ずらりと並ぶ兵士たち。城壁の上は異様に殺気立っている。
場所は北に位置する北門で、普段なら門を利用として街に出入りする人々の姿が見えるのだが、今日はその姿が見当たらず、また北門から外、少し離れた場所には体全体を隠すほど大きな盾を構えた兵士たちが並んでいた。
それを指揮しているのは気だるそうにする小太りの男で、盾を構えているのはその男が率いる部隊だ。やる気のない男は大きな欠伸をして、
「どうして俺が合同訓練などせにゃならんのだ。訓練なら小生意気な小僧の部隊だけですりゃいいだろう。俺を巻き込むな。ったく」
愚痴を零す男は袁術に使える武官で、この街では将軍という立場である。
外敵からの侵略を防ぐ(今の時勢では賊)のが役目なのだが、男はその為の訓練や調練を怠っている。
街は夜までの間は犯罪も少なく、平和な場所なのだが、夜になるとそれまでの平和が嘘のように怪しげな連中が出てくる。
民家が集中する場所ではなく、宿屋などが集まっている場所に集まり、集団でそこを襲って金品や女性がいれば連れ去っていく手口だ。凌統と蘇飛が泊まる宿も一度襲撃を受けたが、凌統に無力化され、見せしめに足の骨を砕いて街に放り出してからはその被害は極端に減ったそうだ。
その功績で凌統は男が担っていた治安関係の仕事を任されることになり、今までの治安より遥かに良い街を作り上げたのだ。
それも面白くない男からすれば凌統との訓練などしたくないのだが、上からの命令では仕方がない。
「さっさと始めやがれ! いつまで待たせるつもりだ!」
怒鳴り散らす男の元に兵士が駆け寄ってきた。
「銅鑼が鳴りました! 攻撃開始されます!」
「ようやくか。さっさと終わらせて……」
男は城壁の方を向いて、目を見開いた。
打ち合わせでは矢は盾を持っている前面の兵士にぶつかるように発射される手筈だったが、飛んでくる矢は明らかにそれを飛び越え、その後ろにいる兵士たち目掛けて飛んできていた。
それに気付いた兵士たちも騒然として一斉に逃げ出した。男は盾を構える兵士で防ごうと駆け出すが、間に合わない。
鏃を削った矢は腑抜けた兵士たちに見事命中した。
「何をやっているのだ。予定地より前に陣取りをしたのは手違いか?」
城壁で逃げ惑う様子を見下ろしていた凌統は呆れたように呟いた。
打ち合わせで決めた位置より前に陣取りをしていたのは何か考えがあってのことだと思い何も言わなかったが、よもや手違いで配置を間違え、大混乱に陥っているのは予想外だった。
腑抜けた兵士たちに喝を入れるためなのか、と軽く思っていたが、これには凌統も城壁の兵士たちも開いた口が塞がらない様子であった。
「あの男、指揮官として無能だな。混乱が収まるどころか拍車がかかっている。誰かある!」
凌統の呼びかけに伝令などで動く兵士が近づいて膝を折った。
「手配していた救護班を向かわせろ。予定と違うが、怪我人の手当てをしてやれ」
「はっ!」
伝令の兵士がいなくなり、凌統はため息を漏らした。
先も述べたように喝を入れるための配置だと思っていた凌統は救護班を手配しており、既に城門から怪我をした兵士たちの下に向かっていた。
「訓練は一旦中止だ。各々、今のうちに昼食を済ませておけ。まあ、おそらく今日は訓練ができないだろうがな」
兵士たちは元気の良い覇気のある返事で返し、使用しなかった矢を担いで階段を下りていった。
よく訓練された動きで、一ヶ月という月日の間に凌統が鍛え上げた元農民たちだ。
凌統が客将になってから最初に五百人が宛がわれ、そこから義勇兵を募った千人余りの部隊は他の将たちの部隊など足元にも及ばない統率と速さを自慢とする街一番の部隊である。
「さて、俺も昼飯にするか。今日はどこで食べるとするかな」
