No.200864

真・恋姫無双 魏end 凪の伝 48

北山秋三さん

鈴々を退けた雪蓮だったが、その力は暴走を始め・・・。

2011-02-11 07:00:14 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:4442   閲覧ユーザー数:3680

「鈴々ちゃん!!!」

 

朱里の焦った叫び声が雪蓮の耳に届いた瞬間、僅かに雪蓮が躊躇う。

 

その隙を見逃さずに鈴々が『丈八蛇矛』を体の前に立てるようにして、雪蓮の剣を防いだ。

 

「あ、危なかったのだ!!」

 

だが、あまりにも凄まじい雪蓮の猛攻に『丈八蛇矛』を持つ手が痺れ、これ以上の戦いは

 

不可能に近い。

 

「逃げます!」

 

鈴々が下がったのを確認した朱里が札を出して二人の姿が掻き消えるが、後に残された雪蓮は

 

俯いたままピクリとも動かなかった。

 

「・・・あ、あの・・・雪蓮・・・さま?」

 

恐る恐る明命が声を掛けてみるが反応が無い。

 

他の皆も声を掛けるべきか躊躇していると、かすかに雪蓮の肩が震え始めた。

 

「・・・ぁ・・・」

 

小さな声が雪蓮から漏れる。

 

刹那────

 

「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

顔を上げた雪蓮の瞳は爛々と紅く輝き、強烈な殺気を周囲に振りまき出した。

 

覇気が、殺気に切り替わる。

 

雪蓮の持つ強大な覇気を飲み込んだ殺気は、近づくだけで人を殺せそうなほど強烈に敵意を表す。

 

そこにいたのは暴走した一刀と同じ姿となった雪蓮。

 

美羽となぎを後ろ手にした麗羽の額に冷や汗が浮かぶ。

 

猪々子と斗詩も思わず武器を構えるが、恋すら上まりかねない殺気に武器を持つ手が震える。

 

明命もどうするべきか判断できないので近づけない。

 

『殺される』

 

雪蓮の殺気は、それを覚悟させるには充分すぎる程だった。

 

その時────

 

「ご・・・ごめんなのじゃ、雪蓮!!妾が悪かったのじゃ!!」

 

麗羽の後ろに隠されていた美羽が飛び出し、雪蓮の前に出た。

 

「美羽さま!!」「美羽さん!!」

 

七乃と麗羽が慌てて引き戻そうとしたが、美羽は動かない。

 

ガタガタと振るえ、涙目だがしっかりと雪蓮の前に立ちふさがり、必死な様子で叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「雪蓮の書いた詩集(ぽえむ)だとは知らなかったのじゃ!!」

 

 

 

 

 

 

「「「「・・・は?」」」」

 

突然の美羽の叫びに対応できず、皆が呆然とする。

 

実は美羽は最初の雪蓮の襲来で恐慌状態になった上、幽霊という単語を聞いただけで

 

耳と目を塞いでガタガタと震えていたため、何があったのか知らないのだった。

 

その為、雪蓮が怒っているのは自分の悪事がバレたせいだと思っているのだ。

 

「詩集(ぽえむ)・・・?」

 

麗羽の呟きに、美羽が頷く。

 

「『彼とのあまあま生活妄想日記☆』の作者『巨兎王村(きょうおうそん)☆さっく』がしぇれ────」

 

「だあっっっっしゃああああああああああああ!!!」

 

ガンッ!!

 

何かを言い始めた美羽の元に、超高速で走り込んだ雪蓮が拳骨を落とす。

 

「のっっっおおおおおおおおお!!!頭が割れる!!頭が割れるのじゃーーーー!!!」

 

脳天を直撃した拳骨にのた打ち回る美羽の側には、顔を真っ赤にした雪蓮がいた。

 

「それ以上言ったら──── 本気出すわよ」

 

「もう本気じゃったのじゃ!!痛いのじゃ!!七乃~!!」

 

「はいはい美羽さま。駄目ですよ。人の恥ずかしい趣味をバラしては」

 

頭を押さえる美羽を抱きしめながら、七乃が薄っすらとした笑みを浮かべる。

 

『彼とのあまあま生活妄想日記☆』は、阿蘇阿蘇の後半ページに載っている短編連載詩集で、

 

年齢=彼氏いない歴の作者が彼が出来たらここに行きたいとかあれをやりたいという妄想が、

 

これでもかとばかりに書かれているコーナーなのだった。

 

喪女による喪女の為のコーナーだったのだが・・・。

 

「え!?マジで雪蓮さまが『巨兎王村☆さっく』だったのか!?あたい、あれ好きだったんだよな!!」

 

「・・・何ですの?」

 

はしゃぐ猪々子に麗羽の呆れたような声が問いかけ、猪々子が嬉々として答えようとした時、

 

雪蓮の強烈な殺気が復活した。

 

「秘密を知られたからには・・・」

 

「「「ひぃ!?」」」

 

