No.200723

漆黒の守護者4

ソウルさん

義勇軍【明星】を結成した翡翠は黄巾賊の討伐へ本格的に乗り出したのだった。

2011-02-10 14:52:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3504   閲覧ユーザー数:2985

 濃紺の空の垣間から光の兆しが地上を照らし始めた。地平線から静かに神々しい輝きを纏わせながら球形の太陽が顔を出してくる。白い雲がたゆたう上空を見上げた。その先には天がある。この時代の人間は皆、その天を敬い明日を導くのだ。

 

「空などを見上げて何を黄昏ているのじゃ?」

 

背後から聖に声をかけられる。

 

「天を見るとな……。天とは誰の意にも介せぬ故に天。主の眼には何が映る?」

 

「………夢さ。介せなくても人はその天にいくらでも夢を見ることができる」

 

俺の天命がもしこの大陸の王になることなら望む所だ、と言いたいが正直なところあまり興味はない。この世が平和になるなら誰でも統一してくても構わない。それで仮初の平和が訪れ、荒れれば再度やり直せばいい。こんな考え、一番の苦渋を味わう民たちには迷惑でしかないのだろうけど。

 

 太陽が完全に姿を現したのと同時に進軍した。近辺の捨てられてた砦に黄巾賊が拠点としているとのこと。数は五百程度で自軍の五倍。だけど危惧はない。相手が訓練を受けた正規兵でない限りは多少の戦力差など関係ない。それだけの訓練を行った。戦の経験もした。この剣に迷いはない。

 

 黒衣の義勇軍ここにあり。荒野を歩く百人の漆黒部隊は異様な雰囲気を作るのに十分な力があった。

 

 情報の砦を丘の上から見下ろしていた。当初の作戦ならば襲撃をかけるはずだったのだが、先に戦を繰り広げている軍勢を目にし、様子見をすることとなった。

 曹の旗が靡いている。二つの金色が目に入る。母の曹嵩と妹の曹操だ。清流のように綺麗な金色の髪。それが俺が曹家の養子であったが、真の家族にはなれない疎外感を与えた要因でもあった。養子なのだから似ていないのは当然だと理解していても、幼かった俺は納得できずに闇へと沈んでいった。

 

「あれが曹嵩と曹操。なかなかに鬼気迫る覇気を纏っているのう。それに従っている将も兵もしっかりと訓練されておる」

 

統率された精強な軍勢を目に聖は分析をする。軍師としての立場がそうさせるのか、趣味なのか。

 

「だけど惹かれないわね。やはり私の主は翡翠のようね」

 

頬を赤く染めながら聖はそっぽを向いた。そっぽを向くなら口にしなかったらいいのに。

 

「このまま見物だけで終わるのですか?」

 

「いや、参加させてもらうさ。黄巾賊は援軍が絶えないようだし」

 

枢に返事しながら遠方から砂塵を巻き上げながら近づいてくる一軍に目をやる。黄巾の頭巾。間違いなく黄巾賊の援軍だった。

 

「いこうか枢、聖。それと壬、お前はいつまで寝ているつもりだ?」

 

馬上で器用に眠る壬を蹴りおこした。

 

「戦だ。相手は援軍の黄巾賊。いくぞ!」

 

漆黒の義勇軍【明星】の出撃方針は決まった。


 
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