No.200610

真説・恋姫演義 ~北朝伝~ 幕間の六

狭乃 狼さん

はい、北朝伝、六回目の拠点をお送りいたします。

今回は輝里のお話です。

とある理由で荊州へと向かった輝里。

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2011-02-09 20:45:09 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:22260   閲覧ユーザー数:16678

 荊州-。

 

 大陸の南部にて、東は揚州、西は益州へと繋がる、肥沃な土地に恵まれた温暖な地。過去には、この地よりその大志を立てて、時の朝廷に反旗を翻した、あの、西楚の覇王こと、項羽が生まれた地としても有名である。

 

 その州都とも言うべき襄陽の街から、少しばかり離れた場所にある、とある邑。-ここは、そのあたり一帯に住む者たちから、臥竜郊と呼ばれている。その理由というのが、とある人物の庵があることに由来している。

 

 -臥竜-

 

 または伏龍とも呼ばれるその人物の名は、諸葛亮、字を孔明と言う。上は天文に通じ、地にあってはその理を為し、六韜三略を諳んじ、その知、手にせし者は天下をもつかむと言われる、史上最高の軍師と謳われたあの諸葛孔明のことである。

 

 

 「はわわ~!雛里ちゃ~ん!あの資料!あの資料どこ行ったか知らない!?」

 

 「あわわ。あのって、ど、どの資料?」

 

 「あれだよあれ!”極!体位古今東西全図”だよ!」

 

 

 ……え~…っと。

 

 皆様信じられないかと思いますが、いま、庵の中でなにやら怪しげな本のタイトルを叫んでいる、そのベレー帽(?)のような帽子を被った、金髪のその少女こそ、先に説明した希代の天才軍師こと、諸葛孔明その人である。

 

 なお、その諸葛亮の傍であわあわ言っているのは、彼女の水鏡塾時代からの無二の親友である、龐統・字を士元、という。…そう。その青みがかった髪をした、その少女もまた、歴史にその名を残す天才鳳雛こと、あの、龐士元なのである。

 

 ……まあ、恋姫ファンにとってはおなじみなのではあるが、一応、補足として彼女たちの紹介をしておいたものである。

 

 「えっと、”極!体位古今東西全図”、だよね?あれだったら、黄のお姉ちゃんに貸してなかった?」

 

 「はわわ~!!そ~だった~っ!!はわ、はわはわはわ!!ど、どうしよう?!あれが無いと新刊本、次の庫見家(こみけ)に間に合わないよ~!!」

 

 頭を抱え、その顔を真っ青にしておろおろする諸葛亮。

 

 ……念ために、もう一度言っておきます。

 

 ”これ”が、この世界の諸葛孔明である。

 

 「お、落ち着いて朱里ちゃ~ん。ほ、ほら、なにか代わりになるものとか無いの?」

 

 「あったら落ち着いてないよ~!!じゃない、慌ててないよ~!!はわわ~!!」

 

 うろたえる親友を宥めつつ、龐統はそのあたりの竹簡の山をあさる。何か他に、使えそうなものが無いか物色しているのである。

 

 と、そこに。

 

 

 

 「お姉ちゃんたち~?お客さんが来てるよ~」

 

 『ふえ?』

 

 ひょこ、と。

 

 彼女たちのいる部屋に顔を出したその少女。諸葛亮の妹の均である。

 

 「茉里ちゃん、お客さんって、誰?」

 

 「んとね、輝里のお姉ちゃん」

 

 『……え~~~っ?!』

 

 その、あまりにも久しぶりに聞く名を聞き、二人は飛び上がるほど驚いた。しかしそれも一瞬。すぐさまその顔に喜色を浮かべ、友人であり、尊敬する先輩である徐庶の訪問を、その顔を見合わせて喜んだ。

 

 「茉里ちゃん!輝里さんが来てるんだね?本当だね?!」

 

 「はやや。ほ、本当でしゅ。……あ、輝里お姉ちゃん」

 

 「やっほー、朱里、雛里。元気してた?」

 

 と、妹に満面の笑顔で諸葛亮が迫っているところに、その件の人物-徐庶元直が、その姿を現し、にぱっと、二人に笑顔を向けた。

 

 「はわわ~!ほんとに輝里さんだ~!」

 

 「あわわ。……お、おひさしぶりでしゅ。あわ、噛んじゃった」

 

 「あはは。二人とも変わりなくて良かった。……三年ぶりね、二人とも」

 

