No.207773

真・恋姫無双 ~古の存在~ 第19話 「思う先に見えるもの」

東方武神さん

第十九話。
やっと半分終わった・・・もう半分、果たして続くのだろうか・・・?

2011-03-23 14:55:14 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2857   閲覧ユーザー数:2471

「誰かいるかい!!」

 

「ハッ!!」

 

手枷と足枷をつけた少女・・・紀信は、伝令兵を呼ぶと簡潔に要点を小声で伝え、各部隊長へと通達するように指示し、そして一刀と向き直った。

 

「翼、蘭。どうやらコイツの狙いは『アタイ達』みたいだからね。他の兵たちに被害が無い様ここで食い止めるよ」

 

「あいよ~、了解した」

 

「出来れば闘いたくはありませんでしたが・・・止むを得ませんね・・・」

 

三人はそれぞれの得物を構え、いつでも一刀へと飛び出せるようにした。

 

対する一刀は腰を低く屈め、二振りの剣を扇情的に広げ構えていた。

 

その構えから放たれる気迫は鬼気そのもので、周りの空気がビリビリと震えるほどだった。

 

「では・・・参る・・・ッ!!」

 

そう言うと、一刀は勢い良く飛び出し、中央にいた女性・・・周苛へと襲いかかった。

 

「まずは私からってかい?項羽の旦那。お目が高い・・・ねぇッ!!」

 

そう言いながら、周苛は手元にある三槍の内の一本を一刀へと投げつけ、後退しながら両手に残った二槍を持ち構えた。

 

投げつけられた槍を、一刀は左手に持った剣『黒死』で紀信の方向へと軌道を変えた。

 

「器用だねぇ~。やっぱりアンタは項羽なんだね・・・ッ」

 

突っ込んできた一刀と切り結びながら周苛は言う。

 

「ハァッ!!」

 

繰り出される黒と真紅の連撃。

 

そこに足技も組み合わされた攻撃は、まさに捌き難いの一言だろう。

 

だが彼女はそれでも巧みに槍を使いこなし、尚且つ時には反撃に移ることもあった。

 

「後ろにご注意♪」

 

そんな風に言われ、一刀はサッと振り向くと、そこには先程軌道を変えた槍を持つ紀信の姿が。

 

「チェリオォッ!!」

 

などと意味不明な言葉を発しながら、少女は槍を投擲してきた。

 

「ッチ」

 

一刀は周苛から離れ、距離を取ろうと後ろに飛んだ。

 

だが。

 

「引っかかったなバァカめッ!!」

 

飛んだ先には今まさに気を放とうとしている夏侯嬰の姿。

 

「ごめんなさい!!」

 

そう叫んで一瞬。

 

爆発的な勢いで手甲から特大の気弾が放たれた。

 

「!?」

 

一刀は軽功を使う暇すら与えられずに、そのまま気弾を食らった。

 

彼女達が三人で行動する理由。

 

それは生まれたときから一緒にいるが所以の見事な『コンビネーション』にある。

 

お互いの行動、思考を完璧に把握し合っている為、どのような状況下に置かれても彼女達の連携が崩れることは無い。

 

唯一の弱点があるとすれば、乙女の秘密ごとすらも筒抜けでプライバシーが三人の間では全く無いということか。

 

空中で被弾した一刀が爆発に巻き込まれる様を、彼女達三人は静かに見ていた。

 

「今も昔も変わらない・・・アタイ達三人の力、忘れたわけじゃないだろう・・・?」

 

その頃の洛陽では・・・

 

馬騰・孫策両軍が城門への道を切り開いたことにより、戦局は大きく連合軍側へと傾いていた。

 

周瑜の看破によって、まんまと全ての策を使い切ってしまった陳宮隊はこれによって退却をせざるを得なくなり、城内へと撤退を開始。

 

また、呂布隊も半数が猛攻によって死に、残った兵も城内へと退却を始めた。

 

「ック!!結局連合軍を足止めする程度にしかならなかったのです・・・・!!」

 

兵に身を守られながら撤退するその陳宮の目に、馬騰と共に立ち尽くしたままある方向を見つめる呂布の姿が映った。

 

