連合軍解散から半年、洛陽にて突如として現れたあの謎の大軍が再び動き始めた。
彼等は徐州の地にて『劉』の旗を揚げて独立を宣言。並み居る諸侯を次々と滅ぼし、邪魔をしてくる袁術軍を返り討ちにしてこれを平定させた。
が、それだけには留まらず青州、兗州をも領土に加え、一気に一大勢力として台頭してきた。
その兵数は連戦にて減りはしたが約7万。未だに戦力をこれほど蓄えているのは驚異的だった。
これに危機を感じた劉備軍は公孫賛軍と合併し幽州の大半を平定。異民族である烏丸を現在下そうと奮闘している。
また自国の領土が危うくなってきた袁術軍は同じく危機的状況である従姉妹である袁紹軍と共同戦線を張ることを決定。即座に10万の大軍を二つに分け徐州の県境と豫州に配置した。
また曹操はこれに便乗し、本拠地である許昌を中心として各地に派兵を開始。帝都『洛陽』を手に入れ帝の摂政の座に就くと、官軍と己の私兵を巧みに操り、并州、冀州、豫州を平定した。
さらには遠い涼州にまで手を伸ばそうと雍州を中心に今は派兵を行っている状況だ。
また、孫堅軍は一気に広大な揚州を制圧、豪族達を纏め上げ、今は専ら内政に取り組んでいる。
馬騰軍はというと、最近新しく頭領が変わったとされる異民族『匈奴』が、他の異民族である羯、鮮卑、氐・羌の四族を纏め上げているとの情報を受けており、涼州の豪族等と協力して警戒していた。
時代はまさに群雄割拠の真っ只中。そんな中、涼州で動きが出つつあった――――――
ここは馬騰領内にある一つの大会議室。
頭領である馬騰を始め、涼州各地の豪族の代表達が苦虫を潰したような顔で腕を組んでいた。
馬騰の横には娘である馬超と、従姉妹である馬岱、そして後方に控えているのは保護されている董卓等の姿があった。
重苦しい空気の中、馬騰が口を開く。
「・・・皆も知っている通り、最近この大陸では激しい諸侯達の戦いが繰り広げられている。徐州には連合軍の時に現れたあの軍が旗揚げをし、今では一大勢力として君臨している。他にも曹操や孫堅、劉備に袁紹など、警戒すべき者達諸侯はいる。・・・・・・だがその前に、更に警戒すべき者達がいる。」
そこで一旦言葉を止め、一拍おいてから本題を切り出していく。
「そう、長年我等が幾度もその侵攻を食い止め、そして追い払ってきた連中・・・匈奴だ。3日程前、この地より離れた場所で村が襲われたとの情報が入って来ている。奴等は近頃、他の異民族達を吸収し、纏め上げたという。正確な数は判らないが・・・恐らくその兵数は20万を越えているはずだ。」
そこで豪族達の中で漂っていた空気がピリついた。
この涼州は幼少から馬術に長けた者が多く、それ故騎馬では他の追随を許さぬほど練度が高い。
だがそんな彼等でさえも匈奴達との戦いでは多くの死傷者が出るのだ。
何故なら匈奴も同じ、馬術に長けた民族だからである。
これでは此方のアドバンテージは消えてなくなるが、それでもまだ勝つ事はできた。
彼等は策を使うような相手ではなく、あちらが大軍であっても此方が策を用いれば優勢に立てたのだ。
が、先日の報告では彼等は統率が行き届き、更に連携を見せたのだという。
お陰で警備に派遣していた涼州の中でも屈強だった部隊が伝令兵以外壊滅し、村の状況は今を持ってしても判らないのだ。
「恐らく奴等に策を施したのは新しくなった頭領だろう。・・・相当頭が切れる奴らしい。異民族との一件もそうだろう。」
そこで立ち上がる馬騰。
全員が見つめる中、馬騰は見渡しながら言う。
「このままでは我等が守ってきた土地、家族、そして友等を失うことになるだろう。それはなんとしても守り抜かねばならない。・・・・・・皆の力、貸してはもらえないか?」
真摯に周り見つめる馬騰を見て、他の豪族達は立ち上がり、そして・・・
「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」
と、力強く頷いた。
