宮中。
いつまで経っても帰って来ない一刀を心配しだした劉協は、劉弁と共に一刀を探していた。
「・・・・・・一体どこに行ったのでしょうか。」
溜息をつきながら言う劉協に劉弁はもしやと答える。
「アイツ、部隊に混じって町に向かったのではないか?部屋を出る前に私に幾つか質問していたしな。」
「質問?」
「あぁ、賊を倒せば皆喜んでくれる?と聞いてきたからな。可能性はあると思うぞ。」
「・・・・・・では厠を指差したのは自分が行くのを私が止めると思ってやったことなのかもしれないですね。」
フゥっと溜息をつく劉協。そこには複雑な心境が感じ取られた。
あの子には人を殺すなどして欲しくない。あの震える姿に戦場は似合わない。
・・だが所詮それは結局は自分の単なる我が侭でしかない。それは承知している。それでも、あの子を守りたいと思うのはいけない事なのだろうか?
僅かな日々しか共に過ごしていないが、それでもはっきり判る事がある。それは――――――
――――――一刀は臆病で、それでいて素直で優しい人物なのだ。たとえ人には無いモノがあろうと。
「それだけでは・・・そう思ってはいけないのでしょうか・・・?」
その言葉だけで、姉は妹の胸中を察したらしく、劉弁は肩に手を置き笑った。
「協、お前はそれでいいと思うぞ。」
「え・・・?」
「アイツをお前のように思うヤツが増えれば、アイツにとっても本望であろうさ。その為にアイツは行ったのだと思うからな。」
そう言い終えると、直後に何かの咆哮が轟いてきた。
それは唯聞くだけで震えが来てしまうものだったが、どこか自分達は知っているような気もした。
「この声は・・・一刀か?」
聞こえてきた場所を見やる劉弁。
そこは丁度町の方角で、空が赤く小さく照らされていた。
「一刀・・・。」
己の体を抱きしめ、一重に一刀が無事であれと願う劉協だった。
一刀は下を見下ろし、先程まで賊たちが騒いでいた場所へと真紅の炎を吐きつけた。
一瞬にして灰になる木々、黒焦げになる地表、そして、その炎から悲鳴を上げ、逃げ惑いながら消えていく賊達。
「グゥルルルルルルルル・・・・・・」
一刀は未だ胸に燻る炎と憤怒を持て余しながら、体を旋回させると、元来たあの山へと引き返そうとした。
しかし、その途中には未だ燃え盛る町があった。
よく見れば、到着した軍が懸命に生きている民を救助し、消火活動をしているのが見えた。
「・・・・・・」
だが一刀は目を細めると、そのまま通り過ぎていった。
今の自分に出来ることは・・・何一つ無い。
そう感じながら。
――――――再び一刀は人間へと戻ると、体内に入っていったはずの枷が再び装着してあることに気付いた。
「・・・・・・」
――――――・・・・・・邪魔。
そう思った途端、枷はそれに呼応するかのようにスッと消えていった。
「・・・・・・?」
疑問に思う一刀だったが、すぐに首をフルフルと振ると、宮中へ向かって走り出した。
・・・その目がまだ黄金に輝いているとは気付かずに。
「一刀!!」
劉協は城壁から飛び降りてきた一刀に呼びかけた。
声が聞こえた一刀もスタスタと歩いて近寄ってくる。
そこで二人はは一刀の所々が、別れた時と異なっていることに気付いた。
今朝手首と足首に付いていた枷が見当たらず、更に髪と同じ漆黒だった目が黄金に輝いていたのだ。
「・・・一刀、随分と長かったな。」
「(コクリ)」
「・・・・・・怪我はありませんでしたか?」
「・・・・・・」
劉協の問いに押し黙る一刀。
だが彼女は微笑むと、一刀を抱きしめた。
突然の事で驚き、身動きが取れなくなってしまう一刀に劉協は言う。
「・・・本当に怪我はないみたいですね。――――――一刀、これから聞くことに正直に話してください。
――――――賊を、人を・・・殺しましたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・殺した。」
「・・・そう、ですか。」
そして体を離す劉協。その顔は、真剣そのものだった。
「一刀、貴方は町の惨状を見て、そして賊を見て何を思いましたか?」
「・・・・・・怒った。」
その黄金の目は、怒りを含んでいた。
劉協は頷くと、口を開いた。
「そうでしょうね。彼等は当然酷いことをしました。怒るのも当然です。しかし一刀、貴方は彼等を殺した時、何を思いましたか?」
「・・・・・・」
一刀は再び黙った。
