No.205572

真・恋姫無双 ~美麗縦横、新説演義~ 第三章 蒼天崩落   第十七話 愚か者のうた

茶々さん

最終回へのカウントダウンが始まりました。

2011-03-07 21:30:10 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1641   閲覧ユーザー数:1505

玉座に向かい立つ、一人の男。

酷く懐かしく、そして追いかけ続けた男。

 

思い出した、と形容するのが正しいだろう。

 

 

「来たのか……一刀」

 

 

自分は、この背を知っている。

己が消え去る間際に見せた、本当の『彼』の背。

 

自分ではない『北郷一刀』の記憶が―――過去が、その残滓が幾重にも積み重なる。

 

 

「いや……君なら、来ると思っていたよ」

 

 

懐かしむ様な、慈しむ様な声音。

それが自分の中の疑問を確信へと変えていく。

 

 

 

彼は―――司馬懿仲達は、待ち続けていたのだ。

 

あの世界の―――嘗て共に戦った外史の『北郷一刀』が、彼の知る『天の御遣い』が戻ってくる瞬間を。

 

仲達が、振り向く。

 

 

「ここで来なければ『君』じゃないからな」

 

 

その表情は酷く歪み、嬉しさをどう笑えばいいのか、怒りをどう憤ればいいのか、悲しみをどう泣けばいいのか。

それら全てを忘れてしまった様な、けれどとても辛そうな表情だった。

 

 

「…………どうして」

 

 

ギリ、と一刀は奥歯を噛み締めた。

 

 

「どうして……こんな事をッ!?」

 

 

いっそ悲痛にも思える様な叫びを上げた。

だが眼前の知己はそれを意に介した様子もなく、淡々と呟く。

 

 

「―――一刀、君は項羽を知っているか?」

「……?」

「或いは秦の始皇帝でもいい」

 

 

司馬懿が身を翻し、一刀に向き直った。

 

 

「いずれも天下にその名を轟かせた傑物だ。聞けば誰もが震え上がり、眼にすれば恐怖のあまり失神してしまうかもしれない」

 

 

何を語りたいのか。何を伝えたいのか。

自問する様に、一刀は必死にその真意を探る。

 

 

「―――だが、そのどちらもが後世には『悪』として描かれている」

 

 

カツン、と甲高い足音が反響した。

 

 

「何故か?――――――至極単純な事だ」

 

 

自嘲的な笑みを含ませた声音と共に、司馬懿は続けた。

 

 

「『正義』など、所詮は『勝者』でしかないからだ」

 

           

 

嘗て友と呼んだ男がそこにいた。

 

全てを分かち合える。

心から分かり合える。

 

文字通り、掛け替えのない存在だった。

 

 

「『勝てば官軍負ければ賊軍』……その言葉の示す通りだ。勝者こそが時代を作り、塗り替え、己に不利な事全てをもみ消してきた」

 

 

だが一刀には、目の前の男が『司馬懿』であるとは思えなかった。

 

彼が最期に見た背の主は―――己の親友は、こんな自己犠牲的な笑みを浮かべたりはしなかった。

 

 

「それが勝者の『権利』であり『義務』だから、だ」

「義務……?」

「『勝者』とは、勝ち続けなければならない」

 

 

一刀の端的な呟きを拾った様に司馬懿は言葉を続ける。

 

まるで台本を朗々と謳う様に淀みなく、凛然とした声音を保ったまま。

 

 

「瑣末な戦にではなく、時代の節目に訪れる戦にだ」

 

 

聞き慣れた声音が、一刀の鼓膜を揺らす。

あの別れ際とはまるで違う、落ち着き払って冷徹さを思わせる―――彼らしい澄んだ声音が静かに、しかし厳然とした威圧感を放ちながら。

 

 

「そうして勝ち続け、己の正当性を示し、常に『善』を演じなければならない。どんな事があろうと、どんな卑怯な事をしようと、詰まる所勝てばそれでいい。後は歴史家に己の美点のみを描かせ、不都合な『真実』をもみ消してしまえば……」

