<第1話 これもいわゆる未知との遭遇>
・発見・
目を閉じて仰向けに倒れている青年、いや寧ろ少年を見つけた三人組は、その少年に近付いた。
「なんだこのガキ、死んでんのか?」
「いや、生きてはいるみたいですぜアニキ。…しっかしこいつ、見たことねぇ着物着てますよ。」
地響きのことなどすっかり忘れて、三人は少年の着ている、光沢を放つ生地の白い服に目をやる。傍らには、荷物らしき黒い袋が落ちていた。
「へへ、確かに中々のモン着てるじゃねえか。売りゃかなりの金になるぜ。」
「ど、どうするんだな?」
一番大柄で太った男がアニキと呼ばれたリーダー格に聞くと、アニキは腰の剣を抜いて、
「んなモン決まってんだろデク。 おら、起きろ!」
言いつつ少年の頭を横から軽く蹴る。しかし少年は反応しない。
「んん?…まぁ抵抗されても面倒くせぇし丁度いい。 チビ、デク、着物引っぺがすぞ。」
アニキの指示で、手下二人が少年の服に手をのばした。 その時。
「貴様等、何をしているっ!」
凛とした通る声が周囲に渡り、次いで地面を駆ける音。
「あぁ?」
いささか品性を前世に置き忘れてきたような表情で三人は声のほうに顔を向けるが、
その瞬間にアニキとチビが一緒に右に、次にデクが左に吹っ飛んだ。
「ぃ、ってえ!!」「ア、アニキ重いです」「うぅ…」
三人を薙ぎ払った武器の主は、振るった得物の柄尻で地面をザンッと突き鳴らし、
「無抵抗の相手に三人がかりとは、恥を知れ下郎!」
仁王立ちで言い放った。
「早々に失せろ!次は峰でなく刃が貴様等を肉にするぞ!」
当然三人はほうほうの体で逃げ去っていった。「お、覚えてやがれ!」とか言っちゃってもうほんとザコの鑑というか。踏んだら潰れる歩くキノコの如く。
「あ、愛紗ちゃん速いよ~」「桃香お姉ちゃんが遅いのだ。」
そこに更に二人の少女が到着した。
で。
「はぇ~、このお兄ちゃん、きれーな服着てるのだ。」
「愛紗ちゃん、…この人がそうなのかな?」
「流星が落ちたのはここで相違無いとは思いますが…もしやあやかしの類かも知れません。」
他の二人も揃って計三人で少年を囲む。
「ん~、でもなんだか優しそうな人に見えるし。平気だよ。」
そういうと少女は、とにかく起こそう、ということで目を閉じた少年の横にかがみ込む。そして少年の肩を揺すって、
「あの、大丈夫ですか?生きてますか?」
優しく声をかけた。 …それはいいけど生きてますかってあんた。
・覚醒・
「んぅ…?」
霞がかったような頭に聞こえた優しい女性の声で、北郷一刀は目を覚ました。
「よかった~。愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、この人起きたよっ。」
まず目に入ったのは、仰向けの自分の横にかがんでいる同い年ぐらいの少女。 さっきの声はこの娘か、 とぼんやり考えて、
「んん…、きみ、だれ…?」
つぶやくように言いつつ、上体を起こして少女と目線を合わせようとし
「え? あ、はい。私はりゅう」
「ってちょっと待て!俺どうして動けるんだよっ?!!」
即座に自身の異常を察知する。 言葉を遮って、一刀は弾けるように立ち上がった。
「ひゃぁうっっ?! あっ、ととっ、あいたっ!」
少女は驚いて後ろに尻餅をつく。
「桃香様?! っ、おのれ貴様なにを! 鈴々!!」
「わかったのだっ!!」
少女と一刀の間に割って入って、一刀を警戒しつつ各々の得物を構える二人。だが一刀は目もくれずに、自身と周囲を軽く混乱状態の頭で見回す。
待て、俺が寝てたのは畳の上の布団の中、着てたのは病人用の服、そもそも一週間前から体が動かしにくくなってて一昨日からほとんど動けなくなってた、 のに、
今。一刀が着ているのは自分が通う聖フランチェスカ学園の白い学生服、体は現在進行形で自在に動く。 そして、
見上げていた天井は、どうやら家ごと愛の逃避行をしたらしく。壁も襖も柱も床も、家の痕跡はどこにも無く。
夕方に向かう黄味がかった空が上にはあった。空が高いぜ。言ってる場合じゃないけど。
呆気に取られてポカンとした三人に構わず、遠くの方に目を向けると、
広大な荒野の向こうに連なる山々。こんなの東京都内で見ることなんかできない。出来るわけない。 いや写真やネットの画像とかならひきこもりでもいくらでも見られるが。そんなつまらないとんちは座布団全撤去の後収録現場出入り禁止になるくらいのKY発言である。
「…ここ、 どこだよ…」
・理解・
「ごめん、ちょっと驚いて。いやちょっとじゃないけど。」
混乱の許容範囲を振り切って逆に平静になった一刀は、改めて三人の少女に向き合った。
「あ、はは。良いんですよ、気にしなくて。」
