突然に始まった魏の精鋭と『にゃあ黄巾党』の戦い。
しかし、華琳の側にいる精鋭だけあって、突然の戦いにも即座に対応する。
魏の兵およそ一万に対して、『にゃあ黄巾党』本隊三万二千。
およそ三倍の戦力差だが、平原に出現した『にゃあ黄巾党』と、森と山に挟まれた村の近くに
展開した魏の軍は地の利を活かし、戦いは膠着状態に入ろうとしていた。
「雪蓮さん、こっちでいいと思いますよ~」
月明かりしかない暗闇の中、小声で呼ぶ七乃の後を、なぎを抱いたままの雪蓮と斗詩が続く。
本来ならなぎを置いてこようかと思った雪蓮だが、逆に連れて行った方が安全だと勘が囁いた。
管輅からもらった書簡。
その中に『にゃあ黄巾党』がこの場に出現するという予言があり、雪蓮達は麗羽、美羽、猪々子の
身柄を確保するため、黄巾党の後方に隠れていた。
「それにしても、本当に突然現れましたね~」
「はい・・・驚きました」
岩の陰に蹲るようにして隠れる七乃の側に、斗詩もしゃがみこむ。
管輅の持ってきた書簡に書かれていたとは言え、まさか本当に突然現れるとは思わなかった。
雪蓮が「これは本当な気がする」と言わなければ、信じなかっただろう。
雪蓮は岩の上から顔を出し、辺りをうかがう。
どうやらこの辺りには『にゃあ黄巾党』の兵はあまりいないようだ。
月明かりの中で目を凝らした雪蓮の目の端に、おかしな動きをしている兵が映る。
それを伝令の兵だと察した雪蓮は、静かに後ろの二人に指示をしてその兵の後を着いて行く。
「う・・・ぐす・・・ひっく・・・七乃に会いたいのじゃ・・・」
天幕の中の一つに、麗羽と美羽、猪々子が監禁されるようにして閉じ込められ、その天幕の中からは
美羽の泣き声が聞こえるが他の二人ではどうしようもなく、半ば途方に暮れていた。
三人の服装はいつもの姿ではなく、ヒラヒラの多いステージ衣装姿。
「麗羽さまー・・・あたい達、これからどうなるんですかー?」
泣いている美羽の頭を撫でている麗羽を横目に、外の様子を伺っていた猪々子が溜息をつく。
外は見張り代わりの兵が数人いるが、誰も彼もが黄巾党とは思えない程の練度で、麗羽はともかく
美羽を抱えてはとても逃げ切れそうにない。
それを理解している麗羽も逃げれないのだが、麗羽は逃げれないというよりは美羽がいる為に
逃げないのだった。猪々子もそんな麗羽の気持ちを想い、無理に逃げようとはしない。
「そうですわねぇ・・・七乃さんと斗詩さんを探さなくてはなりませんし・・・」
泣きながら麗羽を見上げた美羽の可愛さに思わず頬ずりしたくなったが、ぐっと堪えて美羽を
安心させるように微笑む。
「麗羽姉さま・・・」
「駄目ですわ!我慢できません!!」
ガバッ!
「ぐぇ!!」
美羽に潤んだ瞳で上目遣いに見られた麗羽のリミッターが外れ、ぎゅーっと抱きしめられた美羽から
空気が漏れる音が聞こえた。
「あ~あ・・・こうなったら、雪蓮さまでもいいから助けにこないかなぁ・・・」
「ぴぃっ!しししししししし、雪蓮は駄目なのじゃ!」
何気に呟いた猪々子の一言に、過剰なまでに美羽が反応する。
「・・・?どうなさいましたの?美羽さん?」
「今、雪蓮に会ったらきっと妾は殺されるのじゃ・・・ガクガクブルブル・・・」
雪蓮に一度(二度?)は殺されかけた美羽ではあったが、その事は解決している筈で、ここまで過剰反応
するのはありえないと首を傾げる麗羽と猪々子だった。
「どういうことですの?」
麗羽に促され、しぶしぶ話し始める。
「うぅ・・・前に建業に行った時に、雪蓮の部屋に忍び込んで寝台の下にある本を読んで、広げっぱなし
にしてしまったのじゃ・・・」
「なぁ~んだ。それなら、とっとと、謝っちまえばいいんじゃないですかね?」
「そんな生易しいものではないのじゃ!」
気軽に放った猪々子の言葉に、美羽が噛み付く。
「その後、妾は隠れて見ておったのじゃが、怒り狂ったこの世のものとも思えない鬼の表情をした
雪蓮が犯人を捜して暴れまわったのじゃ・・・その時はシャオが身代わりに犠牲となって妾は難を
逃れたのじゃが、怖くて妾達は命からがら建業から逃げてきたのじゃ」
青い顔をしてガタガタと震える美羽の、あまりの怯えぶりに麗羽と猪々子も顔を見合わせる。
「広げておいただけで怒るなんて、何の本だったんですの?」
「う・・・それは────」
「ふぅん・・・犯人はアンタだったんだ」
「え?」
美羽が後ろから聞こえた声に振り向いた瞬間、見えたのは天幕の外側から突き刺された剣の先。