それを見てニヤリとした馬騰は、首をゴキッと鳴らしながら言う。
「ックックック・・・ったく、テメェらに敬語なんざ使うもんじゃねぇな。やっぱこっちの方がしっくりくるわ。」
その男らしい乱暴な口調に周りの空気が一気に軽くなる。
「たった20万ぽっちじゃ俺等はやられねぇ。頭が切れる?ッハン!ならそれを上回る力を見せつけりゃ言いだけの事だ。」
「お義母様、出陣の準備は整ってるよ♪」
脇に控えていた娘、馬岱は報告した。
「珍しく気が利くじゃねぇか、蒲公英。翠、ちったぁテメェも見習え。そんなんじゃ男が寄ってこねぇぞ?」
「いや、別にアタシは男なんて興味ないから。」
「つまんねぇ女だなオメェは!!」
娘とのやり取りをしながら馬騰は後ろに居た董卓・・・月達を見た。
「月、オメェは両親と一緒にここで待ってな。詠、オメェもだ。」
「え・・・」
「ちょっとどうしてよ!?」
「今回は普通の戦じゃねぇんだ。下手したらこの場にいる全員が命落とすほどのな。だからはっきり言って戦場で荷物になるようなもんはいらねぇんだよ。」
「だからって策とかはどうすんのよ!向こうは策を用いてくるかもしれないし、此方も必要なんじゃ・・・」
「策なんざ俺の頭ん中にしっかりある。それも必殺のな。それに俺達は状況に応じて各自が反応するからな、向こうの策は効かねぇよ。」
「・・・・・・どうしてそんなに自信があるの?」
詠が俯きながら呟く。
馬騰はその頭をグシグシと撫でながら答えた。
「俺達は家族だからな、相手の考えることなんざわかんのよ。・・・オメェは月の傍に居てやれ。
んで俺達の飯でも作って待っててくれりゃ十分だ。そこが俺達家族が戻ってくる場所なんだからな。」
月と詠は暫く黙ったままだったが、コクリと頷いた。
「音々もここで留守番だ。いいな?」
「う、うぅ~・・・判ったのです・・・」
「・・・・・・恋は?」
「恋は俺達と一緒に出陣だ。今は強ぇ奴が欲しい。・・・行けるか?」
それに対して恋はコクリと頷いた。
「・・・ん、大丈夫。皆、恋が守る。」
「ハッハッハ、そいつぁ頼もしいこった。」
そして再び豪族達に振り返ると、女性とは思えないほどの頼もしい声で叫んだ。
「野郎共ッ!!奴さんを盛大に出迎えてやろうじゃねぇか!!二度とこの地に来れねぇようにな!!」
「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」」
匈奴20万に対し馬騰軍10万。
今まさに火蓋が切って落とされた。
風が吹き流れる一面の荒野に、大軍が二つ。
一つは掲げる旗に『項』の文字、そして人馬共に黒尽くめの軍団。
もう一つは『馬』の文字が書かれた旗を掲げ、青緑の鎧を着て、馬に跨る軍団。
前者が匈奴、後者が馬騰軍である。
その馬騰軍の前には一人の女性が腕を組みながら剛槍『馬龍槍 麒麟』を地に突き刺していた。
「敵大将よ、この声が聞こえるなら前に出られい!!直に話がしたい!!」
すると、漆黒の鎧を身に纏い、漆黒のマントを翻しながら、一人の人物が兵たちを飛び越えて正面に立った。
その登場の仕方に馬騰は一瞬目を細めたが、すぐに戻して話を切り出した。
「アンタが匈奴の頭領なのか?」
その問いに目の前の人物は答える。
「そうだ。生憎と名は伏せているのでね、項刀と名乗らせてもらおうか。」
腰には見たことの無い大型の弩らしきもの。更に両手には蒼い剣と紅い剣がそれぞれ握られていた。
その姿を観察しながら馬騰はふむと言った。
「俺の名は知っているんだろう?」
「もちろん。涼州の龍と称された馬寿成殿だろう?」
「っけ、昔の呼び名を知ってやがるとはな。もうその名を知ってるのは堅位しかいないと思ってたが・・・お前相当年いってるだろ?」
「さぁ?どうだろうね。」
食えねぇ奴だな、と言いながら馬騰は愛槍を引っこ抜いた。
それを肩に担ぎながら馬騰は目の前の人物『項刀』に尋ねた。