ゴゴゴゴゴゴと無限に高まる戦闘力の前に全員が逃げ出し、その後を顔を真っ赤にした雪蓮が

 

追いかける。

 

途中にいた『にゃあ黄巾党』の者達を蹴散らしながら────

 

 

「・・・蜀と呉の援軍がもう到着した・・・ですって?」

 

華琳は先ほど受けた報告をもう一度呟く。

 

対応が早すぎる。

 

いくら早くに知らせていたとはいえ、あまりの対応の早さに華琳は訝しげな表情を崩せない。

 

そして新たな報告。

 

風が行方不明。

 

黄巾党出現と共に急ぎ探させたが、その行方は未だ分からないまま。

 

引き続き捜索はさせているが、黄巾党との戦いもあるためにそれ程人員は割けない。

 

だが迷っている暇もなく、親衛隊の一人が伝令の兵から訪問者の来訪を聞き、華琳の側に控えた。

 

「曹操様、蜀と呉の遣いの方達がいらっしゃいました」

 

「よし、通せ」

 

華琳の命に従い、兵が二人を連れてくる。

 

「お久しぶりですなぁ。華琳殿」

 

「失礼します」

 

「星、思春・・・久しぶりね」

 

親衛隊に連れられて来たのは、星と思春。

 

だが、星はその表情に薄っすらとした笑顔を貼り付けているが、どこか硬さがあった。

 

華琳が星から書簡を受け取ると、後に思春が続く。

 

思春は静かに一礼し、手にしていた書簡を華琳に渡す。

 

二人から対黄巾党のそれぞれの陣営の作戦概要が纏められた書簡を受け取り、華琳がそれを

 

開いた時に星が口を開く。

 

「時に・・・華琳殿」

 

その星の硬い声が華琳の動きを止めた。

 

「何かしら?」

 

その硬さに気付かないフリをしつつ、星の顔を見る。

 

最早、星の表情には笑みは無かった。

 

「『天の御遣い』殿は・・・どこにいらっしゃいますかな?」

 

冷たい声が星から発せられる。

 

それは今まで聞いた事の無い声。

 

まるでいつもの飄々とした雰囲気からは想像もできない星の冷たい声に、思春も思わず頬を

 

汗が伝う。

 

(どうしたというのだ・・・?)

 

今までに無い雰囲気の星に思春は戸惑う。

 

だがそれを受けた華琳もまた冷静なままだった。

 

「あら、建業にいるという話で話ではなかったかしら」

 

しれっとした言葉で告げると、華琳と星の間で空気がピリッと緊張する。

 

つい先ほど一刀を捕らえたばかりでどこまで星が掴んでいるのか不明だが、華琳はあえて

 

ここにいるとは言わなかった。

 

「ああ・・・そうでした。そうでした」

 

不意に、星があっけらかんと表情を崩して微笑む。

 

その事に華琳と思春は戸惑いを覚えるが、星が「それでは失礼した」と言って帰ってしまった。

 

何が何だかわからない思春だったが、華琳はその星の後姿を見送りながら、一つ溜息をつく。

 

(あの種馬は・・・本当にどうしてくれようかしら・・・)

 

星の様子から伺えるのは明らかに嫉妬だ。

 

最後はいつもの飄々とした雰囲気を見せたが、最初の星のわずかな焦燥が本当の気持ちだろうと

 

察する。

 

(対応が早い筈よ・・・やはり幻視を武将全員が見たという事で間違いはないようね・・・)

 

"これから"の事を思い、華琳はもう一度深い溜息をついた。

 

 

呉の陣営では、蓮華が亞莎に指示をして『にゃあ黄巾党』を効果的に包囲していた。

 

反対側からは蜀の陣営が『にゃあ黄巾党』を包囲し、魏の陣営の動きと合わせて三国による

 

『にゃあ黄巾党』包囲網は完成しつつあった。

 

「よし、細かい指示は任せる。亞莎はすぐ動けるようにしていてくれ」

 

「は、はい!」

 

蓮華の指示に亞莎が慌てて返事をして周りの兵へと即座に指示を飛ばす。

 

その横では冥琳が眉間に皺を寄せて作戦概要の書簡を握り締める。

 

「────蓮華さま・・・これはどういうことですか・・・?」

 

「何がだ?」

 

苦々しい冥琳の言葉に、蓮華がさも分からないといったような口調で答える。

 

『にゃあ黄巾党』本隊三万二千に対し、魏の兵およそ一万。蜀の兵もおよそ一万。

 

そして呉の兵は五万という大軍だった。

 

これはどう考えても一日二日で準備できるような数では無い。

 

その事は出撃するまで一切冥琳には知らされていなかった。

 

「そして・・・何故、蜀と魏の陣営に対する攻撃陣が厚くなっているのですか」

 

いよいよ冥琳の声が掠れる。

 

『にゃあ黄巾党』を三方向から包囲する形を取っているが、今の呉の陣営はむしろ

 

『にゃあ黄巾党』よりも『にゃあ黄巾党』を迂回するような形で蜀と魏に対して騎馬を

 

多く配置していた。

 

それに対して敵である筈の『にゃあ黄巾党』には、わずかな槍兵と弓兵しか配置していない。

 

これは"こちらに来なければよい"という程度の配置だ。

 

(これでは、"敵"は蜀と魏という事ではないか!)

