「お、起きてる起きてる。おはよう少年。気分はどう?」
大きな音と共に部屋に入ってきた女性。
そしてその容姿はあの人とよく似ていた。
だけど似ているだけ。
辺りを見回しても当然のごとくあの人は見当たらなかった。
「どうしたの少年?」
そう声をかけられた俺は無意識に
「美蓮さんは!?」
部屋の空気が一瞬にして凍りついたのがわかった。
「儒子貴様!!」
黄蓋さんが声を荒げたと同時にあの人によく似た女性の手から伸びた剣が俺の首元に突きつけられていた。
「どう言うつもりか答えてもらおうか少年・・・・」
鋭い殺気がその言葉と共に降りかかる。
俺は失念していた。
その人物の命ともいえる名。
信頼した人物、そして家族にしか呼ぶことが許されない名だと言う事を俺はすっかりと忘れていた。
「返答によっては儒子の首がなくなるとしれぃ!!」
俺は言葉を返すことができなかった。
ここにあの人はいない。
いくらここで俺が説明したとしてもまず信じてもらえないだろう。
「何か言ったらどうなの!?」
「・・・・・・どうせ言っても信じてもらえないと思うから俺は何も言わない」
「いい度胸じゃの儒子」
目の前に立つ二人の殺気はただ膨れ上がっていくのみ。
俺がここに居るという事はおそらくあの人は・・・・・・。
そう考えていたときだった。
「・・・・殿お待ちください!!」
「ん?」
「何事じゃ?」
急に部屋の外が騒がしくなる。
「心配しなくとも良いと言っているでしょう・・・・・」
「心配するなという方が無理なことです!!」
あの声は・・・・・・。
「あそこか?」
「えぇ。ですが今は祭殿と雪蓮が尋問中です」
「尋問?そんなもの直ぐにやめさせなさい!!」
「しかし!!」
怒声が近づいてくる。
あぁ、この声は間違いない・・・・・・。
「策殿・・・・・」
「・・・・・・えぇ。間違いないわね」
目の前の二人がそう声に出したと時を同じくして。
『バン!!!!!!』
戸を開ける大きな音と共に部屋の中にあの人が入ってきた。
「一刀!!」
良かった。
彼女を見て頭の中に浮かんできた言葉はただそれだけだった。
「美蓮さん・・・・本当に・・・・・・良かった」
「貴様!!(儒子!?)」
思わず目頭が熱くなる。
そんな俺を見て彼女はゆっくりと近づき優しく抱きしめてくれた。
「ありがとう一刀。私はお前のお陰でこうやって自らの足でまた呉の地を踏むことができた・・・・・・」
「良かった・・・・・・本当に良かった・・・・・・」
目が覚めてこの部屋の天井を見た時俺は覚悟していた。
あの人を助けることができなかったんだと。
あの時重傷を負った彼女を自らの腕に抱いて止め処なく流れ出てくる血を必死に止めようとしていた。
はちきれんばかりの声をあげ必死に助けを求めた。
だけど周りには彼女の首を取ろうとする人間ばかりだった。
彼女を守ろうと必死に戦いそして力尽きたんだろう。
そして忘れていたことを思い出した。
「一刀? どうしたの?」
「・・・・・・っ!?」
震えが止まらない。
胃の中のものが逆流しそうになってくる。
忘れていた物・・・・・いや、無意識に忘れてしまおうとしていた感触を俺の体は鮮明に思い出していた。
「・・・・・・大丈夫よ一刀」
「ぅ、ぁ・・・・・・・」
「大丈夫。大丈夫」
彼女は俺の震えを止めるようにきつく抱きしめてくれた。
それでも。
それでもその振るえと感触は体から消えてくれなかった。
「・・・・・・ごめんなさい一刀。そして・・・・私のためにありがとう一刀」
「ぅあぁ・・・・・あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
彼女の言葉は感謝、そして贖罪の念がこめられていた。
「っなんじゃ!?」
「いったい何なのよ・・・・・・・説明してもらえない母様・・・・・・・」
今まで呆然としていた二人は彼女に質問を投げかけていた。
「・・・・・・・二人とも出て行きなさい」
「は?(え?」
「出て行きなさいと言っている」
「っちょっと待ってよ母様! 私達は尋問の途中で・・・・・・・」
「出て行けと言っている!!!!貴様等は私の言葉が聴けのぬか!!!!!!」
彼女の怒声が響き渡った。