先ほど尻餅をついた少女は、桃色の髪の内、両サイドの少量を左右それぞれでまとめた髪形の、柔和な印象の顔立ちの、優しそうでかなり可愛らしい娘だった。しかも特盛り。
「まったく、紛らわしいことをしないでもらいたいな。」
一刀は知らないが、先に三人を追い払ったこちらの少女は、綺麗な黒髪を若干位置高めの長いサイドテールにしている、切れ長な目の凛とした美少女だった。且つ大きい。
「ん~、ところでお兄ちゃん、なんでこんなところで寝てたのだ?」
もう一人は、先の二人が一刀より少し背が低いぐらいなのに対して、一刀の鳩尾ほどの身長のそれこそ少女。毛先があごまでの赤いショートカットで、頭には虎の顔をデフォルメした髪飾りを付けている。一見少年にも見えるが、将来には充分期待が持てる。…二人とは違って、部分的な成長は保障しかねるが。どこの、とは言わない。
三者三様の美少女に内心見とれるが、しかし持ってるものが妙だ。いや妙以上に変だ。っていうかそう、ありえん。
なにせ桃色の髪の娘は鞘に納まってはいるが両刃の剣を腰に差していて、サイドテールの娘は持ち主よりも長くて大振りないわゆる青竜刀を持ってるし、赤い髪の子は自身の何倍もの長さの槍に似た武器を肩に担いでいる。
服装も普段見ない意匠の服で、総合するとこれ即ち変な三人だった。 …まぁ、上下揃って白い学生服、なんてのを着た自分が言うのもどうかと思うけど。カレーうどん食えないんだよこの制服。 とまぁそれは置いといて。
赤い髪の子の質問は自分にも関係があるから一刀は応じた。
「あぁ、そのことなんだけど。…そもそも、ここってどこなんだ?東京の浅草、なわけないよな?」
居る理由はともかく、ここがどこかを知らないと始まらない。
すると桃色の髪の娘が答えてくれた。 のだが。
「…?、ここは幽州 啄群 啄県、ですよ?」
「…九州?」
「きゅうしゅう?いえ、幽州です。ゆうしゅう。」
その地名は聞いた、否、読んだ覚えが一刀にはあった。 ただその情報源が問題だった。
…ゆうしゅう、…幽州?待てよ確か前にはまって読んだ三国志にそんな地名があった…、よう、な…
…え?
一瞬頭が白くなって、次には今までの情報が一気に組み合わさって一つの仮定を形作った。
「変なこと聞くお兄ちゃんなのだ。」
「こら鈴々!旅の方なら知らぬ場合もあるだろう!…しかしとうきょう、あさくさ、とおっしゃったか。そのような地名は聞いたことが無いが。」
真面目な対応は有難いが、今の一刀からすればその真面目さは困る。
「…えっと、日本って国は知ってる?」
「「「にほん?」」」
三人揃って小首をかしげる。うん、こんな状況でも可愛い、とか言ってる余裕は無い。
「…政治の中心は?」
「?、朝廷、ですよね?」
「この国で一番偉い人は?」
「皇帝だろう。今は劉宏、か。」
「それって本物?」
「ん?あたりまえなのだ。鈴々の蛇矛なのだ!」
既に幽州の時点での仮定は、問答の中の態度と反応で確信になっていて、
一刀は最後の決定的なことを聞く。
「…この国の名前は?」
そして三人は異口同音に答えた。
「漢ですよ。」「漢だろう。」「漢なのだ。」
決まった。 決まっちゃった。寧ろ決まって欲しくなかったけど。
納得はしてないけど理解はした。
ここは中国史における漢の時代。
北郷一刀は、1800年前の中国に降り立ったらしい。
…なんで日本語通じるんだ?
あとなんで制服。
あとがき
オリジナルの要素が出ない。早く出したいのに。出したいのに出せない。
なんだか手を出したいのに出せない、みたいな状況に似ている気が。…そうか、これが禁断の恋、というやつなのですね。(違う。)
次もテンプレ通り(こう使うんですよね?)になるけどそこは地の文で面白味を補ってカバーですよ。 …出来てます?面白味。そのあたりの意見求む。
ところで。もう分かりきってますが、「ある力」を持っているのは桃香です。話で出るまでは内容を明記しませんが。 内容もお見通しかとも思いますが。
特殊な能力を付与するとキャラが原作通りにいかなくなる、と指摘されましたが、そこはなんとかやっていきます。
優しくて、懐が大きくて、しかしその反面「世界」を「人」を知らない「甘い」少女。
それが成長していくためのオリジナルの要素です。
ただのチートと思う無かれ、ですよ。
ではまた次の機会に。
PS,感想・意見等々、思うことがあればコメントお願いします。
PSのPS 物語かっちり書きすぎ、なのでしょうか?
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やっと本編です。
彼と彼女たちが出会います。