No.199198

彼とアタシと如月ハイランド 最終問題

naoさん

どうもnaoです。
ようやく如月ハイランド編終わらせることができました。…………できてるのか?
まあともかく、彼とアタシと如月ハイランド最終問題、お楽しみいただければ幸いです。

2011-02-02 00:38:32 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:8313   閲覧ユーザー数:7906

 昼食も終わって、アタシ達はいろんなアトラクションを制覇していった。

 ジェットコースターに乗って、メリーゴーランドに乗って、写真館で代表と坂本君の写真の見つけ、フリーフォールに乗って、またお化け屋敷に寄って。午前中のお化け屋敷みたいにアトラクションで知り合いに会うこともなく無事に、まあ遊園地で無事にっていうのもおかしいんだけど、楽しむことができた。

 

 ……途中で代表と体から煙を吹いている坂本君に会ったのは記憶から削除しよう。

 

「結構回れたわね」

 

「そうだね」

 

 赤く染まる園内を二人並んで歩く。

 

「時間も時間だし、そろそろ帰ろうか」

 

 歩きながらこちらに微笑みかけてくる明久君。

 そうね、確かにもう大体乗ったし。時間的にもそろそろ引き上げていいかもしれない。でもあと一つ、乗りたいのがあるのよね

 

「……明久君。最後にあれ、乗らない?」

 

 そう言って指をさした先には、日本一大きいと噂の観覧車がそびえ立っていた。

 

 

 

 

 

「……二名様、ご案内」

 

「……なんでムッツリーニが?」

 

「……アルバイト」

 

「……ああ、そう」

 

 長蛇の列の最後尾に並んでから数十分。待っていたのは如月ハイランドの制服を着た土屋君だった。正直愛子と一緒に何かやってるっぽいから警戒していたんだけど、意外にというのか土屋君はまじめに仕事をこなしており、アタシ達に対しても怪しい動きをするわけでもなく、普通に空いているゴンドラへ案内してくれた。アルバイトというのは嘘じゃないらしい。

 

「……それでは、ごゆっくり」

 

 そのセリフを最後に扉が閉められ、土屋君の姿がだんだん小さくなっていった。

 怪しくないのが怪しいって感じだけど、まあここまで来たら気にしても仕方ないか。素直に今の状況を楽しみましょう。

 

「うわ~、すごい景色だね。さすが、日本一ってだけはあるよね」

 

 向かいに座る明久君はすっかり切り替えているようで、無邪気な笑顔で外の景色を眺めている。

 

「そうね、ちょうど夕暮れ時っていうのも良かったかもね」

 

 外は夕焼けで真っ赤に染まっていて、とてもきれいだった。デートで観覧車といったらこんな感じ、みたいな状況だ。

 

「これなら僕の家とかを見えるかなぁ~」

 

「高いし遠いから小さすぎてわからないかもね」

 

 まあ、明久君は全力で外の景色を楽しんでいるから甘い空気にはなりそうにないんだけどね。もうちょっと意識してくれてもいいと思うんだけど。まあ明久君にそういう鋭さを求めるのは無理でしょう。

 でも、まだアタシ達のゴンドラはまだ半分にもきていないんだし、せっかくだれにも邪魔されない状況なんだから、絶対下に着くまでに何か進展して見せるわ。

 

 

 

 

 結論、無理でした。

 

 いや、あたしだってがんばろうとは思ったのよ。でもっ! でもっ!!

