真・恋姫無双 ifストーリー
蜀√ 桜咲く時季に 第09話
【戦う理由】
「う~ん。ご主人様、遅いな~」
私は一人、城壁の上で彼方を見ていた。
ご主人様は朝早くに愛紗ちゃんと盗賊を懲らしめる為に行っている。
空は青から朱色へと変わり始め、風も少し冷たくなってきていました。
「どうされましたか劉備殿」
すると背後から声を掛けられ振り向くとそこには趙雲さんが立っていました。
「あ、趙雲さん。ご主人様はまだかなーって思って」
「なるほど、だが帰ってくるには今しばし掛かるでしょう。部屋に戻られたらどうだ?」
「うん、でもここに居たいんだ。一番最初にご主人様にお帰りって言ってあげたいから」
その時、風が吹き私の髪をなびかせた。
「ふむ、だがお体に障りましょう。それでは逆に北郷殿が心配をしてしまうのでございませぬか?」
「大丈夫だよ。私、これでも体丈夫なんだから!」
私は握り拳を両手で作り丈夫である事を強調した。
「まあ、無理は成されるなよ」
「うん……あれ?」
私は頷いて趙雲さんから彼方へ目線を向けると町の入り口に複数人の人影らしきものが見えた。
「どうされたか、劉備殿」
「うん、あれってご主人様と愛紗ちゃんかなって」
私が指を指している方向を趙雲さんは目を凝らして見てくれた。
「ふむ、あの服の輝きはそうあるものではないでしょう。それにあの艶やかそうな髪も、きっと北郷殿と関羽殿でしょう」
「だよね!迎えに行かないと!」
「あ、劉備殿!……やれやれ」
私が階段を下りていく後ろで趙雲さんは肩を竦めて追いかけてきてくれた。
「お帰りなさい!ご主人様ーーー!」
「おっと!ただいま桃香」
私はご主人様に向って飛びつくと驚きながらもご主人様は私を受け止めてくれた。
「随分とお早いお帰りでしたな北郷殿」
「ああ、直ぐに見つかったし愛紗たちも頑張ってくれたからね」
「そういいながら殆どの賊を倒したのはご主人様ではありませんか」
「そうかな?そんな事ないと思うんだけど」
「ははは!流石は北郷殿と言ったところか」
「は、ははは、それより桃香そろそろ離れてくれないかな?」
「えーやだー、もう少しこうしてる~♪」
「……」
愛紗ちゃんに目を向けるとジト目でご主人様を睨みつけてた。でも、ご主人様は気が付いてないみたい。
「ほ、ほら!まだ少し時間もあるし剣の訓練しようよ!ね!」
ご主人様は顔を赤くして話を違う方向に持っていこうとしていた。
でも、剣の練習してくれるって言うし、そうしたらご主人様と二人っきりだよね!
「ほんと!なら早く行こう!」
「ああ、でもその前に公孫賛さんに報告に行かないと」
「でしたら、私が伝えてきましょう。賊も牢獄に入れなければいけないので。ご主人様は桃香様をよろしくお願いします」
「ありがとう愛紗」
「ありがとう愛紗ちゃん!」
「いえ。では、また後ほど」
愛紗ちゃんは一礼すると白蓮ちゃんに報告しに行く為に城内に入っていった。
でも、少し不機嫌そうだったよね。愛紗ちゃん。
「?俺なにかしたかな?」
「北郷殿は少し鈍いところがおありですな」
趙雲さんは少し呆れた風に答えるとご主人様は首をかしげた。
「え?それってどういう……」
(ドドドドドドドドド……)
その時だった。何処からともなく地響きが聞こえてきて、段々と大きくなってきた。
「え?え?何々?」
「っ!劉備殿こちらへ」
「へ?う、うん」
趙雲さんは私をご主人様から離れさした。それと同じくして呼び声が聞こえてきた。
「お~~にぃ~~~ちゃ~~~~~~ん!!!!」
「ぐはっ!」
「ご、ご主人様!?」
なんと鈴々ちゃんが走ってきてご主人様のお腹に凄い勢いで体当たりをしてきた。
「お帰りなのだ!……にゃ?」
「~~~~~~っ!」
ご主人様は鈴々ちゃんの体当たりに声にならない声を出していた。
「ご、ご主人様、大丈夫ですか?」
心配になりご主人様に訊ねてみる。
「だ、だい、じょう……ぶ」
笑顔で大丈夫ってご主人様は言ってるけど、全然大丈夫そうに見えない笑顔だった。
「お兄ちゃんはどうしたのだ?」
「……張飛よ。もう少し抑えて抱きつくと良いと思うぞ」
「にゃ?!お、お兄ちゃん!鈴々のせいなのか?」
「そ、そんな事ないぞ、り、鈴々は悪くない。ただちょっと勢いが強かっただけだ」
ご主人様は鈴々ちゃんの頭をなでながら微笑んでたけど。ご主人様、それって全然慰めになってないと思うよ?