 

冥琳は咽まで出かけた罵声を飲み込む。

 

油断もあった。

 

最近の蓮華の動きがあまりにしっかりしていて、王としての実力を明確に発揮している事で

 

冥琳は男から渡された書簡の解析に係りきりで、軍部の動きを疎かにしていたのだった。

 

朱里の札から造り出された男から渡された書簡。

 

それは歴史書。

 

『現代の三国志』の流れが書かれた書簡だった。

 

結末は、三国の滅亡。

 

それを阻止する為に冥琳は日夜解析をすすめていたのだった。

 

三国同盟が破棄されては、五胡の勢力の台頭に太刀打ちできない。

 

だが、今の蓮華は刺激するのは危険と判断した。

 

あまりに急速に覇気を強めていたため、冥琳としてもその勢いを留めるのは不可能だった。

 

(雪蓮がいれば・・・あるいは・・・)

 

そこまで考えて頭を振り、その考えを払う。

 

(こんな時にあの馬鹿は!!)

 

頭の隅で雪蓮に悪態をついた時、突然兵達がざわめいた。

 

「孫権様!て、敵の増援です!」

 

「どうした!」

 

一人の兵が血相を変えて走り寄り臣下の礼もそこそこに報告すると、蓮華の鋭い声にも

 

かかわらず兵は戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「そ・・・それが・・・黄巾党の増援が突然現れたのですが、その中に・・・その・・・」

 

一度口ごもるが、気を取り直したように報告を続けた。

 

「敵の中に、張飛将軍と・・・諸葛孔明軍師の姿が確認されました!」

 

「何だと!?」

 

冥琳が驚愕の声をあげるが、蓮華からはそういう雰囲気が無い。

 

側にいる亞莎も同じだ。

 

慌てて蓮華を見た瞬間、冥琳の目が見開かれる。

 

蓮華は・・・"笑っていた"

 

ニタリ。と妖しい笑みを浮かべ、まるでそれを予測していたかのように一言「そうか」とだけ

 

呟いたかと思えば、一瞬だけ亞莎に目配せをすると亞莎がペコリと一礼してその場を去った。

 

「蓮華さま・・・?まさか・・・!」

 

冥琳はその様子に只ならぬ気配を感じ、蓮華に詰め寄る。

 

「まさか、蜀を敵と見なすのですか!」

 

「冥琳・・・ヤツラは黄巾党の援軍として現れたのだぞ。最早疑いようもあるまい」

 

「な・・・!」

 

蓮華のその言葉に冥琳が驚愕の声を上げた。

 

「駄目だ!今、三国同盟を破棄しては────!」

 

うろたえる冥琳に向けて蓮華がスラリと『南海覇王』を抜いて突きつける。

 

 

 

 

 

「冥琳・・・私は・・・一刀兄さまを・・・いいえ。一刀兄さまだけじゃない。"全てを"手にいれるわ」

 

 

 

 

 

「馬鹿な!再び戦乱の世に戻すというのか!」

 

突きつけられた刃の先に怯まず冥琳が蓮華に問いただそうとするが、蓮華の瞳の輝きに愕然とする。

 

(これは・・・"すでに決まっていた事"か・・・!)

 

舌打ちと共に周囲を見渡せば、冥琳の周囲にいた親衛隊が冥琳を囲むように控えていた。

 

「そうよ」

 

あまりにあっさりとした答えに、冥琳は自分の耳を疑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冥琳を捕らえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮華の非情な号令に、親衛隊が即座に動いた。

 

 

お送りしました第48話。

 

うひー・・・2・3・4月は一年でもっとも忙しい時期ではあるんですが、

 

この時期に二人離脱は鬼のように厳しい・・・。

 

伝票書きの合間合間にちょこちょこ書き溜めましたw

 

さてさて。バレンタイン企画の結果ですが、一名様が辞退ということで残りの一名様、

 

『tomo』様にバレンタインのチョコをお送りしました!

 

tomo様は随分豪気なお方のようで、「是非手作りで」ということで手作りを入れましたが・・・

 

市販品も入れたので手作りは見るだけにして市販品をお食べくださいねー。

 

お腹壊しても責任はとれませんw

 

それとご要望にあった、写真に写っていたけいおんの制服セットも入れました。ご確認くださいねー。

追記:未使用sサイズ

 

では、ちょこっと予告。

 

冥琳が捕らえられ、蓮華の覇王としての道を阻むものは無くなった。

 

一方、一刀は強烈な戦いの気配に目覚めると、そこにいたのは・・・。

 

「一刀vs恋」

 

では。また。

 

世間では三連休・・・あれ?私の休みは・・・?

 


 
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