※注意※
この作品には以下の点が含まれる可能性があります。
・作者の力量不足によるキャラ崩壊(性格・口調など)の可能性
・原作本編からの世界観・世界設定乖離の可能性
・本編に登場しないオリジナルキャラ登場の可能性
・本編登場キャラの強化or弱体化の可能性
・他作品からのパロディ的なネタの引用の可能性
・ストーリー中におけるリアリティ追求放棄の可能性(御都合主義の可能性)
・ストーリーより派生のバッドエンド掲載(確定、掲載時は注意書きあり)
これらの点が許せない、と言う方は引き返す事をお勧め致します。
もし許せると言う方は……どうぞこの外史を見届けて下さいませ。
第7話
「……これが人の体の中の内臓で、こっちが骨格……骨だな」
「なるほど、体の中はこうなっているのか……流石に腑分けする訳にもいかないからな、実にありがたい。
なあ北郷殿、この並び方は誰であっても同じなのか?」
「ああ。時々左右が逆になっている人が居るとか聞くけど基本的には同じ筈だよ。どんな働きをするかは、
動物で考えてみると分かりやすいかも知れない。人間にない器官を持っているのも居るけど」
「と言う事は……一刀君。肝臓は食べると精が付いたり、胃袋は中に物を詰め込めたりするのか?」
「そうだね、肝臓は食べ物の栄養を蓄えておく器官だし、胃は食べ物を詰め込んで溶かした後、収縮して奥に届けるかな」
もうじき太陽が昇りきるという頃、漢中の城の一室にて一刀は華陀や稲穂と額を付き合わせ、勉学に励んでいた。
荷物の中にあった生物や保健体育の教科書、ノートなどを用いて現在二人に教えているのは人体の内部構造。
儒教が根底にあるこの時代では例え罪人や死人であろうとも解剖……腑分けは忌避される傾向にある。
故に大まかな形で内臓や骨の配置や形状は理解できていても詳しくは調べられなかったのである。
だが一刀の持っていたこの教科書により彼らは人体の構造をはっきりと学ぶ事がで来たのである。それは即ち、
彼らゴットヴェイドー修得者達がより治療をしやすくなったと言い換えても良いだろう。
「それから同じ様な役割の内臓にもそれぞれ分担があって、穀物なんかは唾液で、肉類は胃液で……と言う風に、
分解されたり吸収される場所が違うんだ」
「そっか!それで腹が痛いって言う患者でも人によって全然症状が変わるんだな!」
「道理で腹が痛いと言っているのに病魔が胸の近くにあった訳だ……あの患者はそう言う事だったんだな……!」
二人とも長年の疑問が解けたという様にスッキリとした顔で一刀を見つめ破顔していた。
と、部屋の扉が開いて陳宮・陳夕親子が入ってくる。あちらも今日の分の勉強を終えて来たらしい。
政務の内容が書かれた大量の竹管を抱えてにこにこ笑っている陳夕と疲労困憊といった様子の陳宮の対比に、
三人は心の中で陳宮の苦労を労っていた。ちなみに口に出さないのは彼女達の勉強に巻き込まれるのを防ぐ為である。
「も、もうダメなのです……」
「あらあら。ねねちゃん、これくらいで根を上げちゃダメよ?今度は陣形の相性についてですからね」
現在は政務を教え込む傍らで軍師としての指導も行っているらしい。
前に一刀が巻き込まれた時は空城や離間などの計略を数個、実例を挙げて説明できる様になるまでみっちり叩き込まれた。
指導の際の陳夕が浮かべる笑顔は生き生きとしているのに何故か寒気がした、一刀はそう周囲に漏らしていた。
「それじゃそろそろ良い時間だし、一度切り上げて昼食にしようか?」
「そうだな……皆、今日は何が良い?あたしは今気分が良いから要望を聞いちゃうぞ?