そんなご主人様に私は苦笑いを浮かべていました。
「起きれますかな、北郷殿」
「ああ、大分楽になったから平気だよ」
ご主人様は背中を擦りながら起き上がってきた。
「ごめんなのだ……」
「気にしてないよ。それより鈴々が笑ってない方が俺は悲しいな、だから笑ってくれるとうれしいな」
「お兄ちゃん……うん!えへへなのだ♪」
鈴々ちゃんは俯いた顔を上げてニッコリと笑った。うん、やっぱり鈴々ちゃんは笑ってる方がいいよね。
「そうそう、やっぱり鈴々は笑ってないとな」
「えへへ♪お兄ちゃんはこれから何処に行くのだ?」
「ん?桃香の剣の訓練をしようかと思ってるけど」
「にゃにゃ!?桃香お姉ちゃんずるいのだ。鈴々もお兄ちゃんと勝負したいのだ!勝ち逃げはずるいのだ!」
「ははは、また今度、勝負しような今日は桃香の方が早かったからね」
「絶対!絶対だよ!約束なのだ!」
「ああ、約束だ」
「わーい!わーい!お兄ちゃんと約束したのだ~!」
鈴々ちゃんはご主人様と約束が出来て飛び跳ねて喜んでいた。
「それじゃ、桃香訓練しようか」
「うん!よろしくお願いしますご主人様!」
「鈴々もついていくのだ!」
「えへへ♪」
「ちょ、と、桃香」
「早く行こっ。ご主人様♪」
私はご主人様の腕に抱きついて訓練所に歩いていった。
《愛紗視点》
「やれやれ、本当に賑やかなものたちだな。そうは思わぬか関羽殿」
「っ!……いつから気づいていたのだ」
趙雲殿は振り向かずに柱に隠れている私に話しかけてきた。
「なに、北郷殿が私の後ろを気にしているようでしたのでな。もしやと思ったまで」
「そ、そうか……」
やはりご主人様には気づかれていたか。
「流石はご主人様だ」
「まあ、あの御仁は並外れた能力をお持ちですからな。一度手合わせを願いたいものだ」
「そうか。趙雲殿はまだご主人様と手合わせをしていないのだったな」
「ああ。武人としてはやはり兵(つわもの)と戦いたいというのは性みたいなものですからな」
「うむ。ご主人様は天下無双だ。きっと誰にも負けはしないだろう」
「私の知っている限りで武では勝てるものは居ませんな」
「勿論だ」
「だが、女子供には弱いご様子」
「う゛……」
確かにご主人様は女子供に弱い。
ご主人様と桃香さまのやり取りを見ていると直ぐにわかる。
桃香さまが少し甘えた声でお願いするとご主人様は直ぐに折れてしまわれる。
鈴々に至ってもそうだ。ご主人様はお二人に弱すぎる。
私だって少しはご主人様に甘えて……っ!な、何を考えているのだ私は!