「策殿。・・・・・・出ますぞ」
「っちょ、祭!?」
そして二人は部屋から出て行った。
「・・・・・・・さぁ、一刀。存分に泣きなさい」
「ぅくっ・・・・・っぐす・・・・・・・」
その言葉と同時に両の目から涙が溢れ出してくる。
吐き気と震え、そしてあの嫌な感触。
あの時俺は自らの手で人を殺めた。
怒りと焦りで我を忘れ彼女の首を取ろうと攻め立ててくる者達をこの手で殺めた。
「ごめんなさい一刀。私の所為で一刀の手を汚させてしまって・・・・・・」
「・・・・・・美蓮・・さん・・・の所・・・・為・・・・・じゃない」
そう、彼女の所為じゃない。
俺は自らの意思で襲ってきた人間を殺めた。
彼女を死なせたくなくて、守りたくて殺めた。
覚悟していたはずだった。
この世界に突然飛ばされて行く当てもなかった俺は彼女と共に行動することなった。
道中、彼女といろいろな話をして色々な事を教え、教えてもらい、そして信頼の証として真名を預けてくれた。
彼女は自分は息子が欲しかったと言って見ず知らずの俺を可愛がってくれた。
育ててくれた祖母は居た、でも、母の温もりを知らなかった俺にとってそれはとてつもなく新鮮でうれしいことだった。
だから俺は、信頼の証として預けてくれた真名と、母の温もりを教えてくれた彼女を何があっても守りたかった。
その時彼女は襄陽を治める劉表を討つ為に進軍していた。
彼女こと『孫堅』
そして『劉表』
その時進軍していた『襄陽』
彼女の話しではまだ黄巾の乱は起こっていない。
だけど3つのキーワードは出揃っていた。
その3つから導き出された答え
『孫堅の死』
時期が違うことからありえないとも思ったがここは武将が女性の、俺の知っている三国志とは違う世界。
不安は拭い切れなかった。
孫堅は進軍中に劉表配下黄祖の部下呂公の罠に嵌り死亡する。
そしてそれは現実となりかけた。
進軍中の突然の奇襲。
そして彼女は腕に深い傷を負った。
その傷からは血が止め処なく噴出していた。
俺に、共に死ぬことはない逃げろと言った彼女を置いて逃げることはできなかった。
俺を信頼して可愛がってくれた彼女を置いていけるはずなかった。
付近の兵に撤退を進言して俺は彼女を背負って必死に走った。
彼女の自らを置いて行けという言葉を無視してひたすら走った。
彼女と俺を逃がそうと味方の兵達が次々に盾となり散っていった。
そして俺達は囲まれる。
絶望的だった、けれども彼女を守りたい一心だった。
『彼女を守る。だから俺は戦う』
彼女が握っていた剣を拾い俺は構える。
後はもう無我夢中だったのだと思う。
どう戦ったのか記憶がない。
気づけば周囲は死体の山。
そして俺は必死に助けを求めて叫んでいた。
その声に釣られたのかまた敵兵が現れたことまでは覚えている。
俺の記憶はそこまで。
「・・・・・・・・ぅっく・・・・・・・っぐす」
「・・・・・・大丈夫。さぁ一刀、疲れてるだろうからもう寝なさい」
そういうと彼女は俺を寝台に横にしてくれる。
そして頭を撫でる。
俺は髪に触れる手の感触であの嫌な感触が洗い流されるような気がした。
そしてそのまま深い眠りに落ちていった。
― 孫策Side ―
部屋から追い出された私達は部屋の外で呆然としていた。
あの男と共に帰ってきた人。
『孫堅文台』
部屋に入ってきた母は私達に目もくれずにあの男のを抱き寄せた。
「・・・・・・・わけわかんない」
そう愚痴をこぼす。
母は自らの娘よりもあの得体の知れない男しか目に入らなかったように思える。
母が生きて戻ってきてくれたことは何よりも嬉しい事だったはずなのに、
その気分は一瞬にして地に落とされることになった。
「策殿、少し落ち着かれたらどうじゃ?」
「そうだぞ雪蓮、確かにさっきの事は気になる。だが何かしら理由があるはず」
「理由なんてどうでもいいの!! いったい何なのあの男!?」
理由は確かにあるのかもしれない。
だけど私達よりあの得体の知れない男の方が重要と言わんばかりの母のあの態度に私は納得できなかった。
「なんじゃ、策殿は母をあの男に取られたと思って嫉妬しとるのか」
「っちが!「なるほどな」っ冥琳まで!?」
「そう考えれば策殿の落ち着きの無さも納得いくのぉ」
