No.208700

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(28)

宣言通り、三月終わりに投稿出来ました。

地震、津波、原発と、苦しい状況ですが、頑張って行きましょう!!

2011-03-29 10:58:03 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:11429   閲覧ユーザー数:8397

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

翌朝。

一刀の雰囲気が変わった事に、多くの人間が気付いた。

何と言うか、「一皮剥けた」感じなのだ。

そして何があったのかは、とある人を見れば明らか過ぎた。

 

 

「でへっ、でへへへへへへ~~~」

 

「姉貴、いい加減にしろっつーの」

 

「・・・・・・一刀、遂に手を出したんですね・・・どうして私ではブツブツブツ・・・・・・」

 

「・・・ちぃっ、一殿の『初めて』は姉者に掻っ攫われたか」

 

 

そう、翠を見れば一目瞭然。

その為か、あちこちで色んな気炎が上がっている。

その内の幾つかは無視したい様な物も。

と言う訳でピックアップ。

 

 

「・・・ズルイ、恋も」

 

「お姉様良かったね・・・むぅ、でも何かモヤモヤする」

 

「夜討ち朝駆けは戦術の常道。

くっ! してやられました! ・・・クハッ」

 

「稟ちゃーん、朝から鼻血とは感心しないのですよ。

しかし、やられました、こうなったら今宵は・・・!」

 

「目前に戦が迫っていると言うのに、感心しないねぇ。

けど、羨ましくもあり、あたしも素直に甘えられりゃあね」

 

「へぅぅ・・・・・・」

 

「あの馬鹿、何考えてんのよ。

目の前に戦があるってのに、女にかまけるとか・・・」

 

「詠が何処となく不満気でありんす」

 

「やっぱり色狂いだったのです!

やはり恋殿にあのような男は似合わないのですぞ!!」

 

 

一つ二つ関を隔てた向こう。

 

 

「・・・おはよ華雄。

何か昨晩『やられたわ、あのアマァ!!』って気分になったんやけど」

 

「お前もか、私もなのだ」

 

「どうして皆様私と同じ様な事を仰っているのでしょう?」

 

「一体何の話をしているのだ・・・」

 

 

そして更に向こう。

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「華蘭? どうかしたのかしら?

髪の結い上げを止めているなんて。

あの髪型は、お母様譲りの自慢でしょう?」

 

「・・・・・・何故か知らんが、この髪型が癪に障った」

 

「そ、そう」

 

「ついでに言えば、眉毛が憎たらしくてたまらん」

 

「へ、へぇ・・・? (一体昨晩の内に何があったと言うの!?)」

 

 

「と、桃香様? 何処か悪いのですか?」

 

「何でも無いよ、唯ちょっと胸がムカムカするだけだから。

それよりすぐに行こう! さっさと関を抜いて洛陽に行くよ!!」

 

「と、桃香!? 一体何があったんだー!?」

 

「何でも無い! 早く一刀さんに会いたくなったの!!」

 

「胸がムカムカするって」

 

「もげる予兆かなぁ?」

 

「だったらすっごくうr―欲しいね」

 

「うん、無くなるんだったらこっちに取り付けたいよね」

 

 

「策殿・・・何故儂の背後を睨んでおられるのか?」

 

「えーっと、祭」

 

「な、何でございましょう?」

 

「その髪叩き斬っていい?」

 

「断固として拒否させて頂きまする!!」

 

「そうよねぇ・・・何か無性にあの男に会いたくなったわ」

 

「雪蓮よ、何を言っているのかまるで分からんぞ」

 

「堅殿、策殿が訳の分からぬ事を言い出すのは、何時もの事です」

 

「それはそれで酷いな」

 

 

以上、ダイジェストでお送りしました。

 

 

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第二十七話「開戦」

 

 

雪が降り始めた汜水関を目前として、連合は夜明けの時分から攻めようとしていた。

守将の旗を目にするが、それはもう皆揃って嫌な表情をした。

 

 

「漆黒の華旗に紺碧の張旗、金の皇甫旗、そして見知らぬ純白の徐旗か・・・」

 

「厄介なのが二人居ますね。

唯、猪の華雄が相手ならばどうとでもなりましょう」

 

 

何時もの軽装ではなくその上から防寒具を着込んだ大蓮が旗から守将を導き出し、同様に厚着姿の湊が鼻で哂いながら横から言う。

但し、そこに雪蓮から口が出された。

 

 

「そうかしら?