誰もいなくなった城壁で凌統は顎に手を乗せて考え始めた。
この街は隠れた名店というものが多く、店の位置づけが悪いせいで客があまり来ない料理店が多いのだ。店を出したいと言われて適当に場所を宛がった方が悪いのだが、文句が言えるはずもなくそこに店を構えて営業しているのだが、やはり客は余り来ない。
味がよくても場所が分かりづらい点に乱雑に発展してしまっているせいでたどり着くのに一苦労するなら分かりやすい場所で美味い店に行くのが当然といえる。
凌統はそんな隠された名店を探すのが街での楽しみであり、今は探している暇はないが、訓練がない時はぶらりと街の散策を行なっている。
「今日は一番近い場所にするか。あそこの炒飯は美味い」
場所が決まれば早速移動するわけだが、それを遮るように凌統の視界に見覚えのある人物が映った。
「あ、訓練終わったそうですね。お疲れ様です」
トットット、と階段を駆け上がってきたのは蘇飛だった。少し癖のある黒髪を揺らしながら近寄ってくる蘇飛は両手を後ろに回して満面の笑みを浮かべて近づいてきている。
凌統は直感で何か悪い事が起こると思いつつ、逃げる訳にもいかないので立ち止まったままである。
「どうした? 俺に何か用か?」
「用もないのにこんな場所に来ませんよ。鴉さんはこれからお昼ですか?」
「少し訳ありで早めに切り上げた。聖も昼飯か?」
「わたしはもう食べました。今からお昼の鴉さんに朗報です! じゃじゃ~ん!」
後ろ手に隠していたのは袋に入った肉まんだった。まだ温かいようで美味しそうな湯気が上がっている。
「……それを俺にくれるのか?」
「はい。まあこれがお昼ごはんというのも味気ないと思いますけど、食べてみてください」
「いや、こういう昼も悪くない。物足りなければ食べに行けばいいだけだ」
袋から肉まんを一つ取って口に頬張る。が、そこで動きを止めて額にシワを寄せて肉まんを凝視した。
「……何だこれは? これが売られていたのか?」
「ど、どこかおかしいですか?」
「水分が多い。それと具が大きい。そこの店に連れて行け、俺が勘定を払い戻させる」
「い、いえいえいえ、大丈夫です! これ、作ったのわたしですから!」
「……聖が?」
「はい。初めてなので失敗しちゃったみたいですね」
蘇飛が作ったのなら、と凌統は納得した。いくら何でもこんな代物を商売道具にして稼ごうなどという阿呆がいるとも思えず、何らかの理由で初心者の蘇飛が作ったのなら試食に持ってきたとも考えられるからだ。
しかし、と凌統は肉まんから視線を外して蘇飛を見て、
「確か服屋で仕事をしているはずだが……何故肉まんなんだ?」
そう、蘇飛が働いている場所は服屋。肉まんを販売しているとは到底思えないのだ。
「実はですね、その服屋さんは経営が困難になったため働き手を減らした……というより、営業停止で店を畳んでしまいました」
「……何かあったのか?」
「いえいえ、元々分かりづらい場所にあったのも原因なんですけど、もっと安くて分かり易くて質もいい新しい店が出てしまったので被害を被る前に店を畳んで別の街に行っちゃいました。ですから、新しい働き口として肉まんの売り子をして、今日はじめて作らせて貰ったんです」
「……そうか。初めて作ったのなら……上出来な方か」
「あはは、大丈夫かなぁって思ってたけど駄目でしたね……って、鴉さん!?」
「ん? どうした?」
「どうしたって、食べるんですか? 別に無理して食べなくてもいいですよ」
「なら捨てるか? それも構わんが、勿体無いだろう」
蘇飛が戸惑っている間にも凌統は二つ目の肉まんを頬張っていた。水分が多いのと具が大きいのを除けば普通に食べられる代物なのだ。
斬新な新商品だと思えば特に不快感もなく食べる事ができる。