何も無いならいつも通り炒飯にさせて貰うけどなっ!」
稲穂が厨房へ向かう前に一同に問いかける。勉強に励んだ後は彼女が皆の食事を作るのが日常風景となっていた。
彼女に言わせれば貴重な知識を学ばせて貰っているのだからこれくらいは当たり前との事らしい。
「俺は何でも良いよ、稲穂の料理は何でも美味しいし」
「そうだな、俺も北郷殿と同じ意見だ。楽しみにしてるぜ?」
「うう……ねねは非常に疲れたので回復を早める様な料理が良いのです……」
「そうですねー、午後からは武術訓練も待っているから疲れが取れる物でお願いします」
「な、何ですとーーーー!?」
「あはは、それじゃ体力を付けないといけないな。すぐ用意するから食堂で待っててくれな!」
朗らかに笑って厨房へ向かう稲穂を見送った一刀と華陀は、がっくりと肩を落とす陳宮に哀れみの視線を送る。
陳夕はあらあらと笑いながら陳宮の頭を撫でつつ、一刀達に向き直ってにこりと微笑んだ。
「一刀君に華陀君?勿論二人も参加するんですよ?稲穂ちゃんもね?」
穏やかながらも拒否を許さぬ凄みのある声に、二人はただ頷く事しかできなかった。
食堂にていつも通り、大きな卓を囲んで食事を取っている一刀達。
卓の上に並ぶのは細切りの豚肉を共に炒めた炒飯や野菜の餡をかけた炒飯、茸を煮込んだ羹。
焼売や肉・野菜の詰め込まれた汁気たっぷりの饅頭に野菜の炒め物などであった。
漢中は海から離れている故に魚介類がなかなか出せないのが悔しいというのが稲穂の言である。
それはさておき一同は出来たての料理に舌鼓を打ちつつも午後の予定に付いて会話していた。
「武術訓練って事は……今日はどうする?陳宮に華陀と稲穂で空手の型やらを復習するかい?」
「あたしは前みたいに一刀と打ち合いたい良いかなー。武器を持った相手の訓練ってなかなか出来ないし」
「俺は陳夕殿と手合わせしてみたいかな?以前はあっさり負けたが今回こそは……!」
「ねねは稲穂と勝負したいのです、この前の様にはやられませんぞー!」
「ふふふ、みんな若いですねー。私も今日は空手の方に混ざりたいです」
それぞれが要望を述べながらも箸やレンゲ、手を止める事無く食事を進めていく。とはいえ口の中に物を入れたまま
喋る様な真似はしないため、雰囲気も非常に良い物があった。
「じゃあ手合わせの順番はどうしようか……俺は訓練みたいな物だし最後でも構わないけど」
「そうだな、あたしもそれで良い。最初に音々と手合わせしてから一刀と訓練だな。音々、今日も勝たせて貰うよ?」
「ふふん、今までのねねと同じだと思っているなら稲穂の負けなのです!」
「じゃあ私は華陀君ですね、お手柔らかにお願いしますね」
「こちらこそ、精一杯頑張らせて頂きますよ陳夕殿」
そんな会話が繰り広げられる中、食堂に居た者達の間でもこの様な会話が行われていた。
「なあ、今日はどうなると思う?俺は張魯様と陳夕様に明日のおかず一品賭けるぜ」
「んじゃ俺は陳宮様と陳夕様の親子に賭けるわ」
「俺は意外性を重視で陳宮様と華陀さんかな」
口々に今日の手合わせの結果を予想し賭けに走るが、賭の対象となる一行は気にも留めていない。
実際の金銭を掛けるのならば咎めるが賭けている品が品なので息抜きになるだろうという稲穂の意見からである。
それに賭けの対象とされる以上は手が空き、時間を作って見学に来た者達の応援を受けると言う事でもある為、
自分たちにも良い影響をもたらすだろうという考えもあった。
こうして昼食時の簡単な賭け事は黙認され、兵や家臣の良い余興となっていたのであった。
「せいっ、てりゃ!……うりゃあっ!」
「とっとと……甘いですな!そんな攻撃には一生当たってやらないですぞ!!」
練兵場にて二人の少女がぶつかり合い気合いの入った声を上げている。
拳と蹴りを次々に繰り出すは朱色の髪の少女。相手の体格と防御力を見れば一撃加えるだけで楽になる、
それが分かっている彼女は拳を左右交互に突き出し、或いは打ち下ろして相手を牽制しつつも、
本命である蹴りを放つ機会を狙ってひたすらに相手を攻めている。
その攻撃を体の小ささと俊敏さを活かして回避しながら相手を挑発するは翡翠の髪の少女。彼女は致命的な隙を見せぬ様、