正直に言うけど、今の華雄は昔やり合った事のある華雄と違うわよ」

 

「雪蓮、それは何故そう思ったのだ?」

 

「黄巾の時に、ちょっとね・・・」

 

 

少し苦笑いしながら、雪蓮は以前の事を思い出す様に語った。

その調子から大蓮はどんな事があったのか、勘付いた。

 

 

「猪だと思っていた相手に猪扱いでもされたか」

 

「・・・何で分かっちゃうのよ~」

 

「何となくだ、勘だな」

 

 

ぶーたくれる雪蓮に対し、鼻で笑う。

その後ろの軍師二人は揃って呆れの溜息。

 

 

「相も変わらず、軍師泣かせな勘ですね」

 

「全く、しかしそれならばその勘さえ策に組み込めるようにならなくては。

これより先も孫呉の軍師ではいられないわ」

 

「精進します」

 

 

師匠に諭され、冥琳は一度だけ溜息。

手を叩いて二人に合図を送った。

 

 

「そろそろ予定の時刻です、劉備軍との評定に行きましょう」

 

「ありゃ、もうそんな時分かい。

しょうがないね」

 

「うー、だったら急いで行きましょ。

ここは寒くて堪らないわ。

もうちょっと火を焚いてくれないかしら?」

 

「我慢してくれ、薪が無限にある訳じゃないんだ。

そもそもお前既に結構厚着しているじゃないか」

 

「生まれも育ちも江南なんだけど、私」

 

「私だって我慢しているんだ、寒い思いをしているのはお前だけじゃない」

 

「その通りですよ、策殿。

堅殿だって、こんな寒空の下何の不平も言わず我慢しているんです。

貴女も見習い下さい」

 

「は~い」

 

 

小声で愚痴をブツブツ零しながらも、孫呉の首脳陣は此処よりも暖かいであろう評定用の天幕へと向かった。

で、彼女達がいなくなった後。

 

 

「雪、か・・・一曲作れるかな?」

 

「うぅぅぅぅぅ・・・・・・さ、寒いですよぅ涼香様~~~」

 

「我慢なさい明命。

もしくはガタガタ震えて逆に温めるといいかもですよ」

 

「え、えーっと、ガタガタ震えて・・・あ、少し温くなりました!」

 

「・・・お主等何やっとるんじゃ?」

 

「おや、祭さん」

 

「はぅあっ!?」

 

「明命、そこまで驚かんでもいいじゃろ」

 

「私はこの雪が歌に良いかと思いまして。

後明命ですが、私が此処に来る前から雪で猫の像を作っていましたよ」

 

「おいおい、それで寒くなったと?」

 

「す、すみません」

 

「いや、謝るのは後にして、とっとと温まって来い。

湯なら使える筈じゃ」

 

「あ、ありがとうございますぅ~~~!!」

 

「風の様に走って行ったのぅ」

 

「相当寒かったのでしょうね、昨晩より降っていましたが、これは向こうにとっても宜しくない天候ではないでしょうか?」

 

「かもな」

 

 

 

 

 

「ところがぎっちょん! 防寒対策は完璧や!」

 

「張遼将軍、何を言っているのですか?」

 

「いやー、何か突っ込まないかん気がしてなぁ」

 

 

所変わって、此方は汜水関内部。

内側では惜し気無く火を焚き、常に温かい部分を保っていた。

背後側に本拠があるので、薪も洛陽方面からガンガン運んで来る事が可能だ。

更に。

 

 

「しかし、この湯たんぽと言う物は温かいな。

実に良い」

 