私は首を振り雑念を振り払う。
「?如何成されたか?」
「い、いや!なんでもないぞ」
「ふむ。まあ、劉備殿は上手く自分の武器を使っておりますな。それとも何も考えておらぬのかな?」
「?何の事だ?」
「いやなに。劉備殿は北郷殿に甘える時はいつも抱きついているように見えましたのでな」
た、確かに……桃香さまは何かにつけてご主人様に甘えたりお願い事があると抱きついたりしているように思える。
「関羽殿は北郷殿に甘えたりはしないのか?」
「な、何を言うか!わ、私がご主人様に甘えるなど、ありえん!……っ!」
慌てながら否定すると、胸の奥がチクリと棘が刺さったような痛みが走った。
何だというのだ、今の痛みは……
偶にこういった痛みが走る。そういう時は限ってご主人様の話題だ。
「ふむ。だが関羽殿も劉備殿に負けず劣らずの美しさだと思うがな」
「馬鹿な。所詮私は武人、桃香様のように物腰も柔らかくない。それにご主人様には桃香様がお似合いだ」
そう、私は武人なのだ。ご主人様、桃香さまをお守りする矛だ。
そんな私がご主人様のご、ご寵愛を頂けるなどありえない。
「そう悲観するものでもないと思うがな。それに北郷殿はそのような事を気にする御仁ではあるまい」
「確かに、ご主人様は誰にでもお優しい……いやお優しすぎる」
「そのようだな。あれでは女子はみな北郷殿を好いてしまうだろうな」
「……っ」
趙雲殿の一言に思わず唇を噛んでしまった。
なぜ私がこんなモヤモヤしなければならないのだ。
私はただ、ご主人様、桃香さまと天下泰平を望んでいるだけだ。ただそれだけなのだ……
「やれやれ、関羽殿は少し考えすぎではないかな?」
「そういう性分だ。直しようが無い」
「のようですな。だが、それで良いのか?」
「良いも悪いも。私は武人でご主人様は主だ。私はご主人様に従うまで……」
「私から言わせれば武人だろうと君主だろうと突き詰めれば男と女。好いていればそんなもの関係ないであろう」
趙雲殿の言葉に思わず目を丸くしてしまった。
「な、なな何を言っているのだ趙雲殿は!わ、私がご主人様をあ、愛しているとでも!?」
「おや、違うのか?」
「ち、違う!私は断じて違う!」
「ふっ。顔を赤らめて否定されても説得力掛けるぞ」
「うぐっ!……はぁ。まさか、お前がこんな性格だとは思わなかったぞ」
「なに。恋に奥手な関羽殿に恋の指南をしただけだ」
「そういう趙雲殿は恋をしたことがあるのか?」
「も、勿論だ。わ、私くらいになれば男、女から引手数多!百や二百はいっていたであろうな」
「そ、そんなにか!?」
「い、いや~。五十、百くらいだったか?まあ、そんな事はいい」
趙雲殿の発言に私は驚いていた。
そ、そんな多くの恋をしているのか!?わ、私には無理だ。
「そんな私から一つ助言をしてやろうではないか」
「助言?」
「ああ、なに簡単なことだ」
「まあ、参考にならないだろうがき、聞いてやろうではないか」
そうだ。参考などなるものか。べ、別に実行しようなどとは思っていない!あ、あくまで参考だ。参考!
「それは、だな……」
「ごくん……それは?」
「抱きつけばよい」
「……は?」
「思い切って抱きつけばよいのだ。劉備殿の様にな」
「な、なな何を言い出す!そ、そんな事が出来るわけないだろうが!」
思わず頬を赤くして趙雲殿に抗議をする。
「関羽殿には女として十分な武器を持っているではないか。それを使わずしてどうする」
「お、女としての、武器?」
私にそのようなものは無いと思うが……
「ここにあるではないか。その男を魅了する二つの頂が」
(むに)
「んなーーーーっ!!!」
あろう事か、趙雲殿は私の胸を鷲掴みしてきた。
「な、何をするのだ趙雲殿!」
「ふむ。さわり心地よし。これなら北郷殿も喜ぶのではないか?」
(わきわき)
趙雲殿は私の胸から手を離すと自分の手を開けたり閉じたりして私の胸の感触を確かめているようだった。
「そ、その手はやめろ!」
「さわり心地を確かめていたのだが、残念」
「確かめんでもいい!」
「ふむ。まあ、一度抱きついてみなされ。きっと北郷殿はお喜びになりますぞ」
「……そんなわけがあるまい。私が抱きついた事でご主人様がお喜びになるなど……」
「まあ、試すも試さないも関羽殿次第ということだ」
「ふ、ふん!誰が試すものか」
で、でも、もし抱きついたら少しは喜んでくれるのだろうかご主人様は……
「はっはっは。さて関羽殿、我々も劉備殿の鍛錬を見に行きましょうか」
趙雲殿は笑い出すと桃香様の鍛錬を見に行こうと言い出してきた。
「そ、そうだな。それにしても、桃香様にはもう少し上達してもらいたいのだがな」