細心の注意を払いながら相手の拳を避けつつ軽い一撃を当て続け、消耗を待っている。
「北郷殿、今日はどっちだと思う?」
「そうだなあ……稲穂の方が消耗が激しい気がする。まだ体力が残っている内に当てられれば分からないけど」
「稲穂ちゃんはこうと決めたらまっすぐですものね、今回はそれが裏目に出ているかしら」
一刀と陳夕の答えに、問いを放った華陀もまた同意して頷いている。先程から陳宮へと拳を繰り出している稲穂だが、
あくまでも目的は本命の蹴りに繋げる為の布石であり牽制の為、拳そのものを当てて倒そうとは考えて居ないのである。
更に陳宮の小柄さは攻撃する側にとっては狙いを付けにくく攻撃を当て辛い作用をもたらす。
それに加え、陳宮の挑発めいた言葉でムキになって攻撃を仕掛けている稲穂、という状況はどちらが有利か言うまでも無い。
「このぉぉぉぉっ!」
と、突然回避の速度を緩めた陳宮に対して好機と見たか裂帛の気合いの声と勢いよく体を捻り回し蹴りを繰り出す稲穂。
しかし稲穂が回転の為に後方を向いた一瞬の間に陳宮は勢いよく稲穂の足下へと滑り込んでおり……。
「甘いのです、ちんきゅう~……回転、き~っく!」
「痛ぁー!?って、え、嘘嘘うそふぎゃっ!?」
頭上を稲穂の足が通り過ぎたと見るや体を起こすと回し蹴りの姿勢のまま止まった稲穂に向けて回転蹴りを放つ。
稲穂の軸足、それも臑を強かに蹴りつけたその一撃でバランスを崩され、哀れ稲穂は顔面から地面に倒れ込んだ。
「はい、そこまで!今の動きは凄かったな陳宮、稲穂を完全に手玉に取ってたぞ。
稲穂は……あちゃー、綺麗に決まったなあ。おーい稲穂、大丈夫かー?」
「大丈夫だろう北郷殿、あの感じならそれ程の傷は負っていない筈だ。稲穂、立てるか?」
「ねねちゃん、早速この前教えた技を使ったのね。勉強熱心で良い事だわ」
審判役を務めていた一刀の声を受け陳宮は倒れたままの稲穂に一礼すると笑顔で駆け寄ってくる。
凄いだろうと言わんばかりの陳宮を撫でてやりながら稲穂に視線をやればよたよたと起き上がる稲穂。
整った顔に土がこびりつき少々悲しい事になっていた為、一刀と華陀はさっと視線をそらし陳夕が手拭いを渡す。
顔を拭って汚れを落とした稲穂は陳夕に礼を述べると、仰向けに倒れ込んで大声を上げた。
「あー、今回は完全に負けたー!この前やった時と同じならとっくにばててた筈なのに-!!」
「ふふん、この前の様にやられはしないと言った筈ですぞ?」
そんな稲穂を見下ろしながら勝ち誇るのは陳宮。前回手合わせをした時は見事に蹴りを貰ってやられた為か、
今回の勝利が実に嬉しいらしい。
「しかし二人とも武将でもないのに強くなったよな……」
一刀はそんな二人を見て思わずそう呟いた。実際の所陳宮も張魯も武将ではなく文官型の人間である。
むしろ漢中という土地全体が武より智を重視する場所であり武官と呼べる人材が居ない。
よって自衛の為にも人不足を補う為にも文官達が武術を嗜むと言う風土が出来てきており、
また太守として戦に出る事も想定される事から、稲穂らは武術を嗜む様になったのである。
「さて、それじゃ次は俺達だな。陳夕殿、よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いしますね、華陀君。お手柔らかに」
先程までの二人の手合わせと違い華陀と陳夕のぶつかり合いは凄まじいの一言である。
身体能力で言えば華陀が圧倒的に陳夕を上回っており一撃の重さも速度も段違いであった。
しかし陳夕は身体能力の差をこれまで培った経験や技術で埋めてしまい、ややもすれば覆しさえする。
更に身体能力も、華陀と稲穂の分析によると「文官となってからの運動不足」であった為に徐々に向上していた。
その為陳夕との手合わせで華陀の攻撃技術が磨かれ経験が蓄積されていようとも易々と行かないのであった。
「どんどん行きますよ?それ、それ」
「くっ……相変わらず、っと、早いっ!」
華陀の繰り出した拳を軽くいなした陳夕はお返しとばかりに貫手や手刀を次々と繰り出した。