「せやなぁ、おかげで見張り中もポカポカや」

 

 

そう、湯たんぽだ。

洛陽中の鍛冶屋が結託し、水漏れしない金属容器を作成。

そこに一度温めた湯を入れるだけと言う簡単な物。

大きさは大小があり、主に大が夜の寝床用、小が布と一緒に懐に仕舞う懐炉代わりとなっている。

この効果が非常に優れていたのだ。

しかも、お湯は何度でも温め直せる。

 

 

「これも主様の御威光のお蔭でしょうか」

 

「そうだな、あ奴の為に洛陽の鍛冶屋が結束したが故に、これ程の量の容器を賄えたのだからな」

 

 

菖蒲が嬉しそうに。

華雄が誇らしそうに言った。

 

 

「む、動きが見えた」

 

「ホンマや、狼煙上げぇ!!

虎狼関に、連合の攻撃が始まる伝えろや!!」

 

「はっ!!」

 

 

狼煙役の兵に即座に命令を飛ばし、動き始めた連合の前曲約四万の兵に目を向ける。

更に情報を手にする為に旗を確認していくが、思わず呆けてしまった。

 

 

「孫呉と・・・げぇ! あっちは劉備んとこか!?」

 

「あの、私は善君であると言う事しか知らないのですが。

その劉備さんの軍が厄介なのですか?」

 

「関羽と張飛、それから趙雲は知っているか?」

 

「はい、黄巾の乱で名を上げた猛将ですね。

・・・もしや!?」

 

「そうだ、そ奴等を従えている。

しかも、軍師も『伏竜』と『鳳雛』の両人だ。

離反策は通用するまいよ」

 

 

華雄の溜息混じりの言葉を聞き、菖蒲はゴクリと息を飲んだ。

田舎から出て来る途中で様々な噂を耳にしていたが、『伏竜』と『鳳雛』の評判はひとしおだった。

何せ、一人得ただけでも天下に手が届くと言われる存在だ。

それが二人ともだと言う。

不安が一気に押し寄せて来たのか、表情が歪む。

そんな様子を見兼ねたのか、霞が口を挟む。

 

 

「んな心配する事も無いわ。

確かに将や、個々の軍の力を見れば恐ろしいけどな。

ウチ等も全然全く負けとらんで」

 

「ふふっ、その通りですよ。

それに向こうは烏合、此方はしっかとした絆で結ばれています。

油断をしなければ、負ける要素は薄いです」

 

 

霞と円の言葉には確かな力があった。

確かに、と納得させられるだけの説得力も。

 

 

「そう、ですね」

 

「そうだ、それとも何だ?

お前は自分の主を信用できないか?」

 

「それは決して有り得ません」

 

 

最後の一言だけ胸を張って言い切った菖蒲に対し、華雄は含み笑いを漏らした。

 

 

「おや、誰か出て来ましたね」

 

「ホンマや、あれは・・・孫堅か?」

 

「うむ、間違いなく孫文台だな。

昔直々にやり合った身として断言しよう」

 

 

城壁の下に孫堅が手勢を幾人のみ連れて出て来た事で、会話と一緒に控えたが。

 

 

 

 

 

城壁の下、とは言っても矢が届かない辺りを見計らって大蓮は進み出た。

心の内は随分と不確かなものに頼ろうとする自分自身に対して、自嘲めいたものを抱いていたが。

 

 

「汜水関に籠る敵将華雄に告ぐ!

あの日、取り損ねた貴様の頸を寄越してくれる為に再び我の前に立ちはだかったか!?

ならば今すぐにこれに置いて行って貰おうか!!

出来ぬか!?

我に負けた事、それ程に恐ろしいか!!

・・・・・・臆病者め!!

その様な臆病者に命を預けるしかない兵が不憫でならんわ!!

