No.212198

真剣で私たちに恋しなさい! EP.0 竜舌蘭

元素猫さん

真剣で私に恋しなさい!を伝奇小説風にしつつ、ハーレムを目指します。
もうすぐ投稿を始めて1周年ということで、別の作品も書いてみたいなあと思い始めてみました。
ほとんどノープランですが、のんびりと続けていきたいと思っています。よろしければ、応援してもらえると嬉しいです。

2011-04-17 22:06:07 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10223   閲覧ユーザー数:9248

 直江大和は夢を見ていた。それは懐かしい、幼い頃の夢。台風から竜舌蘭を仲間たちと一緒に守った、大和にとって大切な思い出の一つとも言える夢だ。50年後、再び花を咲かせる竜舌蘭と一緒に写真を撮る、それが約束だった。

 あの出来事がきっかけとなり、椎名京が新たな仲間として加わったのである。そしていつしか、高校生になった自分たちには、ここ最近になりまた新しく2人の仲間が増えた。

 黛由紀江とドイツのリューベックから来たクリスだ。

 

(どういうわけか、一癖も二癖もある自分より強い女の子ばかりだけどさ)

 

 でもだからこそ、自分が居る意味があるような気もしていた。

 

(力じゃ敵わないかもしれないけど、俺には知略と人脈がある。俺の、仲間を守る力だ)

 

 さすがに50年後まで、ずっと一緒に居るとは大和も思っていない。やがてそれぞれの道に進んで行く事になるだろう。でも離れていたって、心は繋がっている。

 

(そう、きっと――)

 

 大和がそう確信した時、心の奥底で別の声が囁いた。

 

(本当ニソウカナ?)

(何だ?)

 

 嫌な『しこり』が胸にある。暗い、暗い深淵に咲く花。竜舌蘭。

 大切な思い出であるはずのその花が、まるで闇を生んでいるかのように暗黒に呑まれている。心がざわめき、大和は気分が悪くなった。

 

(何だ、この感じ……)

 

 不安が大きくなって、大和の心に影が差す。脳裏に浮かぶ、いくつもの顔。それは仲間たちの笑顔だ。それなのに、どうして――。

 

(ほんの一瞬だけど、俺、姉さんたちを殺したいって思った……)

 

 それは憎悪。深く暗い、地獄の呻きのような、嫌な風……。

 

 

 流れる雲が、か細い月を隠す。夜の闇は濃く、まるですべての生物を拒絶するかのように禍々しい雰囲気を醸し出していた。そんな中、二つの人影がホテル街を歩いていた。

 

「ちっ! ちょこまかと、面倒だな」

「あーっ! くっそー! マジイラつくわ!」

「落ち着け、天」

 

 そう言ってたしなめたのは、細い目に自嘲するような笑みを浮かべた釈迦堂刑部という男だ。一方の天と呼ばれたツインテールの少女は、板垣天使と言う。手にはゴルフクラブを持ち、苛立たしげに振り回している。

 

「気配は消えてない。まだ、すぐ近くにいるぞ。油断するな」

「出てきたら、ウチが頭カチ割ってやるよ!」

 

 天使がそう言って不敵に笑った瞬間、何かが闇の中から飛んできた。

 

「――っ!」

 

 それに気付いた直後、強烈な一撃が天使の腹部に決まる。体を折ってうめいた天使は、そのまま勢いよく吹き飛ばされて電柱に激突した。

 

「ガハッ!」

 

 腹部への攻撃と、背中から激突した痛みで、天使の意識は途切れた。

 

「くそっ!」

 

 すぐさま、刑部は膝を曲げてソレに向かって跳躍する。渾身の拳は、しかし空を切った。

 

「ははっ! まだだ!」

 

 地面に足を着くと同時に、軸足をひねって大きく体をしならせる。そして鞭のような回し蹴りを放った。その攻撃はソレに直撃するが、刑部は軽く舌打ちを漏らす。手応えがない。恐らく、直撃と同時に自ら後ろに飛んだのだろう。ソレは再び、闇に消えた。

