No.207263

虚々・恋姫無双 虚拾九~一刀SIDE~

TAPEtさん

最初に痛いのは辛い。
二回目痛いともう痛いことなんか大っきらいになる。
三回目痛いとどうしてこんなことが自分にだけ起きるのかと喚く
四回目痛いともう痛いことが自分の運命だなと思ってしまう。
五回目痛いともう何の感情も編み出せない。

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2011-03-20 20:46:55 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2626   閲覧ユーザー数:2231

「………」

 

華琳は成都に向かった一方、一歩遅く起きた一刀は華琳が蜀に向かったという話を風から聞いた。

自分から言った時には許さないで私の側にいなさいって言っていた華琳が今度は自分にも言わず勝手に言ってしまったことに、一刀は少し大人の理不尽さを知りつつあった。

 

「………」

 

療養というわけで外に出ないで部屋の中で過ごしている一刀であったが、蜀と呉に行った皆が心配でならなかった。

蜀には華琳お姉ちゃんが行ったという。理由は良く分からないけど、華琳お姉ちゃんが直接行くとなると、そんなに難しいことにはならないと思う。

 

問題は呉だった。

呉はどうしてもこちらとは仲が悪い。

あっちから見ると、華琳お姉ちゃんは自分たちの王を殺した仇だった。

見た途端ころしてしまっても気が済まないだろう。

 

呉の人たちの事は良く分からないけど、自分だって華琳お姉ちゃんが突然呉の人に殺されたとなると、ボク自身を含めた魏の皆が怒りに狂ってしまうだろうと想像がついた。

一刀ちゃんは呉で助けることができなかった孫策お姉ちゃんの顔を思い出しながら顔を皺めた。

もし、ボクがあの時孫策お姉ちゃんを助けられたら、ここまで難しくならないで済んだのに……。

 

……ボクのせいだった。

ボクにも出来ることがあるはずだ。

 

「……<<コクッ>>」

 

そう思った一刀は本棚から空の竹簡を一つ出して、皆に見せる手紙を書いた。

 

『呉に行ってきます。華琳お姉ちゃんには言わないで、直ぐ戻ってくるから』

 

と、書き終えた竹簡を机に置いて、一刀は病床で着る服を脱いでいつもの制服を着た。

 

「……<<コクッ>>」

 

呉に行く。行って……

 

がらり

 

「むっ」

「!」

 

その時扉を開けたのは風だった。

 

「…!」

「……!」

 

風は制服を着ている一刀を見て、同時に机に書き置きが目に入ってきた途端、一刀が何をしようとしているか一瞬で気づいた。

一方、風が咄嗟に入ってきたことに驚きつつも、ここで捕まったら次はないだろうと思って精神を集中して呉にスッと行こうとした。

でも、風が一刀の手首を掴むのがもう少し早かった。

 

がんっ!

 

スッ!

 

次の瞬間、二人の姿は部屋から消え、突然動いたせいか風の頭から落ちた宝譿と一刀が書いた書き置きだけが残っていた。

 

・・・

 

・・

 

 

いつもの話ながら、一刀が咄嗟に移動するときはろくなところに落ちない。

 

スッ

 

「………<<苦笑>>」

「むっ!」

 

下に地面でなく川があることを見た一刀は苦笑して、風は半開きしてた目をぐっと閉じた。

 

ばしゃー!

 

 

 

 

川でびしょ濡れになった風は川から上がることも考えず、一刀を睨みついた。

 

「何をするのですかー」

「……<<ふるふる>>」

 

一刀は一刀なりにまた突然現れて邪魔をした風お姉ちゃんに言いたいことがあったけど、元々自分が悪いのもあったので黙っていた。

 

「ここはどこですかー」

「……」

 

墨が川に流されたので話ができない一刀は黙々と水に濡れた風の髪を絞っていた。

 

「ぅーん………」

 

