季衣に後ろ髪を引かれながら、俺達3人は呉へ出発した
「ふふ、季衣が気になるか?」
秋蘭に言われ、俺が何度か後ろを振り返っていたことに気づく
「・・・・そりゃ、な」
「北郷、季衣は魏の将として立派に勤めを果たしてきたのだ。もう以前の季衣ではないのだぞ」
「うむ、姉者の言うとおりさ、季衣は成長しているよ」
「わかってるけど、無理させちゃってるな・・・てさ」
季衣の成長は、2年という月日を最も多く教えくれた
いたずらっ子だったあの季衣が、この2年で春蘭や秋蘭を支えるまでになっていたんだ
「気持ちはわかるが、甘やかすばかりではいかんぞ。ほら、牛の中落ちだ」
「牛の中落ち?・・・・秋蘭、通訳頼む」
「うむ、恐らく、獅子の子落としと言いたかったのだろう」
「北郷、それぐらい分かれ馬鹿者が!」
「俺が間違えたみたいに言うな!」
そんな馬鹿話をしながら、俺達は呉へ進むのだった
それから幾日、俺達は徐州に入った
なぜ徐州かというと
「北郷ぉ~、ううううう・・・オェー」
「もう少しで徐州に着くからがんばってくれよ春蘭」
重度の船酔いに陥った春蘭は海に向かって吐いている
俺は春蘭の背中をさすり、吐ききった春蘭を横にすると膝を提供した
膝枕だ
「北郷・・・華琳様のこと・・・頼んだぞ」
「もう少しで陸だよ。がんばってくれよ」
春蘭の額に手を当てると、春蘭の顔から少しだけ苦痛が消える
「秋蘭、そっちはどう?」
「・・・・・」
伏せていた顔を弱弱しく上げると、右手を上げて答えるだけ
顔もげっそりしちゃってるよ
「ま、二人ともこんなに長い船旅初めてだもんな・・・・あれ?」
(ちょっとまて、俺も長期の船旅なんてしたことないぞ)
「俺、乗り物に強かったっけ?」
自分でも知らない才能に気づいたかも知れないな
俺達の船は無事、徐州の港に着いた
「ほら、二人とも陸だぞ陸」
「うう、酷い目にあった・・・・」「・・・・・」
二人を両手で支えながらの下船
これが魏を支えた2将軍だなんて誰も信じないかもな
とにかく、早く二人を休ませないと
近くの宿を取った俺は、二人を部屋の寝床に休ませると、市場まで水を買いに走った
「ほら、水だよ春蘭、秋蘭」
二人の口に水筒を当てると、ごくごくと一気に飲み干した
「すまん北郷ぉ~」「・・・・・・」
「次の出港は明日だから、今日はゆっくり休んで」
「また乗るのか・・・・ガクッ」「・・・・・」
「海路が一番近道で安全だからね。真桜の発明のおかげさ」
赤壁の戦いの前、俺は真桜と船について研究したことがあった
その研究を元に、この時代では考えられない速さで船が発達した
さすがに動力のメインは人力だけどね
「さて・・・やることもなくなっちゃったな」
俺達は追われる身、俺がこっちに戻ってきていることを知っているのは一部だけだけど
もし顔見知りと出会ってしまったら大変だ
今はおとなしく宿で過ごすしかないか
「俺も少し休むかな・・・・」
「北郷~腹が減ったぁ~」「・・・・・ウム」
「・・・・行ってくるよ」
こんな時ぐらいしか力になれないし、まいっか
「さて、消化のいい物がいいかな、そうそう、確か糖分を取るために果物がいいんだっけ」
俺は果物屋へと向かった
「へぇ~、ハチミツも売ってるのか、ハチミツなら糖分も取れるし栄養満点だけど、ちょっと高級すぎるな」
最低限の路銀しかないのにハチミツは買えないな
「さて、果物はっと・・・・ん?」
何かに引っ張られる感触
「これお主、七乃を知らんかや?」
「七乃?」
この子どこかで見たことあるな
「うむ、七乃じゃ。お主はハチミツの素晴らしさをわかっておるようじゃからわらわの部下にしてやるのじゃ。すぐに七乃を探してたも」
「よく分からないけど、その七乃さんとはぐれちゃったの?」
「わらわがはぐれたのではない、七乃がはぐれたのじゃ!」
「はぁ」
「とにかく!わらわと一緒に七乃を探すのじゃ!」
「あ、ちょっと」
強引に手を引かれた俺はその子に連れてかれてしまった
遅くなると春蘭に怒られるのに・・・・
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船の旅