「北郷殿が教えているのだそこらの一般兵よりは強くなるだろう」
「だと言いのだが……ああ見えて運動が苦手なお方だからな。ご主人様も手を焼いているのではないだろうか」
「ほう。それでは北郷殿の腕の見せ所、と言ったところか」
「ああ、ご主人様ならきっと大丈夫だと思うがな」
「では、その調練法を拝見させていただこうか」
そして、私と趙雲殿とでご主人様たちが居る調練場へと向った。
《一刀視点》
「やあ!たぁっ!」
桃香は太刀を一生懸命に振っていた。
「もう少し腰を低く構えてごら。そうすると剣に振り回されなくなるから」
「こう?」
「そうそう、いいぞ桃香!上手いじゃないか!」
「えへへ♪ご主人様の教え方が上手いんだよ」
桃香は額に汗を浮かべながら微笑んでいた。
「いやいや、桃香の飲み込みが早いんだよ」
本当はあまり桃香にはその手を血で汚して欲しくないのが俺の正直な所だ。
だけど、今はそんな事を言ってられる時代じゃない。せめて自分の身は自分で守れるようになってもらわないと。
「桃香お姉ちゃんがんばれーなのだ」
「うん!私頑張るよ!鈴々ちゃん!とぉ!てや!」
桃香は額の汗を拭うとまた太刀を振るい始めた。
「凄い上達ですね、ご主人様」
「ああ、愛紗と趙雲か」
「中々様になっているではありませんか北郷殿よ」
「そう思う?実は仕掛けがあるんだよね」
「仕掛けですか?」
愛紗は首を傾げ俺を見てきた。
「これが桃香が使っている剣だよ。持ってみて」
俺はそう言って愛紗に剣を手渡す。
「な!これは軽すぎるのではないですか?」
すると愛紗は見越していた重さと違い驚いていた。
「ああ、通常の5分の1くらいの重さしかない。それでも最初のうちはこの重さでも剣に振り回されてる状況だったけどね」
「どれ、私にも持たせてはくれないか?関羽殿」
「ああ」
「ほう、確かにこれでは我々には軽すぎますな。しかし、どのようにして軽くしたのですかな?」
「ははは、それは秘密だよ」
まあ、隠すほどじゃないけどね。
「それは残念。ところで劉備殿はその事に気づいておいでなのか?」
「気づいてないと思うよ。ただ、最初に太刀じゃなくて凄く重い戟を持たせたからそれよりは軽く感じてるとは思うけどね」
「それでは桃香様はずっとその剣で稽古をさせるのですか?」
「いいや。剣に振り回されなくなってきたら少しずつだけど通常の重さに慣らしていくよ」
「なるほど、そのように少ずつ腕の筋力もつけているのですね」
「ああ、普通の剣が持てるようになれば。自分の得物も振るえる様になると思うしね。でも、宝剣ってくらいだから俺としてはあまり傷つけたくは無いんだけどね」
「そうならないためにも私や鈴々が居るのです」
「そうだね。でも俺は愛紗たちにも怪我はして欲しくないんだ。だから無茶だけはしないでくれよ?」
「勿体無いお言葉です。そのお心遣いだけで私は満足です」
愛紗は礼を取ると桃香の方へ目を向けた。
う~ん。やっぱり愛紗は少し固いというか。生真面目だよな。まあ、そこが愛紗のいいところなんだけどさ。
愛紗の態度に苦笑いしながらも桃香の素振りを見ていた。
「はぁ、はぁ……ご主人様ぁ~終わったよぉ~~」
「お疲れ桃香」
剣を杖にヘロヘロになっている桃香に労いの言葉をかける。
「えへへ♪褒めて褒めて」
「えらいぞ~」
「~♪」
頭を撫でてあげると桃香はとても気持ちよさそうに首をすぼめた。
「ご、ご主人様?先ほどから褒めすぎではありませんか?」
「ん?そうかな」
「はい、私のときはそんなに褒めては頂いてません……」
愛紗は少し口を尖らせて不貞腐れたように言った。
う……なんだか愛紗のこういう仕草可愛いな……
「ご主人様?」
「え!あ、な、なんでもないよ!そこはほら!教え方かな」
「教え方ですか?」
「そうそう。桃香の場合はまず諦めさせない事が大事なんだ。だから褒めて少しでも長く続かせるようにするんだ」
「そうすれば失敗しても次に頑張れば褒めてもらえるって続けられるだろ?そうする事で本人のやる気を出してるんだよ」
俺は桃香に聞こえないようにして愛紗に説明した。
「でしたら……そ、その私の場合はどうなのですか?」
「愛紗は基礎が出来てるしね。だから敢えて厳しくあたってるんだけど。でも本当は褒めたいんだよ?愛紗は言えばすぐに直して実践してくれるからさ」
「そ、そんな……その事が聞けただけで私は満足です。これからも厳しくお願いします」
「うん。わかったよ愛紗」
俺はそれを聞いて愛紗に微笑みながら頷いた。
「では北郷殿、私ならどのようにしていただけるのですかな?」
趙雲は不敵な笑みを浮かべ俺に尋ねた。
う~ん。趙雲さんは曲者っぽいからな……少しからかう感じで行った方がいいのかな?