「恋殿ーッ!!早く此方に退避・・を・・・?」

 

陳宮は兵の制止も聞かず、一心不乱に呂布の元に駆けつけ、そして呂布が見やる方向へと自分も目を向けた。

 

そこで彼女は絶句した。

 

何故なら・・・

 

彼女の目の前に広がる光景は此方を飲み込もうと近づくあの軍がすぐ傍まで来ていたからだ。

 

あの軍。

 

連合とは違い、早く此方に到着し今までちびちびと攻撃を仕掛けてきていた軍。

 

だが、その兵数は取るに足らなかったはずだ。

 

なのに。

 

「なんなのですかあの『大軍』は・・・?」

 

彼女達の目の前に広がる光景。

 

それは、この帝都『洛陽』を目指し、飲み込まんとする十万の大軍だった―――――

 

「おいおい・・・俺ぁ夢でも見てんのか?どっからあんなに大勢出てきやがったよ・・・?」

 

馬騰が思わず呟く。

 

「恋殿!!月殿達と共にここから早急に脱出をッ!!最早我等にはあの大軍まで相手にする余裕はありませぬぞ!?」

 

袖を引きながら呂布を揺さぶる陳宮。

 

しかしその言葉に反応したのは、呂布では無く、馬騰の方だった。

 

「おいそこのチビジャリ!!今『月』っつったか!!」

 

「誰がチビジャリですか!!というかお前には関係の無いことです!!」

 

求めていた人からの反応とは違う人から反応を受けた陳宮はすぐに噛み付くように言い返した。

 

「っるせぇ!!俺の質問に答えろッ!!あの城の中には、董卓がいんだな!?」

 

「・・・?月殿と貴女は面識があるのですか?」

 

「あるもなにも、俺は董卓をただ迎えに来ただけだぜ。帝都に行ったっきり戻ってこねぇから心配してりゃあ、いつの間にか連合は組まれるわ戦は始まるわで。・・・とにかく話は後だ!!こっから逃げるんなら、手ぇ貸してやる!!」

 

その言葉に陳宮は少し疑ったが、やがて決心したのかコクリと頷いた。

 

「よし、なら案内してくれ。・・・おい呂布。テメェはどうすんだ?」

 

その言葉でようやく此方を向いた呂布は、ただ一言「・・・行く」とだけ呟いた。

 

・・・そして三人は全速力で城内へと走り出した。

 

「何なのよあの大軍・・・!!明らかに情報と違うじゃないのよ・・・ッ」

 

ネコ耳フードを被った少女・・・荀彧は、爪を噛みながら頭をフル回転させていた。

 

彼女達の元に来た伝令兵・・・あれは恐らくあの大軍の放った偽報だろう。

 

(この私としたことが、まんまと相手の偽報に引っかかってしまうなんて・・・!!)

 

しかしあの大軍は一体これまでどうやってここまで行軍できたのだろうか?

 

いやそんなことよりもまず、あの大軍に対処するための策を考えなければ・・・

 

(見るからにあの軍の総数は十万とちょっと・・・だからといってこれ以上の援軍は無いとは断言できない・・・だけどそんな大勢力聞いたこと無いわよ・・・!!)

 

必死になって考えれば考えるほど頭にはなんの策も浮かばない。

 

頭から湯気が出そうな荀彧を暫く見つめていた曹操は、自身の忠実な将である夏候惇へと命を下した。

 

「春蘭、いつでもあの軍に攻撃できるように準備なさい」

 

「ッハ!!」

 

眼帯を左目につけた彼女は、颯爽と切り返して己の部隊へと戻っていった。

 

そこで曹操は考える。

 

(北郷一刀の件もあるのに・・・いや、今はそんなことよりも目の前のことに集中しなければ)

 

その彼女の見やる先にはあの所属不明・・・いや、正体不明の勢力が粉塵を上げながら行軍していた。

 

「あれれ?なんか予定と違って多くない?」

 

そう呟いたのは紀信だった。

 

「そうねぇ~、でもまぁいいんじゃない?何事も全て同じわけじゃないんだしさ?」

 

ニシシッと楽しそうに言って答える周苛。

 