 

 

そこで一旦区切り、司馬懿が鼻を鳴らした。

堪え切れぬ嘲笑を洩らしながら……それはやがて張り上げられた声音と共に大音声となって響く。

 

 

「見ろ。私達が『歴史』と謳う茶番劇の台本が出来上がるではないか!」

 

 

凄まじい怒気を孕んだ声が刃となって一刀に突き刺さる。

思わず、一歩引き下がった。

 

 

「後の世は讃えるだろう!誉れ高く謳うだろう!勝者が描いた偽りの『真実』を!!塗り替えられた『歴史』を!!それを鵜呑みにし、そして彼らに敗れた者達を『悪』として描く!!己の正当性を謳う為に!己に不都合な事実を抹消して!!」

 

 

両手を広げ、天を仰いで司馬懿は叫んだ。

 

 

「だが今!!この瞬間に『正義』も『悪』もない!!」

 

 

遥か遠くに響く怒号すら小さく思える程に、

 

 

「『正義は勝つ』!?当然ではないか!!」

 

 

生まれたその瞬間から抱き続けてきた怒りをぶちまける様に、

 

 

「―――『勝者』こそが『歴史』であり『正義』なのだからな!!!」

 

 

男は、吼えた。

 

 

 

 

 

「……分からねぇよ」

 

 

手に握った剣の鞘に力が籠る。

肩が恐怖ではなく、怒りに震える。

 

 

「分からねぇよ、俺には」

 

 

だというのに、脳は酷く凍てついて冷静に働く。

 

何かが己の中でとぐろを巻き、どす黒い感情を覗かせる。

 

それは司馬懿への怒りか。

乱世への憤りか。

 

 

「お前が何をしたいのか、どうしてこんな事をしたのか。何一つ分からねぇ」

 

 

それとも―――

 

         

 

「―――だけど」

 

 

半身に構え、柄に手を掛ける。

 

 

「だけどお前を倒さなきゃ華琳の『夢』が潰えるっていうんだったら……」

 

 

静かに腰を落とし、全身の氣を練り上げる。

ただ一つの動作に、一瞬の動きに全てを込める為に。

 

 

「―――俺はお前を殺してでも、華琳の願いを叶える!」

 

 

愛した者の為に友と呼んだ者を斬る。

 

両者を救う事が叶わぬのなら……選ぶのは、只一つ。

 

 

「それが、俺が出した『答え』だ!!」

 

 

 

 

 

 

司馬懿の笑いは、何時の間にか止まっていた。

ほんの僅か、広場の騒音すら消えて訪れた静寂の中、静かに言の葉は紡がれた。

 

 

「…………そうだよ、一刀」

 

 

声の主は、司馬懿。

慈愛に満ち満ちた、優しい音が一刀の耳に酷く強く響いた。

 

 

「君は、それでいい」

「……?」

 

 

司馬懿が、腰に提げた剣を手に取る。

 

 

「君は常に『正義』であれ。君は常に『勝者』であれ」

 

 

抜き身の刃となった刀身が、凍てついた輝きを放つ。

反り身のそれは、この時代の人間であれば決して知る由のない武器―――刀。

 

 

「それが君に課せられた『使命』であり、『天命』であり――――――君をその高みに置く事が、置き続ける事が僕の『宿命』なんだ」

 

 

何処か決意を帯びた声音が、ただ静かに響く。

 

 

「仲達……?」

 

 

問い掛ける自身の声が酷く大きく聞こえ、反響を残さず再び静寂の帳が降りた空間に足音が響く。

 

 

「君が創れ。新たなる天下を。新たなる次代を」

 

 

一歩、また一歩。司馬懿の足が一刀のもとへと向かう。

 

 

「『天の御遣い』?そんな称号、今更何の役に立つ」

 

 

そこに至り、一刀は漸く司馬懿が笑んでいる事に気づいた。

 

