「ちっ、逃げられたか」
華雄は戦斧を肩に担いで舌打ちした。
「なんや華雄、その表情やと、あんたも逃げられたってとこかいな」
「そう言うお前も、どうやら逃がしたようだな、霞?」
「援軍に邪魔されてな。しゃあないわ」
と、霞は肩を竦めた。それをみた華雄も苦笑を浮かべる。
「華雄・・・、霞・・・」
「ん?おお、恋、戻ったか」
「なんや、呂布ちんも敵逃がしたんかい?」
「・・・・(コクリ)」
敵軍追撃から戻ってきた恋は、華雄と霞の質問に悔しげな顔で肯定を返した。
三人共、一騎討ちの際に敵の援軍の援護射撃に妨害され、敵将を仕留められなかったのだ。たとえ今から追いかけたとしても、仕留めるのは無理だろう。
「まあしゃあないで。うちもまだ腸煮えくりかえっとるけど、もう追撃かける余力が軍にないし」
「確かにな。私も前なら追撃をかけただろうが、今は状況が状況だ。仕方がない」
「・・・ご主人様の、仇をとりたい」
「・・・ま~、分かるけどな~・・・」
「・・・というより主殿はまだ死んでないぞ?意識を失っているだけで」
二人の言葉を聞いても、恋はまだ納得をしていないようだ。もっともそれは華雄と霞も同じであろうが。
「か、華雄殿!霞殿!恋殿!た、大変です~!!」
と、突然咲耶が此方に向かって走ってくるのが見えた。その表情はどこか焦っているように見える。
「なんや咲耶、どないしたねん?・・・というかあんた、軍の指揮どうしたん?」
「あ・・・軍は雪蓮様の指令があったので撤退させました!そ、そんなことよりも、大変です!!」
「一体どうしたというのだ。まさかまだ曹操軍の伏兵が潜んでいたとでも言うのか?」
華雄がそう質問すると、咲耶は首を振って否定した後、一拍置いて答えた。
「関平様が、関平様がお一人で敵の本陣に乗り込まれてしまわれたそうです!!」
「な、何!?」
「なっ!?んなアホな!!」
「・・・!!」
咲耶の言葉に三人共驚愕の表情を浮かべる。
いくら関平の武が優れていたとしても、たった一人で本陣に乗り込む等もはや自殺行為だ。
「くっ、まずいぞ!どうする!!」
「どうする言うても、もう軍勢は帰ってもうたで!!うちらだけで助けに行くしかないやんか!!」
「・・・恋、今から行ってくる」
「あ、れ、恋殿、お、お待ちください~!!!」
華雄と霞が関平をどう救出するか相談する中、恋は時間がもったいないとばかりに三人を置いて一人で愛紗を救出しに行ってしまう。
「ちょっ、呂布ちん!?・・・行ってもうた。しゃあない。うちらも行くか」
「ああ、全くこれだから猪武者は・・・」
「・・・それ、華雄殿が言えることなのですか?」
そして、結局三人共恋に遅れて、関平救出に向かうことになったのである。
関平side
「華琳様あああああああ!!!」
突如飛んできた鉄球が、華琳を斬り捨てようとしていた愛紗を吹き飛ばした。
「!季衣!!琉琉!!」
華琳は自分に駆け寄ってくる親衛隊の二人の名前を叫んだ。二人とも、乱戦のせいで多少の傷は負っているものの、無事なようであった。
「大丈夫ですか!?華琳様!?」
「ええ・・・危機一髪だったわ」
「感謝するわ!季衣!!琉々!!」
「お礼は許昌に戻ってからでかまいません!」
華琳と桂花の無事な姿を見た季衣と琉琉はほっと安堵の息を吐いた。
「華琳様~!!」
と、春蘭、秋蘭の姉妹と、凪、沙和、真桜の三人組がこちらに駆け寄ってきた。五人とも無事なようであったが、凪達三人組は夏侯姉妹に比べて疲弊が激しく、もう戦える状態ではなかった。
「あなた達!無事だったようね!」
「はい!援軍のお蔭で九死に一生を得ることが出来ました!」
「凪達は呂布を相手にしておりましたから、あと少し遅ければ死んでいましたね」
「そう・・・、とにかく早く撤退するわよ!いつまでももたもたしていられ・・・「・・・ナンダ、ズイブントムシケラガフエタナ・・・・。マアドウセゼンインツブスガ・・・」・・・なっ!?」
突然聞こえた声に華琳達が驚愕して振り向くと、そこには愛紗がまるで何事もなかったかのように立っていた。
「そ、そんなっ!!確かにボクの一撃が命中したはずなのにっ!」
「・・・アア、アレカ。トッサニヨコニトンデイリョクヲヘラシタガ・・・、アンガイイタクナカッタナ・・・・」
愛紗はそう言って不気味な笑みを浮かべた。
その笑みを見て華琳を含むその場にいた魏の将達はぞっとした。
