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遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・十六話

月千一夜さん

十六話
今回は、ついに一刀メインのお話
目覚めの時は、まもなく・・・

2011-06-09 01:30:46 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7589   閲覧ユーザー数:6262

『どうだ、白蘭

素晴らしい眺めだろう?』

 

『うわぁっ、すごい!

すごいよ、お父さん!!』

 

 

あぁ、どうしてだろう

 

 

『この丘は、私が小さい頃に教えてもらったのだ

“ある伝説”と一緒にな・・・』

 

『伝説・・・』

 

『ああ・・・』

 

 

どうして、今になって・・・こんなことを、思い出すんだろう

どうして・・・

 

 

 

 

『この丘に架かるという・・・“真夜中の虹”の伝説だ』

 

 

 

 

私は、“あの日”のことを思い出すんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 十六話【そんなの、知るか】

 

 

 

 

 

「久しいな、姜維・・・我が、愛しの娘よ」

 

 

現れた、一人の男

その登場により、姜維の表情が一変する

 

 

「お父さん・・・」

 

 

呟き、震える姜維

その顔には“驚き”と・・・そして、“悲しみ”がみえた

 

 

「あぁ・・・強くなったな、姜維」

 

 

言いながら、歩み寄る男

しかし・・・男を前に、姜維は身動きを取れないでいた

 

 

「白蘭っ!」

 

 

そんな彼女のもとへ駆け寄ろうと、走り出す美羽

だがその前に、五胡の兵が立ちはだかった

 

 

「くっ・・・邪魔なのじゃ!」

 

 

叫び、一閃

それにより、倒れる五胡

しかしすぐに、新たな五胡が集まってくる

気付けば・・・美羽達四人は、囲まれていたのだ

 

 

「な、いつの間に・・・!」

 

「あらあら、びっくりですね~」

 

 

剣を構え、慌てる美羽と相変わらず笑顔のままの七乃

その隣、夕は斧を肩に担ぎ・・・ニヤリと、不敵な笑みを浮かべる

それは祭も同じだった

 

 

「上等じゃないか・・・なぁ、祭」

 

「そうじゃなぁ」

 

 

言いながら、2人は武器を構える

それから見つめた先・・・未だ集まってくる敵を前に、浮かべた笑みは消えた

 

そこにあるのは・・・

 

 

 

 

「いくぞっ!!」

 

「応っ!!」

 

 

 

 

 

新たな一歩を踏み出した、“武人”の姿だった・・・

 

 

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「・・・」

 

 

青年の視線の先

黒煙は、もう大分離れていた

それでも、“彼”はその黒煙から目を逸らさない

 

 

「一刀、何をしているんだ?

早く行かないと、まだここも安全とは言えないんだぞ」

 

 

そんな彼・・・“一刀”の様子を見て、華佗は難しそうな表情を浮かべながら言った

事実、彼の言うとおり

彼らがいる場所は、まだ天水からあまり離れていな場所なのだ

しかも先ほど四人を追ったためか、他の避難民からも距離をかなり離されてしまっているのだ

故に、華佗は多少の焦りを覚えていた

 

 

「一刀よ

ダーリンの言う通りじゃ

ここはまだ危うい・・・早く、離れた方が良いじゃろう」

 

 

華佗のこの意見に、卑弥呼も同意し頷いた

だがしかし、一刀は動かない

ただ黙って、昇っていく黒煙を眺めているのだ

 

 

「やっぱり・・・“知ってる”」

 

「・・・一刀?

いったい、何を知ってるんだ?」

 

「この、“感じ”

俺は、ずっと・・・“探していた”」

 

「っ・・・」

 

 

視線もそのままに、呟いた一刀

そんな彼の言葉に、華佗は困惑したような表情を浮かべ

そして卑弥呼は・・・一瞬、大きく目を見開いていたのだ

 

 

 

「やっぱり、俺・・・行かなくちゃ、いけない」

 

「っ、おい一刀!?」

 

 

そんな中、突然走り出す一刀

華佗は彼を慌てて追おうと、遅れて駆け出す

だがしかし、その数秒後

その必要は、なくなってしまった

 

 

 

 

 

「・・・がっ!?」

 

 

追う、華佗の目の前

突然襲い掛かった・・・“黒い光り”

それと同時に呻き声をあげ、一刀が倒れたのだ

 

 

 

「一刀っ!!?」

 

 

あまりの事態に、一瞬意識を失いそうになる華佗

だがしかし、何とかそれを堪え彼は急ぎ一刀のもとへと駆け寄る

 

 

「おい、一刀!?