咽頭や筋肉の割れ目、肋骨の間など肉体的に守られていない場所を鋭く狙う連撃を、華陀は必死に避けている。
この攻撃の前には華陀の鍛えられた肉体といえど容易く傷を負わされるであろう。受け止めたとしてもその瞬間足が止まり、後に待つのはこの貫手とは比べものにならない威力を持った拳の一撃なのだ。
「くそっ……手が出せない……!だがしかしっ、このままやられる訳には行かないんだっ!」
それでも華陀は怯まない、彼を突き動かすのはゴットヴェイドー修得者としての誇り、そして意志であった。
かつてあるゴットヴェイドーの医師は薬の材料を得る為に竜とすら戦い勝利を収めたと言い伝えられている。
その境地に立たねばならぬと自分に言い聞かせ修行に励んできた華陀である、人の拳で止まる事を良しとはしない。
「病魔を見通す時の様に動きを見極められれば……!!そうかっ!!」
華陀が何かに気付いたかの様に叫びを上げる。それを隙と見て一息にとどめを刺そうと陳夕が迫る、
しかし華陀はこれまでと打って変わって最小限の動作で陳夕が繰り出した貫手を躱して見せた。
それだけではなく陳夕の腕が伸びきって引き戻されるその一瞬に手刀を落として反撃さえして見せた。
だが陳夕は華陀の反撃を腕を引き戻すのではなく体を捻って腕を鞭の様に振るう動作に変えて更なる反撃を行い、
それを読んだ華陀は後方へ大きく飛びすさって陳夕の攻撃を躱してみせた。一連の攻防に周囲から歓声が上がる。
「急に動きが良くなりましたね……いえ、一刀君並に目が良くなったんでしょうか?」
余裕があるのだろう、こてんと可愛らしく首を傾げて呟く陳夕の声が聞こえたのだろうか、華陀が陳夕に向けて
拳を突き出しながら声を張り上げた。
「やはりっ、思った通りだっ!陳夕殿、貴女はまだ完全に体が治りきっていない……だからこそ!
体を動かせば、その身に巣くう病魔も動く事になる!奴らは体の動きを鈍らせているからな……。
病魔が動きを阻害している方向を見極めれば、攻撃の軌道も読めるんだっ!」
華陀の言葉に一刀や陳宮は純粋に驚き、稲穂はその通りと言わんばかりにうんうんと頷いていた。
そして陳夕はと言えば……。
「なるほど、そう言う見切り方もあるんですね……けれど、これならどうでしょうか?」
にこりと微笑んだ瞬間地を蹴る音と共に陳夕が消えた。華陀も一瞬の事に驚愕の表情を浮かべており。
「ちんっ……ゆうっ……浴びせ蹴りぃぃぃぃっ!」
「な……がはあっ!?」
叫び声と共に上空から陳夕が降ってくる。思わず見上げた華陀であったが視界に入ったのは強烈な太陽の光。
日光を己の姿を隠す為に利用したのだ。そして陳夕は華陀に激突すると思われる直前に空中でぐるりと体を捻ると、
踵を華陀の肩口に叩き付けた。その衝撃で華陀の体が逆Uの字に折れ曲がり、堪えきれず足が浮き上がる。
そうして半回転して仰向けに倒れ込んだ事から叩き込まれた攻撃の威力の程が伺えた。
「うふふ……拳だけが取り柄ではありませんよ。まだまだこう言った搦め手には弱いみたいですね?」
「ぐぅ……っ、そうです、ね。俺の完敗です。今日こそは一本取れると思ったんですが……」
「まだまだ、一対一での短時間でなら誰にも負けるつもりはありませんよ?」
陳夕はゆっくりと身を起こすと衣服に付いた土埃を払い落としつつ華陀に微笑みかけた。
華陀もまだ起き上がれない様だが意識ははっきりと保っており苦笑いを浮かべつつ負けを認める。
こうして本日の手合わせは無事終了し……。
「よし、あたしは回復したし手合わせしよっか?一刀君」
「一刀君、私も武器相手の勘を取り戻したいので付き合って下さいね?」
「ねねも混ぜるのです、今日こそは北郷殿に一撃入れてみせるのですぞ!」
練兵場を後にしようとした一刀の肩や袖をがしりと掴む三本の腕に恐る恐る振り返れば良い笑顔の三人。
華陀も自分の怪我の様子を見ながらも頑張れと言う様に親指を立ててきた。
「……お手柔らかに、お願いします」
諦めを込めてそう告げると模造刀を構える一刀。救いは三人とも試合を行った後で体力が万全ではない、と言う事か。
気休めだと心のどこかで囁く声もするが一刀にとってはそれだけで十分なのである。