いくら威力を減らしたといっても普通の人間が季衣の一撃を喰らって平然と立っていられるわけがない。
自分達ですらもまともに喰らえばまず動けなくなるだろう。
それなのに平然と立ち上がるなど、もはや不死身としか考えられない。
「ば、化け物・・・・」
桂花が呟いた言葉が、その場にいた全員の心境を物語っていた。
「サテ・・・、モウメンドウダ・・・。オワラセルカ・・・」
愛紗は冷艶鋸を構えて曹操に向かってゆっくりと歩き始めた。今度こそ華琳の命を刈り取るために・・・。
もはやこれまでと華琳は観念した、が・・・・。
「華琳様っ!お逃げください!!」
「ここは私と姉者にお任せを!」
夏侯姉妹が愛紗の前に立ち塞がった。二人とも各々の獲物を構えた臨戦態勢に入っていた。
「な、何を言っているのよ!あなた達も凪達ほどじゃないけど疲弊しているじゃない!そんな体で、死ぬ気なの!?」
華琳は必死な表情で二人を止める。しかし、春蘭と秋蘭は笑みを浮かべる。
「ご安心を華琳様!この夏侯元譲、そう簡単にやられはしません!」
「そうですよ華琳様、姉者と二人なら、たとえ誰であろうと負けはしませんよ」
「春蘭・・・、秋蘭・・・」
二人の言葉を聞いた華琳はぐっと涙を堪えると。桂花達に指示を飛ばした。
「桂花、季衣、琉琉!!この隙に凪達を連れて早く逃げるわよ!!」
「は、はいっ!!」
「華琳様!ボクも春蘭様と一緒に戦います!!」
「私も!秋蘭様と一緒に・・・」
季衣と琉琉が華琳の言葉に反発するが・・・。
「駄目だ!!季衣、琉琉!!お前達まで残ったら誰が華琳様を守るんだ!!」
「心配するな。私達は必ず生きて帰る。お前達は安心して華琳様を守れ!」
春蘭と秋蘭が二人を一喝する。自分達よりも華琳を守れ、と・・・。
「春蘭様・・・、必ず、必ず帰ってきてくださいね!!」
「秋蘭様、私、おいしい料理を用意して待ってますから!!」
二人はそう叫んで華琳達を守りつつ撤退を開始した。
「チッ、ニガスカ!!」
愛紗は逃がすまいと華琳に襲い掛かるが、その一撃は春蘭の七星餓狼によって止められた。
「貴様の相手は、我々がしてやろう!!」
「華琳様を追うのなら、我々を倒してからにしてもらおうか!」
「キサマラ・・・、モウイイ、キサマラヲサキニホウムッテカラアトヲオウトシヨウカ・・・」
そして愛紗の持つ刃が、冷たい輝きを放ちながら春蘭と秋蘭に襲い掛かった。
呉軍side
その頃華雄達は、愛紗を探して駆けずり回っていた。
「あ~~もう、関平どこにおるんや!!全然みつからへん!!」
「こっちもだ!!どこもかしこも魏軍の死体ばかりだ!!」
「・・・死体掘り返してみる?」
「うっ・・・、そ、それはちょっと・・・・」
四人とも未だに愛紗を見つけることが出来ず、途方にくれていた。
なにしろあるのは魏軍の兵士の死体のみで、関平の手がかり等欠片も無いのだ。
「しっかしまあ、ぎょうさん死んでるなあ・・・。どこの部隊がやったんねん、これ」
霞は周囲に転がっている死体を見ながら溜息を吐いた。
なにしろ死んでいる兵士は魏兵のみ。味方の死体等一つも転がっていないのだ。
「本当ですね・・・。自軍に犠牲無く敵軍を殲滅するなんて・・・。どういう策を使ったのでしょう・・・」
咲耶も周りの光景を見て少しばかりぞっとしながらも驚嘆の声を上げた。
しかし華雄は、死体を調べていて、あることに気が付いた。
「・・・いや、ちょっと待て。何かがおかしいぞ」
「・・・へ?」
「どないしたねん?華雄っち?」
華雄の言葉を聞いて、咲耶と霞はぽかんとした表情を浮かべる。華雄はどこか険しい表情を浮かべていた。
「普通軍勢同士での戦いがあった場合、剣、槍、弓、まあ何でも良いが複数の武器を使用して戦うだろう?ならば死体に付く傷も全部違うはずだ。だがここにある死体の傷を見る限り、全員刃、それも全く同じ獲物で殺されているだろう?」
「・・・あ!」
「そういや確かに!!」
確かに華雄の言うとおり、魏軍の死体はどれもこれも同じ武器で斬られた傷ばかりで、矢や槍で死んでいる死体は一つもなかった。
「で、でもだからなんなんや?一体」
「いや、これは私の推測なのだがな・・・・」
華雄は一旦口を噤むと、自身の予想を口にした。
「この魏軍は・・・、たった一人の人間に全滅させられたのではないか、と思う」
「はあ!?」「ええ!?」