いったい、どうしたんだ!!?」

 

「わから、ない・・・」

 

 

華佗の言葉

それに、一刀は苦しそうな表情を浮かべたまま答えた

それから何とか立ち上がろうと、足に力を入れた瞬間・・・

 

 

「・・・っ!!!」

 

 

その光りは、再び彼の体を地面へと倒れこませる

 

 

「な・・・一体、何が起こっているというんだ!?」

 

「待て、落ち着けダーリン!

よく見てみるのじゃ・・・その、一刀の“首もとにぶら下がっているモノ”を!」

 

「な・・・これは!」

 

 

卑弥呼に言われ、華佗が見つめた先

その光景に、彼は息を呑んだ

その瞳に一刀の首にぶらさがっていた、淡く光り輝く“十字の首飾り”を映したまま

 

 

「“コレ”・・・の、せい?」

 

 

力なく呟く一刀に、卑弥呼は難しそうな表情を浮かべたまま口を開く

その視線を、その首飾りから逸らすことなく

 

 

「“コレ”は、まさか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

“お守りやって、そう教えたやろ?”

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

「・・・!」

 

 

響く声

聞いたことがある、どこか飄々とした声

三人の視線は、その声の主へと向けられる

 

 

「“王異”・・・」

 

「よっ、最近ぶりやね青年」

 

 

片手をあげ笑うのは、いつの日か美羽と共に出会った旅人・・・“王異”

相変わらず顔は隠れていたが、それでも浮かべているのは笑顔だと感じさせる雰囲気に

卑弥呼は、その表情を強張らせる

そんな卑弥呼の様子など、全く気にしたことじゃないのか

王異は軽い足取りで、未だに倒れたままの一刀の傍まで歩み寄ったのだ

 

 

「これはな、不思議なお守りでな

“持ち主が命の危機のある場所へ行こうとすると、その体を動かなくさせるんや”」

 

「命の、危機?」

 

 

“そうや”と、彼女はその場にしゃがみ込む

それから、スッとその顔を一刀に近づけた

 

 

 

「このまま、戻ったら

アンタ・・・確実に“死ぬで”?」

 

「・・・!」

 

 

 

“死”

その言葉に、一刀の表情が一瞬強張った

だがすぐに、いつもの無表情へと戻る

それから、再び起き上がろうとし・・・三度、地面へと叩きつけられた

 

 

「く・・・!」

 

「あ~、無理せんほうがええで

これには“強力な呪”が込められとるっちゅう話や

無理に動こうとすれば、それこそ死んでまうわ」

 

 

そこまで言うと、彼女はその視線を華佗

そして、その隣で彼女を睨み付ける卑弥呼へと向けた

 

 

「ホレ、今のウチに連れて行かんかい

はよ離れな、ここまで五胡がやってくるかもしれへんで」

 

「あ、ああ・・・そうだな」

 

 

王異の言葉

未だ何か納得できないような表情を浮かべながらも、華佗はコクンと頷いた

 

その様子を眺めながら・・・一刀は、動かない自身の体を見つめ

小さく、ため息を吐きだしたのだ

 

 

「動かない・・・」

 

 

いや、“動けない”

ならば“仕方ない”

瞳を閉じ、彼は再びため息を吐きだす

 

 

「仕方ない・・・」

 

 

“仕方ない”

彼は何度も呟いた

 

“待っていよう”

彼は自分に言い聞かせた

 

 

 

 

 

 

≪本当に、そう思っているのか?≫

 

 

 

 

 

「ぁ・・・」

 

 

≪仕方ない・・・そんな一言で、納得できるのか?≫

 

 

響く

響く、優しい声

 

 

≪お前はきっと、何も知らない

何故なら、ここには何もないんだから

けどさ、“それがどうしたっていうんだ”?≫

 

 

この声を、“彼”は知らない

聞いたことがない

だがしかし・・・ひどく、“懐かしい声”

 

 

「俺、は・・・」

 

 

彼は、瞳を閉じ・・・その声に耳を傾ける

その懐かしくも、温かな声に

彼は、その身を委ねたのだ

 

 

≪さぁ、どうする?

