No.211816

虚々・恋姫無双 虚廿漆

TAPEtさん

人の身体にリセットボタンがあったら、きっと人は悲しいことがあるたびにそのボタンを押すだろう。
そして、リセットボタンを使い過ぎた古いパソコンが壊れるように、人もそう壊れていくんだよ。
結局、現実とそう違わないな。

2011-04-15 21:28:19 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2143   閲覧ユーザー数:1858

五胡との戦い6日目、朝

 

 

「違う。ここじゃない……」

「ぅおおおおおーっ!」

 

……邪魔しないで

 

サシュッ!

 

「……!」

 

矢を撃って倒れた兵士が倒れた先に、知らないうちに二人の兵士が立っていた。

これ、本当に倒しても倒しても増え続けるんだ……

 

このままだと、華琳お姉ちゃんたちに勝ち目なんてないのかもしれない。

早くボクがこの土人形たちを作っている奴を見つけないと、もっとたくさんの人たちが死んで、紗江お姉ちゃんみたいな人も増えていく。

 

あの夢のようになってしまうかもしれない。

華琳お姉ちゃん一人だけになってしまったら……

 

スッ

 

タッ!

 

「!」

 

知らないうちにスッとしたと思ったらボクがいた場所に五胡の兵士が撃った矢が通って行った。

ここでつっ立っているのは危険だね。

 

サシュッ!

 

「うぐっ!」

「……他に行くか」

 

どんどん兵士たちが多くなっていくのを感じる。

こっち側だというのは分かった。後は……

 

「待ってて、華琳お姉ちゃん」

 

 

スッ

 

 

 

 

 

同時刻、黄河周辺の曹魏の陣

 

ひぃぃいっ!!

 

「着いたでー!」

「……あわわ……」

「雛里ちゃん、大丈夫ですか」

「大丈夫じゃ……ない…で…うぐぅ」

「ちょっ!馬の上で吐かんといてー!」

「仕方ありませんわ。張遼さんの馬があまりにも早かったのですから。それに武将でもない軍師に夜中ずっと馬の上に居なさいなんて拷問もいいところですよ……司馬懿さんは一体何を考えているのですか」

 

先日、沙和からの話を聞いた張遼は、それこと神速の名に相応しいスピードで漢中に向かった。

途中、蜀の五胡の勢を概ね片付けて、急いで西涼に向かって来ていた蜀と出会った。

張遼は司馬懿から言われた通り、諸葛亮と鳳統、孟節を連れていこうとしたが、流石に筆頭軍師二人を一気に連れて行くなどできなかったため、鳳統だけが来ることになった。

そして、蜀の軍勢と一緒に西涼に向かっていた秋蘭と流琉も先に帰還するようになった。

 

「大丈夫、雛里ちゃん」

「うぅぅ……お腹が苦しいです」

 

年が近かった流琉と雛里はいつの間にか真名で呼び合う関係になっていた。ちなみに朱里とも真名で呼ぶ関係になっている。

漢中に来る途中忙しい中でも皆に少し余裕をもたせるために漢中にて三人でお菓子を披露したのがきっかけになっていた。

 

「流琉、鳳統と孟節殿をどこか休めるところに連れて行ってくれ。私は霞と一緒に華琳さまに帰還を報告するに行く」

「あ、はい」

「行くぞ、霞」

「ああ、ああ、紗江のところにも話入れとかんとな」

「……」

「……」

 

それを聞いた秋蘭と流琉はまた少し呆気無い顔になった。

ここに来た雛里は、紗江が死んだことすら知っていない。だから、何の迷いもなく先輩である彼女に会うことも期待しながらここまで苦労をしてきたわけだが、正直他の二人はまだ実感が沸かなかった。

 

「霞、本当に紗江は…」

「まぁ…見たらわかるっちゅうねん。そうじゃあらへんでもこの戦いは普通じゃないものが多すぎる。今でも何かに誑かされてる気分や」

「………」

「やけど、紗江は本当にウチらを助けにここまで来てくれた。実際に頼りになっているしな。それだけは事実だ」

「…そうか」

 

霞の話に秋蘭は頷きながら、華琳さまのところへ足を急げた。

 

 

 

 

華琳side

 

「華琳さま、只今戻りました」

 

秋蘭と流琉が帰ってきた。

 

「……ご苦労だったわ。秋蘭」

「はっ」

「……事情は、霞から聞いているのかしら」

「はい、北郷が行方不明、ですね」

 

尚更言われると頭が痛々しい。

あの子はまた私に何も言わずに言ってしまった。

そこまで私に頼れないというの?