…………その日の結果は何とか一人で部屋に戻る事が出来たと、だけ言っておこう。
そうして漢中での日々は過ぎていき、討伐に出ていた丁原達も補給や部隊の再編成を兼ねて一度帰還した。
率いていた兵も負傷者こそ出たが幸い死者は出ておらず、稲穂以下五斗米道の信仰者が治療に当たると確約した為、
丁原は負傷した兵を漢中の街に留まらせ治療を受けさせている。
そして稲穂達と丁原達はこれからの事に付いて話し合う為謁見の間に集合していた。丁原達と行動を共にしていた張衡は
既に方針を把握していたが太守はあくまで稲穂であり、太守に報告を行うという形式が大切なのであった。
「これからの事だけど~、漢中の賊はあらかた討伐したわ~。賊の本拠地は西涼の手前、
武威と天水の辺りらしいわね~。次の出陣で一気に残った賊を北へ押し上げるわ~」
「天水の方にはウチが先行して話付けてきたからな、西涼の方も馬騰……馬一族率いる連中も協力を申し出て来とる。
あっちとこっちで挟み撃ちにして一気に殲滅を狙えると思うで」
丁原と張遼の説明に賊討伐の終焉も近いのだと安堵を覚え、同時に張遼が先に天水へ行ってきたと聞き興味を引かれる一刀と陳宮。
しかし軍議の席であり、なおかつ客将ですらない立ち位置の為に口を挟む事も表情に出す事もしない。その様子を見て満足げに頷く陳夕が視線で丁原に続きを促した。
「私達は兵を再編し終わったら再度出撃して~、包囲網を作る形で北へ進撃、天水に向かうわ~」
「ウチらの来るのを待って天水からも出撃。西涼の連中は一ヶ月後に打って出るっちゅーてたからあっちに合わせる感じや。
大体一週間後に出撃して、半月掛けて西涼の入り口辺りに辿り着けば上手く挟み撃ちに出来るんやないかな」
「ただ~、もし包囲を抜かれればこっちに賊が雪崩れ込む恐れもあるわ~。勿論それはない様に動くけれど~……。
追い払った賊があっさり北の方へ逃げちゃったから、大丈夫だとは思うわよ~」
「そうか……ありがとうございます」
二人の報告に稲穂は礼を述べるとしばらく考え込む。数分後、顔を上げた稲穂は決意に満ちた顔をしてこう言った。
「なら引き続き母さんも同行させて欲しい、太守として私も前に出たいけど……あたしは負傷者の治療の為に残る。
華陀、良かったら付いて行って貰えるか?きっと怪我人も出るだろうけれど母さんと二人なら被害は最小限に抑えられる。
それから……陳夕さんは申し訳ないけれど私の補佐をお任せします。出来れば軍師として行って欲しかったけれど……」
幾ら知恵が回る上に破格の戦闘力を持つ陳夕とは言え、療養中の身である。流石に病人を戦場に送り出す訳にもいかない。
そう言ってから稲穂は一刀と陳宮の二人に目をやると、深々と頭を下げた。
「一刀君、ねね。頼みがある、無茶な事を言っているのは百も承知だけど賊討伐が終わるまでうちの客将となってくれ!」
稲穂の申し出を驚き半分、やはりそう来たかという気持ち半分で一刀は聞いていた。陳宮も似た様な表情を浮かべている……が。
この顔は仕方ないなと考えつつも相手の頼みを聞こうという表情だろう。一刀がそう思ったのに合わせる様に、陳宮は頷いた。
「こちらでは随分世話になりましたし、ねねは助力する事に異存はありませぬ。軍師としてならば役に立てると思うのです。
丁原殿達について行けというなら喜んでついて行くのです」
陳宮は丁原達と共に前線へ向かう事を決めたらしい、ならば一刀はどうするのかと皆の視線が一刀へ向かう。
一刀も協力する事に異存はなく、むしろ何か手伝えればと思っていた為に稲穂の言葉は渡りに船であった。
「俺も、どれだけ役に立てるかは分からないけれど……力になるよ。よろしく頼む」
一刀の返答を聞いた皆の顔に安堵の表情が浮かぶ。もっとも丁原や張衡は本当に良いのか?と一刀を案じる表情も
浮かべていたのだが、構わないという様に一刀は一つ頷いて見せた。
「それじゃ一刀君も丁原さん達と一緒に行軍するって事で良いか?」
「いや、悪いけれど俺は此処に残ろうと思う」
稲穂の言葉にそう返した一刀へと再度視線が集まる。特に一緒に来るとばかり思っていたらしい陳宮と、