命がそれ程に惜しいならば、故郷に逃げ帰るがよい!!」

 

 

挑発。

非常に単純かつ、相手の自尊心や矜持を傷付ける言葉を選りすぐって言う。

効果が然程でも上がってくれる事を望みつつ、大蓮は城壁を見上げた。

 

 

 

一方の城壁の上。

大音量で聞こえてくる大蓮の罵声が始まった辺りから、顔を下げている華雄に霞は背筋が寒くなった。

見え透いた挑発だが、『今の』華雄には効果が無いと見ていたのに、始まってみればこれだ。

よもや、皆から預けられた関を初日で落とす事になってしまうのでは、と危機感を新たにした辺りだった。

 

 

「も、もう駄目だ・・・」

 

「んなっ!?」

 

 

聞き捨てならなかった。

まさか城門を開けて打って出るつもりなのか。

それだけは何としても避けなければならない。

華雄には悪いが、暫く眠っていて貰おう。

そう即座に判断し、飛龍偃月刀を取り出した。

 

 

「ぶっ、あーはっはっは!!

何だあの必死さは!?

江東にその者ありと謳われた『江東の虎』が!

クッククク・・・腹が攀じ切れそうだっ!!

あ奴は、私を笑い殺そうとでも言うのか・・・ぷっ」

 

「は・・・?」

 

 

偃月刀を構えたまま、霞は呆けてしまった。

怒りに震えているのかと思ったのだが、実際には笑いを堪えているだけだったのだから、当然と言えるが。

 

 

「な、なぁ華雄?」

 

「何だ張遼、何故私の後ろで得物を構えているのだ?」

 

「こ、これは気にするなや。

で、や。

怒っとらんの?」

 

「無論、怒りはあるに決まっている。

しかし、あのように幼稚な挑発を、『あの』孫堅がやっているんだぞ?

笑うなと言う方が・・・い、いかん、また笑いが・・・・・・」

 

「・・・・・・心配したウチが阿呆やったわ」

 

 

ポツリと華雄に聞こえない様に一人ごちた。

何の事は無い。

今もまだ華雄の事を信じ切れていなかった自分に、腹が立っただけだ。

 

 

「しかし、やはりあの侮辱は頭に来るな」

 

「せやな、それはウチも思うで」

 

 

それでも、締める所はキチンと締める。

そんな中、霞の視界に積った雪が入った。

霞は、一刀に聞いた時からやってみたかった事を皆に語ってみる。

そしてそれは、皆に喜んで受け入れられた。

 

 

 

再び城壁の下。

全く動きを見せない汜水関に見切りを付け、大蓮は皆の元へと戻った。

 

 

「やはり駄目だったよ」

 

「ですか・・・策殿の言った通りですね」

 

「・・・少し早まったかも知れませんね」

 

「紘殿、それは如何な意味で御座いますか?」

 

「あの類の挑発は、開戦よりも途中からの方が良い効果を上げられたかも、と言う意味で御座います」

 

 

瑠香の言葉に、全員が聞き入った。

確かにそうとも思う。

しかし、汜水関は唯でさえ堅固な関。

籠っているのが敵方有数の猛将達相手では、力押しでは美羽から預かった兵まで大幅に減らす事になりえる。

 

 

「・・・孔明殿、士元殿は如何お考えで?」

 

「そうですね、補給を断つ事が出来れば最上なんですけど・・・・・・」

 

「汜水関を越えた向こう側に軍を廻せれば可能ですが、相手が此方を真面目に迎え撃つ気でいるならば、そんな甘い手は通してくれそうにありませんし」

 

「風ちゃんの『十面埋伏』の例があるもんね」

 

「くっ、早くも手詰まりか」

 

「最初から使わせて貰える手が少な過ぎるんです。

そもそも、こんな風に退く事さえ許されない状況では、寧ろ私達の方が背水の陣に・・・」

 

「分かっている、だからこそ共闘を持ちかけたのだ」

 

「理解しています、それでも尚こちらの方が、桃香様の選択に近い答えに近付けると思っていますから」

 

「・・・劉備殿は、善き軍師を得たな」

 

 

二人の小さな軍師はニコリと笑った。

 

 

 

 

 

曹操軍。

 

 

「・・・・・・面白くないわね」

 

「華琳様?」

 

「何でも無いわ、後詰めの状況は?」

 

「後二日もすれば、此方に到着するとの報告がありました」

 

「結構」

 

 

本陣用天幕の内で、自分用の椅子に腰掛けながら桂花に命を飛ばしつつ、華琳はフッと自嘲の笑みを零した。

何と言う茶番に付き合っているのか。

今の自分が為そうとしている事は一体?