 

「華琳さま、あまりそんな顔をなさらないでください」

「……ごめんなさい」

 

だけど、どうしても顔が戻らない。

いつもの覇王の姿に戻ることができない。

自分の弱さに呆れて言葉も出ないわ。これが天下を統一して覇王の名を轟かそうとした者の姿だと誰が信じることか。

 

いや、駄目よ、華琳。

あなたがこうすると分かっていたからこそ、一刀はあなたの顔を見ないでそう行ってしまったのよ。

あなたのこんな姿を見たくなかったから……

 

「じゃあ…行かなければいいじゃない……」

「…華琳さま?」

「どこまでも我儘ね。あなたも、私も……お互いさま」

 

そう、お互いさまよ。

 

「秋蘭、流琉と霞と一緒に戦線に向かいなさい。春蘭があなたを見ると喜ぶはずよ」

 

戦いは今も続いている。漢中に向かって居なかった霞の代わりに真桜と沙和が頑張ってくれているけど、夜長安にも行ってきて徹夜したあの二人には少し荷が重いわ。そろそろ限界でしょう。

 

「華琳さま、私たちが側に居なくても宜しいのですか?」

「……あなたはどう思うかしら。私が側に誰も置かなかったらあの子みたいにどこかに消えてしまいそう?」

「はい?」

「……何でもないわ。私はここで、紗江が報告をしに来ることを待っているから、あなたは急いで戦線に向かって頂戴。疲れているでしょうけど、春蘭たちも何日も戦いを続けて限界が来ているの」

「…わかりました。直ぐに流琉と出立の準備をします」

「宜しい」

 

これが最後よ。

何もかもがここで終わるわ。

戦、一刀、大陸の平和。

何も譲る気はないの。

これが私の我儘よ、一刀。

 

 

 

「五胡の地は住み心地があまりいいところではありません。略奪を主にする部族たちは、一つの場所に居ないでその住居を頻繁に移動します。ですが、それでもその時期に一番住むにいい場所を探すということは違いありません。そのために移動生活をしているのですから」

「はぁ……」

「……というわけで……五胡の軍の中心部がある場所は現在……ここです」

 

紗江の部屋の円卓。

紗江が円卓の上に乗せられた西涼と五胡の地形が描かれた地図の上に駒を置いた。紗江が座った椅子の反対側の椅子に座ってその駒が置かれた場所を見ながら、昨日寝ないで走ってきた鳳統は、少し呆気無い顔していた。

夜を馬の上で過ごしたせいで眠いのもあったが、それよりも自分の先輩のありえない話に口を閉じられなかったのもあった。

 

「あの、どこがどうやって、というわけという話が……」

 

そう言ったのは、鳳統と一緒に来た結以だった。

結以の顔には紗江のことを少し警戒している様子があったが、それを気にせず紗江は彼女の質問に答えた。

 

「言いましたよね?その時期に一番住みやすい場所。日差し、水の居場所、風の向き…そういうものが適した場所には限りがあって、彼らの動きにはいくつかの定められた道のりがあるはずです」

「あわわ……それがどうしてここだと直ぐに……」

「直ぐにではありませんよ。…少女ならそういう地形に住むだろうなと思っていたところが、丁度地図の上にありましたので…」

「あわわ……紗江お姉さまって、やっぱり凄いです」

「あら、河北のはだの義勇軍を率いる小さな勢力だった劉玄徳さまを、蜀という大陸の一柱にまで建たせた子の一人に言われると嬉しいですわ」

「あわわ…」

「ふふっ、かわいいですわね、雛里のそういうところ…」

 

だが、笑っていた紗江は少し悲しそうな顔に変わった。

 

「……朱里は、まだ少女のことを嫌っているのですか?」

「え?」

「……五丈原での戦いは、あまりにも酷いものでした。二人とも呼び寄せようとしたのは、あの時の謝りのためでもあったのですが……やはり、少女のことが見たくないのでしょうね。朱里は」

「ち、違います。そんなわけでは……朱里ちゃんが来なかったのは、単に私たちが二人とも軍を抜いてきたらいけないと思って…」

「それでも、雛里が来たということは、少女と会うことが好きではなかったってことですわね」

「……そんなことは…ないです……」

「いいのですよ。悪いのは少女だったのですから」

 

どもる鳳統を見て、苦笑をしながら紗江は言った。

五丈原での紗江の酷い勝利。それは、その場を目にした朱里としてはとても恐ろしいものだったのだろう。

だけど、彼女たちが知らないことがあった。

 