一緒に向かうのだと思っていた稲穂の顔にはどうしてだ、理由は何だという疑問がはっきりと浮かんでいた。
「さっき丁原さんが言ってたのが少し気になってね。あっさり逃げ出したって言うのが引っかかるんだ。
丁原さん、他に賊と戦った時もあっさりと逃げ出したんですか?」
「……いいえ~、これまで討伐した賊は少なくともあんなにあっさりも、綺麗にも逃げ出しはしなかったわね~。
数の有利がひっくり返るまではしぶとく抵抗して、逃げる時もてんでバラバラだったわ~……そう言う事なの~?」
一刀の質問に丁原も何かに気付いた様に、慎重にこれまでの事を思い返しながら確認の意味を込めて返答する。
一刀がそれに頷くと陳夕も即座に頷き、一拍遅れて張衡と陳宮も大きく頷いた。
「……?」
「一刀君?逃げ方が何か関係あるのか?」
「逃げ方が気になるん?けど……ん?まさか、そう言う事なんか!?」
「他の賊との違いは……そうか、分かったぞ!!」
呂布や稲穂はその動作に首を傾げており、張遼や華陀はしばし考えてから答えに辿り着いたらしい。
一刀は再度頷き、口を開いた。
「動きが整然としすぎている。これまでバラバラに逃げていたのは単純に敗走と見ても良いと思うけどさ。
いつもより早く、それもあっさりと逃げたとなると……何か策があるのかも知れない」
固い口調の一刀の言葉を、誰も否定しなかった。賊が策を用いるなど心配のしすぎだと笑う事は誰にでも出来るだろう。
しかし相手を甘く見て過小評価する事がどれほど危険なのか、彼女達は分かっていた。
「被害が余りない内に逃げるのなら消耗を抑えると言う事だろ?だったら拠点で決戦を行うつもりかも知れないし、
逃げたと見せてここから皆が出陣した隙を狙うつもりかも知れない。どっちにしても何かあると思うべきだ。
だから万が一に備えて稲穂以外にも一人は残っておいた方が良いからね……それに俺、馬に乗り慣れてないし」
言外に行軍速度を遅らせる訳にもいかないと述べたのだが余りに悔しそうな様子に思わず一同は吹き出してしまう。
憮然とした表情の一刀であるが、話を進める内に少しずつ固くなっていた皆の表情も和らいだ為良しとする事にした。
「ならあたしと一刀君で漢中は守り抜かないとな……みんなも気をつけて、絶対帰ってくるんだぞ!」
「勿論よ~……でもそうね~、念の為に兵を幾らかおいていくわね~」
丁原の好意もあり漢中には兵凡そ三百名が残される事となり、治療中の負傷兵を合わせれば五百を超える事となる。
漢中の兵も二千が残り守備兵は総勢二千五百。くれぐれも気をつける様にと言い残し丁原らは賊討伐の為北へ出陣した。
そして一週間後。物見の兵より稲穂の元へと急ぎの連絡が届く。
一刀達の危惧していた通りに多数の賊が漢中を目指し北西の山間部より接近中。
その数――――――――――――――――凡そ五千。
今回は此処まで、本格的な戦争場面は次回となります。
戦争となれば何か。そう、ようやくこのお話の売りであるバッドエンド(待
と言う訳で次回はバッドエンド搭載となりますのでご注意下さいませ。
そしてコメント部分で返信できなかった疑問質問への回答及び今回の予防回答を。
Q.ゴッドヴェイドーの発音は出来る人少ないの?
A.少ないです。むしろ英語的な発音が完璧なのは華陀くらいでありその他の修行者は、
一般人よりはやや英語の発音に近いかなと言うレベルです。
Q.陳夕フラグ立ってない?
A.結婚しても良い、と結婚する、は別のベクトルですよね(何
Q.陳夕の技はパンチじゃないの?
A.通常技はパンチですが必殺技イメージは森部のじーちゃんです。分からない人は調べれ。
Q.兵数少なくね?
A.まだ黄巾の乱も起きてないから軍備に力入れてないのでこんな物です。
以上となります、疑問質問などがありましたらネタバレ以外はお答え致します。
それでは、またいずれ。
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こんばんは、第7話が完成しましたので投下します。
今回は主に漢中の居残り組がどんな事をしていたのか、
その様な部分に焦点を当ててみました。
それではどうぞ暖かく、時に厳しく見守って下さい。