幼き頃より抱き続けた覇道か?

それとも、唯一人の男を自分の足下に跪かせたいだけなのか?

自身でも判別が難しくなってきていた。

 

以前華蘭に言われた事がある。

「今のお前は、まるで恋焦がれる乙女の様だ」と。

まさか、とその時は笑い飛ばしたが、今じっくりと考えてみると、成程確かに。

その言葉はすとんと胸に落ちた。

 

華琳は欲しがっていた。

覇道の連れに、『天の御遣い』ではなく、『北郷一刀』を。

単純な力尽くでは駄目だ。

自らの意思で、此方に降らせなくては。

その為には・・・

 

 

「檪花、いるわね?」

 

「はい、此方に」

 

 

桂花の控える側とは、華琳を挟んで真反対側から檪花が姿を現した。

 

 

「これより暫く、貴女と桂花に軍の指揮を任すわ。

思った様にやりなさい、私は暫し詩でも詠うわ」

 

「はい、分かりました」

 

「御意に」

 

 

二人とも今回の連合は唯の茶番だと認識している為に、華琳が公然とサボると同義の言葉を言ったにも関わらず、受け入れた。

 

華琳は自分用の天幕に戻る。

だが、その中は一人では無い。

 

 

「鴉羽、私が何故呼んだか分かるかしら?」

 

「・・・決まっていますね。

謀略、でしょう?」

 

「ええ、その通りよ」

 

 

鴉羽が口元をニヤリと吊り上げた。

外見上は美しいが、実際に目にすると美しさに見惚れるよりも先に、恐ろしさが勝る。

 

二人による謀略と言う名の詩が組まれてゆく。

 

 

 

公孫瓉軍。

 

 

「・・・私、桃香と一括りにされていたなぁ」

 

 

自陣で落ち込むのは、この軍の長白蓮であった。

自分も河北に領を取る立派な諸侯、それもかなり大きめの勢力の代表だと言うのに。

先の軍議では、桃香と同じ軍として括られてしまっていた。

その事実が、今も尚彼女を落ち込ませていた。

 

 

「お姉ちゃーん! 何処ー!?」

 

「あ~」

 

 

自分を捜す妹の声も聞かず、地面に〔の〕の字を幾つも書き、項垂れたまま。

此処まで来ると哀れにすらなってくる。

 

 

「あっ、いた!

お姉ちゃん、そろそろ呉軍の皆様も動くよ。

軍の首領がいないと・・・」

 

「いいよいいよ、どうせ私なんか・・・黒蓮が長をやればいいんだ」

 

「っ!? お姉ちゃん、目を醒ましてくださーい!!」

 

“ブワチーン!!”

 

「ウボァー!!?」

 

 

白蓮をビンタでぶっ飛ばした、白蓮と同じ髪の色をした長身の女性。

公孫越。

真名は黒蓮という。

 

 

「お姉ちゃんは、私なんかより凄い人なんです! そんな事言っちゃ駄目ですって・・・あら?」

 

「プシュー・・・・・・・・・」

 

「あ、あぁっ!? やり過ぎたー!?」

 

 

目を醒まさせる為のビンタの筈が、KOしてしまっていた事に慌てる。

結局、余りにも約定の時間に遅い事に苛立った雪蓮が起こしに来るまで、白蓮の意識は戻らずじまいだった。

 

 

 

 

 

「射掛けい!!」

 

 

祭の掛け声で、遂に戦線が開かれた。

狙いは一直線に城壁の上。

そこ目掛けて次々と矢が放たれる。

しかし。

 

 

“キンキンキン!!”