「仲達さん、でしたね」

 

その時、また結以が口を開けました。

 

「……はい、孟節さん」

「さっきから少し変だと思っていましたが………仲達さん、少し宜しいですか?」

「なんでしょうか」

「わたくしは軍師としても働きはしますが、普段は薬師です。それを持って人の命を救うことがわたくしの本望で生きる幸せです。それで、職業病といいますか、その人を一見したらその人のどこが悪くてどんな薬を使えばいいのかが分かるのです」

「…………」

「結以さん、何の話を…」

 

鳳統が話が見えなくなって結以に聞いた。

 

「雛里ちゃん、今この方の身体は毒に包まれています。それも凄く強いものです。普通の人なら、こんなところで話をするどころが、今直ぐここで全ての穴で血の噴きながら死んでもおかしくありません」

「へ?」

「……そうですね……流石、左慈さんからお聞きした通りの方ですね。孟節さんは」

 

それを聞いた結以の目が鋭くなった。

 

「……そういうあなたは、左慈さまの新しい姿とそっくりです。…正直、少し気持ち悪いです」

「失敬です。あの方の姿が少女のことを移したまでです。あの方の身体が少女のものから来たのです」

「なら聞きますが、何故あなたがここに居るのですか?あなたは……」

「あ、その話は、少し後にしてもらえますか?」

 

結以の話を止めた紗江は、隣で唖然としている雛里の方を見た。

 

「……雛里」

「はい?」

「……霞さんに、言わないで欲しいと言ったことがあります。これは、少女の口から言いたいと思いましたので…」

 

椅子に座っていた紗江は立ち上がり、反対側の雛里のところに行って、跪いて雛里の手を掴んだ。

 

「お、お姉さま!?」

「雛里……あの五丈原の戦いで…いいえ、そのずっと前、少女と二人が始めて会ったあの日から、少女はもう死んでいました」

「………<<パチッ>>へ?」

 

鳳統はしばらく何のことがわからないように問い返した。

 

「……今あなたの前に立っている人は、もう死んだ人です」

「…………あの、いっていることが良く……それって、紗江お姉さまが……ゆ、幽霊ってこと…ですか?」

「……隠すつもりじゃなかったのですけど、ちゃんと言える機会がありませんでしたので」

「幽霊とは少し違いますね」

 

黙っていた結以が説明を添えた。

 

「彼女の身体は既に死んでいます。その死んでいる身体を誰かが元の姿に戻して、自分の命を入れて、身体にまだ残っている魂を動かしているのです。彼女は仲達であって仲達ではない、言えば元居た存在欠片のような存在です」

「少女は司馬仲達です」

「いいえ、あなたはただの欠片です。あなたがどう思っているとしても」

「少女は…!」

 

 

 

「お姉さまをそんなふうに言わないでください!」

 

雛里の叫び声が天幕に響き渡る。

 

「…雛里ちゃん」

「おねえさまは……お姉さまです……幽霊でも、死んだ人でも……紗江お姉さまは私たちの……憧れです…お姉さまにそんなことを言う人は、例え結以さんだとしても許しません……」

 

そう言いながら、雛里は泣きながら紗江のことを抱きしめた。

 

「…雛里…ありがとう」

「どうして…どうしてですか…何で今まで言ってくれなかったのですか」

「ごめんなさい、二人を傷つけたくなかったんです。あんなに憧れにしてくれてたのに……そんな人がもう死んでいたなんて言いたくありませんでした」

「……お姉さま……お姉さま……」

「………」

 

泣いている雛里を抱えて、紗江も何も言わずに涙を流した。

 

「……謝罪しましょう」

 

結以がそんな紗江を見ていった。

 

「言い過ぎでした。…あまり気にしないでください」

「……孟節さんの話は左慈さんから聞いていますよ。安心してください。少女と左慈さんはそういう関係じゃありませんから」

「えっ!?い、いえ、わたくしはそういうつもりで言ったわけでは……ただ、ちょっと…華琳さまの場合もありまして…」

 

 

 

「私がどうかしたのかしら、結以?」

 

その時、華琳さまが紗江たちの居る部屋に訪れました。

 

「華琳さま」

「一人で居ても焦るばかりだったから来てみたけど…取り込み中だったようね」

「申し訳ありません。少し…少女の個人的な事情で……雛里?」

「う、うぅっ……」

 

まだ泣いていた鳳統を揺さぶると、雛里はその時、華琳さまがそこに居ることを気づいた。

 