「一応聞いておくが、テメェ等がここに来た理由を教えてもらおうか?」
「中華大陸平定の為の足掛りの確保を。」
「・・・・・・なるほどな。てことは侵略してきたと取ってもいいんだよな?」
「あぁ。現にそちらの村を占拠させてもらった。だが村人は今も同じ生活を送っているから安心してくれ。」
「そんな情報、信じられねぇな。」
「信じるも信じないも貴女しだいだ。・・・・・・出来ればあまり血を流したくは無いんだが、降伏してはくれないか?」
「そっちこそお引取り願いたいんだがな。それと占拠した村も解放してくれねぇか?」
「それは無理な相談だ。ここまで来たのが無駄になってしまう。」
「そうか。・・・んじゃ交渉は決裂ってことでいいか?」
そして膨れ上がる覇気と殺気。
いつでも準備万端なようだ。
その様子を見た項刀は、ヤレヤレと首を振り、溜息をつきながら答えた。
「そのようだ。・・・ではどちらか勝った方が自分の意見を通せるっということにしようか?」
「賛成・・・だッ!!」
そして一瞬で項刀の真上に麒麟を振りかぶる馬騰。
それを難なく受け止める蒼天で受け止める項刀・・・一刀。
キィンという音がなる前に両者は飛び退く。
辺りに音が鳴り響いた後には、そこはもう戦場と化していた。
「馬超隊、敵右翼に対して突撃をかけろ!!弓隊はその間に敵遊撃隊を牽制して馬超隊に近寄らせんじゃねぇ!!」
「了解ッ!!」
「馬岱隊は遊撃として行動しろ!!判断はテメェに任せる!!」
「判った!!」
「恋!!オメェは俺と共に左翼だ!!ついて来い!!」
「・・・ん!!」
本陣に戻るなり馬に飛び乗り、そして簡単な命令を周りに下した後、馬騰も戦場へと打って出た。
馬騰軍の強さの秘訣は、その立ち回りの上手さ。
各将達が今何をすべきかを味方を見て判断したり、自分で考えたりすることで無駄のない動きが出来るのだ。
普通こんな事をすればたちまち軍は混乱に陥るが、彼等の場合はそんなことは起きない。
長年付き合ってきた経験と、戦場に冴え渡る直感が彼等の行動を可能にするのだ。
故にこの軍に情報の伝達方法は皆無だが、そのお陰でワンテンポ早く他の軍よりも行動することが出来るのである。
長い間匈奴や他の異民族達と闘う中で生まれた、独自の戦闘スタイルだった。
対する一刀は。
「右翼を八つに分散させろ。馬超隊をやり過ごした後、包囲するように鶴翼の陣を形勢した後、防御陣形を取れ。」
「ッハ!」
「左翼は敵大将が直々に出張ってくるだろう。ならばそこに虎の子を投入する。一、二番隊は迎撃陣形を、五番隊と七番隊は敵を抑えるために防御陣形を。」
「了解しました!!」
「我等本陣は車掛りの陣を形成した後、左翼と合流する。後方部隊には右翼を援護せよと伝えろ。」
「御意に!!」
周りには何人もの伝令兵と伝書鳩を用意し、情報を素早く伝えるための手段を確立していた。
更に早馬を特化させた部隊『隼』を各隊に三人配置することにより、各隊の状態をいち早く知ることが出来た。
この時代において小さいながらも最速の情報ネットワークを構築した一刀は、まさに馬騰とは正反対の行動を取っていた。
また、一刀には万が一の為に作らせていた虎の子があるため、未だ優勢劣勢はつけづらい。
「報告します!右翼三番隊は敗走を開始!抜けた穴を後続部隊が埋めようとしますが暫く時間がかかるかと!」
「ならば弩隊を援護にまわせ。多少なりとも時間は稼げるはずだ。」
「御意!」
「本陣、車掛りの陣形勢完了しました!」
「ではこれより左翼と合流する。弓隊、馬岱隊を牽制しろ。それと騎馬隊は先攻し、敵をかく乱させろ。」
「ハッ!!」
そして動き出す一刀。
一刀は握り締めた剣を見つめ、一人呟く。
「判ってるよ、項羽。その為に俺はここにいるんだから。」
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第20話目。
なんとか黄金週間に間に合ってよかった・・・