お前は・・・どうしたいんだ?≫

 

 

 

そして、再び開かれた瞳

その瞳に映るのは・・・あの、黒煙の先だった

 

 

 

 

「行かなくちゃ・・・」

 

「え・・・?」

 

 

ポツリ、聴こえてきた声

それが一刀から発せられたものだと気付いた瞬間

華佗の視界が、黒き光りに包まれたのだ

 

 

 

「ぐ、が・・・あぁ・・・ああぁぁぁあああ!!」

 

 

 

次いで、彼の耳に悲鳴にも似た声が聞こえてくる

考えるまでもなく、それが一刀のものだと彼にはわかった

そして、“気付いた”

彼が今、何をしようとしているのかを・・・

 

彼は、立ち上がろうとしているのだ

黒き光りに、その身を抑えつけられているにも係らず

 

 

 

 

「・・・一刀!!」

 

「なんと!!?」

 

「な、なにやっとんねん!!?」

 

 

それは、他の二人も同じようだった

三人は一斉に、一刀に向い叫んだ

 

 

「ぐぁ、ああぁぁぁああ・・・・!」

 

 

その叫びも聞かず、彼は尚も立ち上がろうと己の足に力を込める

足だけでない

全身に、ありったけの力を込め

彼は、何度も声をあげる

 

 

「く、うぅぅぁああああ!!!!」

 

 

その悲痛な叫びを聞き、王異は慌てて彼の体を掴んだ

それから、彼を動かすまいと必死に押さえつける

 

 

「もうやめぇ!!

これ以上は、ホンマにやばいんやで!?

このままやったら、冗談抜きで死んでまうで!!??」

 

 

泣きそうな・・・今にも、泣いてしまいそうな声

彼女の口から零れ出た、“願い”

 

だがしかし・・・

 

 

 

 

「そんなの、知るかっ!!」

 

 

 

 

彼は、抗うことを・・・止めようとはしなかったのだ

 

 

 

 

「なんで・・・そんな、無理をするんよ

なんで・・・」

 

 

王異の言葉

それに対し、一刀は首を横に振る

 

 

「わから、ない・・・」

 

“わからない”

わからないのだ

彼自身、何もわからないのだ

 

 

「だけど、それでも

俺は・・・行かなくちゃ、いけないんだ」

 

 

理由なんて、わからない

それでも、彼は立ち上がろうとする

 

そもそも、彼は自分自身のこともわからないのだ

 

自分が何者なのか

何をしたいのか

 

何もかもが曖昧なまま・・・それでも、彼は歩もうとしているのだ

 

 

「行か、なくちゃ・・・いけないんだっ!」

 

 

仮にここで“何故?”と問われても、彼は答えることが出来ないだろう

 

それでも、彼は叫び続ける

 

“行くんだ”

 

何処へ行くのか

何をしにいくのか

何も知らないままに

彼は何度も、叫び続ける

 

 

「行かなくちゃ・・・いけないんだ!!!!」

 

 

 

 

 

≪あぁ・・・そうだな≫

 

 

 

 

 

「待ってる、人が、いるんだ」

 

 

“故に、これは彼の言葉ではなく”

 

 

「待たせてる・・・人が、いるんだ」

 

 

“故に、彼は気づけない”

 

 

「だから、俺は・・・“帰ってきたんだ”」

 

≪だから、俺は・・・“此処にいるんだ”≫

 

 

 

“気付けないままに、それでも彼は叫び続ける”

 