「あ、あわわっ!あ、あの、す、すみません」

「構わないわ。あなたのそんな気持ち、今の私なら少し分かる気がするから…」

「……ぁ」

「華琳さま…」「華琳さま」

 

紗江には映る華琳さまの顔は悲しみに満ちていた。

だけど、同じく華琳さまを呼んだ結以には、違うものが見えていた。

 

「華琳さま、一刀様のことをお助けしたいですか?」

「結以……当たり前のことを聞かないで頂戴。私はそのためにここまできたのよ」

「…そうですか。…以前見たより、覚悟へ満ちているようで安心しました」

「………」

 

覚悟があった。

何への覚悟か。

以前の華琳さまは迷っていたのか?

少なくとも、以前の華琳さまは最後まで一刀を助けるために頑張っていた。そして、それは今でも同じだ。

だけど、その意味は違っていた。

 

華琳はもう、一刀を失うということを否定する気はなかった。

だけど、そこで絶望せず一刀の幸せのためにここまできた。

そして、一刀が絶望に満ちて出て行った今こそ、華琳さまの覚悟が力になってくれなくてはならなかった。

 

「華琳さま、これを……」

「…これは?」

 

結以は華琳さまに、小さな瓶を渡した。

 

「身を隠せる薬です。それを飲めば、誰にも気づかれないで一刀様が居るところまで着くことが出来ます」

「………」

「これを華琳さまにあげる意味は、言わなくてもお分かりいただけると存じます」

「………ありがとう、結以」

 

華琳さまはその瓶を受け取りました。

 

「その地図に居るところが一刀様が向かう場所です。持って行ってください」

「待ってください、孟節さん。まさか、華琳さまをあんなところまで一人で行かせるつもりですか?」

 

結以の意図が分かった紗江は顔を青くして言った。

 

「この戦いの最後は、華琳さまの一刀様が飾るでしょう。わたくしたちはただ、そこに添えるだけです」

「ですが…危険すぎます。我らが王を死地へ向かわせろというのですか?」

「部隊を持って往くには時間が足りません。華琳さまの絶影なら、一日でかの場所に着くことも不可能ではないでしょう」

「しかし…」

「いいのよ、紗江」

「華琳さま!」

 

強く異議をいう紗江を、華琳さまが止めた。

 

「結以の言うとおりよ。ここからは私と一刀だけの話。あなたたちまで巻き込むわけにはいかない」

「……」

「今までありがとう、紗江。一生を賭けても返せないぐらいの恩をあなたからもらったわ」

「華琳さま………」

 

紗江は何も言わずに俯いてしまった。

そんな彼女を顔を華琳さまは手で上げた。

そして、その口に自分の唇を重ねた。

 

「……華琳さま……」

「ありがとう、紗江。最後まで、私たちの可愛い娘たちと兵士たちを任せるわ」

「……はい…どうかご無事で居てください」

「安心なさい。私を誰だと思っているの」

 

華琳さまは地図に表示を付けてその地図を巻いて手にして外に向かいながら言った。

 

「私は覇王よ。欲しいものは何でも手に入れてみせるわよ」

 

 

 

 

「華琳さま……」

 

紗江は天幕を出る華琳さまを見て、結以の方を見た。

 

「孟節さん、華琳さまにあげたものは…」

「言ったでしょう?身を隠すためのものです。身体の害になるものは除外しましたから問題ありません」

「それじゃあ、華琳さまは大丈夫なのですか?」

「大丈夫?何をいっているのですか」

 

結以は何馬鹿なことを…と思うような顔で言った。

 

「敵本陣に突っ込むのです。危ないに決まってるじゃありませんか。それに、あ奴らにはわたくしが作った薬なんて通用しないでしょうし」

「なっ!」

「仲達さん、わたくしとあなたに出来ることはここまでです。ここでこれ以上手を添えられるのは華琳さまとあの方だけです。そして、あの方は…左慈さまは全てを華琳さまに託しました。華琳さまがもし失敗するなら、華琳さまも、一刀様も…この外史もお終いです」

「………」

 

紗江は静かに目を閉じて顔を俯きました。

 

「一体…左慈さんは何を考えていらっしゃるのですか」

「……あの方しかわからないことです。ただ、言えることは、あの方なら他のなによりも一刀様のことを優先するということです」

「……それなら、自分が守ってあげれば良いではありませんか……何故ここまでして…華琳さまや…人たちを……」

 