そんな一刀を睨みつく風だったけど、ふと一刀を目を見ると、少し寂しい目をしていることに気付いて、それ以上突かないことにした。

華琳さまが居なくなって三日が過ぎるまで黙っていた一刀だったが、華琳さまが蜀に行ったと話した時でも、悲しい顔をしていたことを風は覚えていた。

きっと自分もぼうっとしては居られない、と思ったに違いなかった。

 

だけど、一体ここはどこでしょう。

風が周りを見て見ても二人が落ちた川があって、その向こうには森がある以外には大して場所を想定できるものは……

 

「む、あれは……」

「?……!」

 

墓場があった。

一刀もその墓場に気付いて風の髪を握っていた手を放してそこへ向かった。

 

 

墓場は長くその場にあったのか墓石が掠られているものもあれば、まったく新しいものもあった。

その新しい墓石には、

 

『呉王、孫策伯符之墓』と書かれてあった。

 

「………」

 

ここは、孫家の墓。

ここは呉の都、建業であった。

 

墓石をゆっくり触る一刀の頭には、あの時の記憶がよぎった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あなた、お名前は…なんだったかしら」

「…一刀。北郷一刀だよ」

「そう。一刀君、私は呉の王よ。私には守らなければならない人たちがある。例えこの身が穢され散っていくとしても、せめて最後だけでもあの人たちの力になる」

「生きて守ればいいじゃない!死んだら誰も守られないよ!」

「そんなことはないわ。例え死ぬとしても、我が魂は孫呉と共にある」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

【孫策お姉ちゃん……今ここに居る?】

 

墓は答えがない。

だけど、一刀は聞きたかった。

本当に孫策お姉ちゃんの魂が孫呉の力になれるのだったら、ボクが今しようとしていることは正しいものだと言ってくれるだろうか。ボクのことを手伝ってくれるだろうか。

 

皆のため、この大陸の人たちの命のためだった。

それは孫呉のためでも、魏のためでもあった。

だから……

 

【孫策お姉ちゃん、お願い……ボクを助けて】

 

 

 

「誰だ!」

「!」

 

鋭い声を聞いて、一刀は後ろを向いた。

 

赤い服を着た怖い目つきをした女の人、ピンク色の服を着た、孫策尾根ちゃんと似た姿の女の人が居た。

一人は甘寧、

そして孫策の妹で、新しい呉の王、孫権。

 

タッ

 

「!」

 

次の瞬間、怖い目付きの人が風に向かっているのを見て、一刀は早く反応した。

 

スッ

 

 

スッ!

 

「っ!」

 

甘寧の手に届く寸前に風を付いて墓がある場所まで戻ってきた一刀はいきなりの状況に追いつけなかった風を後ろに立てて、目の前の甘寧と対峙した。

 

一方風はここが孫家の地と知った途端、一刀がここに何をしに来たのか気がついた。

だけど、次の瞬間現れた孫権と甘寧の姿にうまく反応できず、危うく甘寧に捕まるところを一刀が助けてもらって口では言わなくても凄く緊張していた。

予想していなかったことがありすぎて頭を回すに時間がかかりすぎた。

でも、武に心得がない自身や一刀が甘寧や孫権といつまでも対峙しているわけにはいかなかった。

 

「何者だ…変な術を使いおって……」

 

あっという間で場所を移動する一刀の能力を見た甘寧は二人を警戒しながら言った。

 

「ここは我が孫呉にとって聖なる場所。穢すことは許されないと思え!」

「………」

 

一刀は焦っていた。

自分一人だけだとどうにでもなった。

でも、風の存在が一刀の動きを制限している。

話し合いで解決したくても、話す術がなかった。

出来ることがなかった。このまま逃げる他方法がなかった。だけど、ここで逃げてしまったら二度と来ることはできなかった。

戻ってきたところで、自分は妖の類をされて話を聞いてくれない。

 

一体どうすれば……

 

 

 

「答えろ!貴様らは誰だ!何故ここに居る!