「良くはないでしょうが、翼。貴女はいつもそうやって可笑しく言うけど、情報通りにしなければ、予測できない事だって起こりえるかもしれないのよ?以前にもこういう事があったときも・・・」

 

「あーはいはい、蘭判ったから、判ったから。ね?」

 

夏侯嬰が小言を始めようとする前に、周苛は手を振ってやり過ごそうした。

 

だが未だ煙立ち込める地面で、ユラリと立ち上がる一つの人影が。

 

「・・・・・・随分と舐められたものだな、この俺も。死合中に雑談など、自ら死を待つものだぞ?」

 

そういって煙から幾重もの真空刃が飛び出してきた。

 

それに反応して三人は飛び退いた。

 

「・・・やっぱあの程度じゃ死なないか」

 

「手加減したんじゃないの?蘭?」

 

「冗談でも笑えないわよ翼?私の事、判らないとは言わせないわよ?」

 

そして地面で巻き起こる爆発。

 

「だがこれで確認が取れた・・・貴様等は何一つとして変わってはいない。ッフン、少しは成長して殺しがいのあるかと思えば・・・全くがっかりだな」

 

砂埃が晴れたその場には、無傷の一刀が立っていた。

 

「・・・直撃だと思ったんですがね」

 

「いや、当たったが・・・俺に傷をつけるものでもなかったということだ」

 

「・・・・・・ッ」

 

その言葉に険しい顔つきになった夏侯嬰。

 

「アンタは相変わらず『化け物』だね」

 

皮肉交じりに紀信は言った。

 

その言葉に一刀はフッと自嘲するかのように笑った。

 

「化け物、か・・・ならば化け物の気持ちは化け物にしか解らぬもの・・・だかこの項羽、唯の化け物ではないということをその身に刻みつけてくれよう・・・」

 

そういうと、一刀は剣を変形させて一つの得物にした。

 

「名を『真黒』真の黒と書くこの長刀で、永劫にも続く苦しみをその魂に刻み・・・果てるがいい」

 

瞬間一刀からドス黒い気が噴出し、纏わり付き始めた。

 

最初は何も形を成さなかった気が、徐々に固形化していく。

 

そしてそのドス黒い気が体から完全に晴れたときには・・・

 

―――――――――――そこには漆黒の鎧を身に纏い、漆黒のマントを翻す一人の化け物がいた。

 

だがそこにいるという雰囲気は無い。むしろ『存在』すらしていない感じすら感じさせた。

 

そこに見えるのに『いない』。

 

言葉に表せばこうなるだろう。

 

「・・・・・・この体は素晴らしい。俺が思う通りに動き、思うが侭に力を使える・・・。身体能力、武術、気力全てにおいて使い勝手が良い。まさに逸材であったな・・・フッフッフ・・・」

 

暗い笑いを一頻りすると、最早一刀とは言えない姿となった鎧の男は三人へと飛び掛っていった。

 

その速さ、まさに神速。

 

一瞬にして紀信の前に立つと、その腹を腕で薙ぎ払った。

 

弾丸のように横に吹き飛ぶ紀信。

 

だが。

 

「・・・?」

 

一刀(鎧の男ver)の腕には彼女の手枷の鎖が巻きついていた。

 

彼女が吹き飛んだと思わしきところでは、鎖がピンと伸ばされており、彼女が空中で静止していた。

 

そして紀信はその鎖を思い切り手繰り寄せると、今度は一刀が同じ方向へと吹き飛んだ。

 

「ッラァッ!!」

 

それを地面に降り立った紀信が、猛スピードで突っ込んでくる一刀の腹に強力な一発を食らわせた。

 

・・・だがその拳はマントによって遮られ、有効なダメージは与えられなかったようだ。

 

一刀は即座に右手に持つ長刀『真黒』を、彼女目掛けて振り下ろす。

 

紀信は舌打ちをしながら鎖を解いてこれを回避。そして入れ替わるように今度は一刀の背後から周苛が襲い掛かる。

 

一刀は振り下ろした勢いを殺さず、そのまま後ろへと剣を振った。

 

直後に起こる激しい金属同士の打ち合い。

 