 『はい!!』

 

 

 

 で、なぜ徐庶がここに居るのかというと。

 

 ちょうどこの頃は、一刀たちの下に”例の”勅が届く三ヶ月ほど前のこと。内政面などでも、諸事がようやく落ち着いてきていたこの頃、徐庶は唐突に、一刀に対して休暇を申し出たのである。それも、約一月ほど。

 

 そんなに休んでどうするのかと聞かれた徐庶は、額に妙な汗を流しつつ、こう答えた。

 

 「……乙女の秘密です♪」

 

 ……まあ、実際にそれで許しがもらえるはずがないと、本人も思っていたのか、実は荊州の水鏡塾の後輩が出る”とある”大会に、自分も協力のために赴きたいのだと、彼女はそう言ったのである。しかも、こればかりはどうしても外す事が出来ない、と。それこそ、今までに見せたことのないような真剣な表情で、である。

 

 そんな彼女の表情を見た一刀は、無理に止める理由もないし、仕事も一段落ついたから、一度ぐらい、長期の休暇をあげても良いかと。彼女の帰省(?)を認めたのである。

 

 

 ……まあ、その際、姜維と徐晃も同じように、長期の休暇が欲しいと言い出して、一悶着起きたのではあるが、それについてはまた、後に語りたいと思う。

 

 ともかく。

 

 そうして徐庶は冀州を発ち、彼女の母校である水鏡塾に寄って、恩師である司馬徽との再会を喜び合った後、諸葛亮たちの居るこの庵にやってきたのである。

 

 「……で?さっきから何を騒いでいたわけ?何かの全集がどうこう言ってたけど」

 

 「はわわ。そ、それがでしゅね、はわ!噛んじゃった」

 

 「えっと、朱里ちゃん、”極!体位古今東西全集”を、黄さんに貸したのを忘れてて」

 

 「……新刊が、間に合わなくなっちゃったかもです……はわわ、どうしたらいいでしょう!?」

 

 再び顔を真っ青にし、おろおろとし始める諸葛亮。それを見た徐庶が、

 

 「……”極!体位古今東西全集”ね。……それとは違うけど、新しいのなら今持ってるけど」

 

 『え?!』 

 

 ごそごそと。自分お荷物の中をまさぐり、「あったあった」と言いつつ、一冊の本を取り出す。

 

 「はわわ!これは、”極!体位古今東西全集”の更なる新装刊!その名も”真極!!古今東西南北体位集”じゃないですか!」

 

 「あわわ。……すごい希少本だからって、ほとんど出回ってない本ですよ?どうやって手に入れたんですか?」

 

 ……良くわからないが、とにかく、先の物よりさらにすごい物らしいそれを、徐庶がどうやって手に入れたのかわからず、二人が揃ってその首をかしげる。

 

 

 

 「……いま、私が暮らしてる鄴の街にはね、ちょっと大きな本屋が店を構えてるの。で、そこのお店にこれが入荷するって話を、出入りの商人さんから聞いてね。……貯めてた貯金はたいて買っちゃった。えへ」

 

 「えへ……って。けどこれって確か、相当高い値が、今はついてるんじゃなかったですか?」

 

 「あわわ。確か、えと、去年の暮れの時点で、三百貫ほどしていたと思いますけど」

 

 「うん。……私が買った時には、さらに百貫、上乗せされていたけど」

 

 合計四百貫……大体、四十万円ぐらいだと思ってください。

 

 「まあ、確かに厳しくなっちゃったけど、これのためならこの徐元直!全ッッッッ然!惜しくないわ!そう!八百一作家として、資料につぎ込むお金に糸目はつけない!……当然でしょ?」

 

 「はわわ。輝里さん、すごいです!」

 

 「あわわ。流石は、私たちが尊敬する単福先生でしゅ!」

 

 きらきらと。

 

 その目を輝かせて、徐庶に尊敬のまなざしを送る二人であった。

 

 

 なお、八百一とは、であるが。

 

 

 ……まあ、その。いわゆる”やおい”と呼ばれる類のものであり、つまりはその、男性同士の、あれやこれやを、まあ、文章にしたものである。……これ以上はここに書かせないで下さい。どうかお願いします。

 

 つまるところ、徐庶はそういうのを書くのが、唯一無二の趣味であり、今回ここに来たのも、近々襄陽で開かれる、その手の類の本の即売会-通称”庫見家”に、自身も単福という名の作家として、参加をするためだったのである。