それが、“誰”の言葉なのか

それが、“誰”の想いなのか

 

何もかも、知らないままに

気付けないままに

 

“彼”は・・・そして、“少年”は叫び続ける

 

 

「この、雲の向こう・・・“君”に、会うために」

 

≪この、雲の向こう・・・“君”に、会うために≫

 

 

頭の中、胸の奥底

浮かび上がる、“知らない景色”

美しい月の下、涙を流す“見たこともない少女”

 

 

 

「まだ、会ったことのない・・・“君”の、もとへ」

 

≪いつか、泣かせてしまった・・・“君”の、もとへ≫

 

 

 

それが、何なのか

何を意味するのか

そんなもの、彼にはわからない

 

唯一つ・・・

 

 

 

 

 

「この・・・遥か彼方、蒼天の向こうへ」

 

≪この・・・遥か彼方、蒼天の向こうへ≫

 

 

 

 

見上げた空

今はもう太陽の沈んだ、この薄暗く雨の降りだしそうな空

 

その、“遥か彼方”

待っている人がいる

 

ならば、するべきことは唯一つ

 

だからこそ、彼は・・・“彼ら”は、叫ぶのだ

 

 

 

 

 

 

≪≪俺は・・・行かなくちゃ、いけないんだ!!≫≫

 

 

 

 

 

 

大切なモノを・・・“取り戻す為に”

 

 

 

 

 

“パキンッ”

 

 

何かが、割れる音が響いた

その音が青年の首もと・・・黒く光を放っていた十字の首飾りから発せられた音だと、皆が気づくのと同時に

“彼”は、その場に立ち上がっていた

 

相変わらず、無表情のまま

だがしかし、まっすぐと前を見据えながら

 

彼は・・・“一刀”は、立ち上がったのだ

 

 

 

「かず・・・と?」

 

 

その光景に、華佗は目を見開き驚いていた

そんな彼の隣・・・卑弥呼と、そして王異もまた驚愕に表情を歪めている

 

 

「なん、じゃと?」

 

 

呟き後ずさる卑弥呼もよそに、王異は小さく笑いを零した

軽く、頬を掻きながら

 

 

「そっか・・・やっぱり、行くんやな」

 

「ん・・・」

 

 

王異の言葉

一刀は、コクンと頷いてみせる

そんな一刀の返事に、王異は大声で笑った

 

 

「ははは、やっぱそうやないとな!」

 

 

言って、彼女が見つめた先

無表情な彼の姿が映る

その姿に・・・被る、一人の“少年”の姿

 

 

「それでこそ・・・“一刀”やで」

 

「・・・?」

 

 

“トン”と、青年の胸を叩き笑う彼女

一刀は、その行動に対し首を傾げている

そんな彼の様子もよそに、彼女は・・・王異は、嬉しそうに笑っていた

 

 

「ホンマ、流石って感じやな~

ウチ、惚れ直したわ」

 

 

いや・・・“違う”

 

 

 

 

 

彼女は、“嗤っていた”

 

 

「せやからな、ウチ・・・ホンマ、“悲しいねん”」

 

 

その目は、確かに“彼”を見つめていた

しかし・・・そこに映るのは、“彼”ではない

 

その瞳に映るのは・・・

 

 

「なぁ、一刀

ホンマはウチも、こんなことしたくないんよ?

せやけど、このままやったら・・・一刀、絶対辛い思いをするんや

でも、安心してな?

そんな、辛くて苦しい思いさせるくらいなら・・・」

 

 

 

 

“白き衣を身に纏った、一人の少年の姿だったのだ”

 

 

 

 

 

“ウチがここで、一刀を殺したるから・・・”

 

 

 

★あとがき★

 

ども、月千一夜です

 

一章も、ようやく十六話

そしていよいよ、主人公が歩み始めていきますw

急展開+予想を裏切る展開が続く一章ww

次回もまた、加速する戦場にご注目くださいw

 

そして、目覚めの時は近い・・・のか?(ぇ

 

 

 

 

それでは、またお会いしましょう♪

 

 

 

 


 
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