「ツン!恋姫夢想 とある外史のツンツン演義」
「第六話 少女が詠むは誰が為の謳?のこと」
ボクの名前は賈駆。字は文和。真名は詠、っていう。
ボクは今、荊州の水鏡塾っていう私塾にいる。この塾の創立者であり、塾長でもある司馬徽先生の下、故郷である涼州を離れ、軍略の勉強に勤しんできた。
すべては、ボクの大親友である、月(ゆえ)こと、董卓仲頴のため―――。
月は今、涼州で安定という地の領主をしている。けれど、今の月の傍には、”策”というものを進言できる、参謀的な人物が居ない。
昔からの付き合いである、華雄、張遼といった豪傑ならば居る。だけど、二人とも確かに武人としては一流の人物なんだけど、正直言って、参謀には絶対に向いていない。
張遼こと霞は、確かに頭の切れるところもあるけれど、その本質はやっぱり武人なわけで。……華雄にいたっては、ただの猪だしね。
だから、ボクがその役を買って出ることにした。親友を助けるのは当たり前のことだもの。
けど、涼州の片田舎じゃあ、軍略をまともに教えているところなんて、なかなか無いわけで。最初のうちは、行商人から買い付けた書物だけを頼りに、一人で勉強していたんだけど、独学じゃあどうしても限界があったのよね。
なので、故郷を離れて都に出向き、きちんとした学問所に通うことにしたわけ。
はじめは、都にある太学に入るつもりだった。入試だってちゃんと合格したし、入学金だってきちんと支払った。そして、月たちに見送られて、ボクは勢い勇んで洛陽に向かったわ。
けど。
件の太学についたとき、ボクは自分の目を疑った。
太学は、閉鎖されていたのだ。
門の前には大勢の、ボクと同様、太学に入る予定だった連中が大挙して押し寄せ、門に張られた一枚の紙を凝視していた。そこには、こう書かれていた。
『財政難のため、本年より無期限休校とする』
と。
ボクは昔から、とにかくなぜだか運が悪い。お茶を飲もうとした時に、うっかりこぼして全身にかぶったり、なんてのはよくあること。たまたま、道に寝ていた犬の尻尾を踏んでしまって、追っかけられた挙句にかまれる、なんていうのもよくあったわね。
けど。
よりによって、その不運っぷりが、こんなところで発揮されなくてもいいじゃないよ!
……とにかく、そうして太学に入り損ねたボクは、失意のままに洛陽の街中を歩いていた。このまま安定に帰ったら、月やほかのみんなに合わせる顔がない。かといって、今からどこか別の学問所を受けるのも無理。……そんなお金、どこにもありやしないんだから。
「……どーしたもんだろ……はあ」
腕組みし、ぶつぶつとつぶやきつつ、とぼとぼと歩いていると、とある一軒の飯店の前に着いた。
「……ご飯でも食べながら、どうするか考えるとするかな……」
そう思って、その飯店にボクは入ったわけなんだけど、実はそれこそ、ボクが水鏡塾に来ることになった、その理由との巡りあいだった。
「うわ。無茶苦茶混んでる」
見渡す限りの、人、人、人。よく見れば、太学の門前で見た顔が何人もいた。……結局、みな考えることは一緒というわけね。
「……どこか座れるところは……あ」
きょろきょろと店内を見渡すと、とある卓に女性が一人で座っているのがみてとれた。見た感じ、とっても物静かな感じの人だったから、ボクはその席に歩み寄って、相席をお願いした。
「あの、ここ、座っても大丈夫でしょうか?」
「ええ、どうぞ。……もしかして、貴女も太学に入り損ねたうちのお一人かしら?」
「え?」
な、なんで分かったの?ボクは別に何もいっていないのに。
「……先ほどから、店内に入ってきた人たちが、口をそろえて同じことばかりおっしゃっていましてね。太学が、突然休校になったって。……貴女も、その人たちとおんなじ表情をしているものだから、もしかして、と思ったの」
……なるほど。それはさぞかし、分かりやすかったでしょうね。……ちょっと、恥ずかしい。
……まあ、それはともかく。
ボクはその人に、ここまでの経緯を語って聞かせた。初対面の人間相手に、ほとんど愚痴みたいな話をしたボクもどうかと思う。でも、その人は笑顔のまま、ボクの話を聞き続けてくれた。
「そう。お友達のために、軍師としての勉強をしたいと。……いい子ね、貴女」
「そ、そんないい子だなんて、ボクは別に……///」