あの子一人のためにどれだけの人たちが苦しんでいるか。

あの子が居たせいでどれだけの人たちが悲しみをその心に刻みつくのか。

何故、皆もが子供一人のためにここまで来なければいかなかったのか。

 

「分からなくなってきました……左慈さまは一体何のためにここまでして……」

 

スッ

 

「お話途中で済まぬの」

「あわわー!!」

 

突然現れた人に、その時まで紗江に抱かれていた鳳統が悲鳴を上げた。

仙人が持つような杖を持った、他の人たちの背の半分ぐらいしかない老人がそこに居た。

 

「誰ですか?」

「儂が誰かは今関係おらぬ。孟節!ちと来てもらうぞ」

「え?」

「左慈が死にかけとる。お前さんじゃないとあ奴は死ぬ!」

「!!」

 

それを聞いた結以の顔から血気が去った。

 

「で、ですが……戦いが終わるまで左慈さまは絶対に来てはいけないと」

「お前さんにそういった奴が今死ぬというのじゃ!来るが来ぬか早く答えろい!」

「………仲達さん、ここは任せました」

「…分かりました」

 

紗江が頷くと、結以は南華老仙の手を掴んだ。

 

「行くぞ!」

 

がっ!

 

南華老仙が杖で地面を叩くと、二人は姿を消していた。

 

「あわわ!き、消えました」

「……雛里ちゃん」

 

驚いている鳳統を紗江は起こした。

 

「蜀の人たちは来るにどれぐらい経つでしょうか」

「え?あ、…翠さんや馬騰さんたちが来るのは後一刻ぐらい、本部隊まで来るのは夜になった頃になりそうですが……」

「……こっちからも急いで西涼までの道をつくらなければなりません」

「紗江お姉さま……」

「雛里ちゃん、あなたの力を少女に見せてください。少女がこの戦いを終えたら、安心して眠れるように…二度とこの大陸や華琳さまのためにまた地から起こされないようにしてください」

「………はい」

 

その時、鳳統の目が軍師のそれに成った。

 

 

 

 

 

 

スッ

 

「……!これって……!」

「左慈がやったのじゃ。あんな屍気にせんで良い!それよりこっちじゃ」

「あ、はい」

 

 

 

 

――………

 

「!!左慈さま!」

 

――……結以!……みなみ、あなた……!

 

「仕方なかろう!儂の能力じゃお前の崩れる身体を戻すことなんてできやしない!」

 

――だからって彼女を……結以、今すぐ戻りなさい。みなみが…

 

「駄目です!」

 

――結以…あなたがどうにか出来る領域も問題じゃないの

 

「だからわたくしに来ないように言っていたのですか?わたくしにこんな姿を見せたくないから?」

 

――……そうだ。

 

「……馬鹿……何で…何でこんなになるまで何も言わないのですか……」

 

――………

 

ピカッ

 

「……あれは…」

 

――………

 

「あれって……あんなのがあるのにどうして左慈さんをこのままにしているのですか?あれさえあれば左慈さんの身体なんて…」

 

――それは僕のものじゃありません。

 

「え?」

 

――あれは一刀ちゃんに使うものです……僕の身体を削りながら作った、僕の一生の傑作品です。

 

「………そう…それだったのですね。左慈さまがしようとしたのって……だから一刀様を今まで放っておいた。華琳さまも……皆が悩むように放っておいた……」

 

――…これが、僕が考えられる一番幸せな姿です。

 

「……どうしてここまでしなければならなかったのですか……」

 

――……僕が、あの子に会ったからだよ。

 

「!」

 

――僕があの子にであってなければ……あの子が事故に会うこともなかったし、子供の身体で両親に見捨てられることもなかったし、言葉が言えなくて悲しむことも、誰かを失って悲しむこともなかった。あの子の不幸は何もかもが僕から始まった。だから…それを終わらせる方法が、これしかないわ。

 

「……じゃあ、わたくしはどうするつもりですか」

 

――……

 

「わたくしのあなたへの想いはどうなるんですか!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――……つけあがるな、孟節。

 

「!!<<ゾクッ>>」

 

――お前と僕がどういう関係なのか思い出せ。お前が僕に、そんなことを言っていいと思っているのか?

 

「左慈……さま」

 

――…帰れ、貴様との縁はここで切る。

 

「………うぅ……うぐぅ……」

 

タタッ

 

「孟節!

 

――放っておきなさい

 

「左慈、お主……!」

 

――……これでもう、心配することもなくなった。これで安心して…最後を向かえられる……

 

「………っ!」

 

がっ!!

 

 

 

・・・

 

・・

 

 


 
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