その剣先がゆっくりと天幕を切り裂きながら下がり、剣先が下げられると同時に美羽の腰が抜けて
ヘナヘナとへたり込む。
「あぅ・・・あぅあぅ・・・」
やがて恐怖でガクガクと震える美羽の目の前に、瞳を紅く輝かせた怒りの雪蓮が現れる。
「あうあうあうあうあうあうあうあうあう!!!!」
雪蓮の左手からは額をがっしりと掴まれてぐったりとしている七乃がぶら下がり、その後ろには
斗詩となぎが真っ青な顔で黙って俯いていた。
「覚悟はいいかしら・・・黄巾党の首謀者さん・・・」
ゆらり、と幽鬼のような姿で怒りの炎を上げる雪蓮に、麗羽と猪々子も思わず抱き合って震える。
「ごごごごごごごごご・・・ごめんなのじゃ!!!許してたもれーーーー!!!」
ずざざざざっ!と泣きながら後ろに下がった時、雪蓮が小さく息を吐く。
「まぁ、いいわ。今はそれより逃げるわよ────っ!!!」
雪蓮がくるりと振り向き、手に持った七乃を離すと同時に斗詩に向かって『南海覇王』を振るう。
「────え?」
ギィン!!という鉄を激しく弾く音が響き、首をすくめた斗詩が見たのは、雪蓮の持つ『南海覇王』と
互角に競り合う、槍を持つ男の姿。
「斗詩!後ろだ!!」
「きゃあ!!」
猪々子の叫びでようやくハッとして慌てて、足元にいたなぎを連れて雪蓮の後ろに転がり込む。
ついさっきまで欠片もなかった男の気配を察知した自分自身に"違和感"を感じるが、それを確かめて
いる場合ではないと、雪蓮は男の前に立ちふさがる。
「・・・よく気付いたな」
「生憎と、勘だけは鋭くて・・・ねっ!」
男のただ感想を告げただけのような、余裕のある声に少しイラついた雪蓮が男の槍を弾く。
「おうが???!!!」
二人が離れた事でようやく男の顔が見えたなぎが叫ぶ。
そこにいたのは王我。桃香に複製された、二人目の王我だった。
「王我・・・って、五胡の王様じゃありませんでしたっけ?」
あっさりと復活してむくりと起き上がった七乃の声に、全員が驚愕する。
「・・・ほぅ・・・我を知っている者がいたか」
「えぇ、ちょっと調べた事があるもので・・・」
王我の放つ気配にも動じない七乃ではあったが、内心は冷や汗が溢れていた。
「そんな・・・おうがは隊長にたおされたはず・・・」
なぎの言葉に七乃が驚く。七乃でさえ、その情報は掴んでいなかった事だった。
それは蓮華があえてその情報を遮断していた為だったのだが。
「え?じゃあ・・・幽霊・・・ってことか?」
「ぴーーーー!!!怖いのじゃ!!七乃ーーーー!!!」
青くなった猪々子の言葉におびえ、美羽が七乃にしがみ付く。
美羽の泣き声を合図にするように王我が高速で槍を突き立てようとするが、雪蓮はそのことごとくを弾く。
「・・・むっ」
僅かだが、王我が怯んだ。
その隙を雪蓮は見逃さず、一言も発する事無く王我を追い詰める。
戦い始めてから、雪蓮はある違和感が強くなっているのに気がついた。
いつもよりさらに勘が鋭くなっているのだ。
もはや勘と言うよりは、"すでに決められた未来"を読んでいる程にまで研ぎ澄まされた雪蓮の勘が
王我の動きを正確に読み解き、思春と明命があれほど苦戦した筈の王我を容易く追い詰める。
騎馬に跨っていないとはいえ、王我の力は恋に近い筈であったがそれすら雪蓮の勘は凌駕して行く。
「ふふっ・・・」
激しい打ち合いの中、雪蓮から僅かに笑い声が漏れた。
「チッ!」
余裕のあるかのような雪蓮の笑みに、王我が舌打ちをした────瞬間。
雪蓮の瞳が燃え上がる。
「何!!!???」
雪蓮の動きが王我の予測を遥かに超えたのと、王我が声を上げたのは同時だった。
あっさりと、王我の首が飛ぶ。
「ふふっ・・・あはは・・・あははははははははははははは!!!!!」
雪蓮の高揚した笑い声の中、首と離れた胴体がゆっくりと後ろに崩れる。
「出てきなさいよ・・・鈴々・・・そこにいるんでしょう・・・?」
「うわー・・・雪蓮お姉ちゃんすっごい強いのだ!」
笑いながらもなお『南海覇王』を構える雪蓮が放った言葉に答えるように、倒れた王我の後ろから
鈴々が姿を現す。
皆が驚くが雪蓮は全てを知っていたかのように動じない。
「り・・・鈴々・・・!?」
「どうして鈴々ちゃんがここに・・・?」
猪々子と斗詩が驚きの声を上げるが、鈴々は頭の後ろで腕を組み、にこにことした笑顔を浮かべている。
場違いな笑顔。戦いの高揚で笑顔になっているのでは無い。