 

 ……もちろん、彼女の趣味を知る者は、鄴の面々の中には誰一人居ない。……この時点では、まだ一刀の下に仕官ををしていない、自称・徐庶の真の恋人こと伊籍は、彼女のその趣味を知ってはいるが、一刀はもちろんのこと、付き合いの長い姜維と徐晃ですら、この事は知らないのである。

 

 一応、普段から彼女がその腰に下げている、その本の内容は気になってこそいるが、本人に聞いても「乙女の秘密♪」の一言で、あっさりと流されてしまうのである。ご丁寧に鍵までしてあるので、こっそり確かめるということも出来ない。

 

 そういうわけで、彼女の趣味については、今後、あることがきっかけで起こる事件に、一刀たちが関与することとなるまで、表沙汰になることは無い。

 

 その事件については、今後、はるか先のお話の中で、お伝えする日が来ると思う。

 

 

 

 「さて、と。資料が出来た以上、七日後に控えた庫見家目指して、今夜から缶詰作業に入るよ?!雛里ちゃん!」

 

 「あわわ。が、頑張りましゅ」

 

 「じゃ、あたしも手伝うとするわね。で?今回の話は、結局どんな内容にしたの?」

 

 机に向かい、筆を手に執筆作業に入ろうとする諸葛亮に、徐庶が本の内容をどのようにしたのかを問いかける。

 

 「えっと、私はいつもどおり、『劉邦×曹参』にしたんですけど」

 

 「私は『韓信×劉邦』でしゅ」

 

 ちなみに、劉邦、曹参、韓信、とは、前漢を成立させた、過去の英雄たちである。なお、名前並び順に寄って、攻めとか受けとかあるらしいが…いや、やっぱり詳しくは書きたくないので、その辺は割愛させていただく。

 

 「輝里さんは?やっぱりいつもどおりですか?」

 

 「もちろん!項羽×劉邦!これだけは絶対に譲れないもの!……項羽さまの激しい攻めに、劉邦様はやがて逃げ場を失い、史実とは逆に四面楚歌に追い込まれる……。はあ~」

 

 ……自身の書いた本の内容を思い出してか、恍惚とした表情でぼや~っとする徐庶。

 

 「あ、あはは……」

 

 そんな様子の徐庶を、少々引きつった感のある顔で見る、諸葛亮と龐統であった。

 

 

 

それから七日後。

 

 

所は襄陽の街の一角、の、ほんの片隅にポツンと建てられた、並の宿屋程度の大きさの、その建物。そこに、おそらくは万を越すであろう人々が、異様な熱気の中、長蛇の列を作っていた。

 

 「今回も大盛況だね、朱里、雛里」

 

 「はい。……ほんとよかったです。前回の開催から、たった三年で開催できて」

 

 「そうだね。……前は毎年出来ていたのに、今じゃ開催すら危うい、か」

 

 その建物の中、自分たちに割り当てられた場所で、目の前で楽しく盛り上がっている人々を見つつ、徐庶と諸葛亮は安堵の息をつきつつも、険しい表情をその顔に浮かべる。

 

 今彼女たちが参加している、今回の庫見家。

 

 その前回の開催は、今から三年も前のことだった。諸葛亮と龐統は、その時の庫見家が二度目の参加だった。だが、その噂はそのときから-いや、その前の初参加のときも、さらにはその前の開催のときからも、すでに流れ始めていた。

 

 庫見家は、近いうちに開催されなくなるかもしれない、と。

 

 その理由は、世の中の情勢不安。

 

 各地で賊が跋扈し始め、各参加者たちも安心して、開催地であり庫見家の聖地である、ここ襄陽までその足を伸ばせなくなっていた。

 

 そんな中、最近になって少々情勢が落ち着いてきたこともあり、ようやく三年ぶりに、今回の庫見家が開催される運びとなった。しかし、

 

 「……大陸は、確実に混乱の渦中へと、その身を落としつつあります。現に、荊州牧の劉表さまは、益州との全面戦争のための準備を続けておられますし」

 

 「……他の地域でも、いつ、火種が爆発してもおかしくない、か」

 

 「はい」

 

 そんな会話を交わしているうち、徐庶の頭にある不安が浮かんできた。こんな大事なときに、いくら久しぶりだからといって、いくら楽しみにしてきた事とはいえ、冀州を留守にしてしまっている事に。

 

 「……」

 

 「輝里さん?」

 

