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遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・十七話

月千一夜さん

十七話、更新ですw
まだまだ続く、天水騒乱編!
劣勢の中、彼女達は勝機を見出すことは出来るのか!?

それでは、お楽しみくださいw

2011-06-10 05:03:51 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:8375   閲覧ユーザー数:6787

「なぁ、一刀」

 

 

その瞳は“濁っていた”

どこまでも黒く、どこまでも“醜く”

 

 

「ホンマはウチも、こんなことしたくないんよ?」

 

 

言って、彼女は・・・王異は歪んだ嗤いを浮かべながら、バサリと被っていたフードを脱いだ

そして露わになった、彼女の素顔

その素顔に、彼は無意識のうちに息を呑んでいた

“何も知らないにもかかわらず”・・・だ

 

 

「せやけど、このままやったら・・・一刀、絶対辛い思いをするんや」

 

 

“笑顔”

不気味なまでの笑顔が、そこにはあった

寒気すら、恐ろしさすら感じるほどの笑顔が

青年の目を奪った

 

 

「でも、安心してな?」

 

 

そっと、なだめる様・・・彼女は呟き、自身の背へと手をやる

そして握り締めたのだ

背負っていた“ソレ”を、グッと力強く

 

 

「そんな、辛くて苦しい思いさせるくらいなら・・・」

 

 

やがて、“ソレ”を覆っていた布は剥がれ

そこから現れたのは・・・禍々しい氣を纏う“武具”

 

 

“黒き偃月刀”

 

 

彼女はそれを、ゆっくりと振り上げ・・・

 

 

 

 

 

「ウチがここで、一刀を殺したるから・・・」

 

 

 

 

 

聞こえてきた声

それが青年の耳に入るのと同時に

ソレは・・・青年をめがけ、振り下ろされたのだった

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 十七話【馬遵】

 

 

 

 

覚えているのは、恐ろしいまでの笑顔

そして、振り下ろされていく・・・“黒き偃月刀”

 

身動きの取れない自分の命を刈り取るはずだった一撃

だがそれは・・・

 

 

 

 

「大丈夫か!?

一刀!!」

 

 

咄嗟に一刀の体を引っ張った華佗

そして、庇うよう前に立った卑弥呼によって防がれたのだった

 

 

「華佗・・・卑弥呼」

 

「うぬ・・・どうやら、正気に戻ったようじゃな」

 

 

言って、卑弥呼が見つめた先

黒き偃月刀を肩に担ぎ、“王異”は不満気に表情を歪めていた

 

 

「もっとも、無理もない話じゃがな

あれほどの“禍々しい氣”にあてられては、常人なれば呼吸すら難しいじゃろう」

 

「ああ・・・恐ろしい氣だ」

 

 

二人の言葉

一刀は、自身の手を見つめる

その手には、汗が滲んでいた

一刀はその手を、グッと握り締め・・・前を見据えた

 

 

「華佗・・・卑弥呼

俺・・・」

 

「わかっている」

 

「っ・・・」

 

 

言葉の途中

華佗は、フッと笑みを浮かべた

それから、その視線を一刀に向け・・・その肩を、ポンと叩いたのだ

 

 

「本当は医者として、お前を行かせたくはない

だがしかし・・・同じ街で過ごしてきた“友”としては、お前を助けてやりたいと

俺は、そう思ってるんだ」

 

「華佗・・・」

 

「まぁ、正直何が起こってるのかサッパリわからないがな

だけど、これだけはわかる」

 

 

言って、彼が見つめたのは・・・三人の前、立ちはだかる“女性”

彼は彼女を睨み付け、叫んだのだ

 

 

「一刀・・・お前は、行かなくちゃいけないんだろう?

待っている人がいるんだろう?

