人気の無い場所に来た一刀は、早速姿を変え始めた。
「・・・・・・グゥ・・・アァッ!!」
バサリと広がる黒い翼と赤き龍尾。
体をそれだけ変化させた一刀は、いつしか顕現していた枷と鎖を腕と足に巻きつけ、一気に空へと飛び上がった。
目標は今も略奪を続ける黄巾賊の殲滅。
つまり、殺すこと。
「(・・・・・・霊と・・・弁・・・協を悲しませるヤツ・・・やっつける・・・ッ!!)」
唯一心にそれだけを思い、余計な感情は押し殺す一刀。
「オォォォォォォォォォァァァァァァァアアッ!!!!!!」
スピードを出すべく、更に羽ばたく力を強くしながら一刀は叫んだ。
その後から後詰として十万もの軍が後を追う。
・・・・・・些か多すぎるかもしれないが、しかしこの時代において他の諸侯達の兵に比べ練度が低く、私兵と化している彼等は、物量で圧倒する他対抗手段がほぼ無くなりつつあった。
そう、今の官軍は大陸一弱い軍と言っても仕方が無かったのだった。
「華琳様、官軍が黄巾賊の大部隊と交戦するようです。我等はどう動きますか?」
青いチャイナ服を着た少女が、玉座に座る少女に向かって申し上げる。
「・・・一応私達も出たほうがいいわね。桂花、軍は既に準備をしてあるのかしら?」
「は。念の為にと春蘭に命令を出しておきました。」
「流石ね。・・・では、行きましょうか。今の官軍の実力を見定める為にね。」
立ち上がる少女は、その手に大鎌を携え、玉座の間を後にする。
それに続いて二人の少女も従うように追う。
後の魏王、『乱世の奸雄』曹操が今動き出す。
町から少し離れたところに、その黄色い集団の本陣は建っていた。
その数凡そ四万。報告に上がっていた五万の内、一万は町へと侵攻をしているようである。
大将と思える大柄の男は、無精髭を撫でながら周りに漏らす。
「これだけの数を相手に一刻も持たせたのは意外だったが・・・だが所詮は蟻の子。なす術も無かったか。ハッハッハ!!」
「流石お頭!!今夜はご馳走にありつけますねッ!!」
「そうだな。しかしそろそろ官軍がやってくるはずだ。来ないうちにとっととズラかるぞ!!」
そして銅鑼をけたたましく鳴らし、退却の合図を知らせると逃走を始める本陣。
それに続き、町から出てこようとする賊達だったが、目の前に奇妙な姿をした青年がいることに気が付いた。
青年は男達が走ってくるにも拘らず、ジッと立ち尽くしているだけだった。
「なぁ、アイツも剥いじまうか?」
「目ぼしいヤツなんも無さそうじゃねぇか。どうせ逃げ遅れたやつだろうよ。」
「なら・・・殺っちまうか。」
「そうしろ。すぐに家族に会えるようにな!!」
そしてゲラゲラと笑う男達の内の一人が、剣を抜き青年に向かって突進した。
「死ねやガキッ!!」
振りかぶる男に一刀はクルリとその場で回転した。
「あ?・・・」
その直後、男は不思議な浮遊感の後、地へと顔を叩き付けた。
何が起こったのか判らない賊達は、その場で急停止した。
「・・・・・・死ぬのは・・・お前達。」
ブンと腰の龍尾を素早く振る青年――――――一刀。
ビチャっと血が地面に飛び散り、土色に鮮やかな赤を描いた。
一刀を殺そうとした男は・・・胴体が真っ二つになっていた。
腹からドクドクと血が流れ出、中にある臓物がズルリと外に飛び出していた。
「・・・っの野郎ッ!!」
仲間が殺られたことに一気に頭に血が上り、逆ギレした男達はそれぞれの得物を片手に、仇討ちとばかりに一刀に襲い掛かった。
それに対して一刀はジャラリと鎖を垂らすと、それを握り締めて高速に振り回した。
目にも止まらない速さで振るわれた鎖は、それだけで鞭や刃と化す。
振るわれた剣や槍は折れ、男達は体を引き千切られていく。
「ぐぎゃあああああ!!!!????」
「腕が、腕がぁぁぁぁぁ!!」
断末魔を上げながら次々と倒れていく男達を見向きもせず、一刀は唯ひたすら自分に向かってくる者を殺していく。