 

甘寧が追い打ちをかける。

一刀に出来ることは何もなかった。

このまま帰ろうと、隙を見ていた一刀だったが、

 

「まぁ、取り敢えず落ち着いてください。私たちはただ、墓参りに来ただけですから」

 

その時、風が口を開けた。

 

 

「墓参りだと……?<<ギロッ>>」

「ええ、他にすることはないじゃないですか。墓に来て……」

「………」

 

風の暢気な答えに一刀は驚くもコクコクッて頷いた。

 

「ここは孫家の私有地は。どうやって入ってきた」

「それはまぁ、こう……スッとですね」

「貴様……私を莫迦にしているのか」

「いえ、いえ、本当のことですし……<<にっこり>>」

「…<<キリッ>>」

「……!」

「ちょっと待ちなさい、思春」

 

ごまかそうとする風の言葉も虚しく、剣を取り出そうとする甘寧を後ろで黙って聞いていた孫権が止めた。

 

「蓮華さま」

「…剣は納めなさい。この場所で無駄な血を出すことは例えあなたでも許さないわ」

「……御意」

 

孫権に注意され、甘寧は剣を戻した。

 

「……」

「ありがとうございます」

「感謝するのは早いわ。ここは孫呉の散った英霊たちが眠る場所。そこに侵入してきたあなたたちをこのまま帰らせるわけにはいかない。大人しく付いてきた方がいいわ」

「まぁ、…仕方ありませんね…いいですよね、一刀君」

 

これでいいですかと言わんばかりの呆れた顔で風は一刀を見つめた。

 

「……<<コクッ>>」

 

一刀は風に頷いて、孫権の方へ歩いて行った。

 

「!」

「思春、大丈夫よ。子供にまでそんなに殺気を立たないで」

「子供といえどここに誰にも気づかずここに来ている者です。危険な奴です」

「……」

 

そしたら一刀はふと孫権の方へ近づく足を止めた。

そして、少し距離のあるところで孫権を見つめた。

 

「……」

「?」

 

似てる人だった。

雰囲気は違ったけど、姿、褐色の肌、桃色の髪に碧眼。

きっと、この人は孫策お姉ちゃんの家族だった。

 

「……<<ペコリ>>」

 

一刀は孫権に向かって頭を下げた。

謝罪の気持ちを込めて。

あの悲劇を先に止められなかったこと。

助ける機会があったのに助けられなかったこと。

 

それが、一刀がここに来てしたかった一つ目の事だった。

 

 

 

 

孫呉の兵士たちに縛られて一刀と風が連れてこられた場所は机と椅子以外には何も無い部屋だった。

いわゆる審問室と思われる場所に二人だけになった一刀と風は審問者が来るのを待っていた。

 

「まさかこんなことになるとは思いもしませんでしたねー」

「………<<しゅん>>」

 

一刀は肩をすくめた。

自分の無茶さを気づいたからでなく、風を巻き込んでしまったことが申し訳なかったのである。

 

「これからどうするつもりですか?」

「………」

 

その質問に答えようとするも、一刀はただ風を見つめること以外出来ることがなかった。

だけど、いつでも逃げられる一刀ちゃんがここに残って縛られているということだけでも風には一刀がしたいことがわかった。

 

確かに呉との和平を結ぼうとすることは蜀にするように簡単なことではなかった。

寧ろ不可能に近い。

孫呉と協商する手札が何も無い状況で孫策を殺したとしう汚名さえもある魏の話に呉が乗ってくれる可能性は低かった。

蜀との話がうまくいって両国が同時に圧迫するとしても孫呉の意志というものはそういうものではない。

危うくば、孫呉の民の最後の一人まで戦うとかヤケになる可能性もあった。孫策を殺した罪はそれほどのものだった。

 

だけど、風は一刀からある可能性を見た。

一刀の先までの行動は初めて見る人に対してのそれではなかった。

それに、今の一刀には何かの決意が見えていた。

 

一刀はこの和平を成し遂げるためにここに来たのだ。

風はそう直感した。

無茶だったが、それが一刀の決心だった。

ならば、

 

「風は持っている全てで一刀君の思いを支えてあげましょう」

「……<<ぱぁっ>>」

 

風の言葉に俯いていた一刀の顔が明るくなった。

そう、それで良かった。

その笑顔だけでも、風は全力を果たす覚悟が出来ていた。

 

がらっ

 

「!」

 

扉が開かれて、審問官が入ってくる。

さて、相手は誰でしょうかと、風は考える。

周瑜?そこまで偉い者が出る場面ではないでしょうね。

それじゃあ先の甘寧かそれとも……

 

「!!<<パァーッ>>

 

……ほえ?

