【張勲 side】
「た、大変です!!そ、孫策殿が!!」
いつものようにお部屋で美羽お嬢様とお勉強をしていたら、また兵隊さんが慌ててやってきました。
孫策さんが『偽の』一揆の討伐に出発して数日。
とうとう来たのですね。
「孫策さんがどうしたんですか~?
もしかしてやられちゃったとか?」
「ちがいます!
孫権殿がは、反乱を起こしました!!」
「……そうですか。わかりました。
……あなたは皆さんを呼んできてください」
「は、はい!」
返事をすると兵隊さんは袁家の家臣の方々を呼びに出て行きました。
「…もうすぐなのじゃな……」
お嬢様はここまでの道のりを思ってか、小さな声でつぶやきました。
はい、もうすぐですべて終わります。
私があなたを全力で守ってみせます
……ですから…
私は決意のもと皆さんが集まる広間へ向かいました。
【張勲 side end】
旧臣達を集め江東を出発し、雪蓮姉さん達の本隊と合流して数日。
国境付近の城を落として行き、もうすぐ寿春城が見える位置までやって来た。
斥候に出ていた兵が戻ってきて、報告を行った。
「前方に寿春城を発見!しかし敵軍なし!」
「わかったわ。下がって良し。
……予定通り、張勲がうまく混乱させているようね」
「そうだな。そろそろ攻撃準備に入ろうか。
……全軍!陣を組め!」
冥琳の号令のもと、各部隊はそれぞれ配置につき、これより始まる戦闘に備えた。
「敵城、開門!敵軍が突出してきます!」
城の開門と共に袁術軍は一斉に平野に出てきた。
突然の攻撃に混乱しているのか、陣形もろくに組めていない。
しかも数が多く、門で滞りが起きている。
「敵は混乱している!この好機を逃すな!全軍攻撃開始!!」
「「「おおぉぉおお!!」」」
祖国を取り戻すための、袁家との戦いがいま始まった。
【張勲 side】
「くそっ、孫策め!
孫堅が死んだ後、我々が保護してやったというのに。その恩を仇で返すか!」
いま広間では、攻めてきた孫策さんをどうするかが話し合われています。
と言っても、ほとんどが先程のような孫策さんたちに対する悪口ですが。
「して、張勲殿。孫策達をどうするおつもりで?」
「そこは大丈夫ですよ~。今城の『全軍』で孫策さんたちに当たっていますから」
そう言うと安心したのか、皆また孫策さんの悪口を言い始めた。
こんなところにあまりお嬢様を長く置いときたく有りません。
「お嬢様~。少しの間、お部屋にお戻りになってもらいませんか?」
「うむ。わかったぞ」
「じゃあ~、そこのあなた。それとあなたと…あなた。
お嬢様を部屋まで連れて行ってください」
私は数名の家臣の方を指名し、お嬢様の案内を頼んだ。
その人達は本当にいいのか、という顔をしたがしぶしぶお嬢様と部屋に向かった。
普通このような緊急事態に主が会議を抜け出すなどありえない。
しかしここではその『非常識』ことも通用する。
そこまでこの場所はダメになってきている……
「張勲よ。この後どうするのじゃ?」
お嬢様がいなくなったとたん、先ほど私に対策を聞いてきた家臣の方が再びたずねてきた。
「と、言いますと?」
「じゃから、この戦もし負けたときどうするのじゃと聞いておるのじゃ!」
私のとぼけた返事が頭に来たのか声を荒げ聞いてきます。
すると周りの皆さんもそれぞれ話し合いを始めました。
「このままでは我等はまずいぞ」
「もしもの時は袁術の首を持って孫策に取りいれば良い」
皆さん自分の保身のことばっかりです。
主である美羽様を差し出すなど言語道断です!
「そうですね~。私にいい考えがあります」
すると皆さんが私に注目してきます。
希望を与えるとすぐこれです。
でも、皆さんに待っているのは絶望だけですよ。
私がすっと手を挙げると、広間の端に居た兵隊さんたちが槍を構え袁家の家臣の方達を囲みます。
「な、何をする!張勲!どういう事じゃ!?」
先程からずっと喚いている方が今まで一番大きな声で叫んでいます。
「ここで貴方達を粛清して、国を孫策さんたちに返してあげるんです」
「そんなことをすると袁術は、袁家は終わりだぞ!」
「はい、そんなこと分かってますよ。
でもこれはお嬢様の『願い』なんです。
私たちがあなた方がしてきたことを知らないと思っていたんですか?