「そうだ、聖。そろそろ一月経つが、お前はどうする?」
「え? 旅をするかですか? もちろん付いて行きますよ。もう荷造りは済ませてあります」
「早いな。俺も既に荷造りを済ませてある。ここの役人にも話はつけた。引き止められたがな」
「鴉さんほどの人材を手放すのは惜しいでしょうねぇ。でも、そうなると鴉さんの部隊はどうなるんですか? 腐っちゃいますよ、他の人たちに預けたら」
「俺もそれだけが心残りだ。義勇軍を組織するのも考えたが、生憎と俺には目的がある。それに、それだけの人間を養えるだけの蓄えも当てもない。いい気はしないが、ここの連中に預けるしかないだろう」
義勇軍を維持する為にはそれだけの資金と兵糧が必要になる。何の見返りも無しに戦うなどという者たちは少なく、その多くがお金目当てや食べ物目当てで寄ってくる連中だ。
それが悪いというわけではなく、むしろ生きる為に必要なことで、それで戦えるのなら損はない。
凌統は一時期義勇軍の組織を考えたが止めた。目的の親殺しの甘寧を見つけ出すために義勇軍は移動に邪魔であり、恐らくそれどころではなくなってしまうからだ。
賊が横行する大陸で部隊を率いていれば必然的に賊もしくは官軍と鉢合わせる事となり、どちらに転んでも面倒ごと以外の何者でもないのだ。
可哀相だが、ここで切り捨てていくしかない。それが凌統の出した結論であった。
「それはあんまりですわ。飼い慣らした虎を放つような真似は感心できません」
「お前は……諸葛瑾とその妹か」
栗色の短い髪に首に二つの大きな鈴。腰には蝶々結びの帯が巻かれ、スラリとした背丈が凌統ほどある女性、諸葛瑾と栗色で長い髪に1つの大きな鈴。両腰に姉と同じような帯を巻いた小柄な少女、諸葛均がそこにいた。
「あなたはいつぞやの勧誘の人!」
「あら、いつぞやの。孫呉に来ていただけないかしら?」
「お断りです! そんな話聞く耳持ちません」
「……お前も勧誘を受けていたのか」
「お前もって事は鴉さんもですか? まさか、引き受けたんじゃ……」
「彼は一応は引き受けてくださいましたよ。仇討ちが終わったら、という条件付ですが」
「その話は別にいい。諸葛瑾、俺か聖に何かようか? こんな場所に用もないのに来るとは思えん」
凌統たちのいる場所は城壁。ここは農民には近寄りがたい場所だ。武装した兵士が巡回し、不審な動きをみせれば取り押さえられ、どこかの間者だと疑いを掛けられて何をされるか分からないからだ。
諸葛瑾たちは役人というわけではなく、凌統が知る限りでは孫策軍の者という立場だ。変に目立って監視をつけられるようなことがあれば動きづらくなる。
「凌統さまが街を出るという噂を聞きましたので、約束の確認に参りました。本当に街を出てしまわれるのかしら?」
そんな事などお構いなしなのか、諸葛瑾はのんびりとした口調で凌統に質問をしてきた。
「逆に聞くが、人材発掘の為に軍隊がいるのか? 同じ人探しとしては信じられんな」
「必要ありませんわ。邪魔にしかなりませんもの」
「だったら答える必要もない。用が済んだなら早く立ち去れ。面倒に……いや、もう遅いか」
凌統は手を顔に当てて大きなため息をついた。
不思議そうな顔をする諸葛瑾たちは蘇飛に視線を向け、バツが悪そうに視線を逸らしていることに気がついた。どうしたのか疑問に思っていると、
「小僧! 貴様よくもやってくれたな!」
腕や顔に手当ての後が見える男が今にも斬りかかるのではと思えるほどの剣幕で近づいてきた。
この男は忘れかけていたが、凌統との訓練で配置を間違える馬鹿を仕出かした男である。
「無事で何より、と言えばいいのか?」
「お前の目には俺が無事に見えるのか! おめでたいものだな!」