「ですね。雪蓮も案外可愛いところがあったのだな」
「だから違うって言ってるでしょう!!」
そんなやり取りをしていると部屋の扉から母が出てくる。
「お前達・・・・・・少し静かにしなさい」
その声には静かな怒気が含まれていて私達は誰からとも無く押し黙る。
母はやっぱり母のままだった。
あの頃と変わらない
『孫堅文台』
静と動をその身に宿し、一度牙を剥けば目の前の敵をすべて喰らい尽くす虎。
その虎は生きて私達の目の前に立っている。
さっきまでの訳の解らない感情すら目の前に立つだけで一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
「・・・・・・・母様」
「久しぶり・・・・・・と言いたい所だけど、ここじゃ一刀が目を覚ましてしまうかもしれない。場所を移すわよ」
そう言って母は身を翻して歩んでいった。
「策殿、行かぬのか?」
「・・・・・・・えぇ、直ぐ行くわ」
そう答えながら私は部屋の扉を見つめる。
『一刀』
この部屋で寝ているであろう男の名前。
そして母が今一番気にかけているであろう男。
最初はただ面白そうだと思っていた。
だけど今はまったく逆。
「・・・・・・・気に入らないわね」
私はそう呟いて部屋の前から立ち去った。
あとがきっぽいもの
お久しぶりです獅子丸です。
前回更新からかなり日数があいてしまって申し訳ありません。
HDDの整理をしていた時に間違って完成していたはずの2話と3話を消してしまって涙目でした。
なので、こんなに間が開いてしまうことに。
萌将伝的日常の方も一緒に消してしまって・・・・・・。
萌将伝的日常はその場の勢いで書いているのでネタをメモすらしてなくて書き上げていた話はもうデータの海に沈んでしまいました。
浮かんでくることは無いでしょう・・・・。
とまぁ、気を取り直しまして今回の二話のオリキャラについてです。
1話目で気づいていた方も居たようですねw
というわけでここで軽く彼女の設定公開。
孫堅文台
真名 美蓮(メイレン)
知っての通り孫策、孫権、孫尚香の母。
襄陽を治める劉表を討つ為に進軍していた所、途中で流星と共に現れた一刀と出会う。
そのまま一刀を連れて行動していた。
その道中一刀の話を聞き、一刀の人柄など見極め信頼に値するとして真名を授けている。
信頼したというのもあるが母がいない境遇を知り自身も息子がいないこともあって
可愛さ余って・・・・・・な側面もあるとかないとか。
襄陽に着く途中の山岳にて劉表配下黄祖の部下呂公の罠にはまり重傷を負う。
敗走し重傷を負いながらもを逃げていたが出血がひどくに一刀背負われて逃げることになる。
一刀が彼女を守ろうと奮闘していた時、朧げながら意識はあった様子。
その時の怪我で右腕の腱が切れており肘より下はまともに動かない。
容姿は孫策のように釣り目気味ではなくもう少し優しい感じ。
黄蓋同様見た目からは年齢が解らない。
体系は孫策より少し大きいくらいの胸と孫権に負けず劣らずの美尻b
呉に戻ってからの服装は左側に深いサイドスリットが入っていて胸部は孫権の服のような赤いロングチャイナ。右腕のみ傷を隠せるよう肘上までの手袋を着用。
髪型は孫策と同じくらいの長さだが後ろ髪をいったん上で結って余りとサイドは下ろしている。
っとまぁ、こんな感じですが・・・・・・・。
自分に絵心があればイメージをより解りやすく伝えられたのではないかと思う次第です。
誰か書いてくれる人探そうかな・・・・・。
今回は孫堅しか出てきませんがオリキャラはまだ数人出る予定。
イメージと設定は出来上がっていますがうまく作中で動かせるかどうか・・・・・・。
因みに男のオリキャラもいますb
名前だけでたいした設定がないオリキャラも。
その辺はまた次の機会に紹介しようと思います。
それではまた次回も生温い目でお読みいただければ幸いです。
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更新遅くなってスイマセン。
真・恋姫 呉伝 -為了愛的人們-第二話
です。
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