 

 

 

ガラッ

 

「!<<ぱぁーっ>>」

 

周泰お姉ちゃんじゃない!

良かった、知ってる人が来て……

 

がらっ

 

「御使いさま!」

 

扉と閉じると共に、周泰お姉ちゃんはボクに抱きついてきた。

 

「ほれ、明命。あまり大声を出すでない」

 

黄蓋お姉さんも……

 

「怪我はありませんか?」

「……<<コクッ>>」

「よかったです…墓場で白い服を来た者を捕まったと聞いて、もしかしたらと思ったのですが、やはり一刀様だったんですね」

 

どうやらボクの話を聞いて態と来てくれたみたい。

 

「お主も懲りないの……まさかまたここに来るとは…」

「………」

 

黄蓋お姉さんも叱るように言っていた。

でも、この二人が来てくれただけでもボクには幸運だった。

知らない人たちと話すよりは、ずっと楽だったから。

 

「一刀様、どうしてまたここに……」

「………」

「あのぉ、一刀君、風はおいてきぼりですかー?」

 

あ、風お姉ちゃんが何かおいてきぼりみたいな顔をしてる。

そういえば風お姉ちゃんはこの人たちの事知らないよね。

 

「……」

 

書くもの、何か書く物ない?

 

「あ、はいっ」

 

ボクの何かを書くようなジェスチャーを分かってくれた明命お姉ちゃんが持ってきた竹簡と墨と筆を渡してくれた。

 

「ちょっと待ってください。今縛った手を解きますから…できました」

 

手も自由にされて、ボクは明命お姉ちゃんからもらった竹簡にこう書いた。

 

『お姉ちゃんたち、ありがとう。おかげで助かった』

「いえ、これも償いの一環です…あの、この御方は……」

『あ、こっちは程昱お姉ちゃん、こっちの魏の軍師さんだよ』

「お主も大変じゃのぉ。軍師とあろうものがこんなところに子供と二人で捕虜扱いなど…」

「いえ、いえ、これも割と良い状況だったりしますからねぇ。こうして一刀と二人で居られたのですし…城では人目が多くてなかなか甘えないのですよ」

 

風お姉ちゃんが何かすっごく恥ずかしいこと言ってるけど、気にしない

 

「風お姉ちゃん、こっちは周泰お姉ちゃん、あっちの人は黄蓋お姉さん」

「ほう、黄蓋さんというと孫堅さんの頃から孫家三代仕える孫呉の最古参ですね。こんなことに加わって大丈夫なのですかー」

「別に国に反することでもおらん。まぁ、バレるとただではすまぬだろうけどの」

「…ぁ」

 

そっか…この二人とも前にボクのこと助けてくれたし……それに今回も……もし王様や他の将たちにバレたら、敵国のものを庇ってあげたと罰をくらうかもしれない。

いや、もしひどければ……反逆罪で殺され……

 

「<<カタカタブルブル>>」

「一刀様?大丈夫ですか?顔色が……」

「……まったく呆れる奴よのぅ。こんな時でも人の心配ばかりしておる」

「へっ?」

「あ奴。お主と儂が権殿や冥琳当たりにバレたら殺されるだろうとか思ってるのじゃろ」

「えっ……あぁ…あの、一刀様」

「…!」

 

ボクがカタブルしていたら、ふと周泰お姉ちゃんに優しく抱きしめられて我に戻った。

 

「ありがとうございます。でも、私たちのことは大丈夫です。実は、もう蓮華さま…孫権さまにあの時孫策さまと一刀様のところで私がしたこと、告白しました。

「!」『じゃあ』

「…許してくださいました」

「……はぁ…」

 

よかった……

 