「かすり傷程度だろう。それとも、生命の危機に陥るほどの重症を受けたのか?」
「そういう問題か! 味方に怪我をさせておいて謝罪の一言もないとはどういうことだ!」
「それはこちらも言いたかった。貴様が調練を生半可な気持ちで受けて兵士たちが罪悪感を覚えてしまった。射程範囲を把握していないのはどういうことだ? この調練は別に特別な方法というわけではないだろう」
「ぐっ……」
男は日頃から調練をサボっているので何も言えず、悔しそうに視線をそらした。
更に追い討ちをかけるように、
「既にこの事は報告してある。在野になりたくなければ弁解してきた方がいいぞ」
「ちくしょう! 覚えていろ!」
負け犬の遠吠えだけを残して、男は城壁から去っていった。
それとすれ違うように兵士がやってきた。
「報告! 五里ほど離れた村が賊に襲われました。数は千。こちらに向かって来ています!」
そんな報告と共に。
知らせを受け、すぐに凌統は防衛線の準備に取り掛かった。
城壁にありったけの矢を運び込み、完全武装した兵士たちをずらりと並べて作戦の確認をさせている。
作戦はこうだ。賊が勢いに任せて近づいてきたところをギリギリのところまで引き寄せ、城壁の死角に隠れている弓兵が一斉に矢の雨を降らせ、混乱に陥れるというものだ。
混乱した相手を城門から打って出る味方部隊が討ち取り勝利、という筋書きになるはずだった。
「愚か者の能無しが。たかが千に何故援軍を求めに行く? そして何故、ほとんどの兵士を連れて行った?」
憎々しく悪態を付くのも無理もない。
ここを護る役人は援軍を連れて来るといって城から逃げ出し、その護衛に城のほとんどの兵士を持って行ってしまったのだ。
よく聞く話だ。賊が怖くて民を置いて自分だけ生き残ろうとする。
しかし、凌統はどうしても納得がいかない様子で遠くを睨みつけている。
凌統の部隊で千。連れて行かれた兵士の数は二千。合計で三千もの軍隊がどうやったら千の賊相手に負けるというのか。
指揮官が無能でも力押しすれば勝てるような相手に逃げ出すようでは話にすらならない。
「殲滅は無理か。追い返す程度……しかし、仲間を引き連れて戻ってこられても面倒だ」
そこが一番の問題といえる。これから戦う賊は黄色い布を巻いた一団であり、それは今大陸で暴れ回っている黄巾賊たちなのだ。
仲間を引き連れて戻ってこられでもしたら対処のしようがなくなってしまう。
「防衛線というのは難しいな。さて、どうしたものか」
「お困りでしたら策を授けましょうか?」
ピリピリした空気には似合わないゆったりとした口調で話しかけてくる人物を凌統は一人しかしらない。
そちらに目を向けると、案の定諸葛瑾が微笑を浮かべてそこに立っていた。
「何度も言うが、あまりここに来るな。目立ってしまうぞ」
「もうその必要もありませんわ。役人が逃げ出し、一体誰に報告するのですか? それに凌統さまとお話をしていれば兵士たちも邪険にはしないでしょう」
「言われればだな。策、と言ったが何かあるのか? 正直追い返す手段しか思い浮かばない」
「殲滅が目的なら兵士が必要。ならば義勇兵を募り、それを率いればよろしいかと」
「それは考えた。しかし、城壁の兵士たちはどうする? 号令の頃合いを見誤れば効果は半減するぞ」
「蘇飛さんを使えばよいかと。彼女は元は武官だとかで戦の経験もあるでしょう。彼女に正規兵を指揮させ城壁で矢を放ち、義勇兵を率いて凌統さまが賊を撃破。いかがかしら?」
凌統は顎に手を当て考える。が、考えをまとめる前に諸葛均を抱きかかえた蘇飛が二人の間を裂くように割り込んできた。
「その話、受けます!」
「……ちゃんと聞いていたのか?」
「思わず割り込んでしまったのでよく聞いてませんでしたけど、大丈夫です。やれます」
