No.193870

彼とアタシと如月ハイランド 第三問

naoさん

どうも、naoです。
如月ハイランド編の続きです。今回もまた短いですがどうぞご覧ください。

2011-01-04 01:13:46 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8223   閲覧ユーザー数:7903

 

 

カツン、カツンと二人分の足音が静まり返った空間に響く。

 

「へぇ~、結構雰囲気出てるのね」

 

現在、アタシと明久君は如月ハイランドのお化け屋敷に入っている。廃病院を改造したというこのお化け屋敷は昼間だというのにうす暗く、雰囲気抜群だ。入る前は、女の子として怖がった方がいいのかしらとか思っていたけど、普通に怖いかもしれない。

 

「優子さん。そこ、ケーブル伸びてるから気をつけて」

 

「あっ、うん。ありがと」

 

明久君は割と余裕があるようで、今みたいにたびたびアタシのことを気遣ってくれている。少し前を歩く背中が結構頼もしい。

 

「明久君はこういうところ平気なの? アタシはちょっと怖いんだけど……」

 

普通のお化け屋敷だったら問題ないんだけどね。ああいうのは舞台が昔のお屋敷だったりして作り物のイメージが強いけど、ここは割と身近な場所だからかしら。夜の学校とかみたいに。そんなことないって思うのに、なぜか後ろから見られているような気分になる。

 

「ん~、特に暗いのが苦手ってことはないかな。それにお化けより怖いものだったらたくさんあるよ」

 

「たとえば?」

 

聞き返してみると明久君は神妙な顔をしてこう答えた。

 

「……ここで学園長に会ったらと思うとぞっとするね」

 

「ふふっ、さすがにそれは学園長に失礼じゃないかしら。分からなくもないけど」

 

思わず笑ってしまった。でも、学園長には悪いけど、おかげで少し余裕がでてきたかも。その辺も考えての発言だったらすごいけど、でもたぶん明久君はとくに考えずに言っているんだろうな……。

 

「ねえ、明久君。手、つないでもいいかしら」

 

 余裕ができたらちょっと欲がでてきた。せっかくのデート(明久君はそう思ってなさそうだけど)なんだから、これくらいのスキンシップはあってもいいわよね。そう思って提案してみたら明久も了承してくれて、アタシの方に手を差し出してくれた。

 

「……? ああ、そうだね。暗いから手をつないでいた方が安全だよね」

 

 うん、完全に勘違いしてるわね。ほんとに、明久君は乙女心には鈍いんだから。まあでも、アタシのことを気遣ってくれていることには違いないのだから、良しとするか。

 差し出された手に自分の手を重ねる。さすがに指を絡めるとかはできないけど、それでも、明久君の手の感触とか温もりとか感じられて――

 

ゾクッッッ

 

 ――割と幸せな気分でいたら急に寒気がした。お化け屋敷に入ってから感じていた視線がより強く感じられるようになった気がする。それとほぼ同時に、いままでかすかについていた明かりが消え、あたりが全く見えなくなってしまった。

 

「ちょっと、なに。これもお化け屋敷の演出っ?」

 

 明久君の腕を引き寄せて抱きしめる。ほらっ、何も見えないし、はぐれると危険だからね。お化け屋敷で腕を組むってカップルらしい行動もできて一石二鳥ね。

 

「ちょっと待って優子さん、肘っ、肘関節が極まってるっ。そんなに強く掴んだらあらぬ方向に腕がっ」

 

 幸せな気分でいたら明久君の言葉を聞き逃した。う~ん、さすがに明久君もこの展開には慌ててるのかしら。それともアタシにくっつかれてびっくりしたとか。てことは、多少はアタシのこと意識してくれてるってことよね。じゃあもう少し強く抱きついてみようかしら。

 そんなことを思ったところで、

 

 

 誰かにガシッと肩を掴まれた。

 

 

「――――――――――――――――――っ!?」

 