そこから始まる二人の命のやり取り。

 

一方は槍を三本巧みに操り。

 

もう一方はその槍一本一本の攻撃をかわし、受け止め、受け流し、その上で右手に持つ剣で命を奪おうと振り、開放された左手にはマントで相手の攻撃を牽制、撹乱した。

 

「クッ・・・!!」

 

先程と打って変わって思うように打ち合えない事に周苛は苦虫を潰したような表情をする。

 

「翼!!」

 

そこへかけられる声。

 

夏侯嬰は気合をいれ、ボクシングのように拳を構えて飛び出す。

 

入れ替わるように周苛は下がり、その前を夏侯嬰が受け持つ。

 

そこから始まる高速の打撃の数々。

 

連続正拳突きからのハイキックに一刀は頭をガードしたが、その腕に彼女の右足が引っかかった。

 

「せい、やぁ!!」

 

あろうことか彼女はそこを軸として、今度は側頭部へと刈るような鋭い回し蹴りを放ってきた。

 

ガンッ!!と激しい激突音が辺りに響く。

 

その蹴りは見事に一刀の側頭部へと命中したが、兜はビクともせず、ヒビどころか汚れすら付かなかった。

 

その足を一刀はむんずと掴み、そして・・・

 

「・・・・・・」

 

体勢はそのまま、左手に持ち替えた剣で斬りかかろうとした。

 

その時、その左腕に再び鎖が巻きついた。

 

「アタイの目が黒い内は、絶対に仲間は殺させないよ」

 

ギリギリと歯を食いしばりながら一刀の腕を自由にさせまいと引っ張る紀信。

 

そこへ再び一刀へと槍を繰り出そうとする周苛。

 

斬りつけることを断念した一刀は強引に夏候嬰を周苛へと投げつけた。

 

もちろん投げつけられた方も投げられた方もお互いをかわし、体勢を整えた。

 

だが一刀はそこで止まらなかった。

 

自分の左腕に巻きついている鎖を掴むと、力任せに引き千切り、両腕をマントの内へと隠した。

 

次にその腕がマントから出てきたとき、その二つの手には大型回転式弩が握られていた。

 

一刀はそのうち一つを紀信へ、もう一方を残りの二人へと突きつけた。

 

次の瞬間、轟音と共に打ち出された幾多の矢が細長い銃口から射出された。

 

三者三様にその矢を避ける彼女たちだったが、地面に当たるや否や凄まじい衝撃と粉塵を巻き上げる特殊な矢に圧倒されていた。

 

「っく!!これはちっとキツいね・・・!!」

 

「これじゃ近づけないわね」

 

「矢を打ち落とそうにも衝撃が強すぎて腕が痺れちゃうよ!!」

 

走り回りながら何とか弱点を探す三人。

 

だが背中にも目があるように、背後に回りこんでも一刀は正確に弩を打ち込んできた。

 

・・・既に周りは穴ぼこだらけになり、まともな足場は一刀から1.5メートル位しかない。

 

そこで弩は回転を止めた。

 

火薬特有の匂いをリボルバーから発しながら、それをだらりと下げる一刀。

 

「・・・・・・」

 

ざっと見渡す限りの穴、穴、穴・・・

 

その一つから微かに苦悶の声が聞こえてきた。

 

「っ・・・・!!」

 

声の主は周苛。

 

その足には何本もの矢が刺さっていた。

 

・・・正確に言えばグチャグチャになった足に、だが。

 

夥しい血と肉片を穴に撒き散らすその姿は、最早痛々すぎて直視できないほど。

 

その穴を見下ろす一刀は、一言。

 

「まずは一人」

 

とだけ呟き、何の躊躇いもなく弩を連射した。

 

『・・・・・・』

 

俺は目の前の女性に頷き、言われたとおりに項羽から意識を奪還しようと意識を集中させた。

 

・・・彼女から聞いた話は、とても悲しく、しかし尽きることのない愛が詰まったものだった。

 

(やる事、出来ちまったな・・・)

 

俺は心の中で今まで出会ってきた人達に対して謝った。

 