 

「逃がすかよ!」

 

 刑部も後を追うように塀の上に飛び乗ると、電柱に付けられた看板に掴まって、建物の窓に飛び移る。そして出っ張りを掴んで移動し、ソレの気配を追いかけた。だが――。

 

「ちっ! これ以上はヤバイな……ジジイにでも見つかったら、面倒だ」

 

 この先に進むとすぐに多馬川だ。かつて、刑部も修行をしていた川神院が川の向こうにはあり、会いたくはない人物の一人、川神鉄心の気の間合いになる。怪しい人物が近づけばすぐに察知できるよう、平時から鉄心は川神院周辺に気を張っているのだ。

 

「今はまだ、事を構える時じゃねえからな。今夜のところは、諦めるか……」

 

 力を抜き、刑部は遠ざかる気配から意識を離す。とたん、ソレは溢れる人の気配に紛れた。

 

「それにしても……」

 

 厳しい顔で、刑部はぽつりと呟く。実際に拳を交え、色々と違和感を覚えた。

 

(普通は、力を使えばそれに応じた気が放出されるはずだ。つまり強い者ほど、強い気が発せられる。百代なんかはそれを嗅ぎ取って、決闘をふっかけるわけだが……アレには、そういう感じがない)

 

 だから鉄心たちでも、その存在に気付いていない様子だった。アレも一般人に比べれば強い気を放っているのだが、幸か不幸か川神市には一筋縄ではいかない強者が多く存在している。あるレベルまでいかなければ、鉄心や百代も捕捉はしないだろう。

 

(おもしろい事になってきそうだが……こいつは、計画を急がなけりゃならないかもな)

 

 獰猛な笑みを浮かべ、刑部はゆっくりと追ってきた道を戻って行った。

 

 

 同じ頃、その川神鉄心は川神院の拳法師範代ルー・リーと共に、最深部にある書庫に居た。ここには川神院の歴史と、あらゆる武術に関する書物が揃っており、門人ならば誰でも自由に出入りすることが出来た。

 

「ルーは、川神院に伝わる神話を知っておるか?」

「神話、ですか? 申し訳ありません、不勉強ですネ」

「まあ、仕方あるまい。ほとんど知られていないようじゃからな」

 

 そう言って鉄心は、書架の間をゆっくり進みながら話し始める。

 

「かつてこの地には川神の名が示す通り、川の神である竜神が住んでおったそうじゃ。竜神は繁栄を司り、この地に暮らす人々に多大な恩恵を与えたという。当時は野山のあらゆる場所に神がおり、人々を見守っておった。そして人々もまた、そうした神々を敬い、共に生きておったのじゃ」

「とても素晴らしいことネ」

「うむ。じゃがある日、旅の僧侶がこの地に訪れたことで、状況は一変してしまったそうじゃ。大陸の神を信奉する僧侶は、いわゆる土着神をアヤカシの類であると断じ、人々を扇動していったという。むろん、普通ならばそのような余所者の言葉などに惑わされはしないのじゃが、悪い事にその年、疫病が広まってのう。血気盛んな若者を中心に、竜神討伐の動きが起こったのじゃ」

 

 信仰を失った竜神は、祟り神となりこの地に災いをもたらした。その最たるものが、『地獄の門』である。

 

「地獄の門?」

「そうじゃ。何かの比喩ではないぞ。文字通り、地獄の門が開き餓鬼どもが地の底から這い出して、魑魅魍魎が跋扈する魔界と化したのじゃ。そこに現れたのが、強大な霊力を持った修験者で、この川神院を創建されたお方……葛木行者(かつらぎぎょうじゃ)様じゃ」

 

 葛木行者については、川神院の創建者として歴史書などに記されるのみで、詳しい人物像はわからない。だがその力で地獄の門を封じ、穢れた土地を浄化したのだという。

 

「行者様は強者を全国より集め、祟り神となった竜神を弱らせて封じる策を考えたのじゃ。そして七日間に渡る戦いの末、ある戦士の剣が竜神の舌を切り落としたという。苦しむ竜神を行者様は術により封じ、その鎮魂のためにここ川神院が創建されたのじゃ」

