だめで元々、そんな気持ちで桃香のことを麗羽に頼んだのは朱里だった
その麗羽がいつもの笑い声をあげ、桃香の部屋に向かってからだいぶ時間がたった
「はわわ・・・・はわ!はわわわわ」
玉座の周囲をウロウロ
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、とにかく落ち着かない
麗羽を行かせてよかったのだろうか
もしかしたら余計に事態を悪化させてしまうだけだったのではないか?
桂花に指摘されたことがある
「戦略なら私は朱里に適わないかもしれない。でもね、朱里には人を見る目が足りないの」
人選、そして人を頼る力
蜀の屋台骨を支える優秀な将はほとんどが桃香による抜粋で
朱里は雛里との狭い人脈しかなかった
その朱里が選んだのが麗羽だったのだ
(本当にこれでよかったのでしょうか・・・・・)
朱里がウロウロし続けてからまた時間が経った
オーッホッホッホッホ! オーッホッホッホッホ!
「はわ!!」
麗羽が戻ってきた
その隣には、恥ずかしそうにはにかむ桃香の姿が
「桃香様!!!!」
「エヘヘ、心配かけちゃってごめんね朱里ちゃん」
いつもの桃香に戻ったことを確認し、朱里は一直線に桃香に抱きついた
麗羽は抱き合う二人を笑顔で眺め、桃香と目線をあわせた
桃香の表情に迷いは無かった
二人が同時に頷く
「朱里さん、私これからお茶会がありますの。名門袁家の私を待つた く さ んの方々をお待たせするわけには参りません。これでお暇しますわ」
「は、はい・・・・その・・・ありがとうございましゅた」
「おーっほっほっほっほ!」
麗羽は去っていった
「本当にごめんね朱里ちゃん」
「いいんです、桃香様が元に戻ってくださったならそれでいいんですぅ」
桃香は久しぶりに玉座に着いた
北伐組み、そして愛紗達のいない寂しい眺めではあるものの
玉座に着いたからには自分は王だ
「朱里ちゃん、今後の方策を」
「まずは東方です。荊州を併呑した呉は晋と和睦、停戦を結んだとのことです。
これで呉の敵は蜀のみとなりました。
今後、東方からの呉の侵攻も考えられますが、今は荊州の掌握に尽力していることでしょう。
今すぐに蜀へ侵攻するとは考えにくいと思います。
そこで、北伐から帰還した部隊を再編成し、大きく2つの防衛大隊を編成。
絶対防衛線を、北は漢中、東は白帝城とします」
「漢中で晋を、白帝城で呉を抑えるんだね。厳しい戦いになりそうだね」
「蜀は国力で大きく劣る上、2国を同時に相手にしなければなりません。
ですが、こちらには利点があります。
山岳地帯を天然の要塞とし、防備を固め亀のように閉じこもるのです。
そして、2国の内部へ働きかけ、時を待ちましょう。
各国には今回の大戦に疑問を持ち、且つ、呉の裏切りに疑問を持つ人々がたくさんいます。
防衛戦を成功させ、2国を疲弊させることでその方々の行動を促すのです。
兵力の補充については、南蛮の美似ちゃんに南蛮兵の援軍を要請しました。
南蛮兵の身軽さは山岳戦において大きな力を発揮し
さらに狭い街道を象兵で塞げば、どんな大隊が来ても食い止められます」
朱里の方策は徹底した防衛戦
そのために蜀の持つ全ての力を使う方針だ
「北伐の皆はいつ戻るかな」
「勅令を伝えてからそれほど時間が経っていません。撤退戦を考えるともうしばらく時間はかかると思います」
「そっか・・・・私のせいで、本当にごめんね朱里ちゃん」
「はわわ!いいんです。呉の行動を予見できなかった私の責任ですから・・・・」
二人共が責任を感じていた
すると、桂花がため息をつく
「朱里、あんた本当に人を見る目がないわね」
「はわわ!どういうことですか?」
「何のためにあんたを解任させて詠を北伐に行かせたと思ってるの?