強い決意と、覚悟を決めた表情。

 

 

「君自身の意思で……『北郷一刀』の意思で、この先を往け」

 

 

紡ぐ声音は、本当の絶望と後悔を知る者だけが得られる音。

 

 

そうして、司馬懿はまた笑った。

子供の様に無邪気で、一刀が心から信じていた友の浮かべていた笑みを浮かべ、

 

               

 

「―――私はただ、私の役目を終える為にこの刹那を往く」

 

               

 

「一刀!!」

 

 

刹那、聞き慣れた声音が後方に響いた。

思わず振り返った一刀の目に飛び込んできたのは―――あまりにも懐かしく、この上なく愛おしい少女。

 

 

「華琳!?」

 

 

更にそれに続く様に、

 

 

「私達もいるぞ!!」

 

 

手傷を負った様子の関羽が、しかし聊かも衰えぬ威勢を以て庇う様に後ろに立つ劉備の前で青龍偃月刀を構え、

 

 

「観念しろ!!司馬懿仲達!!」

 

 

此方も見て取れる程の傷を負いながら、しかしやはり気迫のこもった眼光を向ける甘寧と、その後ろに彼女の主である孫権の姿があった。

 

 

「クックック……フッ、アッハハハ」

 

 

司馬懿の嘲笑がやけに遠くに聞こえた一刀が振り向くと、何時の間にか司馬懿は最初に背を向けて立っていた位置にまで戻っていた。

 

 

「これはこれは。大陸の女王共が揃いも揃って、何の御用かな?」

 

 

そこに立っていたのは、つい先程までの知己ではない。

完全無欠の仮面を被った『司馬懿』が、酷く愉快そうな笑みを湛えて問い掛ける。

 

 

「私の誇りを穢した罪……私の仲間を傷つけた罪」

 

 

答えたのは華琳だ。

一歩、威圧する様に踏み込み、愛鎌の絶を構えて静かに告げる。

 

 

「その報いを、死と云う名の罰を以て与える為よ」

 

 

その言葉は絶対的な死刑宣告。

同情も情状酌量の欠片もない、完全な裁きを下す凍てついた音。

 

 

「ッ…………フフフ」

 

 

それを受けて―――尚、司馬懿は笑った。

 

 

「クッ、フハハ……アッハハハハハ!!!」

 

 

狂気の王。

それが仮面である事を知る一刀は、しかし対した覇王の威圧感に呑まれ口を紡いだ。

 

 

「どうしたの?己の最期を予期して狂ったのかしら?」

 

 

口調こそ穏やか。

だが目は猛禽類の様に獰猛で般若の様に鋭く、僅かに睨まれただけでも怯えに肩を震わせそうな程に凍てつく。

 

 

「―――嗚呼、とても残念だよ」

 

 

それでも尚、司馬懿は余裕めいた口調を崩しはしなかった。

 

 

「やはり貴様は罪深き女だ。どうしても贄がなければ、犠牲がなければ貴様は理解出来ない様だな」

「……どういう意味?」

 

 

華琳の問いに、司馬懿は呆れを隠そうともせず口元を吊り上げた。

 

それが心からの侮蔑と嘲笑を込めてのものだと、続く言葉に一刀は悟った。

 

          

 

「既に成都、建業には別働隊がそれぞれ十万ずつ向かっている」

「な……ッ!?」

 

 

洩らしたのは誰か、一刀には分からなかった。

だが劉備や関羽、甘寧や孫権が驚愕に目を見開いている事は直ぐに悟れた。

 

 

「貴様らは我らの予備兵力が河北と司州にしかないと思っていた。そして先程の伏兵と左右からの突撃で、全ての戦力がつぎ込まれたものだと確信していた」

 

 

「貴様らの誇る名軍師が、そう見立てたのだろう?」と、一層嘲笑を深めて司馬懿は続けた。

 

 

「何時、私がその様な事を言った?」

 

 

侮蔑を込めた口調が、更に言の葉を紡ぐ。

 

 