「ふふふ。……ねえ?貴女さえよければ、なんだけど。私の私塾に来る気はないかしら?」
「え?」
「そういえば、まだ名乗ってなかったわね。私は司馬徽、字を徳操っていうの。荊州の片田舎で、水鏡塾という私塾を開いているわ。……どう?来てみる気、ないかしら?」
結論から言えば、ボクはその誘いにうなずいたわけ。だって、司馬徳操っていったら、なんでそんな片田舎に私塾を?っていうくらい、学者の中では有名な人物だ。
名を騙っている偽者か?そんな疑いも頭を掠めたけれど、それからしばらく話している内に、その疑いもどこかに飛んでった。
六韜、三略、孫子に論語にその他諸々。
それらすべてに精通していることが、会話の端々から感じられたからだ。とても、付け焼刃の知識では真似のできない、政治から軍略までの広い見識を、その女性は持っていた。
そして、ボクは司馬徽先生についていく事にした。月たちには、事情をしたためた手紙を書いてだして。
それが、今から二年ほど前のこと。
それからボクは、水鏡塾で猛勉強の毎日を開始した。
同級の、徐元直や諸葛子瑜らとは、良い好敵手といった感じで、切磋琢磨し。半年ほど後から入ってきた、諸葛孔明(子瑜の妹だそうだ)や龐士元といった、かわいい後輩たちに囲まれ、日々勉学に勤しむ日々が続いた。
そしてつい先日、皆、この塾を一足早く卒業して行った。
……なんでボクだけ、最後に残っているのかって?
……るっさいわね。ボクだって、好きで卒業できずにいたんじゃあないわよ。……例の、ボクの不幸体質。それがすべての原因なのよ!たまたま川遊びに行った先で、たまたま川の中に落ちて、たまたま溺れちゃって、ちょ~っとだけ、街の病院に入院して学業が遅れただけなの!
……まあ、だからこそ、ここで、”アイツ”に出会えたわけなんだけど///
かっこいいって思ってしまった///
正直言って、いままでボクの周りにいた男は、口先だけの大したことのない連中だった。ボク自身、月以外には全然興味がなかったしね。あ、でも勘違いしないでよ?!月のことは確かに好きだけど、別に”そっち”の趣味ってわけじゃあないんだからね?!
月はボクにとって、すべてをかけて守るべき存在なの!別に”そういう”感情は持ってはいなくも無くも無いんでも無いんだからね!?
……ごほん。ま、まあ、月へのボクの感情はともかくとして。
北郷一刀という名前の、白く光る衣を来たその青年は、この水鏡塾に、管輅さんを訪ねてやってきた。
ちなみに、管輅というのは、司馬徽先生の古い友人で、見た目はちっさい子供にしか見えない、だけど結構年のいっているはずの、旅の占い師のことだ。
まあ、実年齢はボクも知らない。……以前聞こうとしたら、すっごい笑顔で、『……女性に年を聞くのはまなー違反ですよ?』って言われた。……めちゃくちゃ怖かった(ガクブルガクブル)。……あ、でも、”まなー”って、結局何だったんだろう?またあの人の謎が増えただけだったっけ。
まあ、あの人のことはともかく。
彼のことをかっこいいと思ったのも確か。でもって、なんだかとっても顔が熱くなっちゃって、まともにその顔が見れなくなったのも確か。なんでこんなに胸がどきどきするんだろう?最初はぜんぜん、その理由がわからなかった。……しょうがないじゃない。男性を見て、こんな風になったのは、生まれて初めてのこことだったんだから。
けど、その彼が司馬徽先生と話していた内容は、正直ボクにとって信じられないものだった。だって、彼は”この時代”の人間ではないって言うのだから。
理由は本人にもわからないけど、彼は今から二千年も後の世界から、私たちのいるこの世界に突然やってきてしまったのだそうだ。そして、現在一緒に行動をしている、荀彧、甘寧、魏延の三人と出会い、色々と紆余曲折の末、ここに辿り着いたそうである。
最近流れているとある噂-『一筋の流星にのりて、白き衣を纏いし、天よりの御遣いが降りくる』-というのを流したその張本人である、管輅さんから話を聞くことで、元の世界に戻るための手がかりを探るために。
けど、管輅さんはすでに旅立ってしまった後だったわけで。
それを聞いた彼は、がっくりと肩を落として落ち込んでいた。……そんな姿が、ちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒ね?