ならば・・・するべきことは、唯一つだ」

 

「うぬ、ダーリンの言うとおりじゃ」

 

「華佗、卑弥呼・・・」

 

 

 

 

“ありがとう”

 

 

 

 

呟き、走っていく一刀

その先には、禍々しい黒煙があがっていた

そんな彼を見送り、二人は視線を目の前に立つ女性

“王異”へと向ける

彼女は・・・不機嫌な表情を浮かべたまま、肩にのせた偃月刀をスッと2人に突き付けた

 

 

「アンタら・・・そこを退き

このまま一刀を行かせたら、苦しい思いをさせるだけなんやで?」

 

「そんなこと、君が決めることじゃないだろう?」

 

 

華佗の言葉

王異は一瞬呆気にとられたような表情を浮かべた後・・・“クスリ”と笑いを零す

 

 

「わかってへんなぁ・・・アンタら、ホンマわかってへんわぁ」

 

「なに・・・?」

 

 

“わかっていない”

その一言に、華佗は眉を顰める

そんな彼の様子を気にもせずに、彼女は“ウットリ”とした表情を浮かべたのだ

 

 

 

「一刀の気持ちなら、ウチには手に取るようにわかるで

だってウチ、一刀のことを愛しとるもん」

 

 

“愛している”

 

言って、彼女はまた嗤った

 

 

「ウチは、一刀のこと以外はど~でもええねん

ウチのすべては、一刀を中心にまわっとるんやもん

せやから、それを邪魔する奴らは全部殺す

一刀を傷つけようとする奴らは全員殺したる

一刀を泣かす奴も、皆ぶち殺す

この世界が一刀を拒絶するなら、ウチは世界やって滅ぼしたる

そして・・・」

 

 

 

 

 

 

 

≪他の女のモンになるくらいなら・・・一刀を殺して、ウチも死ぬんや≫

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・!!!!!」」

 

 

瞬間、恐ろしいまでの“重圧”が二人に襲いかかる

それは、あの卑弥呼にして冷や汗をかかせる程だ

 

 

「く・・・」

 

「むぅ・・・なんと、恐ろしい氣を放つんじゃ」

 

 

その重圧に、その禍々しい氣に

2人は・・・唾を呑んだ

だがしかし、引くわけにはいかない

そう言い聞かせ、華佗はグッと全身に力を込めた

 

 

「しかし、ここを通すわけにはいかない!」

 

「うむ、ダーリンの言うとおりじゃ!」

 

 

構え、王異を睨み付ける2人

その二人の姿を見つめ、王異は深くため息を吐きだす

 

 

「はぁ~、アンタらホンマにやるんかいな?

いやな、そういう奴らは嫌いやないで?

友達の為にって、かっこええしな」

 

 

“せやけど・・・”

ユラリと、揺れる“影

次の瞬間、聴こえてきた声

それは・・・

 

 

 

 

 

 

≪このウチを・・・“張文遠”を相手にすんには、アンタらじゃ“遅すぎるわ”≫

 

 

 

 

 

 

 

2人の、すぐ後ろから聞こえてきたのだった・・・

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「す、すげぇ・・・」

 

 

城壁の上

一人の兵士が、息を呑んでいた

その視線の先・・・震える瞳の中

“2人の武人”の姿を映しながら

 

 

「はぁぁああああああ!!!!」

 

 

そんな中、響く叫び声

同時に、何人もの敵が宙を舞った

彼女・・・夕が斧を振るうたび、多くの敵兵が薙ぎ払われていくのだ

その光景に、兵士は何度目になるかわからない溜め息を吐きだした

 

 

「マジで、すげぇ・・・」

 

「ああ・・・」

 

 

その呟きに、隣にいた同僚も頷いていた

それから、彼は持っていた剣を力強く握りしめる

 

 

「俺たちも、負けていられないぞ・・・!」

 

「あぁ・・・そうだな!

行くぞ皆!

俺たちも、姜維様や彼女達に続くんだっ!!!」

 

「「「おぉぉぉおぉおおおおお!!!!」」」

 

 

言って、兵たちは一斉に五胡の軍勢に斬りかかっていく

 

“劣勢”

 

未だ、状況は変わらない

このままでは、いずれ数に押しつぶされてしまうだろう

それでも、彼らの瞳には強い光りが宿っていた

 

 

 

「しかし、一つ気になるんだが・・・」

 

「ああ、実は俺もなんだ」

 

 

ふと、二人は駆けながら視線を再び戦場へとうつした

その瞳に映るのは、二人の武人のうちの一人

その人物を見つめたまま、二人は信じられないといった表情のまま呟く・・・

 

 

 

 

 

 

 

「なんであの弓を持った女性は、さっきから弓を振り回して戦ってるんだ?」

 

「な、なんでだろうな

いや、それでも凄まじく強いんだけどさ・・・」

 

「あ、あぁ・・・そうなんだよな」

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「ふんっ!!」

 

 

叫び、祭は持っていた弓を振るう

その瞬間、酷く鈍い音と共に敵が吹き飛んでいく

彼女はそれを見送り、さらに弓を振り回す

そんな彼女の姿を横目に、夕は頬をピクピクとさせながら声をあげた

 

 

「祭・・・お前、なんでさっきから弓を振り回してるんだよ!?