あなた方の自分勝手な行いのせいで、民の生活は苦しくなるばかり」
私は今までの鬱憤を晴らすかのように言葉を吐き出します。
「私がどうにかしようとしても、あなた達は袁家の重臣。
どうにかすれば、袁家は滅び、収める者がいなくなった国はさらに荒みます。
その時やって来たのは孫策さんたちでした。孫策さんになら私たちが居なくなった後の
国を託すことができる、そう思いました。だから決めたのです、『袁家を潰す』と。
それが美羽様の、袁術様の願いです!」
一気に話し終えると、大きく深呼吸をし、少し乱れた呼吸を整えます。
「だから死んでください。袁家のために」
「ま、待て!どうか助けてくれ!これまでの事は反省する!
…か、金か!?金ならくれてやるから、どうか命だけは…」
最後の言葉を聴き終える前に、私は上げていた手を下ろしました。
その合図で、囲んでいた兵隊さんたちは槍で次々と家臣の方たちを刺し殺してゆきます。
広間には叫び声が響き、血の海が広がっています。
……やっと終わりましたよ、美羽様…
「では、後はよろしくお願いしますね」
袁家の家臣だった人たちの処分を兵隊さんたちに頼むと、兵隊さんたちは分かっているといった顔をして、返事もせず黙々と作業を行います。
さすが一刀様の兵隊さんですね。とても優秀です。
家臣の人たちを殺す手つきも鮮やかでした。
私は広間を出て、美羽様の部屋に足を向けます。
すべての重責を終えた足取りは軽く感じました。
【張勲 side end】
混乱しているところを強襲することで、さらに混乱は広がり、袁術軍の兵は逃げ出しものが出てきた。
俺達はわざと壁の薄いところを作り、そこから袁術軍を逃がす。
いくら混乱しているからと言っても、相手のほうが俺達より兵の数は多い。
だからわざと逃し、敵の数を減らす。
逃亡してゆく兵たちにより、敵軍はもう総崩れとなっている。
「今が突入の好機!一刀、いくわよ!」
「ああ!」
俺と姉さんは敵軍の薄いところに突撃をかけ、城内に突入した。
城内に侵入すると、兵たちに城の制圧を命じ、俺達は美羽達が待つ部屋へと向かった。
美雨の部屋に入ると、美羽は落ち着いた様子で椅子に座っており、七乃は美羽の後ろにいつもの笑顔で立っていた。
「来たか、孫策」
「久しぶりね、袁術ちゃん。約束通り私たちの国、取り返しに来たから」
「分かっておる」
美羽はそう言うと椅子から立ち、こちらにやっていた。
「それで、そっちはうまくいったのか?」
「ええ、一刀様にお借りした兵隊さんたちのおかげでバッチリです」
俺は七乃にことがうまく運んだのか聞いてみると、笑顔でそう答えた。
「妾の願いも叶い、もう思い残すことは無い…孫策、後は頼むぞ」
「ええ、分かっているわ」
そう言うと姉さんは鞘から剣を抜き、美羽に向けて剣を振り下ろした。
12話が終わりました。
前回予告した通り今回、美羽の『願い』が出てきました。
美羽の願いはズバリ「腐敗しきって再生不可能となった袁家を潰す」ことです。
七乃さんもいっていましたが、袁家の家臣たちは民から財を絞りとっていました。
七乃さんがいくらどうにかしようと考えても、うかつに手を出せない人たちばかり。
どうにもできませんでした。
そこで袁家を潰し、民を信頼の置ける人に託す。それが美羽と七乃さんの考えでした。
次回はこの「呉奪回編」?の後日談というかオチを書こうと思います。
では、また読んでいただければ幸いです。
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第12話です。
寿春城の戦いクライマックス!
色々と思うことはあると思いますが、ぜひ読んでみたください。