「そうだな……敢えて言うならたちが悪いかな?」
「ほう?それはどのようなことですかな?」
俺はニヤリと笑い趙雲さんに告げた。
「そうだな…例えば……こうだ!」
「おっと!」
「はは、今のを避けるかならこれならどうだ!」
「むっ!これはなかなか」
俺の攻撃を避け続ける趙雲さん。
「これまで避けられるか、こりゃ参ったね」
「何を仰います。全力を出していないのが見え見えですぞ」
「ふぇ?!そ、そうなの愛紗ちゃん」
「はい。ご主人様の攻撃はもっと早く、重いです」
「ふえ~。そうなんだ~。私もあそこまでなれるかな~」
「……桃香さまには無理だと思いますよ」
「う……やっぱりそうかな?」
「はい。ご主人様は群を抜いています。きっと私と鈴々、それに趙雲殿の三人がかりでも無理だと思います」
「ええ?!ご主人様ってそんなに強いんだ!」
「はい」
「にゃ~鈴々もいつもお兄ちゃんには勝てないのだ」
俺と趙雲さんの横で三人は何かを話してるみたいだった。
「北郷殿!そろそろこちらも行かせて貰いますぞ!はっ!」
「なんの!まだまだ甘いぞ、そんなのじゃ止まってる蝶すら貫けないよ!」
「くっ!ではこれならば!はい!はい!はいぃぃぃっ!」
趙雲さんは連続で突きを繰り出してきたが俺は全て紙一重で避けていた。
「これが突きか?常山の昇り龍と言われた趙雲さんはここまでの人物だったのかな?」
「よかろう!ならば我が神速の槍を受けてみるがいい!はぁぁあああ!」
趙雲は先ほどにも増して槍の突く速さを増した。
「くっ。これは中々……」
「はっはっは!先ほどの威勢はどうしたのだ、北郷殿!」
所々に押され始める。
「お兄ちゃんが押されてるのだ」
「あわわ、ご主人様は大丈夫なのでしょうか」
「はわわ、き、きっと大丈夫だよ雛里ちゃん」
いつの間にか朱里と雛里が観戦していた。
「あれ、朱里ちゃんに雛里ちゃんいつ来たの?」
「つい先ほどです。お仕事が一段落ついたので雛里ちゃんとお散歩してました」
「それにしてもご主人様が押されてるなんて趙雲さんは凄いんですね」
「いや。それは違うぞ雛里よ」
「え?どういうこと愛紗ちゃん」
「お気づきになりませんか?ご主人様は先ほどからさほど力を使っていないことに」
「ええ?!あれだけの攻撃を受けてるのに全力じゃないの!」
「はい、よく見比べてください。ご主人様と趙雲殿の顔を」
「え?う~ん……あ、ご主人様全然汗かいてないよ!」
「趙雲お姉ちゃんは汗一杯でてるのだ」
「はい、ですからご主人様は追い込まれている振りをしているだけなのです」
流石は愛紗だな。やっぱり何度か手合わせしてるとわかっちゃうのかな?