『あれ、じゃあ孫権お姉ちゃんもボクのこと知ってる?』

「はい、ただ、直接会ったことは居ませんからこうなったのかと」

 

あ、そういえばそうだね……。

 

「しかし、こっちが誰か知られたところで、こっちの処遇が変わるわけでもありませんしね…」

『え、そうなの?』

 

風お姉ちゃんの言葉にボクはびっくりした。

 

「当たり前ですよ。まだ先に連絡した桂花ちゃんたちも来てないのに、咄嗟に不順な理由で敵軍の地に現れたのですから…逆にあと協商で不利になるだけですよ」

「………」『そんな…』

 

不順な理由ってボクそんなつもりで来たんじゃ……

 

「そもそも何故あんなところに行ったのじゃ。他に来れる場所もあったじゃろうに」

「………」『だって、墓参り行きたかったし……』

「何故そこで目を逸らすんじゃ」

 

言えない。普通に街に行こうとしたのに風お姉ちゃんが突然来て慌てて行ったことがある場所に行ったらそこだったとは絶対言えない……。

 

 

 

 

その後、ボクは風お姉ちゃんに、ボクが呉に居た時孫策お姉ちゃんを助けようとしたことや、その後周泰お姉ちゃんたちに助けてもらったことやらを話した。

 

「む……私たちが居ない間にそういうことが……」

『ごめん、別に隠すつもりもはなかったんだけど、あまり心配かけたくなかったし』

「そんなに心遣いがある人が、戦場で自分に矢を打って倒れて、帰ったところでまた倒れて人に散々心配かけちゃったのですか?」

「…うっ」

「ちょっと待ってください!一刀様そんなことをなさったのですか?!

「いや、待て、自分に矢を打ったじゃと?それはどういうことじゃ?」

 

周泰お姉ちゃんと黄蓋お姉ちゃんは驚いた。

でも驚きのむき方が違った。

うん、普通ありえないもんね。自分に矢を打って倒れるとかどうやればいいのか……

 

「風は自分の目で見たわけではないのですが…なにやら放った矢がそのまま曲がって一刀君の胸に刺さったとか……」

「いや、そんな莫迦な……」

 

黄蓋お姉ちゃんは唖然とした顔になった。

 

「一体どういうことじゃ」

『うん、こう……』

 

書こうとしたらどう説明すればいいのか……

 

『ちょっと離れてって』

「はい?」「うん?」

 

ボクは二人にそう言ってさっちゃんからもらた指輪を外した。

そしたら、指輪がまた光を発して弓の姿になる

 

「なっ!」

「凄い!」

「おぉ……流石天の御使いといったところですね……」

 

三人三色で驚くお姉ちゃんたち

 

『この弓はね。狙った相手は誰でも打つことが出来るの』

「自分でもか?」

『自分でも』

 

というかそんなバカなことをする人がどこに……ここに居るよ。

 

「ちょっと試してみても良いか?」

「祭さま!?」

 

誰に!?

 

「別に人を狙うといっとらんじゃろ。例えば……」

 

と言った黄蓋お姉ちゃんは弓を射た。

そしたら輝く矢が出来て、

 

サシュッ!

 

突然、黄蓋お姉ちゃんがその矢を天井に放った。

 

「!!」

「いつからそこに居たんじゃ、思春!」

「へっ?!思春殿が…!」

「!?」

 

聞いてる人が他に……

 

「……」

 

タッ

 

黄蓋お姉ちゃんにバレた人が下に降りてきた。

 

先墓場で見ためつきが怖い人。

 

「権殿や公瑾の命令か」

「……個人的なことです。蓮華さまは関係ありません」

「まぁ…お前ならどっちであろうとそう答えるはずじゃが……」

 

黄蓋お姉ちゃんはため息をつきながら言った。

 

「黄蓋さまと明命が審問官を買ってでる様子がどうもおかしく思い来てみただけです。と思ったら、敵軍の将と談笑をしているなどと…呆れて言葉も出てきません」

「冥琳に報告するつもりかの」

「必要とされれば……」

「そうじゃの……それでは…こちらとしても必要としては、お主をこのまま帰らせるわけには行かぬ…」

「……<<キリッ>>」

 

あれ、これなんか状況がおかしい。

黄蓋お姉ちゃんと明命お姉ちゃんが目が怖い人凄く睨んでる。

というか、今だと三人とも目怖いし。

 

『待って、待って!ボクこんなことしに来たんじゃないの。取り敢えず落ち着いて……』

「<<ギロッ>>」

「…!」

 

この人怖いぃ!