「貴方が行ったことは、もちろん正しいと言えるものでしょう。報いは当然受けねばなりません。しかし、彼等には彼等なりの理由があったのではないでしょうか?」
一拍置いて語りだす劉協。
「彼等を弁護する気はありませんが、しかし一刀には覚えておいて貰いたいのです。・・・彼等には彼等の正義があったということを。私達には民を守り、国を繁栄させるという正義を持っています。一刀も理由は違えど、私達の為、皆の為にという正義を持ってして出ていたのでしょう?それぞれ違う正義を持ち、行動するのが人という生き物なのです。」
「・・・・・・・・・殺す・・・ダメだった?」
一刀は思ったことを口に出した。それに対して劉協は首を横に振る。
「・・・いいえ、決して悪いとは言いません。先程言ったとおり、生きるためとはいえ他者の命を奪い、略奪するのはしてはいけないことです。それをしてしまった彼等は報いを受けなければなりません。私が一刀に伝えたいことは――――――彼等を悪だと決めつけないで欲しいということです。」
「協・・・」
「・・・・・・」
二人から顔を背ける劉協。
「現実、彼等が町を襲ったということは、私達上に立つ者がそうさせているに変わりないのですから。母様もそれをきっと承知のはず。心を痛ませていると思います・・・」
実際、この霊帝は正史と違い民を思い、そして大陸繁栄の為精一杯の努力をし続けてきた。
――――――国は民がいるからこそ成り立つのであり、民なくして私達上の者もありはしないのだから。
幼い頃からその志を聞かされてきていた劉協は、誰よりも母の気持ちが判っていた。
それは劉弁も同じだろう。何故ならば・・・二人は母を尊敬し、そして越えるべき目標としてこれまでを過ごしてきたのだから。
一刀はずっと劉協を見て黙り込んだままだったが、やがて頷いた。
「・・・・・・皆・・・思う・・・幸せ。」
その言葉にハッとする劉協。そしてニヤリとする劉弁。
相変わらず言葉は少なかったが、伝えたい気持ちは伝わったようだ。
要するに一刀はこう言いたかったのである。
『皆互い互いを思いやれば、きっと幸せになれる。』と。
「それが出来れば一番なんだがな。・・・それには力で押さえつけるだけじゃ意味が無い。」
劉弁は一刀の頭をワシャワシャしながら言った。
それを気にせず、一刀は劉協に言う。
「・・・協・・・安心・・・♪」
振り返った劉協は、眩しい位に笑う一刀を見て、思う。
――――――あぁ、この子は思っていた以上に強い子なんだと。
「・・・一刀、改めてお願いします。貴方の力を、私達の悲願のために貸して貰えますか?」
「・・・ん♪」
やはり、一刀は即答するのであった。
その様子にフッと笑う劉弁と、微笑む劉協だった。
・・・だが、現実はそんなに甘くは無かった。
無常で冷たい現実が三人を打ち据えるまで・・・・・・残された時間は少なかった。
一刀の枷によるスペックの変化。
・研究所で封印されていた龍化並びにその他の能力が、あの枷によって多少解けられた。
・枷の名は現時点で不明だが、効果は所持者(身に付けた者)の力をある程度解き放つ力が備わっているよう。しかしデメリットもあるため、封印されていたようだ。
・何故一刀の体内に飲み込まれたのかは不明。だが枷自体にはそのような力は備わってはいない。
恐らく一刀が無意識に取り込んだものと思われる。
一刀の変身について。
・基本一刀はDHプロジェクトと呼ばれる実験によって生み出された人工モルモットで、体に様々な遺伝子組み換えや薬剤を投与され続けたため、かなり多岐に渡って変身が可能と思われる。中には空想上にしか出てこないものまで変身できるが、本人はどれに変身できるのかなどは把握していない。しかし確かなのは『体を自在に変化させることが出来る』ということ。
・変身に応じて体内の構造も変わるので、火を吐いたり等は一応可能である。
・体を一部変化させることも可能。(例・・・翼を生やす、右腕だけ龍化させる等)
・しかし鉄などの生物とはいえ無い物には流石に変身は不可能である。
これ等を一言で纏めると、『一刀は人工的に作り出された存在であり、封印されていた能力が多少解け、生物であるなら数種類に変身できる』ということ。
一刀のその時のコンディションによってバラつきがある為、武力等は計測不可能。
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第七話。
前回に引き続き、形式は違いますがプロフを載せておきました。
それではどうぞ。