 さすがにこれにはびっくりした。びっくりして強く抱きしめすぎて、明久君の腕からいやな音がしたような気がしないでもない。しかし、それでもこの誰かは離れようとはせず、むしろアタシと明久君を引きはがそうとしてきた。

 

「木下さん、さすがにくっつきすぎですっ。離れてください」

 

 ……聞き覚えのある声だった。っていうかおもいっきりアタシのこと呼んでるし。何で彼女がここにいるのよ。

 

「うわっ、優子さんと反対側からも誰か引っ張ってくるし。……あれっ、でもこの弾力性皆無のこのぺったんこの感触って左腕に続いて右腕までもが逆方向にぃ――――――っ!!」

 

「誰の胸が弾力性皆無のぺったんこですってぇええええっ!!」

 

 しかも明久君の反対側にも誰かいるみたいだし。まあ、こっちが彼女なら向こうも決まってるようなものだけど。声も聞こえてきたし。

 

「で、何で姫路さんと島田さんがここにいるのかしら」

 

 そう尋ねてみると動揺したような気配が二つ感じられた。

 

「美波ちゃんどうしましょう、なんかバレちゃってるみたいですけど」

 

「バカ、なんで名前呼んじゃうのよ瑞希」

 

 いや、バレバレじゃない。名前どころかしゃべった時点でアウトよ。明久君も正体が分かったようで、

 

「あ~、やっぱりさっきのぺったんこの感触は美波の四の字固めで足の機能までぇ――――っ!!」

 

 やっぱり余計なことまで言って島田さんにやられているみたい。それにしても、やっぱり明久君も胸は大きい方がいいのかしら。

 

「お客様、どうかなさいました――ってうわ、暗っ。なんで電気が? 今そっちに行きますので動かないでください」

 

 自分の胸に手を当てて悩んでいると、どこからかスタッフの人の声が聞こえてきた。どうやら中での騒ぎに気づいてくれたらしい。

 

「瑞希、逃げるわよ!!」

 

「えっ、えっ? 電気は?」

 

「そんなの放っておきなさい」

 

「ええっ!?でも……」

 

「行くわよっ」

 

「あっ……まってくださ~い」

 

 やっぱりこの二人、バイトだか無断で侵入したかは知らないけれど、人に見つかったらまずいみたいね。そんな会話と一緒に遠ざかっていく足音が二人分聞こえてきた。電気がついた時にはアタシと倒れている吉井君しかいなかった。

 

 

 

 

「またのお越しをお持ちしております」

 

 申し訳なさそうなスタッフの声を背中に受け、アタシたちはお化け屋敷を後にした。さっきのはどうやら演出ミスということらしい。まあ、相手は明らかに顔見知りだったし、出た被害の半分はアタシのせいみたいなものだから、あんまり謝られても困る。明久君も特に気にしてないようで、

 

「次どれ乗ろっか?」

 

と、にこやかに笑っているから別に問題はないでしょ。

 それにしても、明久君も思いの外頑丈よね。坂本君もよく代表にスタンガン突きつけられたりするけどピンピンしてるし。Fクラスにいると体が鍛えられるのかしら。うらやましいとは思えないけれど。

 

「ん~、そうね。パンフレットみた感じだとここかここが近いし良いんじゃないかしら」

 

「これかこれかぁ。どっちにしようか迷うなぁ」

 

ぐ~~

 

 パンフレットを広げて適当に次のアトラクションを探していると、隣からそんな音が聞こえてきた。言うまでもなく明久君のおなかの音だったけど。

 

「……ごめん、先にどっかでご飯食べよっか」

 

 パンフレットを畳みつつ、照れくさそうに提案してくる明久。時計をみると12時を少しすぎたくらいか。

 

「そうね、アタシもおなか減ってきたし、お昼にしましょうか」

 

「じゃあ、どこにしようか……あっ、あそこにレストランあるよ。あっちには屋台も」

 

「……えっと、明久君」

 