 

「子供に何殺気を立てているんじゃ、お主は…連れのものの後ろに隠れておるではないか」

「いえ、いえ、風は別にこのままでもいいですので……寧ろありがとうございますです。それより一刀君の言った通り私たちはあまり不順な意図で来たわけではないのですから、そこんところは心配ありません」

「ふん、敵国の将の話など信じれるか。増してや貴様ら魏が犯した罪を考えると今この場で殺してしまっても気が済まない」

「………くぅー」

 

寝ちゃ駄目、風お姉ちゃん!寝たら死ぬ!

 

「とはいうが、今は魏からの親善のために使者がこっちに向かっている。今こいつらを殺してしまうと、儂らは魏とまた全面戦を始まらなければならんのじゃぞ」

「……」

 

黄蓋お姉ちゃんの話に目が怖い人が目を逸らした。

 

「とはいえ、良く私たちの使者を受け入れてくれましたね。表面的には弔意を表したとは言え、親善とか言うのは流石に甚だしいものですのに」

「それを分かっていて使者を送ったのは貴様らだろ」

「くぅー」

「仕方おるまい。儂らと今魏と全面戦をするわけにはいかぬからの」

「祭さま!」

「何じゃ。今更敵国のものにこっちの情報を流すななど言いたいのならここから出て行ってもらうぞい」

「……っ」

 

でも、確かにそうだったよね。

こっちの人たちとして、ボクたちは自分たちの王を殺した仇…

そんな人たちが突然平和に過ごそうとか言い出して簡単に受け入れちゃうはずが……

 

「一刀君、風は寂しいのですよ」

『あ、風お姉ちゃん起きてたの』

「……くぅー」

 

もう起きて。スルーしないから起きていてよ。ボクこの人の目付き一人で受け入れたくないの。ねぇー、ねーってば……

 

 

 

結局、黄蓋お姉ちゃんと周泰お姉ちゃんたちが甘寧お姉ちゃん(後で紹介された)を説得したところ、ボクたちは本当に墓参りに来ただけということに報告するようにしてもらった。(ボクが子供という立場もあったし、孫権お姉ちゃんの前でボクがスッと動いてたこともあって、多分信じてもらえるだろうと周泰お姉ちゃんは言っていた)

 

「問題は公瑾なのじゃが……きっとお主らを協商の手札として使おうとするじゃろう」

『別にいいんじゃないかな』

「こっちは別に同盟の話が通ればどうでも良いということになっていますからね……軍事関係になると流石に問題ですけど、その他は多分ちょっと負けてあげても構わないですよ」

『それにほら、ボクたちを捕まってるのって無理だし』

「あ、そういえばそうですね」

「捕まった事自体、『そんなことはなかった』と言ったら別に手札では使えないでしょうね……流石一刀君です」

「…その能力のせいで捕まってるのだがな…」

「…っ」

「ぐぅー」

 

甘寧お姉ちゃんのツッコミはするどい上に返す勇気がないから怖い。

 

「それじゃあ、取り敢えず話しあったお通りに報告させて頂きます」

『あ、ちょっと』

 

ボクは最後に帰ろうとする三人を止めた。

 

「何じゃ?」

「………」『あの、孫権お姉ちゃん……だよね。直接会って話したいことがあるんだけど……』

「……話はしてみるが、多分無理じゃろう……。お主の国の使者たちが来るまで待ってはおれぬのか」

「…………」

 

そんな暇があったらここまで来てもない……

 

「…話はしてみよう。期待はするな」

「!」

 

甘寧お姉ちゃん

 

「どうしたんじゃ、思春。急にこっちに付くになったのかの」

「勘違いしないで頂きたい。もちろん、その時には私が護衛に出ます。……これは、あの墓場で蓮華さまの前で頭を下げた貴様に免じてだ。もう一度言うが期待はするな」

「………<<にっこり>>」『ありがとう』

「……!」

「はうぅ……」

「……こほん!」

「??」

 

皆急に顔赤くしてどうしたの?