 拳を握りしめるアタシの後ろから明久君のあきれたような声が聞こえてきた。

 

「いや~、どこにいてもムッツリーニはムッツリーニだね。てっきり今回は真面目に仕事してるのかと思ってたんだけど……」

 

 そう言う明久君の腕の中にはカメラや盗聴器の類が。全部アタシ達のゴンドラに仕掛けられていたものだ。あの狭い空間によくこれだけ仕掛けたわねと、ある意味感心するくらいの量があった。

 一応ね、頂点に来たあたりでは割と良い雰囲気までは持っていけたんじゃないかと思うんだけど。結局残りの半分はカメラ・盗聴器探しで終わってしまった。さすがに録画・録音されている状況で進もうとは思えなかったわ。それに知り合い、しかも明久君の友人のやったことで知らない人にまで迷惑かけるわけにはいかないしね。

 

「文句言おうにも土屋君はどっか行っちゃったし」

 

 実は下りてきてすぐ土屋君に邪魔された分の報復をしようかと思ってたんだけど、いつの間にやら別の人と入れ替わっていた。おかげでアタシ達の手元に大量の機械類が残ってしまった。Fクラスの生徒は逃げ足ばっかりは速いわね。

 

「これ、どうしようか」

 

「ん~、もう画像は全部消したし、適当にその辺に捨てておけばいいんじゃないかしら。一応土屋君もスタッフなんだし、スタッフがやったことはスタッフが対処してくれるでしょ」

 

「じゃあそうしようか」

 

 そう言って明久君は観覧車にいたスタッフにまとめて預けた。スタッフの人はあんなもの大量に渡されて困り顔だったけど。

 

「さて、優子さん。他に乗りたいの残ってたりする?」

 

「アタシはもういいわ」

 

「そう? じゃあ、帰ろうか」

 

「ええ」

 

 最後の観覧車に不満がないわけじゃないけれど、アタシは明久君と並んで如月ハイランドをあとに――

 

「見つけたわよ、あんたたち」

 

「もう逃がしませんよ、明久君」

 

 ――したかったんだけどね。まったく今度はなんなのよ。

 嘆息しながら振り返ると、走ってくる人影が二つ確認できた。

 

「げっ、美波。姫路さん」

 

 その人影が誰かに気づいて明久君が露骨に厭そうな声を上げる。まあ、さっきあんな目に遭わされてるから無理もないけど。

 はぁ、今日は最後まで邪魔が入る日だったわね。今度からは誰にも内緒で行動しないとダメかしら。まあもう帰るだけだし、逃げるのも面倒だからあの二人と合流してサッサと引き上げるとしましょうか。

 

「逃げるよ、優子さん」

 

 そう思っていた瞬間、明久君は弾けるようにして二人と反対の方向に駆け出した。

 

「え、あっ、ちょっとまってよ、明久君」

 

 慌ててアタシも明久君の後を追う。

 

「明久君、逃げる必要があったかしら。もうあとは帰るだけだったんだし」

 

「いや、あの二人に捕まったら帰るだけじゃ済まない。絶対僕がヒドイ目にあわされるっ」

 

 真面目な顔で何を言ってるのかしら、明久君は。確かにあの二人相手なら否定しきれないところだけど。ちらっと後ろを見ると彼女たちがものすごい勢いで迫ってきていた。

 ちょっと、島田さんはともかく姫路さんは運動苦手なんじゃなかった!?

 

 そんなわけで、アタシ達と彼女達の追いかけっこが始まった。

 

 

 

 

「優子さん、こっち」

 

 ある建物のそばを通った時、明久君に引っ張られ中に転がり込む。。直後、外をパタパタとかけていく音が聞こえた。ふぅ、どうやら気付かれなかったようね。

 

「ごめんね優子さん、無理やり引っ張っちゃって。どこか痛くない」

 

「平気よ。あのくらいじゃなきゃ逃げ切れなかっただろうし、気にいなくてもいいわよ。……明久君と付き合うことになったらこういう騒ぎにも慣れなきゃいけないだろうしね」

 

「優子さん、今何か言った?」

 

「っ!? なんでもないわっ。と、ところで、ここはどこなのかしら」

 

 周囲を見渡してみるといくつかのテーブルとイス。奥には他より一段高くなってるステージと大きなスクリーンが設置されている。

 

「いらっしゃいませ、お二人様ですね」

 

 そして目の前にはキツネの着ぐるみが一匹。確かアインとか言うこの遊園地のマスコットキャラだと思ったけど。

 