桃香達、雪蓮達、華琳達・・・僅かな時だったけど、それでも十分な位彼女達と過ごせたことはとても良かった。

 

知っているのと知らないとではきっと違うからな。

 

手加減は・・・しない。それはきっと彼女達にとって侮辱と同じことだと思うから。

 

『・・・ごめんなさい』

 

何を謝る必要がある?俺は唯好きでやるに過ぎないんだからさ。

 

『それでも・・・ごめんなさい』

 

俺はそこで振り向いた。

 

「待ってろよ、きっと俺が何とかしてみるって。アンタはここで待っててくれればいいんだからさ」

 

それに・・・

 

『それに?』

 

「・・・・・・アンタは俺の知ってる奴に似てるからな。そいつには笑顔が一番似合うと思うんだ。だから・・・」

 

アンタにも笑っていて欲しいんだよ。

 

『・・・・・・不思議なお方ですね。あの人とは大違い』

 

その言葉、本人に直接言えよ?

 

『判りました。それでは・・・彼の事、よろしくお願いします・・・』

 

そこで俺は意識が浮いたように感じて、目を閉じた・・・

 

「っぐ!?」

 

一刀は突然頭を抑え、その場で膝を突いた。

 

彼の目の前には矢でズタズタにされた周苛の姿があった。

 

腕は捻じ切れ、足はグチャグチャになり、胴体は内臓すら残らず、顔は判別が出来ないくらい破砕され尽くしていた。

 

そんな彼女を見もせずに一刀は弩を手放した。

 

「キ、キサマッ!!何故だ!?この体は完全に俺が支配したはず・・・?」

 

(生憎やる事ができたもんでね。手を貸してもらってこうして出てきたって訳さ)

 

次第に漆黒の鎧が塵のように崩れていく中、一刀は憎しみを込めた声で言った。

 

「一体、誰に、手伝っ、て貰ったと、言う・・・の、だ!!」

 

(お前が一番良く知る人物さ。その人に俺はアンタの事を頼まれたんだ)

 

「な、に、を・・・?」

 

一刀はここで初めて動揺した。

 

顔はまだ鎧に隠れてはいたが、その顔は恐らく怯えたものだっただろう。

 

己が復讐の理由である人物に、こやつは会ったというのか?

 

一刀・・・いや、項羽は混乱した。

 

「・・・グ、グゥウウウォォォォォォォオオオオッ!!」

 

両手で頭を抱え、絶叫する一刀の周りあった黒い塵が、風に吹かれて吹き飛ばされていった。

 

・・・風が止むと、そこには蹲る一刀の姿があった。

 

一刀は頭から手を離し、手にしていた剣を杖代わりにして立ち上がった。

 

「・・・・・・ふう。入れ替わり成功、みたいだな」

 

(・・・・・・・・・。)

 

「とりあえず、今は大人しくしていてくれ。話は後でしてやるからさ」

 

(・・・・・・ッフン)

 

そこで一刀は改めて辺りを見渡した。

 

辺り一面穴だらけになっていて、更には洛陽に大軍が押し寄せているのが目に入った。

 

どこの軍かは知らないが・・・連合軍ではなさそうだ。

 

「なぁ項羽。ここでお前は誰かと戦ったみたいだけど、逃がしたのか?」

 

(・・・・・・三人いたが、その内一人をここで殺した)

 

「でもよ、死体なんてどこにもないぞ?」

 

(・・・・・・・・・何?)

 

一刀は穴だらけになっている地面を見た。

 

一際穴が大きいところがすぐ近くにはあったが、死体どころか『血の一滴』すらなかった。

 

(・・・成程。ヤツ等め、やってくれる)

 

項羽は納得したかのように言った。

 

(おい貴様、上だ。死にたくなかったら上を注意しろ)

 

「上・・・?」

 

言われるがまま見上げたその先には・・・一人の少女と二人の女性が此方目掛けて落ちてこようとしていた。

 

「うおっ!?」

 

咄嗟にバックステップで離れると同時に、先程まで彼がいた場所には三本の槍と二つの拳が地面に突き刺さった。

 

「ありゃりゃ、避けられちゃった」

 

「・・・もう二度と自分の死に様なんて見たくないよ、蘭?」

 