愛紗が言っていた通り俺は余り力を使っていない。どちらかと言えば避けることに集中している。
「くっ、この私が……」
趙雲さんの顔が徐々に苛立ちの顔へと変わっていく。
「そろそろ終わりかな?」
そう言うと俺は地面を蹴り趙雲さんとの距離を開けた。
「はぁはぁ、なんというお人だ。あれだけの攻撃を繰り出しても汗一つかかないとは」
「そりゃ逃げに関しては誰にも負ける気は無いからね」
爺ちゃんの修行はある意味逃げないと本当に死ぬ勢いだったからな~。
なんせ稽古でさえ真剣使ってくるんだぜ?こっちはただの木刀なのにさ。
そんでもって爺ちゃんの口癖は決まって『人間死ぬ時は死ぬんじゃ!だから腹を括れ一刀!』
無茶苦茶だよ……っと落ち込んでる場合じゃないな。
「それじゃ今日はこれで「あいや待たれよ!」?」
これで終わらせようとした俺に趙雲さんが待ったをかけてきた。
「私はまだあなたの一撃を受けていない。避けるだけ避け攻撃してこないのはどういうことですかな?まさか私は攻撃するに値しないとでも?」
「そういう訳じゃないよ。ただ今回は趙雲さんがどうやって教えるのか興味があるっていったから見せただけだよ」
「確かにそうですが武人としてこのままでは終われないのですよ。であれば一撃くらい攻撃を仕掛けて頂きたい」
「わかった。それじゃ、一撃だけだよ?それと変に攻撃を受け止めようとしない方がいいかもね」
「それはどう言う……っ!なるほど」
俺の構えを見て趙雲さんの雰囲気も変わった。
「前に愛紗の時にやった炎龍は炎の力を使った一撃だったよね」
「ええ、あれは中々のものでした」
「それじゃ今度は同じ炎の力だけど違う使い方を見せてあげるよ」
俺は袋から赤い宝玉を取り出し刀にはめ込むとすぐに刃は青から赤に変わり炎が刀に纏いだした。
「では行くぞ、炎剣・龍閃!」
俺は低い大勢から刀を趙雲さん目掛けて刀を突いた。すると刃先から炎龍に似た炎だけど炎龍よりも小さな龍が一直線に趙雲さんに向かっていった。
「なっ?!」
趙雲さんは余りの速さに驚いているようだった。
「私が受けた炎龍より大きくはないな」
「で、でも、その分、速度があるのではないかと思います」
愛紗の話を聞いて朱里は俺の技を分析するかのように顎に手を当てて話していた。
「くっ!」
趙雲さんは俺の一撃をなんとか避けきった。
もちろんこれも力を抑えてある。
――カーン!
甲高い音と共に俺が放った突きは岩に刺さり岩を貫通していた。
「今のでも眼で追える速さに抑えた」
「ええ?!もっと早くなるの!?」
桃香は驚きながら穴の開いた岩を見ていた。
全力でやったことはないけどたぶん距離的には500mくらいは貫けると思う。今ので精々10mくらいかな。
「ああ、と言っても若干早くなる程度さ。もっと早い突きを出すなら違う宝玉じゃないと無理だよ」
多分あの宝玉でやればもう少し距離も威力も上がると思う。
「違うとは宝玉はまだあるのですかご主人様?」
「ああ。俺の剣技は宝玉によってその特性が変わるからね。見てみるか?」
「わ~!見せて見せて!」
「見るのだ~!」
「見せていただけるのですか?」
「見てみたいです」
「よろしいのですか?」
「ああ、かまわないよ。趙雲さんも見るだろ?……趙雲さん?」
趙雲さんは貫かれた岩をただじっと見詰めていた。
「どうしたんだ?趙雲さん」
「……北郷殿、一つ聞きたいことがあります」
「なに?」
「あなたはこれほどの力を持ち何をしたいのですか?」
「……」
趙雲さんはまっすぐに俺の眼を見て言ってきた。
「……そうだな、力無い人、どこかで苦しんでいる人をこの力で助け出したい」
「人を殺めても、ですか?」
「ああ、俺はこの世界に来て初めて人を殺した……その夜は全然寝付けなくてその光景を思い出すたびに何度も吐いたよ」
「ご主人様……」
桃香や愛紗たちは俺の顔を悲痛な顔で見ていた。
「俺の手は既に血で汚れているきっと一生拭えないと思う。けどだからと言って、助けられる命を助けないのはもっと嫌だ。俺はそのためにこの刀を振るう。皆が笑って暮らせる世の中にするためにならね」
「それはあなた一人で出来ることではないでしょう」