「で、何の用なのかしら。愛子」

 

「も~、ノリが悪いなぁ、優子は」

 

 目の前の人物は苦笑しながら着ぐるみの頭を外した。思った通り、その下にあったのは見慣れた学友の顔だった。

 いや、着ぐるみがそんな簡単に首外すんじゃないわよ。誰もいないからいいものの。

 

「あれ、工藤さんも今日ここで働いているの?」

 

「やあ、吉井君。うん、そうだよ。今日一日ここでアルバイト」

 

「大変だね」

 

「そうでもないよ、けっこう楽しいし。まあさすがに着ぐるみ着て動き回ると暑いっていうのはあるけど」

 

「だったら脱げばいいでしょ。さっさと頭外しておいて、わざわざ胴体部分だけ着なくても……」

 

「ん、まあそうだね。じゃあ、脱いじゃおうかな」

 

 正直男子の前で脱ぎ出すとかどうかと思うけど。そんな恥じらいとは無縁らしい愛子は着ぐるみを脱ぎ始めた。そして中から愛子の肩が見えたころで、

 

「ていっ」

 

ドスッ(アタシのチョキが明久君の目にクリティカルした音)

 

「目がっ、目がぁあああああっ!!」

 

 顔を両手で押さえながら床をごろごろ転がりまわる明久君。しまった、つい反射的に眼つぶしをしてしまった。

 

「優子さんっ、いきなり何するのさっ」

 

「ご、ごめんなさい、明久君。つい……」

 

「だめだよ優子、男の子には優しくしてあげなきゃ」

 

 どの口がそんなことを言うのか。両手を腰に当て、たしなめるように言う愛子をキッと睨みつける。

 

「なんであんたは全裸なのよっ」

 

「全裸じゃないよ、下着はつけてるから」

 

「そういう問題じゃないっ、なんで服着てないのよ」

 

「いやさっきも言ったけど結構暑いんだよ、着ぐるみって。だから涼しいように服は脱いでるよ。いわゆるクールビズってやつだね」

 

「それは絶対違うっ」

 

 確かに涼しい恰好で仕事をするという面では正しいかもしれないけど。クールビズって言葉を作った人も半裸で着ぐるみを着ることを推奨してはいないはずだ。

 

「う~ん」

 

 愛子と言い争っている間に明久君も回復したようだ。まだちゃんと見えていないようで目を押さえながらではあるけれど。

 

「大丈夫、明久君?」

 

「優子さん? うん、大丈夫だよ。だんだん見えてくるようになったし」

 

「そう? じゃあもう一回謝っておくわ」

 

「へっ?」

 

ドスッ(アタシのチョキが以下略)

 

「ア――――――――ッ」

 

「……いやあの、優子? さすがにそれはボクもどうかと思うんだけど……」

 

「いいからアンタはさっさと服着なさいっ」

 

 いつまでもそんな格好でいるんじゃないわよ。いつの間にか上半身全部出てるし。最低限明久君に見せても大丈夫な格好をしなさい。

 

 

 

 

「で、結局愛子はここで何してた訳?」

 

「ん、ボク? ボクは優子達が来るのを待ってたんだよ」

 

「アタシ達を?」

 

 来るのを待ってたって……アタシ達特に呼ばれた記憶はないんだけど。偶然あの二人に追われなかったら来てなかったわよ。

 

 まあ、狐の着ぐるみ着て一人でぽつんとアタシ達を待ち続けている愛子とか想像するだけで悲しくなるからその辺は突っ込まないでおいてあげるけど……

 

「優子、ここがどういう場所だか知ってる?」

 

「どういうって言われても……」

 

 言われてあたりを見渡すが、あるのは入った時にも見たテーブルとイス、後はスクリーンだろうか。テーブルとイスだけならレストランって感じかしら。それも割と高級そうな。まあでも、レストランにスクリーンって普通ないわよね。

 

「ここって、ウエディング体験の会場だよね」

 

 明久君が目をこすりつつ起きあがってきた。

 