 

「ええぃ! 厄介なモン作りおって!」

 

 

城壁上の空間に矢を入れない為に作られた、鉄板のシェルターが矢を弾いていた。

因みにこのシェルター、徹底抗戦を決意した当日からほぼノンストップ24時間突貫作業(流石にローテーション制だったが)で作り上げられた。

洛陽中の鍛冶屋がフル回転して作った鉄板の内、使わないですんだ物は残らず湯たんぽ用の容器に作り直されている。

その効果は見事な物。

 

 

「ぐわっ!」

 

「ぎゃっ!!」

 

「ああもう! こっちの矢は殆ど弾かれて、向こうの矢は素通し状態って酷過ぎない!?」

 

 

下からの矢は、山なりの軌道を描いて飛んで来る限りは弾かれ、上からの矢はいとも容易く相手を狙い撃てる。

先程から、先陣を切った呉軍の被害は甚大だ。

流石に将軍達が直々に鍛え上げた精兵は然程数を減らしていないが、それ以外の被害が酷い酷い。

既に一部隊丸々位の人数が斃れている。

 

だが、それさえ瑣末な事に。

 

 

「ハハハハハ!! 逃げ惑え!!」

 

「そりゃー! 中ると痛いでー!!」

 

『ワーワー!!!』

 

二人の将軍の指示の元、大勢が此方に向かって【雪玉】を投げ付けてきているのだ。

先程から、何人もの兵が直撃を食らっている。

霞が一刀から聞いた雑談中の雑談の一つ『雪合戦』がここで活きたと聞き、後に一刀が呆然としたのはまた別の話。

最も、一刀の思う雪合戦とはまた違うが。

 

その差異は実に簡単、雪玉が異常な程『堅い』のである。

現代人を圧倒する握力で握られた雪玉。

中れば割れるものの、中った瞬間に大ダメージを相手に残す。

しかも、割れた雪玉は唯の雪、身体を冷やす事請け合い。

頭にでも中れば、問答無用で戦闘不能になりかねない。

特に、将が握った物はその差が顕著。

先程から次々と、霞と華雄が握った雪玉が頭部に命中する度、落馬するわ失神するわの大騒ぎである。

 

 

「ははは! これは爽快だな!」

 

「いやー、言ったウチが言うのも何やけど、これ意外と役に立つな!

まっ、そんな事より、もっと食らえや!!」

 

「手が冷えた者は、すぐに温めろ! 凍傷は馬鹿にならんぞ!」

 

「はっ!!」

 

 

浮かれている様に見えて、気はしっかりと引き締める。

向こうの矢がこっちに飛んで来る可能性だって捨て切れない。

シェルターがあるからと言って、過信は禁物。

向こうには弓の達人がいるのだから。

 

 

「・・・! 見付けたぞ、孫堅ンンンッ!!!」

 

 

そんな中、華雄の両の眼が、馬上で戦線に次々と指示を下す大蓮を捉えた。

ニヤリと口角が釣り上がり、華雄が振り被った雪玉が異音を伴って【発射】された。

 

 

「ぬおっ!?」

 

「母様!」

 

 

咄嗟に気付いたのか、はたまたは勘か、大蓮は何とか雪玉を回避する。

その雪玉は後方にいた兵に命中、何とこれを絶命させた。

余りに突然だった為か、大蓮は落馬する。

無論命に別状は無いものの、大将の落馬は周りに混乱を巻き起こした。

 

 

「ははっ! いい気味だな孫堅! 私を虚仮にした事は、それで水に流してやる!!」

 

「・・・・・・“ギリィッ”」

 

 

大蓮に聞こえる様にわざと大声で言った華雄の声はしかと届き、大蓮は屈辱で奥歯を強く噛み締めた。

 

 

「母様、退きましょう。

これはもう負け戦よ」

 

「・・・仕方あるまい、全軍退け!!」

 

 

雪蓮の言葉を受け入れ、大蓮は全軍に撤退を命じる。

まだ息のある者を連れて。

何故か、撤退する時には攻撃を仕掛けてこなかった。

 

 

「愛紗、呉軍が退いて行くぞ!」

 

「ああ、見えている!