使い方、全然違うじゃないか!!

それともあれか!?

しばらく置いてたから、使い方を忘れたのか!?」

 

「そんなワケないじゃろう、がっ!」

 

 

言って、再び振るわれる弓

吹き飛んでいく敵兵の姿もよそに、祭は“ドヤ顔”を浮かべながら弓を夕に向い見せつけたのだ

 

 

 

 

 

「見よ!

長い間ほったらかしじゃったから、弦が切れておるんじゃ!」

 

「おまっ、なんでそんな誇らしげな顔してんの!?

全然自慢できないからな!?

ていうか、だからって振り回すなよ!?」

 

「う、うるさい!

そもそも、お主の“金剛爆斧”じゃって少し錆びておるじゃないか!!」

 

「く、痛いところを・・・しかし、“充分”だ!!」

 

 

彼女はそう言うと、また斧を振るい敵を薙ぎ払っていく

その光景に、祭はニヤリと笑みを浮かべた

 

 

「ああ・・・その通りじゃ!」

 

「だろ?

だったら無駄口叩く前に、さっさとコイツらにご退場願おうか!!」

 

「うむっ、行くぞ夕!!」

 

 

 

 

勢いよく、敵に突っ込んでいく2人

その後ろからは、七乃と美羽が半ば呆れながらもついて来ていた

 

 

「2人とも、流石ですね~」

 

「うむ

妾では、ついていけんのじゃ」

 

「あはは、それは私も同じですよ・・・っと」

 

 

言って、七乃は剣を振るう

その刹那、五人の首が宙を舞った

そんな彼女の様子を見つめ、美羽は苦笑を浮かべる

 

 

(七乃も、十分に強いではないか・・・)

 

 

口には出さない

そう言ったところで、“そんなことありませんよ~”と誤魔化されるのは目に見えているからだ

だから彼女は、眼前の敵へと集中することにしたのだ

この、幾人もの敵の向こう

戦っている友を救う為に・・・

 

 

「待っておれよ・・・白蘭っ!」

 

 

 

 

ーーーー†ーーーー

 

 

「どうして・・・」

 

「む・・・?」

 

「どうして、貴方がここにいるんですか!?」

 

 

姜維は、剣を握り締めたまま叫んだ

その瞳を、揺らしながら

そんな彼女の叫びを聞き、男はクッと笑みを浮かべる

 

 

「どうして、だろうなぁ

儂にも、わからんのだよ・・・気付けば、儂は生き返っておった」

 

 

言いながら、彼は持っていた巨大な槍を構える

そして、ニヤリと笑った

 

 

「ただ・・・感謝している

儂はな姜維、お前とは一度本気でやりあってみたかったのだ」

 

 

 

 

 

≪だから、儂はここにいるのだよ・・・“白蘭”≫

 

 

 

 

 

「そんな・・・理由で

そんな理由で、このようなことをしたのですかっ!!?」

 

 

姜維は叫んだ

その言葉に、男は静かに頷く

それを見て・・・彼女はいつの間にか流れていた、涙を拭う

 

 

「そう・・・ですか

では、貴方はもう“お父さん”ではありません」

 

 

言って、彼女は剣を構えた

その瞳は、もう揺らいではいない

ただ目の前に立つ、“敵”を見据えていた

 

 

 

 

 

「この天水太守、姜維が貴方を討ちます・・・“馬遵”!!」

 

 

 

★あとがき★

 

十七話、更新です

 

相変わらず、シリアスな場面が続きます

殺伐しまくり~の、シリアス~の

 

 

 

・・・え?祭さん?

ま、まぁ若干のコメディは、彼女の魅力のうちの一つでしょうw

 

 

さて、まだまだ続く苦しい戦いの中

勝機は、見えてくるのか?

 

 

次回も、お楽しみに♪

 

 


 
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