「……不安だが、他に手もないか。ならば蘇飛、お前には正規軍を指揮して賊徒の群れを十分に引き付けて矢で攻撃してもらう。俺はこれから義勇兵を集めに向かう」
足早に歩き出すと背後から「え? 正規軍の指揮? いや、いきなり言われましても他人の部隊を任されても困りますって、鴉さん? 聞いてます? 鴉さーん!」と聞こえてきたが、何も聞こえなかった事にした。
城壁を降り立ったところで立ち止まると、「みゅぎゅ」となにやら奇妙な声が聞こえた。
「……急に、立ち止まらないで、ください」
「……ああ、悪かった。気付かなかったんだ」
ぶつけたのか、赤くなった鼻を両手で押さえた凌統の腰より低いところまでしか身長のない諸葛均がいた。目線を合わせるように膝を折ってしゃがむと、諸葛均はザザッ! と後ろに引いて涙目になっていた。
「怖いならついて来るな。大人しく姉のところにいろ。これは遊びじゃないんだ」
「遊んでいる、つもり、ありません。お姉ちゃんに、頼まれ、ました」
言葉が途切れ途切れでしかも小さく聞きづらいが、何とか理解する事ができた。しかし、
「それならば必要ない。むしろいい迷惑だ。お前のような子供を連れて義勇兵を集められると思えん」
実際に凌統が演説を始めて人々がそれを聞いたとして、傍らに小さな子供を従えていては笑い話にしか聞こえなくなるだろう。それならば一人で、有名になった凌統一人で演説をした方が効率がいいはずだ。
「気持ちだけで十分だ。大人しく帰れ」
「嫌、です。役に、立ちたい、です」
「ならば何が出来る? それを答えられれば手助けをしてもらおう」
その言葉に諸葛均は目を瞑り大きく息を吸った。そして、カッと目を開き論じ始めた。
「凌統さまに武があるように、わたしには知があります。ここで示すのは知。わたしを傍らに置いていたとしても問題ありません。むしろ好都合です」
先ほどまでの途切れ途切れの言葉が嘘のように遅いがハッキリと言葉と共に気持ちが込められていた。
ほぅ、と凌統は息を漏らし続きを聞く。
「わたしのような少女ですら戦おうとしている。それだけを伝えればいい。自ずと人は耳を傾け、目で見、そして賛同してくれます」
話し終え、諸葛均がざっと頭を抱える仕草を取った。
怒られると勘違いしたのか、ギュッと目を瞑り小さな体が怯えたようにプルプルと震えている。
「見事な論弁だった。なるほど、そういう手があったか」
「……怒ったり、しないんですか?」
「小娘が小生意気に、とでも言って激怒するとでも思ったのか? するものか。むしろ感心している。お前の策ならば俺の予想を上回る兵力が手に入るかもしれん」
「策……策、ですか?」
「これを策と言わずなんと言う。諸葛均、今からそれを実行に移すぞ。ついて来い」
機嫌がいい凌統は急ぎ足で歩き出そうとするが、諸葛均は羽織を掴んでそれを止めた。
掴まれている事に気づいて振り返る。
「まだ何かあるのか?」
「いえ、あの、名前……」
「……? 知っている。諸葛瑾の妹、諸葛均だろう」
「お姉ちゃんと区別、できないから、真名を」
「真名は神聖なものだ。そんな簡単に教えていいのか?」
「はい。だって、初めて…………人だから」
初めて、の後が小さすぎて聞き取れなかったが、どこか嬉しそうな諸葛均に苦笑しつつ、振り返った。
「ならばよかろう。凌操の子、凌統。真名は鴉」
「諸葛均。真名は祀里(まつり)、です。よろしく、お願いします」
「行くぞ祀里。逸れそうなら羽織を掴んでしっかりついて来い」
凌統が歩き出し、ふわりと揺れた羽織の美しさに一瞬目を奪われるが、すぐに気を持ち直して凌統の言うとおり逸れないようにしっかりと羽織を掴んで歩き出した。
凌統は北門に集められた兵士たちを見渡して息を漏らした。