私達も退こう!」

 

「応さ!」

 

「待つのだー! 鈴々を置いて行くなー!!」

 

 

劉備軍も揃って退く。

やはり、此方も撤退中は攻撃を加えてこなかった。

 

 

「・・・まさか、そう言う事ですか!?」

 

「やられた・・・一体誰だ? この策を考えたのは?」

 

「あわわ、このままじゃ事の真偽を確かめるどころじゃ」

 

 

その光景を見ていた軍師三人は戦慄した。

完全な負け戦。

確かにそう言える敗北だ。

しかし突破口の様な物も見付けた。

 

―――だと言うのに。

 

それが、たった今水泡に帰す可能性が浮上した。

このままでは、完全な負け戦どころではない。

―完璧な崩壊―に陥ってしまう。

 

何とかしないと。

軍師達の思いは、そこで一致した。

 

 

 

 

 

時は先日の洛陽に遡る。

 

 

「余り死人を出すな、だと?」

 

「主様、それは一体?」

 

 

呼ばれ、汜水関に赴く事が決定された将二人に対し、一刀が下した命令は唯一つ。

「敵味方に死人を余り出さない事」であった。

当然、それには二人の言った様な疑問が残る。

徹底抗戦すると言うならば、相手を殲滅する事さえ考えるべきだと、二人は思っていた。

 

 

「言葉通りだ、敵にも味方にも犠牲者は余り出さないで欲しいんだ」

 

「・・・甘いな、敵意を向けられそれでも尚相手を気遣うのか?」

 

 

華雄が少し怒った様に言う。

しかしそれに対し一刀は、鼻で哂った。

華雄は眉を顰める、何となしに馬鹿にされた様に感じたからだ。

 

 

「華雄、そんなに俺は慈善的じゃないぞ?」

 

 

「いや、それは嘘だろう」と、この時ばかりは華雄と菖蒲の心中が一致した。

それには当然気付かず、一刀は話を進める。

 

 

「連合は、遠征と言う形を取っている諸侯が殆どだ。

自分達の領から、どれだけの物資を運んで来ているのか、位の想像はつく」

 

「・・・! 成程、そう言う事ですか」

 

 

菖蒲が、合点がいったように目を見開いた。

一方の華雄はまだ分かってはいない様だったが。

だが、一々細かく説明している暇は無いので、先に進める。

 

 

「そして、生きている人間よりも、傷付いている人間を世話する為には、常よりも多い物が必要になるんだよ」

 

 

そこで漸く、華雄も合点がいったらしい。

ポンと手を叩いていた。

 

 

「つまり、怪我人を増やして物資を浪費させろ、と言う訳か」

 

「ああ、そう受け取って貰って構わない」

 

「・・・中々あくどい事を考えるものだ」

 

「華雄さん!!」

 

 

華雄の目が細められ、強い眼光が一刀を叩いた。

元より武人としての生き方を全うしようとしたがる性質だ。

この様に、卑怯とも言えそうな策は性に合わないのだろう。

険呑な雰囲気となった華雄から一刀を守る為か、菖蒲は二人の間に割り込む様に移動していた。

しかし、それもすぐに終わる。

華雄は一度だけ目を瞑って息を吐き、恭しく頭を下げた。

 

 

「任せよ、必ず果たしてみせよう」

 

「・・・いいのか?」

 

 

こう言っては何だが、一刀は殴られる覚悟をしていた。

武人の魂を侮辱したと受け取られる可能性もあったわけなのだから。

 

 

「問題ない。

大体な・・・」

 

「ん?」

 

「そんな事を思う前に、連合の号令を発した奴への怒りが上回るわ」

 

 