「私に、一度に百万もの大軍を細かく指示する技量はない」

 

 

心底相手を見下した様な、最大級の嘲笑を浮かべて、

 

 

「―――だから態々兵を分散させ、貴様らと同量の兵士になる様に調整してやったんだ」

 

 

ただただ偽善でしかない慈愛の声音でそう告げた。

 

 

 

 

 

 

「遊戯とは、拮抗していなければ面白味がない」

「遊戯だと……ッ!?」

 

 

今にも飛び出しそうになるのを抑え続けていた甘寧が、司馬懿の言葉にその皺を一層深めて目を逆剥いた。

 

孫権の制止があっても、いつ飛び出すか分からない。

 

 

だが、暴走寸前の狂犬を前にしても司馬懿は挑発を止めなかった。

 

 

「戯れに過ぎぬだろう?所詮身内で、同朋の血で身を洗うだけの、この下らぬ盤上の駒遊びは」

 

 

司馬懿は哂う。

その嘲りを隠そうともせず、クックッと喉の奥を鳴らす様な笑みを浮かべ、紡いだ。

 

 

「だから私は言ったのだよ!『貴様たちを出迎える舞台は全て整った』とな!!」

 

 

突然、芝居がかった口調になって司馬懿は朗々と語り出した。

 

喜劇の主役である様に、悲劇の勇者を気取る様な。そしてそんな己自身を嘲笑う様な澄み切った声音が響く。

 

 

「数の上では互角!地の利は此方にあれど、将士の質は其方が上!!大軍は局地戦に意味を成さず、じわじわと攻め込まれ、やがてはこの首を刎ね飛ばす!!フッフッフ……ククッ、フハハハハハハ!!!」

 

 

語っている間にも溜まったのか、司馬懿は再び笑みを深めて嘲笑う。

 

 

「そんな未来を貴様らは見、そして現実にしようと息巻いてきた!!だが真実、喉元に刃を突き付けられは己らとも知らずになぁ!!」

 

 

そこで漸く、司馬懿は笑うのを止めた。

 

 

「己が采配一つで、戦場は如何様にも動く。貴様らは守るべきモノを見失い、ただ突き進む為だけに此処にいる」

 

 

先程までとは打って変わった、冷徹な声。

凛然とした鋭い音は真空の刃の様に構えられ、彼の眼光と共に女王達を射抜いた。

 

 

「―――これは、その驕りという名の罪に対する罰だ」

 

            

 

「ほらどうした?急がねば、貴様らの大事なモノが全て亡くなるぞ?」

「―――ッ!!」

 

 

一瞬、華琳が怯んだ様な表情を見せる。

それを見止めてなのか、司馬懿はニヤリと笑み、再び声を上げた。

 

 

「フフフ……アッハハハハハ!!」

「司馬懿ィ……!貴様ァッ!!」

 

 

怒気を露わに、華琳が叫ぶ。

 

 

「嘗て!!」

 

 

だがそれに被さる様に、司馬懿の言が大音声で響いた。

 

 

「嘗ての私は滅びゆく国を、怒りを滾らせる民草を、ただ眺める事しか出来なかった」

 

 

見つめる先には、恐らく今目の前に立つ人は誰一人映っていないのだろう。

 

語るのは、紡ぐのは、ただ深い後悔の残留思念。

彼が最も嫌う彼自身への、遣る瀬無い憤り。

 

 

「この身の才も力も、何ら意味を持たなかった」

 

 

己の掌を眺めながら、司馬懿はただ続けた。

その手が、彼にはどう見えたのだろうか。

 

己の無力を象徴していたのだろうか。

己の無能を体現していたのだろうか。

 

 

「なら、どうすればよかった?」

 

 

答えは、とうに出ている。

 

 

「――――――考えるまでもない。全て奪えば良かった」

 

 

 

 

 

「奪う力も、奪い取る力も、奪わせようとする力も、全てを先んじて奪ってしまえばよかった。ただそれだけの事だ」

 