北伐部隊は一部以外戻ってこないわよ。雛里と星あたりは戻ってくると思うけどね」
朱里は驚いた
「詠さんは勅を無視すると言う事ですか?」
桂花は腕を組み、真剣な表情で言葉を発した
「詠は、あんた達ほどあまちゃんじゃない、てことよ」
桂花の予言は当たった
北伐から帰還したのは雛里と星、そして騎馬2000
朱里の想定よりも遥かに早い帰還だった
雛里と星に本国の兵を与えた白帝城防衛隊約30000は即時出発、呉迎撃の防備を固めた
しばらくすれば南蛮からの援軍も合流できる
これで蜀の防衛体制は整った
同じ頃、呉も揺れ動いていた
~合肥~
合肥城攻略のため陣取る呉軍 指揮を取るのは当然雪蓮だ
雪蓮は合肥城を眺め、その思いを馳せていた
「そろそろ動く頃かしら」
傍らに立つ冥琳は雪蓮に言葉を返す
「張遼のことだ、そろそろだろうな」
祭の武器破壊、思春の工作、それ以降張遼は前線に出てこない
完全にこう着状態になっていた
冥琳はなんとか張遼をおびき出そうとしているが作戦はうまくいかなかった
「飛龍偃月刀以外の武器では戦わない、か。黄蓋殿とは正反対だ。その偃月刀の修理もそろそろ終わると聞く」
雪蓮は嬉しそうに冥琳の答えを聞いた
「待たせてくれちゃって、私は早くあなたを切りたくて仕方ないのよ張遼」
雪蓮が南海覇王をなでた
「そう言うな雪蓮、張遼が出てこないおかげで、お前も自分を鍛えなおす時間が作れたのだろう?」
「やっぱばれてた?」
「当然だ。最近飲んでいる酒、中身はただの水だろう?」
前回の対決で雪蓮は霞に完敗
祭の救援が無ければ雪蓮も冥琳も殺されていただろう
完敗した要因は不摂生によるスタミナ切れだった
呉陣営はいつ張遼の騎馬隊が攻撃してきてもいいよう準備に追われていた
陣の周囲には何重もの馬防柵が敷かれ、馬防柵で動きの止まった騎馬隊を狙い打つ弓隊を配置
もしも突破された時は長槍隊で迎え撃つ
まさに万全の陣容だった
「私は張遼と真正面から戦いたいのに~」
「無茶を言うな雪蓮、あの騎馬隊を真正面から受けなどすればどれほどの兵を失うことになるか」
「それは分かってるけどさ」
「祭殿がまだ動けん今、張遼に対抗できるのはお前と思春しかおらんのだ。万事用心するにこしたことはないさ」
冥琳は合肥城を見る
(来るなら来い張遼、呉の地は二度と貴様らに踏み込ませんぞ)
~正午~
合肥の城門が開門 砂塵が舞った
報告を受けた冥琳はすぐに陣頭指揮に移った
「来たか!?」
目視で砂塵を確認
しかし様子がおかしい
「数が少なすぎる、武装もしていないだと?」
先頭は確かに張遼だ
しかし武器を携えておらず速度も遅い
雪蓮は冥琳の隣に立つと
「様子が変ね、とりあえず行って見ましょう」
「あ、まて雪蓮!」
雪蓮と冥琳は馬を走らせ張遼の元へ向かった
雪蓮たちが張遼の元へたどり着くと、既に思春との対峙が始まっていた
「貴様、丸腰で来るとはいい度胸だ」
「落ち着き甘寧、今日は孫策に話が会って来ただけや」
今にも切りかかりそうな思春とそれを制止する霞
「下がりなさい思春」
「は、失礼しました」
思春はいつでも張遼を切れる距離を保ちつつ下がり、雪蓮に前を譲った
「それで、話って何?」
「何の話、やと?・・・・・この臆病者のダボが」
雪蓮の表情がきつくなる
「なんですって?」 「貴様~~!!雪蓮様に対してなんと無礼な」
「落ち着きなさい思春。・・・・・そんな謂れを受ける心当たりがないのだけど
どう言うことかしら張遼?」
雪蓮は返答次第で切るつもりだ
「ふん、どこまでも白を切るんかい。こっちにはこういうもんがとっくに届いとるんじゃボケ!」
霞は懐から一枚の書状を取り出すと雪蓮の前に叩き付けた
思春はその書状を拾い雪蓮に差し出す
