異星人と
交流しなければならない羽目になったぼろろと、何故呼ばれたのかも
分からないUFO約一万機が残された。
ぼろろは思った。山田さんの近くにいると、楽しいけれども、いつか
命を落とすのではないだろうか、と。
そして、それは今日ではないだろうか、と。
明日の新聞の一面記事は私が独占だ。
女子大生、異星人に連れ去られ、行方不明、と出るのだ。と。
そして、山田は見守ると言ったくせに、面倒になったらしく、
帰ってしまった。実は帰ると見せかけて、ぼろろ家に侵入し、
DDRを思う様踊っていたのだが。
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学生時代に友人と自分をモデルに書いた、ミステリのふりをしたギャグ。
某ミステリ作品のオマージュ的内容含む短編