「鈴木さ~ん」
何だか情けない呼び声を発しながらやって来たのはぼろろであった。
いつも何だか情けないが今日は特別だ。
そして、さらに彼女はこれからますます情けない目に遭うのであった。
「鈴木さん、助けて。教えて。わーからないよ」
何だか不可思議な節回しでしゃべりながら、鈴木の部屋のドアを
開けた瞬間、ぼろろは凍り付いた。
そこには、鈴木がみっしりと詰め込まれていた。これでもか、と
いわんばかりである。 六畳ほどの部屋を鈴木が埋め尽くしていた。
天井までみっしりと鈴木だ。全て鈴木だ。
呆然としていたぼろろに、どこからともなく鈴木の声が聞こえてきた。
全て鈴木なので、どの鈴木なのかは分からないが。
「やあ、ぼろろ君。すまないが、今取り込み中なのでね。
後にしてくれないか」
確かに取り込み中かもしれないが一体どうするつもりなのか。
「そんなこと言っても、これはちょっとおかしいよ、鈴木さん。
説明してくれないと困るよ。私はともかく、読者が困るよ」
「何を言っているんだい、ぼろろ君。読者なんていないよ。
いると思っているなら、それは君の気のせいだ。たとえ本当に
いたとしても、この状況が分からないのは君だけだよ」
何だか無茶苦茶である。
「そんなこと言われても分からないよ。どういう状況なのさ」
「本当に分からないのか。駄目だな、君は。そんなことだから
天然扱いされるんだ。私は今、英語を日本語に直しているんだよ。
いわゆる翻訳というやつだね。そう、今の私は翻訳ソフトだ」
「鈴木さん、翻訳ソフトで翻訳すると、間違った日本語になるから
やめた方がいいよ。あれはあれで笑えるけど、やはりやめるべきだよ。
それ以前に私が聞きたいのは、どうしてこんなにみっしりと鈴木さんが
詰め込まれているかということなんだけど、それについては
説明してくれないんだね・・・」
「何を言っているのさ?ここには私独りしかいないよ」
その瞬間、詰め込まれていた鈴木達が、突然雪崩を起こしてぼろろの上に
落ちてきた。何人いるか分からないが、とにかく物凄い重さだ。
その下敷きになっているぼろろをしりめに、鈴木は翻訳を続けている。
「私は見つかる。それは彼女の全ての知識で真ん中の脳はそれに
ふさわしく何やら蠕動し、産声をあげ、復習する。そしてその時
モリアーティとホームズはバリツによって全てを混乱の渦にたたき込み、
おかしなことに洪水が二人を飲み込んだ。そしてバリツは伝説と共に
人々によって後世まで伝えられ、バリツによるバリツのためのバリツの
生活が始まった。だからこそ西之園は今日もまたバリツを踊り犀川は
バリツで飯を喰い・・・・・・・・・」
「うーん、うーん・・・。重いよ、鈴木さん。重いよ、そして
訳が分からないよ・・・」
いつまでたっても起きないぼろろの上には鈴木が座り、翻訳によって
睡眠学習をさせるべくずっと本を読み続けていた。一体どんな夢を
見ているのだろうと思いながら。
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学生時代、友人と自分をモデルに書いたミステリのふりをしたギャグ。
某ミステリのオマージュ的内容含みます