外伝 恋の望むもの その1
夜―――。
俺は今、恋と一緒にPCの前に座っている。ブラブラとネットの海を旅しながら時間を潰していると、とあるサイトに辿り着いた。トップ画面には様々なイラストが掲載されている。絵のタッチがどれも違うことから、それが画像投稿サイトであることがわかった。いや、小説や漫画も投稿できるらしい。
「こんなサイトとかあまり見ないからな………」
「………………………」
「どした、恋?」
横を見ると、恋の顔が強張っていることが見てとれる。微かに震えながらその眼はPCの液晶に据えられ、ただ一点を見ていた。
その視線の先を辿った俺は、画面の左上に気になるものを見つけることになる。
「………『一郎太』………『JOB』『サポーター』『小説家』………?」
「………(カタカタ…)」
おかしいぞ?これが登録サイトならば、そこには何も映し出されてはいけない筈だ。そのはずなのに、そこにはH.N.と思しき名前、そしてその職業に小説家とある。
俺は、しばし逡巡した後、『no image』とある、ユーザー画像覧をクリックした。
「っ…」
隣からは、恋の息を呑む音が聞こえる。俺はまさかと思いながらも次のページに飛んだ。そこには他のユーザーからのショートメールや、友達リストといったものが掲示される。そして俺は、画面中央に見える、『クリエイタープロフィール』をクリックした。
「………………………」
「……駄目………見ないで………………」
恋の懇願も耳に入らない。俺の頭の中は、画面に映し出されたものでいっぱいになった。そこにはこのユーザーが投稿したであろう幾つかの作品、登録タグ、作品の種類(二次創作のみ)、様々なものが現れている。何よりも目を引いたのが―――。
「『お気に入り登録者数』………1398人!?」
「………おわった」
隣の少女は真っ白に燃え尽きていた。ここまで状況証拠が揃えば、もう言い逃れできないと悟ったのだろう。
・これは俺のPCである
・俺はこんな二次創作なんか投稿していない
・このPCを使うのは俺以外に恋だけである
・自動でログインされる設定
以上より導き出される事実は?
「これ………恋が書いたのか?」
「………………………………………………」
「どうせわれてるんだから、さっさと白状した方がいいぞ」
「………恋が、書いた」
速いな、おい。
俺は左手を恋に向けて掲げる。まさか俺が叩くとでも思ったのだろうか、恋はびくっ、と身体を固まらせる。そんな彼女に苦笑しながら、俺はその頭に優しく手を乗せた。
「………?」
「そんな縮こまらなくてもいいだろう?これ、恋が書いたんだよな?こんなに気に入ってくれる人がいてよかったじゃないか」
「………ん」
そう言って俺が撫でると、恋の身体から力が抜ける。そんなに恥ずかしいものなのかな。俺がそんなことを考えながら、作品を適当にひとつ選んでクリックする。そこに書かれていた内容を読んで―――
「あっ………」
「………………………………」
―――俺は絶句した。
『かずぴー………わい、もう我慢できへん………』
『あぁ、俺もだよ………及川』
なんだ………これは………………?
『及川の隆起したそれが一刀の穢れを知らない入り口へとあてがわれる―――』
『一刀の口から漏れ出る声には苦痛以外の何かが―――』
『二人はただ、お互いを―――』
「なんじゃこりゃぁあぁあああああああああああっっっ!!?」
「………………………………おわった」
そこに描かれていたのは………いや、語るのもおぞましい。俺は速攻で恋の頭を右手で掴むと、その指先に力を込める。
「一刀………痛い」
「痛いのはこの内容だ!なんだこれは!?なんで俺が及川と………うわ、鳥肌が!」
「けっこう………人気」
「見りゃわかるよ!」
ギリギリと締め付ける手をものともせず、恋が反論する。んなこたぁわかってんだよ。
「今すぐ削除しろ!」
「………いや」
「なぜだ!」
「恋を…待っている人がいるから………」
「捨ておけっ!!」
俺と恋の攻防は、深夜まで続いた。
深夜1時―――。
滅多にない俺と恋の喧嘩―――と言っても俺の説教だが―――はようやく収束を見せる。
「それで、恋。何か言うことがあるんじゃないか?」
これで最後だと言わんばかりに睨み付けると、恋は渋々といった感じで口を開いた。
「………絵師さん募集」
どっと疲れた。
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