「あれ結構疲れるから、今回きりよ」

 

それぞれ体勢を整えながら話す三人に一刀は困った顔をした。

 

「・・・・・・なぁ項羽。もしかしてあの三人がお前の言ってた奴等なのか?」

 

(・・・そうだ。しかし、よもや気で分身を作るとはな。俺の鎧を見て咄嗟に思いついたのだろうが・・・やってくれる)

 

一刀は項羽が何を言っているのかチンプンカンプンだった。

 

「あれ?なんだかさっきと雰囲気が違うみたいだよ?」

 

鎖をジャラジャラ鳴らしながら少女が言った。

 

「ん?・・・そうだね。あの黒い鎧もなくなったし、何よりあの刺々しい気じゃなくて、穏やかな気になってるね」

 

「えーっと、我々と戦う意思がなくなったということですか。項羽?」

 

残り二人の女性も得物と思われる槍とグローブみたいな物を構えながら一刀に聞いた。

 

「・・・・・・項羽。お前この人たちの事知ってるみたいだな」

 

(・・・・・・。)

 

一刀の問に項羽は返事こそしなかったが、同意の意思を示した。

 

「んじゃ判ってる事だけでいいから、情報を」

 

(ッフン。俺に指図するな)

 

しかし言葉とは裏腹に脳内では彼女達三人についての情報が次々と現れていた。

 

戦闘スタイルとデータ、それに項羽との関係についての情報を一瞬で見た一刀は、三人に向き直って口を開いた。

 

「・・・すまないけど、今の俺は項羽じゃないよ。紀信さん、周苛さん、夏候嬰さん」

 

その一刀の言葉に三人は目が点になった。

 

「どうやら項羽が俺の体を乗っ取って、そちらに攻撃をしたみたいだからさ。それについては謝るよ。この通りだ。」

 

そういって一刀は深く頭を下げ、剣を鞘へとしまった。

 

その様子を見ていた夏候嬰が、拳を下ろしてそれに応じた。

 

「いえ、謝らずとも結構ですよ。此方もそちらが意図していなかったとはいえ、それに応じてしまったのは確かなのですから。」

 

鎖を四肢に巻きつけ終わった紀信が、今度は口を開いた。

 

「・・・ホントにアンタは項羽じゃないんだよね?」

 

「項羽は俺の中にいるさ。唯、今は俺が抑えてはいるけどね」

 

「中々面白いことになってるみたいだな」

 

周苛も槍をしまい、口を挟んできた。

 

(おい、貴様。何故こ奴等と戦わん?俺が劉邦に組し者を憎んでいる事は知っているだろう!?)

 

頭の中で項羽が激しく言ってきたが、一刀は気にした様子もない様だった。

 

「俺の名前は北郷一刀。一応この連合に参加していたものだよ。」

 

「ん?参加していた・・・?」

 

その言葉に周苛が反応した。

 

「では貴殿・・・北郷殿は今は連合軍ではないというのか?」

 

「あぁ。そのとおりだよ。・・・・・・ある人から頼みごとをされてね。それをするには連合に戻るわけには行かなくなったというわけさ」

 

(・・・・・・・・・。)

 

「では何故この地に?」

 

夏候嬰の問に一刀はこう答えた。

 

「項羽に無理矢理、ね。なんだか君達の気配を感じたとか言って、俺をここに来させたんだ。」

 

(・・・ッフン)

 

「で?キミは誰に頼みごとをされたんだい?」

 

「・・・・・・ゴメン。それは、いえない」

 

一刀は三人から背を向けていった。

 

「それより君たちはここで俺に構っていていいのかい?君たちの軍が既に攻城を進めているみたいだけど」

 

今まさに洛陽に攻撃を仕掛けようとする二つの軍勢があった。

 

それを見た三人は馬を呼び寄せ、跨りながら一刀を見た。

 

「北郷さん、貴方にはまだまだ聞きたいことがあるのですが・・・致し方ありませんね」

 

「無理に連れて行こうとしても、きっと抵抗するだろうし、今回は見逃してあげるよ」

 

「だけど、この件については私たちの主に報告させてもらうわ。・・・その時は覚悟してね」

 

三人の言葉に一刀は、

 

「・・・・・・わかった」

 

とだけ答えた。

 

それから間もなくして、一刀は再び一人になった。

 

そして一人佇む一刀に項羽が話しかけた。

 

(・・・俺の支配から体を取り戻すほどだ、一体誰から何を頼まれたのだ?)