気炎を上げながらそう言った。

思わず噴き出す一刀。

 

 

「そうですね・・・華雄さん、私もその怒り分かります」

 

「うむ、私は董卓様を陥れた奴が憎い」

 

「私は主様を陥れた奴が憎いです」

 

「ふっ、ならばその怒り、余す事無く発散してくれよう」

 

「汜水関で、ですね?」

 

「そうだ」

 

 

菖蒲と二人、分かり合っているのを見ながら、一刀は一人仲良くなったなこの二人等と思っていた。

 

そして今。

 

 

「ふー、やっぱり身体を動かすと温まりますね」

 

「む、そろそろ変わろう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

汜水関内部で、運ばれて来た薪を使い易い様に割る二人がいた。

他にも兵がいたが、この二人の割る速度には流石に及んではいない。

上の方では、先の戦勝を小さく祝っている筈だ。

 

 

「勝つぞ、徐晃」

 

「・・・無論です」

 

 

薪を割り始めた華雄が斧を振り下ろした瞬間に呟かれた言葉に、菖蒲ははっきりと言い返した。

開戦初日は、天遣側の大勝利。

だがしかし、誰一人として驕らず次を待っていた。

 

 

 

 

第二十七話:了

 

 

 

 

 

オリジナルキャラ紹介

 

 

名前:公孫越

真名:黒蓮(へいれん)

武器:無双刃

設定:白蓮の妹。

  武勇と統率に優れた、『出来た』妹。

  因みにスタイルと身長さえ、白蓮を大きく上回っている。

  白蓮とは逆に、真名の如く黒い鎧に身を包む。

  大のお姉ちゃんっ子なのだが、白蓮からは苦手意識を持たれている。

白蓮とは違った意味で『不憫な子』。

  心の底から姉を慕っていて、仮に白蓮のいい所は? とでも聞かれたら、軽く二刻(約四時間)はぶっ通しで語れる位白蓮が大好き。

  頭の良さはそれ程ではなく、所々で抜けた事を言ったりもするアホの子でもある。

  でも基本はいい子。

  昔から才能豊かで「特別」扱いされながら育った為、「普通」と言う言葉に強い憧れを持つ。

 

 

 

 

 

後書きの様な物

 

計画停電が見送られる事が多くなってきました。

でも、夏にはまた・・・ああ気が落ち込む。

 

コメ返し

 

 

・FALANDIA様:ええ、翠が初めての相手とは決めていましたので、漸く此処からと言った感じですね。

 

・はりまえ様:至極簡単な予想でしたね。 性的な包囲網が敷かれそうになっている一刀君! 安『息』の日は来るのか!?

 

・nameneko様:翠は暫く使い者にならない位の御機嫌加減です。 袁紹は原作からして大馬鹿者ですので。

 

・yosi様:翠分補給は万全か?

 

・流狼人様:自分、神奈川在住なので全く大丈夫でした。 って言うか、両足骨折!? 本当に大丈夫ですか!?

 

・ロンロン様:御指摘有難うございます、直しました。

 

・2828様:修正しました。 はい、翠で御座います。 これより、女難の開幕じゃー!!

 

・砂のお城様:遂に報われました。

 

・悠なるかな様:汜水関初戦は、今回で終了です。

 

・KU-様:ご覧の有り様だよっ!!

 

・村主7様:猛毒は既に動き出しております。 これをどう捌くかが、勝利のカギとも言えるでしょう。

 

・mighty様:そうですねー、華蘭無双は虎狼関までお待ち下さいませ。

 

・O-kawa様:Exactly. その通りで御座います。

 

・ハセヲ様:何だかんだ言っておきながら、まだ夜這いを掛けた女傑はおらなんだ。 翠が初掛けだったと言う・・・あ、ありのままに起こった事を話すぜ!!

 

 

では、今回はこれ位で。

次回は・・・大学始まるのが遅れたから、四月の上旬中には投下出来ると思います。

近い内に、現代編の次話を上げられるかな?

需要ありますか?

 


 
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