兵士と言っても姿は農民で農業用の道具を持たせただけなのだが、その数に驚かされる。
「二千の義勇兵。それに正規兵を合わせて三千。勝てるな」
慢心かもしれないが、それだけの算段はついている。
先ほど蘇飛の様子を見てきたのだが、慣れているのか正規兵にきちんと号令をかけれており、凌統の口ぞえもあって兵士たちも特に疑問もなくそれに従っていた。
義勇兵たちも自分たちの街は自分たちで護る、と息巻いて士気が高く、殺気立って雑談もなく静かだが、それがいい具合の緊張感となっていることが凌統には自然と理解できた。
「祀里、後どれくらいで敵は来る」
「既に砂塵が見え、ゆっくりと、近づいてます。こちらを、挑発するように」
「面白い、とは言えんな。勢いに任せて近づいて来てくれた方がありがたい」
「どう、しますか?」
「少々酷だが、仕方ない。門前に陣を敷く。城門開け!」
突然の事にどよめきが走る。が、それも城門が開け放たれて凌統が歩むと自然と消えていった。
「ちょちょちょちょ! どういうことですか!? 段取りめちゃくちゃですよ!」
その様子は城壁の上にいた蘇飛や諸葛瑾からも見え、動揺していた。
それが兵士たちに伝染してしまい、動揺が広まっていく。
「聖! 予定通りだ。賊が近づいてきたら攻撃しろ!」
「わ、わかりました! けど、大丈夫なんですか?」
「問題ない。聞け! 勇敢なる兵たちよ!」
城壁の上まで轟く凌統の声に誰もが背筋をピンと伸ばした。
「愚かにもこの街を荒らそうとする連中がいる。今からお前たちはその愚か者どもと戦うのだ。しかし恐れるな! 数は優勢、飛び道具という頼もしい武器がある。負ける要素などない。だが、臆すれば負ける。高らかに声を張り上げろ! 相手を飲み込むほどの咆哮を轟かせろ!」
「「「うおおおぉぉぉーーーーーーーーー!!!」」」
高らかに轟く声に焦りだしたのか、ゆっくりとした賊の動きが急に慌しくなった。
ぞろぞろと陣形もなく突っ込んでくる賊は弓の射程範囲に入った。
「では皆さん、一斉に行きますよ! 放てぇー!」
隠れていた兵士たちが一斉に城壁の上に現われ、矢を放っていく。
予想外の攻撃に勢いを失った賊の動きは目で捉えれるほど悪くなり、それを見逃さず凌統の号令がかかった。
圧倒的であった。兵数で既に上回っている上に勢いも殺され混乱に陥っている賊など相手にならず、訓練も受けていない義勇兵たちでも苦戦する事はなかった。
当初の目的では殲滅するつもりだったが、逃げ出す賊に追撃をかけようか迷い、これだけの痛手を受けて再び挑んでくるような真似をするかは微妙なところで、おそらくは大丈夫だろうと思い追撃はしなかった。
最も追撃をしたとしても同じ徒歩。賊の拠点があるかもしれないと警戒して数人追わせる程度で後は悠々と街に帰還して行くのだった。
お久しぶりの傀儡人形です。
今回はちょっとどころではなく更新が遅れてしまいました。
書こうと思っていてもリアルが忙しいと手につきません。けど更新はしていきます。
さて今回は街を守るお話だったわけですが、いかがでしたか?
戦闘シーンというのは難しくて書けないので簡単に終わらせましたが、こんなもので
いいのか正直迷っています。
何か意見とかあれば言ってください。作者の為にもなります。
では、次回は蘇飛と諸葛姉妹の拠点ルートを予定しています。
ではこれにて失礼。
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お久しぶりです。傀儡人形です。
諸注意として変態司馬懿の世界とは全くの別物の話です。
書き方を試行錯誤しながらなのでおかしな点が多々あると思いますが、温かい目で見てやってください。