「・・・・・・・・・・・・・・・・・これはっ!!」
「ほんま見下げたで孫策。蜀を利用し、自分達が危ななったら裏切り捨てる。
そんで領地まで奪いとるたあ、とんだ狐やな」
雪蓮にとって青天の霹靂だった
「待って、こんな話知らないわよ。あんた達のでっちあげじゃないの!?」
「とぼけるのもええ加減にせえ!!!呉の王印がきっちり押されとるやないか。
これは正式な晋と呉の調印っちゅーこっちゃ」
確かに、書状には呉王の印が押されている
「冥琳、どういうこと?」
冥琳は書状を受け取り目を通すと、体を震わせながら唇をかみ締めた
「・・・・そういうことか・・・・クッ」
「これで戦いも終わりや、うちはあんたらみたいのと二度と戦いたない。さっさと呉へ帰れや!!」
霞は馬首を城に向けると振り返ることも無く帰っていった
冥琳は叫びだしたい衝動に駆られながらも必死にこらえていた
「すまない雪蓮、どうやら私達は出し抜かれたようだ」
「どう言うことなの?誰が私達を出し抜いたってのよ」
「王印を押せるのは呉で2人だけだ」
「まさか・・・・・蓮華が?どうして蓮華が」
「おめでとうございます姉さま。不当占拠していた蜀を排除し、荊州は完全に呉の支配下となりました」
「蓮華・・・・」
蓮華が現われた
「嬉しいでしょう冥琳、さらに益州を奪えばあなたの提唱した天下二分が成る。
その時こそ我ら呉が天下に羽ばたく時」
「蓮華様・・・・」
普段クールな思春ですら動揺が隠せない
冷静なのは蓮華だけだった
「そんな顔をして、どうしたのです姉さま」
「蓮華、あなた自分が何をしているのか」
「分かっています。姉さまがお怒りなのも、ね」
蓮華が左手を上げると、雪蓮と冥琳を兵が囲み槍が突きつけられた
「どういうつもりなの?」
蓮華の視線が鋭く雪蓮を貫く
「姉さまは属国の立場を受け入れ平和を享受した。そして、面倒な仕事は全て私に押し付け・・・・
呉を動かしていたのはこの私だ!!!
なのに、民も将も、賞賛するのは姉さまのことばかり・・・・・」
「違うのよ蓮華、私は初めからあなたに国を譲る気で」
「うるさい!」
蓮華が雪蓮を一喝した
誰もが始めてみる光景だった
「国を譲るですって?どこまでも私を馬鹿にして・・・・・そういう傲慢さが許せなかった
だから決めたの。譲るなんて許さない。簒奪してやると」
雪蓮が動揺している
ずっと共に行動してきた冥琳も見たことがないほどに
「蓮華・・・・ごめんなさい蓮華。私のせいであなたをそんなに追い詰めてしまっていたなんて。
本当にごめんなさい蓮華」
「・・・・・・・・」
雪蓮の目から涙が零れ落ちた
冥琳は始めてみる雪蓮を抱きかかえると蓮華に問いかけた
「それで、蓮華様、これからどうするおつもりですか」
「・・・・そうね、思春、あなたはどうするの?」
「は、私ですか・・・・・」
「あなたはこれからも私に従えるの?」
「そ、それはもちろんです。我命は蓮華様に捧げています。ですが・・・・雪蓮様もまた、大切な主なのです
どうか、どうかご容赦を」
「・・・・・・・・・・」
考え込む蓮華
このままでは呉を完全に掌握されると危機感を抱いた冥琳は
(ならば!)
「明命!いるのだろう!!」
「はうあ!冥琳様、ここにおります」
物陰から姿を見せる明命
「貴様に任務を命じる。ただちに晋の都に向かい、北郷一刀を解放せよ!さあ、いけ!!」
「了解しましたー!」
明命は承服するとすぐさまその場から消えた
蓮華は明命を逃がすなと指示を出したが、捕らえることは難しいだろう
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復活する桃香、そして呉