「勿論その通りだよ。俺の力なんて大したことないよ。桃香や愛紗、鈴々に朱里、雛里、みんなの力があってこそだと俺は思っている。それに俺はみんなの主だしね。俺がみんなを守らないと」
「「「「ご主人様……」」」」
「お兄ちゃん」
「なるほど、北郷殿の覚悟しかと聞きましたぞ、やはりあなたは思った通りのお人だ」
「趙雲さんそれってどういう「星だ」え?」
「我が真名は星。あなたに預けますぞ北郷殿」
「いいのか?」
「ええ、預けるに足りると判断した。劉備殿たちもどうか真名で呼んでくれると嬉しい」
「そうか、ありがとう星」
俺は趙雲。改め星に向かって笑顔でお礼を言った。
「じゃあじゃ私たちも真名を預けよ♪改めて、名は劉備。字は玄徳。真名は桃香よろしくね、星ちゃん!」
「我が名は関羽。字は雲長。真名は愛紗だ、よろしく頼むぞ星」
「鈴々は張飛!字は翼徳!真名は鈴々なのだ!」
「私は諸葛亮。字は孔明。真名は朱里です。よろしくお願いします」
「えと、えと。名は鳳統。字は士元です。えと、真名は雛里でしゅ!あぅ、よろしくお願いしましゅ!」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。では、北郷殿。その宝玉とやらをお見せ願おう」
その後、俺はみんなに宝玉を見せた。
………………
…………
……
――一方、公孫賛さんは
「くそー!趙雲のやつ、何処をほっつき歩いてるんだよ。いつまで休憩してるんだーーーー!」
一人、竹簡や書簡の山の中、頭を抱えている公孫賛さんがいた。
《To be continued...》
葉月「ども~。今回は如何だったでしょうか?」
愛紗「ふむ。相変わらず。私の活躍が無いな」
葉月「……さぁ~て!ではまず最初は前回の投票の結果発表です」
愛紗「無視したなっ!?」
葉月「では。結果は次のおとりです!」
愛紗「人の話を聞けーーーっ!」
葉月「第六位!」
鈴々:1票
鈴々「にゃーっ!なんで鈴々が一票だけなのだ!」
葉月「第五位!」
朱里:3票
朱里「はわわっ!こ、こんなに少ないんですか!?」
葉月「さあ。ここからは掲載組みになります!第四位!」
桃香:8票
桃香「あぅ。これでも私、愛紗ちゃんたちの。主なのにぃ~」
葉月「第三位!」
雛里:13票
雛里「あわ、あわわ。ふきゅ~~~っ」
朱里「はわわーっ!ひ、雛里ちゃんが気絶しちゃいましたーーっ!!」
葉月「……雛里、それはポイントが高いですよ。さて!第二位!」
オマケ:23票
桃香「オマケなのに票が多いだなんて……」
鈴々「むー。納得がいかないのだ!」
葉月「それでは栄えある第一位!もう云わなくても分かりますね!」
愛紗:28票
愛紗「う、うむ。分かっていたことだったが。やはり嬉しいな」
桃香「愛紗ちゃんいいな~。私も掲載されるけど掲載される中で一番少なかったよ」
愛紗「と、桃香さま!?い、いやこれはですね……おい葉月!なんとかしろ!」
葉月「はいはい。無視して話を進めますよ。取り合えず掲載順は下記の通りです」
第一回拠点:桃香・雛里
第二回拠点:愛紗・オマケ
葉月「このように二回に分けて書かせていただきます」
愛紗「お、おい!人の話を!」
桃香「うぅ。愛紗ちゃんいいな~」
愛紗「と、桃香さま。皆が見ています。シャキッとしてきださい!」
葉月「さてさて。そろそろ終わりにしましょうか」
雛里「そうですね。……えへへ。早くご主人様とお話しないた♪」
朱里「いいな~。雛里ちゃんは……うん。次は私も乗せてもらえるように頑張らないと!」
鈴々「鈴々だってがんばるのだ!」
葉月「意気込みがいいですね~。それじゃ次回は頑張ってください。それでみなさんまたお会いしましょ~」
桃香「愛紗ちゃん~。私って愛紗ちゃんの主だよね?主でいいんだよね?」
愛紗「当たり前です!ですから元気を出してください!」
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昨日に引き続き新章の続編になります!
奥付で前回の投票の結果発表をしています。
それではご覧ください。