 「……お家が心配なんですか?」

 

 「お家って……ううん。そっか。そうだよね。あそこが、今の私の家だものね。由や、瑠里ちゃんや、蒔ねえさんがいる、そして、一刀さんがいる、あそこが」

 

 龐統に言われるまで、自分は、あまりにも当たり前すぎて、その事を完全に忘れていた、と。こうしてみんなの元を離れて、徐庶は改めて気づかされた。

 

 一刀を中心として、毎日を騒がしく、そして楽しく生きているあそこが、今の自分の居場所であり、何をおいても守るべきものだと。

 

 「……朱里、雛里。……悪いけど、後は任せちゃっても良いかな?」

 

 「……帰られるん、ですか?」

 

 「うん。……やっぱりみんな、私がいないと歯止めを利かせられる人間が、一人もいないから」

 

 諸葛亮にそう笑顔で答えてから、徐庶は席を立って、その場から足早に立ち去っていく。

 

 「……輝里さん、すごい、活き活きとしてたね、朱里ちゃん」

 

 「そうだね。……天の御遣い様、か。……どんな、人なんだろうね?雛里ちゃん」

 

 「うん。……一度、会ってみたいよね」

 

 からーんからーん。

 

 ”只今より、第四十八回、襄陽庫見家会を開催いたします!”

 

 わあああああっ!!

 

 庫見家の開催を告げる、主催者のその声が会場に響くと、参加者全員から盛大な拍手と歓声が沸き起こる。

 

 

 「……よっし!それじゃあ、気合入れていくよ、雛里ちゃん!目指せ!完売!」

 

 「完売!」

 

 

 

 それとほぼ同時刻。

 

 

 徐庶は馬上の人となって、一路冀州へと帰還の途についていた。庫見家会場を飛び出してすぐ、城門近くにいた商人から、見事な白毛の馬を一頭買い付け、すぐさま馬に飛び乗って街を出た。

 

 「……由、蒔ねえさん、瑠里ちゃん、そして一刀さん。すぐに、帰りますからね。……こんなに早く帰ったら、みんな吃驚するだろうな。くすす。……私は、やっぱり、みんなの傍に居るのが、一番楽しいですから」

 

 馬を走らせつつ、徐庶は頼もしい仲間たちと、愛しい男の顔を思い浮かべ、自然と笑顔をこぼす。

 

  

 日が傾き始めるころには、おそらく黄河の対岸には辿り着くだろう。そして、夜明けを待って船に乗れば、明日の早朝には、鄴の街に到着するはずである。

 

 「よーし!いくよ、お前!向こうについたら、素敵な名前をつけてあげるからね!」

 

 ひひーん!!

 

 徐庶の言葉に答えるかのように、白馬が大きくいなないた。

 

 「一刀さーん!貴方の輝里が、今、帰りますからねー!浮気なんてしてたら、承知しませんからねー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ぞくっ!!)

 

 「な、何だ?今の悪寒は?!」

 

 「……どないしたん?カズ」

 

 「いや、なんか一瞬、輝里の声が聞こえたような」

 

 寝台の上、姜維に覆いかぶさっていた一刀は、背筋に凄まじい悪寒を感じた。

 

 「……冗談よしいって。……輝里が帰ってくるん、まだ後十日も先のはずやん。気のせい、気のせい、な?」

 

 「う、うん。……気のせい、だよな」 

 

 (……まさか、な。うん。気のせい、気のせい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……知ーらねっとww

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                 ~えんど~

 

 

 さて、拠点の六回目をお送りしました。

 

 瑠「輝里さんメインの拠点って、これが初じゃないですか?」

 

 そだね。忘れてたわけじゃないんだけど、挿むタイミングを逃しちゃってまして。てか、その輝里と由は?

 

 瑠「・・・・・一刀さんと一緒に、オハナシ、されてます」

 

 ・・・あ・・・あっ・・・そう。

 

 瑠「で?次回は誰のお話ですか?」

 

 ん?あ、ああ。え~っと。予定としては、誰かのというのはありません。全員勢揃いのはなしになるよていです。

 

 瑠「わかりました。・・・じゃ、今度また次回で、お会いしましょう」

 

 ・・・短過ぎない?

 

 瑠「・・・もう寝たいんです。・・・子供ですから」

 

 ・・・そう。

 

 

 じゃ、今日はここら辺で〆と参ります。それではまた。

 

 

 『再見~!!』

 

 


 
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