ここは建業
王としての職務を妹蓮華に投げっぱなしにしていた雪蓮は
晋との決戦のため、王として玉座に着いた
「そう、桃香は晋との開戦に同意してくれたのね」
蜀の参戦
その成果を明命は雪蓮に報告した
「はい、桃香様も蜀の方々も協力は惜しまないとのことでした」
「よくやってくれたわ明命、疲れていると思うけど今は持ち場に戻って頂戴。
さて冥琳、準備は整った。晋をどう懲らしめてやろうかしら?」
「うむ、まず叩かねばならぬのはここだな」
冥琳がトントンと地図の上を指で叩く
「ふ~ん、合肥ね」
「合肥は呉への最前線基地となるよう常に供えがしてある。ここを落とさねば何も始まらんだろうな」
「それで、私に切られる守将は誰かしら?」
「思春に調べさせた。凪と真桜だ」
「沙和は?」
「沙和は荊州だそうだ。晋の兵力は巨大だが、将が足りてないらしい。3人を一箇所に集めるのも困難と見える」
「そっか・・・・なんか拍子抜けしちゃうなぁ~」
「雪蓮、将がいなくとも、晋はこちらよりも遥かに大軍勢なのだぞ。劣勢は変わらんのだ」
「分かってるけどさぁ、相手が恋だった!の方が燃えるじゃない?」
「晋の大軍勢を恋が率いるなど想像したくないぞ・・・・」
その後、呉は正式に晋へ宣戦布告
同時に蜀も貢物を送り返し宣戦布告となった
全ては華琳の思惑通りに
火蓋を切ったのは呉だった
合肥へ主力を進めた呉は破竹の勢いで晋を蹴散らした
対する晋は冥琳の掴んだ情報よりも少数だった
「め~~り~~~ん」
「なんだ雪蓮」
「どこが数で劣勢よ、圧倒的じゃない我軍は」
「今のところな。雪蓮も気づいてるんじゃない?」
「わかる?」
「こちらは10万、合肥の守兵は7000、城が落ちないのは引かない凪と真桜のカラクリが原因だが、二人ではない何かを感じる」
「私もよ、想像を超えるのが飛び出してきそうな気がするわ」
「・・・・・よし、攻撃の手を一時止めよ!思春は前線で防備を固め奇襲に備えなさい」
「はっ」
「蓮華様と小蓮様のお二人は本陣で待機を」
「どうして冥琳?合肥は落城寸前、もう一押しすれば落ちるはず」
「敵はあまりにも小勢、伏兵の可能性が高いのです。一時伏兵に備え・・・」
物見の兵士から伝令が届いた
「伝令!!右方向より騎馬の一隊が突撃を仕掛けてきます!!!」
「旗は?」
「紺碧の張旗!!」
「紺碧の張・・・・・まさか」
「邪魔やーーーーーーーーーーーー!」
神速の張遼率いる騎馬隊は守備体制に入った呉軍を蹴散らし本陣へ突撃を開始した
「我は張遼、狙うは孫策の首のみ、一刀への手土産にでかいのかましたるわ!」
「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」
「遼来来!」の号令の元、霞の騎馬隊は呉の精鋭をものともしない
その圧倒的な突撃を受け、次第に呉の前線が崩れ始めた
「化けもんだ!!!」「逃げろ、遼来来」
「なんや、呉は腰抜けしかおらんのかい、誰か骨のある奴はおらんか!」
呉兵を散々切った霞は歩みを止めず突き進んだ
「調子に乗るなよ張遼」
一瞬で霞の首元に刃を向けたのは思春だ
「ちっ!」
霞は呉兵を切っていた偃月刀を戻すと思春の刃をはじく
「ほ~、誰かと思えば・・・・誰や?」
「・・・・甘寧だ」
「甘寧・・・・甘寧・・・・悪いなぁ、あんたみたいな雑魚の名前、一々覚えてないわ」
「殺す」
思春はまず霞の馬を狙った