「なるほど。すべてに歴史あり、というわけですネ」

「うむ。ちなみに、切り落とされた舌が土に還り、芽を出した花が竜舌蘭だとも言われておる。それゆえ、昔は竜舌蘭がこの辺りには多く咲いておったようじゃが、不吉とされほとんどが刈られたようじゃの」

 

 鉄心は書庫の一番奥まった、突き当たりで立ち止まる。

 

「儂がなぜ、急にこんな話をしたのか……不思議に思うておろう」

「はい……」

 

 ルーの返答に頷いた鉄心は、数冊の本を抜き取り、出来た隙間に腕を差し込む。すると、目の前の書架が横に動いて裏側から地下へと続く階段が現れたのだ。

 

「こんな仕掛けが!」

「付いて来るがよい」

 

 入り口のすぐ横にあるスイッチを押すと、小さな明かりが階段に沿って灯る。そして鉄心とルーは、階段をゆっくりと下りて行った。わずかにカビ臭い匂いが、鼻につく。

 

「行者様は自身の知る秘術を書にまとめ、後生に伝えようとされたのじゃ。だが、そのあまりにも恐ろしく強大な技の数々に危険を感じ、後の総代がこの部屋に隠したのじゃ」

 

 どれくらい階段を下りただろうか、四畳ほどの小さな部屋に出た。そこには小さな棚があり、黒い木箱がいくつも並んでいる。

 

「これがすべて、秘術ですか?」

「そうじゃ。本来なら、総代にのみ伝えられる存在。だが、ここからある書を盗み出した者がおる」

「何と!?」

「かつての同門……釈迦堂刑部じゃ」

 

 

 朝、何やら心地よい重みで直江大和は目覚める。いつもの甘い、女の子特有の匂いを感じながら、間近に迫るその人物の顔を見た。目が合った瞬間、彼女はにっこり笑って言う。

 

「おはよう大和、そして好き」

「おはよう京。そしてごめんなさい」

 

 胸を押しつけるように馬乗りになっている少女は、椎名京だ。毎朝こうして、懲りもせず起こすと同時に告白を繰り返している。テンプレのような会話だが、今日の大和は少しだけいつもと違う気分だった。

 

(何だろ、今まで意識した事ないのに……)

 

 京の重さと、動く度に揺れる胸の丸みが、大和の心を乱していた。

 

(落ち着け、俺。思春期の男子特有の、ムラムラ感なだけだ。朝から女の子に密着されれば、普通の男子ならこういう気分になっても仕方がない。そうだよ、別に京を好きになったわけじゃないんだから)

 

 大和は懸命に自分に言い聞かせた。そんな様子を敏感に感じ取った京は、不思議そうに首を傾げる。

 

「どうかした、大和?」

「いや、何でもない」

「……元気になったの?」

「何が?」

「言わせる気?」

「結構です。それより、着替えるから」

 

 仕方なく立ち上がった京は、掛けてあった大和の制服と用意する。

 

「はい、あ・な・た」

「ありがと。一人でできるんで」

 

 少し慌てるように、大和は京の背中を押して部屋から追い出した。そして戸を閉めて、深く息を吐き出す。

 

(なんか、ヤバかった)

 

 気付かれなかっただろうか。今まで、こんな事なかったのに。京を見ていたら、どうしようもないほど欲情が溢れてきてしまったのだ。その証拠に、朝の生理現象とは別の理由でパジャマのズボンが膨らんでいた。

 

(溜まってんのかなあ……)

 

 仕方なく、大和は島津寮の寮母である麗子さんの顔を思い浮かべて、気持ちを落ち着けた。

 

 

 部屋を追い出された京は、自室に戻りながらニヤリと笑みを浮かべる。

 

「継続は力なり……」

 

 大和の膨らみは、バッチリ目撃されていたのだ。さらなる猛攻を続けるべく、京は決意を新たにしていたのである。


 
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