異常な状況に息を呑むが、猪々子も王我の持っていた一度も使われる事が無かった剣を引き抜く。
「あんた・・・敵ね?」
雪蓮の声に鈴々を除く全員がゾッとする。
こちらも、笑顔。
「雪蓮お姉ちゃんとは一度本気で戦ってみたかったのだ」
ビリッ・・・と空気が震動した。
麗羽は思わず美羽となぎを自分の後ろに隠す。
猪々子と斗詩も武器を構えるが、雪蓮の強烈な覇気に手を出すべきではないと判断した。
鈴々の持つ『丈八蛇矛』が雪蓮の頭の上を通り過ぎ、慣性の法則を無視したような追撃が雪蓮の
足元を狙う。
だがどちらも回避した雪蓮が横薙ぎに『南海覇王』を振るうと、鈴々は柄の部分でその剣を受ける。
どちらも一撃必殺の技。
それが数度お互いの体スレスレを通過して、回避しきれない攻撃は互いの武器で受ける。
速度では圧倒的に雪蓮が有利。しかし、力は圧倒的に鈴々が有利だった。
互いに決定的な一撃を回避した瞬間少し距離が離れる。
「ちっ・・・さすが鈴々ね。この馬鹿力娘」
「あははっ!雪蓮お姉ちゃんもさすがなのだ!的確に急所を狙って、鈴々ヒヤヒヤするのだ!」
あまりにも馬鹿力で受ける手が痺れるが問題は無い。
鈴々は服の急所の部分がわずかに切り裂かれているが、こちらも問題は無い。
即座に構えなおし、二人が激しく激突する。
「どうしましょう~・・・雪蓮さん、不利じゃないですかー・・・」
七乃が呟いた時、すぐ横に飛び降りてきた影があった。
「ひぃっ!・・・って、明命さん?」
影に怯えて慌てて麗羽の後ろに隠れた七乃だったが、そこに降りたのは半ば呆然とした明命の姿。
「雪蓮・・・さま・・・?」
呆然としたままの明命が呟く。
雪蓮自身も感じていた違和感。
『南海覇王』を振るう雪蓮の動きがブレて見える時があった。
"まるで雪蓮が二人いる"かのような動きに、次第に鈴々が押されていく。
「な・・・なんか変なのだ!」
右から来る剣戟を防いだかと思った瞬間その剣戟が消え、右上から本物の剣戟が襲い掛かってくる。
フェイントにしてはあまりにも実体のあるその攻撃に、鈴々は翻弄されつつあった。
「ふ・・・ふふふ・・・あははは・・・あははははははははははははははははは!!!!!!」
何撃目かわからない剣戟を繰り出した雪蓮が突然笑い出す。
「・・・うわっ!?」
鈴々が、力で押された。
「あっははははははははは!!!!」
激しい剣戟。
「な、何なのだ!!?」
それが二撃、三撃、と繰り返されるたびに雪蓮の速度と力が上がっていく。
「あははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
まるで笑い声に呼応するかのように────
雪蓮の瞳が、紅く燃え上がる。
それはいつかの一刀のように・・・。
「死ね!!!」
「死ね!!!」
「死ね!!!」
「ど・・・どうしたのだ!!!???」
最早目で追いきれないほどの超高速の剣戟に、たまらずに鈴々が後退する。
「鈴々ちゃん!!!逃げてください!!!」
後ろから掛かった朱里の声に鈴々がバッ!と飛び下がるが、それすらも予測していたように
飛び下がる動作に雪蓮が動きを合わせて『南海覇王』を振るう。
「鈴々ちゃん!!!」
焦った朱里の声がその場に響く。
『南海覇王』が、紅い輝きを放ち始めた。
お送りしました第47話。
ふーむ・・・後三話・・・の、予定・・・。
予定は・・・未定・・・w
ここでいきなりバレンタイン企画クイズーw
私の書いたオリジナル「異界の吟遊詩人」の主人公の名前は「○○○○」
↑の○に正解を書いて、ショートメールを送っていただいた正解者の中から抽選で二名様に
バレンタインのチョコをプレゼント!!
正解が分からない方は凪の伝の感想を書いてショートメールで送ってもok!
期限は2月4日金曜日、夜9時まで。発送は14日に到着するようにします。
名前は「北山 秋」で。
まぁ。なんという嫌がらせw
手作りも考えましたが、食品なので何があるかわからないので既製品で申し訳ありませんがw
・・・という企画は駄目ですかね?
まだ本気にしては駄目ですよ?w
ではちょこっと予告。
膠着状態に持ち込んだ魏と『にゃあ黄巾党』だったが、華琳の元に援軍の知らせが届く。
援軍は蜀と呉。
早すぎる対応に違和感を覚える華琳だが・・・。
「狂王 孫策」
では。また。
Tweet |
|
|
29
|
2
|
追加するフォルダを選択
予定は未定・・・。