「・・・・・・・・・困ったわ」
昼間のやり取りから数時間後、学校を終えた私は街のデパートまで足を運び苗木君のプレゼントを模索していた。
しかし、この生まれてから16年間、異性にプレゼントなどした事は無く、しかも同年代の少年が喜ぶ物となると検討も付かなかった。
これなら今まで受けた事件の解決のほうが数倍簡単だった気さえする。
「だけど・・・舞園さんだけには・・・!」
そう、だからといってここで適当なもので妥協などしたくはない。
おそらくアイドルである舞園さんなら私などよりよっぽど簡単に異性が喜ぶプレゼントを想像できかつ用意が出来るだろう。
しかも苗木君は元々彼女のファンでもあるのだ。何を貰ってもうれしがる確率が高い。
そしてプレゼントを受け取る苗木君とそれを渡す舞園さんを想像すると・・・・・・何か無性に心がざわつくのを感じる。
それを世間一般では「嫉妬」と呼ばれる感情なのは間違いないが、そんな経験などした事の無い彼女はそれに気付かない。
「落ち着くのよ、霧切響子。まずはいつも通りに順序よく推理すれば問題ないはずよ」
自分自身にそう暗示をかけ、落ち着かせる。そう私は「霧切」の名を継ぐもの、こんな問題など・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ。
「・・・・・・今ほど「霧切」の名が役に立たないと思った事は無いわね」
しかし落ち込んでいても仕方がない。まずは思いつくものから順に考察していくことにしよう。
「まずは私が愛読している推理小説・・・・・・ダメね。こんな文字だけで堅苦しいものが一般的男性が喜ぶとは思えないわ。」
まず自分ならと考えてみたがこれはボツ。私の好きな小説が苗木君が喜ぶものとは思えない。しかも折角の誕生日にわざわざそんな小説を渡すのはなんとなく気がひけた。
「なら普段から使うもの・・・例えば服とか・・・・・・駄目だわ。苗木君のサイズとかは目測でわかるけど、まず苗木君の喜ぶセンスが解らないわ・・・」
ならば実用的なものをと衣服などを想像してみたが、これもボツ。一般的な男性の服のブランドなど知らないし彼が好きそうなセンスも良くわからない。
普段から苗木の私服は寮生活の中で見たことはあるが、これといって特徴がない無難な服が多い。ならば無難なものを選べばいいかもしれないが
その無難なものが解らないのではどうしようもない。
「あとは・・・・一般的な男性の持ち物から想像して時計とか・・・?だけどあまり高価な物だと受け取ってもらえない可能性もあるわね・・」
次に時計などの装飾品が目に入ったが・・・・これもボツ。どうしてもこういう装飾品ブランドはすこし高めの金額になってしまう。
私的には別に払える範囲であれば値段などは問題ないが、無駄に他人に気を使う彼は気にするだろう。下手をするとプレゼントなのに重荷になってしまう可能性すらある。
それでは本末転倒だ。
「かといって彼はあまりゲームとかもしないし・・・趣味らしい趣味もないのよね」
考えれば考えるほどいい考えが浮かばない。何故か苗木君が正体不明な謎の人物にすら思えてきた。
そう思うと彼のプロフィールほど無難すぎて内面を読み取りにくいものもない。もし推理小説の登場人物ならばまったくのモブか事件の真犯人かのどちらかだろう。
まったくいい考えが浮かばず、すこし途方にくれていた彼女だったが、その時ふとデパート内の本屋の一角が目に留まった。
「・・・「彼の喜ぶプレゼント特集!これさえ読めばラブげっちゅ♪」・・・・・・・っ!」
そうか、解らなければまずリサーチをするのは当たり前ね。なぜ最初に思い浮かばなかったのかしら。このコーナー名には一抹の不安が残るけど・・・・
ていうかこれ江ノ島さんの雑誌なのね・・・ま、まあある意味一番信頼出来るソースではあるはず・・・。
「まずは「異性の喜ぶBEST10」ね・・・」
そう思い読み進めていくが、大体はさっき考えていた案件が掲載されていた。その他でいえば「料理」という項目もあったがそんなものは最初から論外だ。
何を隠そう私は一切料理が出来ない。昔少し気まぐれに作ってみようとしたが、出来たものは真っ黒い発癌物質であった。
・・・・・我が事ながらあまりの情けなさにすこしへこんできた。
「他に何か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってこれは・・・・・・・・・///」
他に何か無いかと読み進めていたが、あるページに「上級者向け(笑)」と書かれているコーナーが目に留まった。そしてそこには・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自分をリボンで包装して彼にプレゼント(はあと)って・・・っ///」
「(本当に!?本当に世間の人はこんなことをしているの!?そして相手は喜ぶの!!??????)」
普通に考えればそんな訳が無いのだが(つーか(笑)って書いてるし)、ある意味追い詰められていた私は気付かなかった。
寧ろ藁にもすがる気分だった為冷静な判断など出来るハズも無かった。
「・・・・・リボン、か・・・・///]
そしてふらふらと手芸コーナーのリボン売り場に向かう私を止める者はいなかった・・・・・。
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苗木君の誕生日(前編)続き。ここからは霧切さん視点で進みます。