で、そんな彼に、司馬徽先生は一つの問いかけをした。
「あなたはこれからどうしたいのか」
って。その問いに、少しの間悩んだ後、彼が返した答えはこうだった。
「俺に何か出来ることがあるなら、それを見つけたい。そして、少しでも誰かの力になれたらと、今はそう思っています」
……正直言って、その台詞を口にする彼の真摯な顔に、思いっきりどきっ!とした。……かっこいいなあ、て///
その後、彼の意思を確認した司馬徽先生から、義勇軍の結成を提案された彼らは、とりあえず今日のところはここで一泊し、また翌日、義勇軍の一件も含めて話し合うことにしていた。
でもって、その日の夜遅く。
厠に立ったボクは、塾の庭に二つの影を見つけた。……彼と荀彧、だった。
こんな時間に何をしているんだろう。……もしかして、あ、逢引、とか?あの二人、そ、そういう関係だったりするのかしら?……興味の引かれたボクは、そっと二人の近くに寄って、聞き耳を立ててみた。
「……で?あんたはこんな時間に一人で何していたわけ?」
「んー。……ちょっと、星を、ね。見ていたんだ。……俺がいた時代じゃ、こんなに綺麗な星空なんて、よっぽどの山奥にでも行かないと見れないからさ」
……そんなところに行かなきゃ星が見えないって、一体彼のいた世界ってのはどんなところなんだろう?どうやら荀彧も同じ疑問を持ったらしく、そのことを彼に問いかけていた。
「一体どういう所よ、あんたが居た所ってのは。夜中に星が見えないなんて」
「いや、まったく見えないわけじゃあないって。……ただ、夜中でも昼間みたいに明るいところが多いって言うのと、空気がかなり汚れているから、さ」
「……夜中なのに、昼間みたいに明るく?……そんなこと、一体どうやったら出来るっていうのよ?……妖術かなんかなわけ?」
ほんとほんと。
「はは。確かに、今の時代の人たちからしたら、あれは妖術に見えるかもしれないな。……あ。そうだ」
「??」
ごそごそと。なにやら着物をまさぐる彼。そして、何かを取り出した。
「あによ、それ」
「ケータイって言ってさ。……本当は、遠くの人間とも近くに居るみたいに会話の出来る、からくりなんだけど」
「……からくり?妖術じゃなくて?……ていうか、ほんとにそんなことが出来るの?あんた、人をからかってんじゃないでしょうね?」
「まあ、そう思うのも当然だな。とはいえ、今は証明のしようが無いんだ。相手が居ないからね」
もう一つ。同じくけーたいとやらを持っている人間がどこかに居ないと、今はその意味を成さない。彼は荀彧にそう説明していた。
「けど、まだ充電は残っているから、写真ぐらいは撮れるだろ。……桂花、ちょっと動かないで居てくれな?」
「へ?」
そう言って、けーたいを荀彧に向ける彼。次の瞬間――-。
カシャッ!
『ッ!?』
小さい音と同時に、一瞬だけ光が瞬いた。
「あ、あんた一体今何したのよ!?よ、妖術でも使ったの?!」
「違うって。……ほらこれ」
彼がけーたいを反対向きにし、荀彧にそれを見せた。何してんのかしら?
「こ、これ、わ、私?な、何で私がこんな小さい中に居るのよ!?」
「これは写真っていってさ。人でも物でも、あるがままの姿を写し取るからくりなんだよ」
……そんなことが出来るの?あんな小さな箱で?……信じらん無い。なんとか、こっからでも見れないかな……?
と、興味と好奇心のまま、体勢をいろいろ変えて、どうにかその”写真”とやらを見る事が出来ないかと覗き込む。……無理でした、はい。
「……ふーん。天の世界って、こんなものがあるんだ」
「??……天の世界?」
「あんたが居た元の世界のことよ。そう言ったほうがわかりやすいでしょうが。未来なんていうよりも」
「……まあ、それは確かに」
「でしょ?」
……なんか。あの二人を見てて思ったんだけど。……とっても自然な感じで、ほかの人間が入り込む余地なんて、これっぽっちも無さそうね……(ズキ)……って、なに、今の、胸の痛み。
気がついたら、ボクはその場を早足で立ち去っていた。
(……嫉妬した?……ボクが?……あの二人の姿に?違う違う!ボクは別に、あいつのことなんてなんとも……!!)