 

だからこそ欲した。

 

 

「奪い、嬲り、甚振り、弄び、縊り、裂き、そして消し去ってしまえばよかった」

 

 

だからこそ求めた。

 

 

「己の保身しか考えぬ臣下も、無能な暗君も、怠惰に耽りながら自戒すら出来ぬ民も、何もかも」

 

 

罪を重ね続け、嘘を吐き続けても、尚。

 

 

「私の愛する国を、全てを捧げた国を壊していく存在など認めはしない」

 

 

例え幾千、幾万の怨み辛みを背負う事になろうと、歩き続けると誓った。

 

 

「―――だから私は『私自身を未だに許す事はない』と云ったんだ」

 

 

その言葉が誰に向けてなのか。

 

一刀には、察する事が出来た。

 

          

 

彼は、英雄になりたかったのだ。

 

 

「私は認めない!許さない!!同じ過ちを繰り返す事を!!同じ末路を歩む事を!!」

 

 

無辜の民草が苦しめられる乱世を憎み、ただただ破壊しか繰り返されない大乱を嫌い、その全てを治める存在を求めた。

その存在に全てを捧げる為に、全身全霊を懸けてその存在を支える為だけに彼は、司馬懿は己を磨き続けた。

 

そして華琳に出会い、天下は定まったかに思えたのだ。

 

 

―――だが、

 

 

『ただ一人の英雄によって齎された安寧は、ただ一人の英雄の死によって潰える』

 

 

その言葉が全てを語っていた。

 

 

華琳の死後、天下は再び乱れたのだ。

 

その時には既に己の身体も云う事をきかない程に弱り切っていたに違いない。

そうでなければ、あの司馬懿が早々後れを取る訳がない。

 

 

それが―――その慢心こそが、彼を苦しめる根源なのだ。

 

 

麒麟も老いれば駄馬にも劣る。

高潔で気高い彼には、その事実が受け入れ難かった筈だ。

 

だからこそ憎んだ。

だからこそ、彼は蘇ったのだ。

 

 

しかし、今一刀達の目の前に立ち叫ぶ男には、その憎悪が欠片も存在しない。

 

 

「故に最早これ以外、これ以上の上策など在りはしない!!」

 

 

全てを知り尽くした様であり、何もかもを諦めた様でもあるその様は、一刀の怒りと疑惑を滾らせるだけだった。

 

目の前の司馬懿が司馬懿であって司馬懿でない様な、理解し難い存在に見えて仕方なかった。

 

 

「これ以外に方法がないって…………どうして……一体、何がお前を駆り立てたんだよ!?」

「何が、だと……?」

 

 

絶叫にも似た咆哮が轟く。

だがその矛先を突き付けられた司馬懿は、信じられぬモノを聞いた様に目を見開き、次いで身体を折り曲げて震わせる。

 

 

「――――――クッ」

 

 

聞いた事もない様な酷く不快で、狂気的な嘲笑が一刀の鼓膜を揺らす。

 

 

「フフフ……クッ、アッハハハハハ!!!」

 

 

壊れた様な大笑。

狂った様な嘲笑。

 

憎悪、軽蔑、憤怒。

ありとあらゆる負の感情をつぎ込んで、表現できる限りの苛立ちをぶつける様なおぞましい笑い声が玉殿に響く。

 

ひとしきり笑った後、司馬懿の青い双眸がギロリと音を立てて一刀を睨んだ。

 

 

「君がそれを言うか!?よりにもよって君が!!」

 

 

まるで不倶戴天の敵に向ける様な叫び声をあげて、司馬懿は腕を横に払った。

踏み出した足音は酷く強く、床を踏みぬかんばかりに音を立てる。

 

 

「―――なら、教えてあげるよ」

 

 

それは求道者に教えを指し示す賢者の様な声音で、地獄の沙汰を下す邪神の様な笑みで、

 

 

「世界の、本当の姿を……!」

 

 

悪魔は、英雄と対した。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択