馬の足を切り落とすため低い姿勢から鈴音を構える
「もらった」
「あらよっと」
馬はまるで思春の剣が見えているようにジャンプでかわした
「うちの愛馬に手出すなやこのダボが!」
「何ッ」
「しねや」
飛び上がった馬の足が下になった思春の上に落ちる
寸でのところで交わした思春は霞との距離をとる
「よく避けたなぁ褒めたるわ。ま、うちの目的はあんたやない。悪いけど先行くで」
「ま、まて!」
「名前覚えたわ甘寧ー、また今度なー」
そう言うと霞は再び本陣へ向け突撃を再開した
その足は速く甘寧は追いつけなかった
「くそ、なんとしても奴を止めろ!!孫策様のところまで絶対に行かせるな!」
だが、霞が止まることはなかった
呉本陣は大騒ぎになっていた
圧倒的優勢だったのが気がつけば劣勢
敵は目前なのだ
「冥琳」
「すまん雪蓮。お前に頼るしかないようだ」
「ふふ、こんなに興奮してきたのいつ以来かしら、あはは」
「お姉さま」「お姉ちゃん」
「二人とも見ておきなさい。小覇王と呼ばれた私の戦いを。全軍道を開けよ!張遼をここへ招待してやれ!」
雪蓮はなんと兵を下げさせ道を開いた
「来るなら来なさい張遼、この私が喰らい尽くしてあげる」
道は開かれた
それはなんとも不思議な光景だった
霞は妨害していた兵が突然いなくなったことに不信感を抱いたが、その先に孫策の姿を見ると
躊躇無くその前に向かった
「久しぶりやなぁ孫策」
「・・・・久しぶりね、あなたが逃げて以来かしら」
「逃げた?なんのことや?」
「あら、男1人逃がしたからって傷心旅行に逃げたじゃない」
「・・・・なんやと」
「そう言えば、董卓の時も華琳のところへ逃げたわね。本当、あなたって逃げてばかりね」
「・・・・ちょい黙りや」
「黙って欲しければ力づくできなさい」
「そうさせてもらうわ・・・・・死ねや孫策!!」
「それでいい張遼!!」
鬼神同士の戦いが始まった
周囲を固める兵士は戦いの手を止め二人の戦いを見守った
見守るしかなかった
「皆、もっと離れよ、巻き込まれるぞ!!蓮華様小蓮様もです!」
まるで竜巻のように二人の周囲が砕け散っていく
「はぁ、はぁ、腕を上げたようね、張遼」
「あんたもな、ま、うちほど上がってないようやけどな、よっと」
そういうと霞は馬を降りてしまった
「どういうつもり」
「だいぶ無理させてもうたからなぁ、休憩させるんや。その程度の腕ならうちだけで問題ないやろ」
「何ッ」
「戦闘再開や孫策、もっともっとうちを楽しませてや」
「くッ!」
息の切れた孫策が徐々に押され始める
もはや霞の攻撃を捌くので精一杯になってしまった
「どした孫策!こんなんで終わりか?修行サボってたんちゃうかー?」
「はぁ、はぁ、はぁ、耳が痛いこと言うわね」
「なら、そろそろしまいや、華琳から孫策とは決着つけていい言われとる。遠慮なくその首頂くわ」
「はぁ、はぁ、華琳?どういうこと?」
「知らんなら知らんでええ」
霞は雪蓮の首をめがけ偃月刀を振り上げた
「おろ」
振り上げた偃月刀が鉄鞭に巻きつけられている
「雪蓮は殺させん。私が相手だ」
「周瑜か、あんたには興味ないわ。ふんっ」
「きゃっ」
「冥琳!!」
霞が偃月刀を振り回すと白虎九尾ごと冥琳が振り回され、そのまま雪蓮のところへ投げ込まれてしまった
「ぐふっ!」
「ちょうどええわ、二人仲良く逝きぃや」
「く・・・」
「姉さまーーーーーーー」「お姉ちゃん!」
雪蓮と冥琳を切ろうと霞が歩み寄ると、なぜか一足飛びに後方へ下がった