そう。
あいつのことなんて、なんとも思ってるはずが無い。
確かに、あいつのことをかっこいいとは思ったわよ?
でも。
でもそんな感情なんて、このボクが、男性を意識するなんて、そんなことあるわけ無い!
ボクがこの世で好きなのは月だけ!
そう。
月だけ……なんだから。
翌日。
結局悶々とした一夜を、なかなか眠れず過ごしたボクは、現在水教塾の門前で、彼ら四人と一緒に、司馬徽先生から送り出されていた。
「どうもお世話になりました、司馬徽さん」
「いえいえ。大したおもてなしも出来ず、こちらこそ恐縮ですわ、天の御遣いくん」
「……正直、自分では不足だと思ってますけど」
結局、四人は義勇軍を立ち上げることに決めたようだ。今日の朝早く、彼らだけで話合って、そのことを決めたらしい。……荀彧だけは、最後まで抵抗していたようだけど。
「無節操な女たらしと脳筋二人だけじゃあ、一軍の管理なんか出来っこないでしょうし、しょうがないから付き合ったげるわよ」
というのが、彼女が折れたときの文句だそうだ。……素直じゃないわねー、彼女も。……まあ、ボクも人のことは言えないけど。
でもって、その上で彼が、天の御遣いとしての名を、名乗ることに決まったそうだ。その方が、人も集めやすいだろうと、荀彧がそう提案したそうである。ただし、後一つだけ、義勇軍を募るのに問題があった。
それは、資金。
軍を一つ立てるとなれば、当然のように結構な資金が必要になる。それを調達するため、彼らは一度、新野の町まで戻ることになった。……なんか、当てでもあるのかしら?
「じゃあ、そろそろ行こうか、三人とも」
「そうだな。よーし!北郷義勇軍の最初の一歩だ!」
「……ちょっと気が早すぎるわよ、馬鹿焔耶」
「あんだとー!?」
……賑やかな連中。でも、楽しそう。……あの輪の中に、ボクも加われたらな……。
ハッ!?いやいやいや!ボクは月のために、月の力になるためにここに居るのよ!?これから安定に戻って、太守をがんばってる月の力になることが、ボクの使命なんだから!!
「詠」
「え?!は、はい!」
「……あなたも今日をもって卒業となりますが、まだまだ精進すべきところは山と残っています。人生これ修行。この言葉、決して忘れてはいけませんよ?」
「……はい」
そう。
ボクも、今日でこの水鏡塾を卒業し、月のいる安定へと帰ることになった。とはいえ、今のご時世、女の一人旅は何かと物騒なので、彼らに同行することとなった。新野の町で、その手段はまだ教えて貰ってないけど、資金を調達した後、彼らは都に向かうそうだ。
人を募るのなら、人の多いところでするのが一番、ということになったそうだ。
「……では皆さん、名残は惜しいですが、道中、どうか気をつけて。……詠、体には、十分気をつけてね?」
「はい、先生!」
そうして、ボクたちは水鏡塾を旅立った。
まずは新野へ。
そして、都である洛陽へとむかって。
けど。
ボクたちは、この時誰も、”その事態”を、予測なんてすることも、出来ていなかった。
神ならぬ人の身で、先のことを予測しろというのが、無理な事なのは分かってる。
でも。
それが出来ていたら、どれほど気が楽だっただろうか。
未来の人間である彼――北郷にとっても、その事態は全くの予想外だったと。
水鏡塾を出て三日後の、
新野の町の、
その、”地下牢”の中で。
ボク達に、彼はそう言ったのだった……。
~続く~
あとがき
てなわけで、
詠視点でのツン√、第六話をお届けしました。
まあ、半分くらい、詠が何で水鏡塾に居るのかって言う説明になっちゃいましたがw
ほとんどモノローグだらけで、台詞がめちゃ少ないですね(汗;
それはともかく。
詠のツンが少ないじゃないか!
という方は、もう少しだけ我慢してくださいね?
まだ、真名すら交し合って無いんですから、次の回から位には、本領を発揮させられる・・・とおもいますw
さて、物語的には、新野についた一刀たちに待っていた、とある予想外の事態。
そこからどう話が進むのか?
それは作者にも分からない(オイ!
・・・うそですw
というわけで、次回のツン√更新をお楽しみに。
再見!ですwww
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ツン√、お待ちかね(?)の更新です。
今回は詠の視点でお送りいたします。
では。