 

「・・・・・・虞の姫から、アンタを頼まれた」

 

(・・・ッ!!)

 

一刀の言葉に項羽は絶句した。

 

しかしそれも一瞬のこと。続け様に項羽は言葉を紡ぎ出した。

 

(・・・何故貴様が虞を?・・・いや、それよりも虞は貴様に俺のことを託すと、そう言ったのか?)

 

「あぁ、俺がアンタに体を乗っ取られたときにな。・・・あの人のことをよろしくお願いしますってな」

 

(・・・・・・・・・)

 

再び黙り込む項羽を無視して、一刀は更に言う。

 

「虞の姫の言葉をそっくりそのまま伝えるよ。・・・『項羽様、どうか私のことでこれ以上苦しまないでください。貴方にはこの地で暮らす全ての人々を束ねるという志があったはずです。私は貴方のその志に感銘し、共に歩もうとしたのです。・・・どうかその気持ちをを思い出してください。貴方がここに来た理由は復讐の為ではなく、きっと叶えることができなかったその志なのですから。――――――最後に・・・貴方と共に過ごした日々、決して忘れはしません―――――』」

 

(・・・虞よ・・・)

 

――――キィィン――――

 

いつしか脇に差してあった蒼天が震えだした。その姿はまるで、泣いているかのようだった。

 

一刀はその柄にそっと手をかけ、言った。

 

「姫さんは、消える最後の時までアンタのことを心配してたんだ。・・・あと、あの人はアンタに殺されたことを感謝していたよ。大好きな人の手で逝けるのだからって」

 

暫く剣は鳴り響いていたが、次第に収まっていった。

 

(・・・・・・力を、貸してくれ)

 

その言葉は、先程とは違い純粋に仲間を求める声だった。

 

(俺と虞、そして散っていった将や兵達の想いを今度こそ成し遂げたいのだ。・・・今まで貴様にしてきたことを見れば、言えぬ事だが・・・)

 

「・・・・・・俺最初に言ったよな。姫さんからアンタをよろしく頼まれたって」

 

(では・・・?)

 

「あぁ。でもだからって体を乗っ取るのは無しだ。俺にもやりたいことがあるしね」

 

(・・・・・・無論だ)

 

そして一刀は歩き出した。

 

親友や仲間達のいる帝都に背を向け、涼州へと。

 

「・・・・・・今度会うときは、敵同士だ。―――――皆」

 

太公望に跨り、静かに走り去った・・・

 

帝都洛陽の長く続いた攻防戦は一刀が居なくなってからあっけなく終了した。

 

何故ならば、謎の大軍団が将三人を迎え入れた途端に、いきなり退却を始めたからである。

 

しかし連合軍は生き埋めになったとされていた天の御使い、北郷一刀の目撃情報や度重なる連戦、更に先の大軍団との戦闘で追撃をかけることができなかった。

 

その連合軍が帝都に侵攻した際見たものは、袁紹の召集に書かれてあったものとは違っていた。

 

民達は暴政に虐げられていたのではなく、むしろよく治めてあったほどだ。

 

だがそんなことにはお構い無しに、諸侯達は己の真の目的を果たさんが為動き出した。

 

その結果、帝都は混乱し、暴走した一部の兵達は一気に略奪を開始した。

 

しかし孫策軍、曹操軍、劉備軍、馬騰軍、公孫賛軍は帝都の状況を見るや否や、早々に撤退していった。

 

宮中では、董卓と思える男と、数人の武者姿をした者達が自害した姿を袁紹、袁術軍が発見し、終息を迎えることとなった。

 

こうして、反董卓連合は解散したのであった。

 

・・・・・・そして月日が流れ、半年が経った時に、再び戦乱の世が切って落とされることになった―――――

 

 

 


 
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