「吉井君正解」

 

「へぇ、ここが。で、それがなにか?」

 

「ふふ~ん、実はいろいろ交渉して衣装とか貸してもらえることになったんだよ。写真撮影とかどう?」

 

 明久君とタキシードにウエディングドレスで記念写真。

 

 ……いいかも。

 

「……撮影は任せろ」

 

 いつの間にやら愛子の隣には土屋君が立っていた。手に普通の高校生には不釣り合いな本格的なカメラを持っている。

 

「って土屋君、こんなところにっ」

 

 てっきりもう帰ったとばっかり思ってたのに。まあいいわ、ここで会ったが百年目ってわけじゃないけれど、さっき邪魔された分の仕返しはしとこうかしら。

 

「ちょっ、優子さんっ。なんか黒いオーラが出てるんだけどっ。ムッツリーニをどうするつもりっ!?」

 

 後ろから明久君の慌てた声が聞こえる。

 

「や~ねぇ、明久君の友人に酷いコトするわけないじゃない。ちょっと関節を一つ追加してあげるだけよ」

 

「だめだよっ、ムッツリーニは僕ほど関節技受け慣れていないんだから、大ダメージ受けちゃって写真どころじゃなくなるよっ」

 

 なに? 明久君ってそんな日課みたいな感じで関節技受けてるの?

 まあでも写真が撮れなくなるっていうのは問題ね。

 

「し、仕方ないわね。まァ、記念撮影ができるってことでチャラにしてあげるわ」

 

「……ふぅ」

 

「じゃあ優子はこっちね。着替えはボクに任せて。吉井君はあっち。秀吉君がいるから……あ、でも、覗きに来ちゃだめだよ」

 

「ちょっ、なに言ってるのよ愛子っ」

 

「あれっ、もしかして優子、覗いてほしかったのかな?」

 

「そんなわけないでしょっ。いちいちそんなこと言うなって言ってるのっ」

 

 そんなやりとりをしつつ、お互い更衣室に衣装に着替えた訳なんだけど。

 

 

 

 

「で、何でアタシがタキシードで明久君がウエディングドレスを着ているのか教えてほしいんだけど?」

 

「おもしろいから?」

 

「……明久のドレス姿は需要が高い」

 

 怒りを堪えつつこの状況を用意した二人に質問してみたら、二人ともしれっと答えてきた。土屋君なんかしきりに明久君を写真に収めている。ちなみに秀吉はすでに部屋の隅で撃沈している。この二人にも教育的指導(お仕置き)が必要かしら。

 

「……一枚やろう」

 

「……たまにはこういう遊び心も必要よね」

 

「手のひら返すの早っ」

 

「……別にいいでしょ」

 

「優子さん、秀吉と似てるせいもあるかもだけど、男物の服も似合うね」

 

「そ、そうかしら。明久君もドレス似合ってるわよ」

 

「……ボクの時とずいぶん対応が違うんじゃないかな」

 

 そりゃあ明久君と愛子で対応が変わるのは仕方ないんじゃないかしら。にしても、明久君はウエディングドレス着るのに全く抵抗がなさそうね。

 

「はいはいごちそうさま。それじゃあさっさと写真撮っちゃおうか、ムッツリーニ君」

 

「……了解」

 

 愛子の指示のもと、土屋君が撮影のためのセッティングを始めた。土屋君はずいぶん手馴れているようであっという間に準備は終わってしまった。

 

「それじゃあ、優子に吉井君。そこに二人で並んで~」

 

「ってちょっと待ってよ、せめて服をちゃんと着替えてからに――」

 

バンッ

 

撮影直前で今の自分の格好に気付いたのとほぼ同時くらいに大きな音を立てて入口が開けられた。

 

「見つけましたっ。美波ちゃん、こっちですっ」

 

「ア~キ~、もう逃がさないわよ――――って、何でウエディングドレス?」

 

 飛び込んできたのは姫路さんと島田さんの二人だった。二人ともドレス姿の明久君を見て固まっている。そして固まってる二人に土屋君が近づいていった。

 