華雄のあまりに突拍子の無い発言に霞と咲耶はすっとんきょうな声をあげた。
「な、そんな馬鹿なことあるわけないやないか!!んな事出来るのは呂布ちん位しか・・・」
「・・・その呂布を倒したのが、一人だけいるだろう?」
「・・・あっ!」
華雄の言葉を聞いた咲耶ははっとした表情になった。
「・・・・ま、まさかこれって・・・」
「全部、関平がやったんかいな?」
「ありえる。主殿を殺されて関平は内心では怒り狂っているだろうからな・・・。曹操だけでなく魏軍全員を絶滅させようと考えても、おかしくない・・・」
華雄の言葉を最後まで聞き終えた霞と咲耶は、しばらくの間沈黙をしていた。
が、突然霞がある事に気がついた。
「ん?そういや呂布ちんどこ行ったねん?」
「あっ、そういえば・・・」
「まさか・・・、一人で探しに行ったのではないだろうな・・・・」
・・・有り得る。
恋は会議や話し合いに参加することが余り好きではない。
その為董卓軍に所属していた頃は、軍議をしばしば勝手に抜けるという行動が多かった。
今回も、自分達の話が長くて、それなら自分で探したほうが早い、と感じたのだろう。
「・・・探しに行こか」
「・・・そうだな」
「・・・着いた頃には曹操死んでいるかもしれませんが」
三人は、再び愛紗探索を開始した。
関平side
「・・・サンザンテコズラセテクレタナ・・・、ダガモウゲンカイノヨウダナ・・・」
「・・・ぐっ・・・っくそ・・・・」
「さすがに・・・限界か・・・・」
春蘭と秋蘭は、傷だらけで愛紗の足元に倒れ付していた。
二人とも纏っていた鎧は原型を留めないまでに破壊され、春蘭の七星餓狼は刃が圧し折れて柄のみの状態であり、秋蘭の餓狼爪は真ん中から叩き折られて、もはや弓の役目も果たせない状態になっていた。
一方の愛紗は、季衣の一撃を受けた傷があるにもかかわらず、二人を一瞬で圧倒し、全く疲労している様子も無かった。
「サア・・・ソロソロアノヨニオクッテヤロウカ・・・。シマイイッショニイケルンダ・・・サミシクナイダロウ・・・?」
愛紗は止めをさそうと冷艶鋸を振りかぶった。
「ぐ・・・しゅう・・・らん・・・どうやら、此処までみたい・・・だな・・・」
「ああ、琉琉の・・・、料理を・・・、食べる約束は、果たせそうに・・・ない、な・・・・」
春蘭と秋蘭は、覚悟を決めて目を閉じた。
その二人に冷たい刃が
振り下ろされなかった。
「ガッ・・・・・・」
いつまで経っても刃が振り下ろされる気配が無く、逆に苦しげな声が聞こえる為、二人が眼を開けると、そこには、愛紗が頭を押さえて苦しんでいた。
「ガ、アア、カ・・・ラダガ・・・・イ・・・タイ・・・。ア・・・タマガ・・・・」
そしてその場で愛紗は倒れてしまった。
北郷流裏奥義、『修羅転生』
自身の心のリミッターを完全に外し、『動』の気を暴走させた上に脳内麻薬を大量に分泌させることで身体能力を大幅強化する禁断の奥義の一つである。
この奥義は心のリミッターを外し、『動』の気を暴走させることによる身体能力を底上げするだけでなく、アドレナリン、エンドルフィンといった脳内麻薬を大量分泌させることによる痛覚遮断の影響も受ける。
これによって愛紗は通常の約三倍以上の能力を発揮できる上に、痛みも一切感じない状態になっていた。その為、季衣の一撃を喰らっても平然と起きれたのである。最悪腕か足を切られても問題なく戦闘を続行できたのである。
だがその代償も高い。急激な身体能力増加による負担は大きく、長時間この状態を続行し続けると、いずれ身体、臓器が大きなダメージを受け、最悪の場合死に至る。
常人ならば1分も耐えることは不可能だが、愛紗は並外れた身体機能を有していたため、常人より長時間、この状態を維持できたのである。それでも、せいぜい三十分が限度であったが・・・。
そして今、その奥義の限界が来たのである。
愛紗の全身に耐えがたい激痛が走り、血管は裂けて体のあちこちでない出血が起こっている。さらに先程の傷跡の激痛も抑えていた分、倍になって体を襲う。
そして限界を超えて体を酷使した結果、愛紗の体には、もう体力は残っていなかった。
「ガ・・・・・・あ・・・・・」
愛紗は、うめき声を上げると、その場に崩れ落ちた。
春蘭と秋蘭は、ただ呆気に取られたまま、その光景を見ていることしか出来なかった。
「お、おい、秋蘭・・・。倒れてしまったぞ・・・」