何でこっちから視線を……

 

「一刀君は大きくなると偉い女たらしになるのです」

「……」『女たらしって何?』

「一刀君は知らないでいいのです」

「‥?」

 

わかんない、後にボクがなりそうなのにどうしてボクは知らなくていいの?

 

……というか…

 

「……」『別に何だっていいけど』

「……」

 

 

一刀君の顔が突然寂しそうになって来たのです。

これは……

 

「皆さん、早く行ってみなくていいのですか」

「うん?あ、そ、そうじゃな」

「あ、はい。それでは……」

「……」

 

一刀ちゃんの笑顔にちょっと堕ちそうになってた三人とも、部屋から出て行くのを確認して風は一刀君の顔を見直しました。

 

これは……

風はこんな顔を知っているのです。

今まで軍師をやっていて、散々観てきたのです。

 

だから………

 

「こちょごちょごちょごちょごちょ……」

「…!$^W#%^@#$@#%!!!!」

 

一刀君の片腹をくすぐったら一刀君は声は出さずくすぐるのを避けようと椅子から暴れます。

弱いところみたいです。

 

「ごちょごちょごちょごちょ」

「@#%^$#^#^#!!!」

 

このぐらいでいいでしょうか。

 

くすぐりをやめたら、一刀君は疲れた顔になって、風の膝に頭を落としました。

 

「これでちょっと気分がマシになったですか?」

「……?」

 

何の話かわからないみたいに、一刀君は風の顔を見上げました。

 

「先の一刀君は、まるで戦場で負傷して、生きて帰ることを諦めた兵士さんのような寂しい顔をしていたのです」

「………」

 

それを聞いた一刀君はまた顔を俯きました。

一刀君はまだ子供なのに……そんなことを考える年ではないのですよ。

なのに……どうしてこうなってしまったのでしょうか。

 

「風は一刀が笑う顔が見たいのですよ。だから今ここに居るのです。他の皆さんたちも、一刀が笑ってくれるから今まで頑張ってきたのですよ。だから、一刀君はいつも笑っていて欲しいのです」

「……」

 

風の話を聞いた一刀君はまた少し顔を俯いて風に見えないようにしていました。

 

それから、

 

「……<<にぱぁー>>」

 

いつもの清々しい笑顔を風にみせてくれました。

そうなのですよ。風はこんな一刀がみたいのです。

 

「……<<にぱぁーっ>>」

「……む?」

 

何か、ちょっとおかしいです。

 

「……<<にぱぁっ>>」

「……っ」

 

い、いつまでそれやっているのですか?

 

「か、一刀君。もういいですよ」

「……<<にぱぁっ>>」

「こ、これは…」

 

お返しですか?ごちょごちょのお返しですか?

 

「そ、そんなの、振り向いてしまえばどうということは」

 

スッ

 

と思って座ったまま顔を逸らしたらまた一刀君がそっちを見て笑っています。

新種類のイジメですか?

 

「そ、それ以上そんな顔で風を見つめないでくださいよぉ……」

「……<<にぱぁっ>>」

「……うぅっ……<<かぁー>>」

 

怒れるこぶし笑顔にあたらずと言いますが、逆に笑顔は人を殴れるのです。

特に一刀君の笑顔は、それだけで人を殺せそうです。

 

「風が、風が悪かったですからもうやめてください」

「……<<にぱーっ>>」

 

稟ちゃん、ごめんなさい、風は先にあの世に逝きますから、後で華琳さまに殺されて続いて来てください。

 

「うぅぅ……」

「……<<にぱーっ>>」

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 


 
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