「……一枚五百円」

 

「十枚もらいますっ」

 

「ウチも十枚もらうわっ」

 

 ……いや、買い過ぎでしょ。

 

「ずいぶん騒がしいな――ってなんだおまえ等か」

 

「……ここ、ウエディング体験の会場」

 

次に現れたのは代表と坂本君だった。

 

「雄二、霧島さんも」

 

「明久、何だぁその格好は」

 

「……一枚五百円」

 

「安いな、じゃあ一枚――もらわねえよっ」

 

「……雄二、浮気は許さない」

 

「だからもらわねえって言ってんだろっ。ことあるごとにスタンガンを持ちだすんじゃねぇ」

 

「……麻酔銃なら可?」

 

「可じゃねえよっ」

 

 代表と坂本君はある意味いつも通りのやり取りを繰り広げていた。

 

「あはは、ずいぶん騒がしくなっちゃったねぇ~」

 

「笑い事じゃないわよ、まったく。最後の最後までこうなんだから」

 

 これじゃあ、明久君と二人でなんて無理に決まってるじゃない。

 

 はぁっ、どうやら今日はとことんついてない日のようね。

 

 

 

コンコン

 

 自分の部屋で、ベッドに寝転がりながら写真を眺めているとノックの音が聞こえた。まだ両親は帰っていないはずだからきっと秀吉だろう。

 

「鍵開いてるから入ってきていいわよ」

 

 起き上がるのも面倒だし、寝転がったまま扉の向こうに返事する。

 

「お邪魔するぞい」

 

 聞こえてきた声はやはり秀吉だった。扉を開け、部屋の中に入ってきた秀吉はアタシの格好を見て眉をひそめた。

 

「姉上。毎度のことじゃが、いくら家の中と行ってもその格好はどうかと思うぞ」

 

「いいじゃない、別に」

 

 誰かに見せるわけじゃないんだし、家の中でラフな格好している分には文句言われたくないわね。アンタはアタシの母親かっていうのよ。

 

「じゃがのう……」

 

「なによ」

 

「突然明久が遊びに来たりしたらどうするつもりじゃ」

 

「……まあ家の中だからこそちゃんとしているべきよね」

 

 とりあえず写真を写真立てに収め、その辺の服を拾っていそいそと着替え始めた。

 

「それで、アンタは何の用なのよ」

 

 袖に腕を通しつつ、秀吉に目を向ける。

 

「うむ、風呂が沸いたから姉上を呼びに来たのじゃ」

 

「服着た意味ないじゃない……まあいいわ、それじゃあ先に入るわよ」

 

「のう、姉上」

 

洋服ダンスから着替えを取り出し部屋から出て行こうとしたところで、いまだにアタシの部屋に残っていた秀吉に呼び止められた。

 

「なに、あんたまだいたの? 姉が下着とか出してたんだから部屋出て行きなさいよ。それともあんた、姉の下着に興味があるの?」

 

「さっきまでほぼ下着姿だった姉上には言われたくないのう。しかもその質問はどう答えてもワシの男としての尊厳が傷つきそうじゃし……」

 

 アンタにまだ男の尊厳とやらが残っていたことに驚きだわ。頻繁に女装しているとかいう噂も聞くし。

 

「まあそんなことはどうでもいいわ。で、今度は何よ」

 

「わしにはどうでもよくないんじゃがのぅ……いやこれは何かと思っての?」

 

 そういう秀吉の手にはさっきまでアタシが持っていた写真立てが。

 

「ああそれ? 今日撮った写真よ」

 

 あの後、せっかく衣装を借りたんだからということで一枚だけ写真を撮った。あの場にいた全員が写っている。ほんとは明久君と二人がよかったんだけどね。まあ、明久君の隣をとれたからよしとするかな。

 

「アンタも持ってるでしょうに」

 

「いや、これはワシも持ってるんじゃが……」

 