「何、優子さん……あ、大丈夫だよ。僕、お金はないけど塩持って来ているから、水さえあればどこでも」

 

「いや、そういうことじゃなくて」

 

 明久君はポケットから塩の瓶を取り出したけど、アタシが言いたいのはそういうことじゃなくて。っていうかその発想は大丈夫な人の発想ではないと思う。そういう意味でもこれを持ってきておいてよかったと思う。

 

「……これ」

 

 はいっ、と持っていた包みを明久君に差し出す。

 

「え、あ、ごめん。ずっと荷物持ってて大変だったよね。気づかなかった。じゃあ、これは僕が預――」

 

「お弁当よっ!!」

 

「えっ、お弁当?」

 

 普通この流れで出されたものならお弁当でしょ。何で勘違いするのかしら。

 

「そうよ、今日早く起きて作ったんだから。いらないなら別に――」

 

「欲しいっ!!」

 

 ものすごい勢いで食いついてきた。

 

「――そ、そう。じゃあ、あそこのベンチで食べましょ。」

 

 その勢いに若干気圧されつつ、近くのベンチに腰掛け、お弁当を広げる。

 

「いっただっきまーす」

 

「いただきます」

 

 二人そろって手を合わせ、お弁当を食べ始める。中身は割とオーソドックスなものばかりだけど……うん、我ながらうまくできたんじゃないかしら。これなら明久君も……。

 

「ど、どうかしら……」

 

「…………」

 

返事がないので隣を確認してみると、明久君はお箸をくわえたままでポロポロと涙を流していた。

 

「何で泣いてるのっ!?」

 

「ご、ごめん、優子さん。普通の食事なんて、久しぶりだったから……」

 

 袖で涙を拭いつつ、そう返してくる明久君。……普通じゃない食事ってどんなものなのかしら。

 

「うん、お弁当おいしいよ。ありがとう」

 

「そ、そう。ならよかったわ」

 

 ほんと、よかったぁ。口に合わないぐらいならともかく、見た目はいいけれど実は殺人料理、みたいなことになってないか心配だったのよね。まあ、味見もしっかりしたし、それは杞憂に終わったわけだけど。

 

「お礼に今度僕がごちそうしようか?」

 

「えっ、明久君って料理できるの?」

 

「まあ、そんなにうまいってほどじゃないけどね――ちょっといろいろあって、うちでは僕がご飯作ってたから……」

 

 へぇ~、ちょっと意外かも。明久君、家事とかするように見えないんだけれど。

 

「じゃあそうね、ごちそうになろうかしら」

 

「やった、じゃあ今度僕のうち遊びにきてよ」

 

「わかったわ、それじゃあ機会があったら明久君の家におじゃまさせてもらうわね」

 

「うん、いつでも来てよ」

 

「ええ」

 

 ふふっ、思わぬところで明久君の家にいける機会をゲットできたわ。苦労してお弁当作った甲斐があったってものね。

 でも、普段から料理作ってたってことは、明久君結構料理得意なんじゃないかしら。

 

 

 アタシよりうまかったらどうしよう……。

 

 

 

 

  あとがき

 

 あけましておめでとうございます。といってももう3日ですが。

 

 いかがでしたか、彼とアタシと如月ハイランド第三問。

 

 今回も短いです。まず冒頭のアンケートがありません。ネタ切れです。アトラクションも少ないです。遊園地ってどんな感じか忘れました。ついでに更新速度も落ち気味です。申し訳ない。ですが、優子を主人公とした物語のラストの構想はあるので(その途中がないのですが)、時間がかかるとは思いますが、そこまでがんばって書き続けるので応援よろしくお願いします。とりあえずは如月ハイランド編、駆け足になってしまっていますが、次で終わらせたいと思っています。優子の吉井家訪問は如月ハイランド編の次でやりたいと思っています。

 

 それでは、次回もお会いできることを楽しみにしております。


 
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