「いやだ、死にたくない・・・」
「頼む、命だけは・・・」
武器を捨て、命を乞う者も容赦無く龍尾を振るい、鎖を絡め付け、千切り、投げ飛ばす。
一刀は今も尚三人のため、皆のためと思い、力を振るう。
・・・・・・気が付けば、町の入り口まで来ていた一刀は、クルリと後ろを振り返ると――――――
――――――そこは、血肉が飛び散り、呻き声がそこかしこから聞こえるおぞましい光景と化していた。
血まみれになった鎖と龍尾、そして体を順番に見て一刀は体を震わす。
・・・まるで体に付いた水を払う犬のように。
「・・・・・・次。」
恐らく逃げたヤツがいるはずと思った一刀は、翼を広げて再び飛び立つ。
・・・・・・どうやら、遠くないところで皆があの賊達と戦っているようだ。
「・・・・・・行く。」
そこに向かって羽ばたく一刀だったが、その姿を見る少女が居た。
「華琳様、町の様子を見に行きますか?」
ネコ耳フードの少女が近づき進言する。
それに反応した少女――――――曹操は、ゆっくりと頷いた。
「えぇ・・・。しかしあの者は一体何者なのかしら?」
群がる賊をまるで葉を散らすが如く薙ぎ倒していった者。
縋る敵すら容赦ないあの姿は、今でも鮮明に焼きついていた。
それにあの姿。異形としか例え様が無い。背から羽を伸ばし、尾を生えさせる人間・・・
それが今の官軍には居るというのだろうか?
「クックック・・・」
「・・・・・・華琳様?どうなされましたか?」
突然笑い出した曹操を心配して、ネコ耳少女が言葉をかける。
「中々興味深いじゃない。あの異形の姿をした者・・・欲しくなってきたわね。」
「は、はぁ・・・」
そこへ町へと先攻していた二人の少女――――――名を夏候惇と、夏候淵と言う二人は、馬で駆けて来て報告した。
「どうやら町の中には一人も賊はいないようです。華琳様。」
「早く皆を助けましょうよ、華琳様!!」
「・・・・・・えぇ、判ったわ。行きましょう。」
馬で走り出す曹操だったが、その頭の中はあのものが一体何者だろかという疑問で埋め尽くされていた。
「クソ、今日はやけにしつこいな官軍奴等。いつもなら早々に退却をするはずだが・・・」
大柄の男が呟くと、次の瞬間どこからとも無く悲鳴が響いてきた。
どうしたと思い、そちらを見る男だったが・・・
そこには体中血まみれの青年が突っ立っていた。
「いつの間にこんなところまで来たんだ・・・おい、野郎共!!そこのガキを殺してしまえ!!」
「「「「応ッ!!」」」」
群がってくる賊を気にせず、一刀は近くに居た将軍へと警告した。
「・・・・・・皆、離れる・・・殺すから・・・」
「わ、判った。皆の者!!退避せよ!!賊兵を一押しした後、後ろに下がるのだッ!!」
将軍は一刀の姿にうろたえながら、即座に指示を出した。
他の将軍達も聞こえたらしく、次々に退避していく軍。
一方賊達は急に戦闘を止め退避し始めた官軍を見て呆れていた。
「なんでぇ、あいつ等逃げてやがるぜ。」
「ハハハ!!臆病風に吹かれたんだろうよ!!」
「違いねぇ!!」
だが、そんな言葉も一瞬でかき消された。
「ぐ、ぐるじい・・・」
「ヒュー・・・ヒュー・・・」
「・・・・・・。」
一刀がその喉元を鎖で締め付け、窒息させたのだ。
そして、巻きつけた鎖をグッ!!と一気に引き寄せると、ボキリという音と共に男達は膝から崩れ落ちた。
「ック、何やってんだ!!かかれぇ!!」
その一言で雄叫びを上げながらかかって来る賊達を見て、一刀は一言言った。
「・・・・・・さよなら・・・迷惑な人・・・・・・」
その直後、再び悲鳴と断末魔がそこかしこから上がったのだった。
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第九話。
飛び散る血飛沫、肉片。その中心に立つは赤く染まる一刀の姿。
警備隊長から一気に一城の主へとなったばかりの少女は、その姿を見て何を思うのだろうか?