 そう言って秀吉は写真を取り出そうとした。

 

「この後ろにもまだいくつかあるようじゃが」

 

「ちょっと待ちなさい。それは――」

 

 慌てて止めようとしたけどすでに遅く、後ろに隠していた写真が秀吉の手に渡ってしまった。

 

「……姉上、これは……」

 

「……何か文句でも」

 

「いやまあ、姉上はかわいい女の子か幼い男の子にしか興味がないらしいという噂があるのに明久が気になっておるのが不思議じゃったが、可愛い恰好の似合う男も守備範囲じゃったからというのがよくわかったから腕を逆方向に曲げないでほしいのじゃあああああああっ」

 

「その噂はあんたのせいでしょうが――――っ」

 

 秀吉の腕をとり関節を極めると、その手から写真が数枚こぼれおちた。一枚目は今日撮った写真だが、他の写真は明久君のメイド姿やらセーラー服やらを着ている時の写真だ。

 

「痛たたっ、いきなりひどいのじゃ」

 

「酷いのはどっちよ。人の写真引っ張りだして」

 

 床に散らばった写真を拾い集め、再び写真立ての裏にしまう。まったく、傷がついたらどうしてくれるのかしら。

 

「なぜそんなに明久の女装写真があるのじゃ。やはり姉上は――」

 

「違うわよっ。土屋君から明久君の写真を買うとこういうのしかなかっただけなんだからっ」

 

「なら良かったの、姉上。今日は明久の写真が手に入って」

 

「結局女装してるけどねっ」

 

 ウエディングドレスじゃない、明久君。アタシはタキシードだし。

 

「じゃが、姉上もまんざらではなさそうじゃの」

 

「ま、これが明久君と一緒に撮った最初の写真だしね」

 

 手に持った写真を眺める。

 

 ところどころ赤く染まったウエディングドレスを纏う明久君の隣には不機嫌そうな、でもどこか嬉しそうな女の子がタキシードを着て立っている。まあアタシなんだけど。アタシの隣では明久君の隣を取れなかった姫路さんと島田さんがアタシの方を睨んでいる。明久君をはさんで反対側にはアタシの弟があきれたような表情で立っている。アタシ達の後ろには笑顔の愛子、あまり表情の読み取れない代表、体のあちこちから煙を吹いている坂本君が並んでいる。そして足元では鼻血を出して真っ赤に染まった土屋君が転がっている。

 

 皆が写っているこの写真を眺めていると自然に頬が緩んでしまう。いろんな邪魔されて散々なデートだったけど、それでもアタシは楽しかったと思っているらしい。たまにはFクラスに混ざる(バカ騒ぎする)のも悪くないのかもね。

 

 

 ……でも今度は二人きりで。

 

 

 

 

   あとがき

 

 いかがでしたか、彼とアタシと如月ハイランド最終問題。

 

 いやぁ、一体遊園地だけに何ヶ月かけてんだよって感じでしたが、まあそれも今回で一応完結ということになります。ほんとはやりたいこととかもっとあったんですがうまく組み込めず、自分の力不足を実感しましたね。たとえば最後の場面とか作中の写真を入れたりしたかったのですが。あと、いつか(いつになるか不明)今回裏方で働いていた秀吉たちの部分も書いてみたいです。

 

 そういえば「naoの作品に触発されて自分も書いてみました」的なコメント付きの作品をちらほら見かけてびっくりしました。うれしい限りです。楽しく読ませていただいております。この調子でTINAMI内でバカテス作品が増えていってくれるといいですね。今まで読み専門だった人も私の作品を読んで「このレベルでいいなら自分も書いてやるぜ」とか思って書いてくれるといいですね。自分も頑張って書き続けていこうと思います。

 

 次回はまた文月学園を舞台にした話を予定しています。季節ネタもできれば組み込みたいですね。今回もまたバカテスはなしになってましたが、次からはまた入れます。ネタは…………今から探します!!

 

 それでは、また次回お会いできることを楽しみにしております。


 
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