その足元には数本の矢が
「ちっ、誰や!いいとこ邪魔するボケは!!」
霞は矢が飛ばされた方向、自分達が通って来た兵士が開けた道に向かって怒鳴りつける
そこには1人の女性が立っていた
「いきなりボケ扱いとは、相変わらず礼儀のなってない猪武者じゃな」
「お、お前は・・・・黄蓋」
「久しいな張遼、威勢だけの頃に比べれば少々腕をあげたようじゃが」
霞の体が震え始める
「・・・・・そうや、あんたや、うちがいっちばん戦いたかったんはあんたや。あの屈辱、ひと時も忘れたことはなかった。
あんたをぶちのめすために死ぬほど鍛えた。でも、あんたは死んだ
それが・・・・最高や、今日は最高や!あんたともう一度戦える。最高の日や!!」
「いやいや、死んでおらんと言うに。まあいい、どれほど腕を上げたか試してやろう」
死んだと思われていた祭が復活した
その祭が雪蓮と冥琳を救った
呉の誰もが口を開くことができなかった
祭が帰ってきたのだ
「やれやれ、わしが現われた程度でこれほど衝撃を受けるなど・・・・・どうやら呉の精兵どもも一から鍛えなおしじゃな」
真っ先に我に返ったのは雪蓮だった
「衝撃受けるに決まってるでしょ!!!!!」
そんなやり取りもうっとおしいだけの霞はイラだっていた
祭を切りつける霞
「ごちゃごちゃうるさいんじゃ老いぼれ!」
「まったく、少しぐらいかっこつけさせてくれてもいいじゃろうに張遼よ」
それをバックステップでかわすと即座に矢を3発打ちつける
しかし3本ともたやすく叩き落されてしまった
「無駄や」
「ふむ、弓ではちと分が悪いのぅ、おいそこの、その槍を貸せ」
「は、はい」
近くにいた兵士の槍を受け取ると、今度は槍と偃月刀の戦いとなった
「はっ、そんなちゃちな槍でうちの偃月刀とやりあう気か?舐めんなや!」
二人が数合打ち合うと、祭の槍は砕け散った
「ふむ、おいそこの、その剣を渡せ」
次は剣を受け取ると、祭は再び霞との打ち合いに挑む
しかし、やはりその剣も数合で砕け散った
「無駄や無駄や、なまくら相手じゃ勝負にならんわ」
「それはどうかのう」
二人が戦い始めてどれくらいの時が経っただろうか
祭は武器が壊れると捨て、また新しい武器を受け取る
壊された武器は100本以上
しかし祭はどんな武器でも使いこなし、霞と互角の打ち合いを演じた
「いい加減あきらめー!」
「はっ!」
バキッ!!!
「なっ・・・・・」
折れたのは偃月刀だった
「己と偃月刀を過信しすぎだ。だからお主は猪武者じゃと言うのじゃ」
「ぐぐッ・・・・」
「張遼、今日のところは合肥へ帰り出直すとよい。わしと戦いたくなったらいつでも来い」
「・・・・撤退する」
霞の口元から血が流れていた
神速の騎馬隊は開けた道を走り抜け、合肥へと帰還した
それを見送ると、祭は倒れている二人に向かった
「策殿、あの程度で力尽きるとは情けないですぞ、もう一度一から鍛えなおし・・・」
「祭!!!」
「おおっと、これ策殿、皆が見ておりますぞ」
「祭殿・・・・祭殿・・・・・」
「冥琳、皆が見ておる、はよう涙を拭け」
「「祭ーーーー」」
「ははは、蓮華殿、小蓮殿、ご心配をおかけしました。祭はここにおります」
祭が呉へ戻ってきた
合肥攻めは失敗したものの
呉には大きな収穫のある戦いだった
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