「ああ、私も、何がなにやら・・・・」
倒れ付した愛紗を、二人は警戒しながら見つめていた。
「おい・・・、どうする秋蘭。今ならこいつを仕留められるかも・・・」
「・・・・いや、止めておこう。もし近づいて斬られたら笑えないからな・・・。ここは引こう、姉者」
「む、むう・・・・、まあ不満だが、秋蘭がそう言うならば、仕方がない・・・」
春蘭は秋蘭の言葉にやや不満そうにしながらも、秋蘭に支えられて立ち上がった。
「大丈夫か姉者」
「ぐっ・・・あまり大丈夫ではないな・・・。まあ歩く体力は残っているが・・・」
「・・・私もだ。途中で休み休み行くか?」
「い、いや、華琳様をお待たせするのは申し訳ない!!このまま一気に・・・ぐっ!!」
「・・・無理そうだな、なら途中で休み休み行くとしよう」
「うう・・・、すまん・・・」
「なに・・・、構わないさ、姉者」
そして春蘭、秋蘭は、傷だらけの身を引きずるように、その場から去っていった。
そして、その場には、愛紗一人が残された。
その後愛紗は、自分を救出しに来た恋によって建業に運ばれた。
あとがき
更新遅れて申し訳ございません!!
試験勉強に地震に停電まで相次いでしまって、とても更新どころではなかったんです・・・。
何とか更新した43話も、また中途半端になってしまいましたし・・・。
でも次で必ず孫策暗殺編は完結させるつもりです!
この作品を見ていらっしゃる皆様の中にも、多少地震の被害にあわれた方もいらっしゃるでしょう。
私の住む地域ではさほど被害は無かったものの、被災地の映像をニュース等で見たときには、本当にショックでした・・・。
一瞬で、本当に一瞬で一万人以上の人々の命が失われていく・・・。改めて地震の恐ろしさ、津波の恐ろしさを思い知った気がしました。
生き残った人達も、家も、財産も失い、明日の見えない生活を営んでいるのかと思うと、余りにも今の自分が恵まれている、そう感じてしまいました。
さて、この作品の更新についてですが。これからは、更新期間がかなり遅くなるかもしれません。ですが、打ち切りはしませんのでどうかこれからも私の作品を見ていただきたいと、願っております。
最後に、地震の被害に遭われた皆さん。どうか希望を、明日を捨てないで頑張って生きてください!!私も自分に出来る限り、精一杯応援しております!!
おまけ
真・恋姫無双 乙女大乱に続編決定!!
動乱により荒れ果てる大陸
その動乱は劉備達が于吉を倒したことによって終幕を迎えた
・・・はずだった。
「やれやれ、やはり影では無理がありましたか」
「ふん、役立たずが。今度は俺が自ら行く。俺の手でこの外史を消滅させてやる」
新たなる脅威が、大陸を襲う。
「な、何だ!?この化け物達は!!」
「こ、こいつらものすごく固くて強いのだ!!」
「村が、村が・・・・イヤアアアアアアアアア!!」
大陸全土が炎に包まれ
人々は絶望に包まれる。
そんな中、この世界とは別の場所より、一人の青年が舞い降りる。
「・・・ここが新しく出来た外史か・・・。なるほど、かなり荒廃しているな・・・」
そして同時に、もう一人の、いや、三人の影が現れる。
『あなたにはとある外史に向かってもらいます。その世界の滅びの原因を突き止め、可能ならば阻止をしてください』
『承知した、ゾーン。ではすぐにその世界に向かおう』
『頼みましたよ、アポリア』
「・・・ちっ、どうやら北郷の他に、三人イレギュラーが現れたみたいだな・・・」
「どうしますか?左慈」
「決まっている!!俺の邪魔をするのなら、北郷もろとも消し去るまでだ!!」
一度終幕を迎えた物語。
白き衣の天の御使いと
三つの絶望を味わいし機械仕掛けの青年を中心に
今再び幕を開ける!!
真・恋姫無双5d,s !!
「さあ、デュエルを始めようか!!」
「貴様達は目障りだ。俺の機皇帝で踏み潰してやる!!」
「キヒャハハハハハハハハ!!いい気になるなよォ!!」
「この世界の行方は、大いなる神のみぞ知る・・・」
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遅れて申し訳ありません!!
ようやく四十三話、投稿完了いたしました!!
本当はこの回で暗殺編終了だったんですけれど・・・。
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