No.198842

恋姫野史(仮)~其の壱~

黒羽さん



いまいち自信が・・・
ご指摘などはどんどんお願いします。

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2011-01-30 23:38:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:366   閲覧ユーザー数:344

 

 

慶応4年(1868年)

山城国伏見

 

「色々とありましたねぇ・・・」

 

眠っていたのだろうか?

不意に顔に冷たい感触を感じて彦兵は目を覚ました。

 

「雪ですか」

 

彦兵は確認する様に呟くと立ち上がった。

立ち上がったのはその場から移動をする為では無い。

たった1年間だが修羅となり闘ってきた独特の感の様なもの。

 

(来る)

 

そう感じた方に目をやると数人の人影を確認した。

 

「見ろ!あそこに人がいるぞ。

あの服は・・・し、新撰組だー!」

 

瞬く間に数人の兵達が駆け寄り、殺気が彦兵を包んだ。

 

(まぁそうでしょうね)

 

彦兵は少し口端をあげて苦笑する。

今は官軍と名乗ってる長州や土佐の人間にとって新撰組と言うのは最も憎むべき相手であり、また疫病神なのである。

人殺しの凶状持ちの集団。

それほどに新撰組は恐れられていた。

 

(服を脱げば良かったんですがねぇ)

 

新撰組の服は目立つ。

浅葱色に段だら模様は遠目から見ても新撰組だと分かる。

だが彦兵には脱げなかった

なんで?と聞かれても説明に困るだが何故か脱げなかった。

 

(新撰組としての私を否定されたくなかったのかな・・・)

 

自分に問いかけるが返答は返ってこない。

その代わりにさっきから片手に握っていた刀を青眼に構えた。

 

「こいつ、やる気だぞ!」

 

目の前の兵も各々に刀を抜き放つ。

彦兵は実際に人を斬ったのは数人しかない。

だが、それでも不思議と心は落ち着いていた。

 

(どうせ死ぬ)

 

覚悟は決まっている。

その様子に先に飛び出してしまったのは相手の1人だった。

大きく振りかぶっての上段からの振りおろし。

それを彦兵は少し腰を落とすと相手の腹に目掛けて突きを放つ。

 

(まず1人・・・)

 

多人数とやる時は突きを主体に戦う。

突きは避け難く、そして刃に脂が巻かないからだ。

下手に切ってしまうと刃が脂を巻き斬れなくなる。

それが彦兵が新撰組で教わった事だった。

 

ガキン

 

相手の体を突いたと思った刀は金属音と共に衝撃を受け、手から落ちる。

 

「危ねぇ!京で売れると思って拾っておいて良かったぜ」

 

男はそう言って懐から何か取り出す。

 

(昔の鏡?銅鏡ってやつですかね・・・ハハ、どこまでも運の悪いことで)

 

相手の右手には丸い金属の板。

唐から入ってきた昔の鏡らしい。

 

「へへ、悪いな新撰組。これで終わりだ!」

 

そう叫んで刀を振りかぶる男に彦兵は観念した様に目を瞑った。

そう、確かに彦兵はここで死ぬ筈であった。

 

確かに・・・

 

 

「・・です・・・こ・つ」

 

「どう・・・死んで・・・・・・・・・」

 

「蹴って・・・!」

 

ドガッ

 

いきなり腹に衝撃を受け彦兵は思わずのたうち回る。

 

「お、生きてるぜ?兄ちゃん起きな」

 

彦兵を覗き込む様に声をかけた男の声に彦兵は恐る恐る目を開けた。

 

(眩しい・・・ここはあの世か?)

 

そう思って辺りを見渡すが、どうやら天国と名のつく地では無い気がする

 

「えっと・・・ここは何処ですかね?」

 

見渡す限りの荒野。

目の前には変な黄色の服を着た男が3人。

これが天国と言うなら間違いなく地獄を選ぶ。

 

「はぁ?てめえは何を言ってやがるんだ?」

 

「兄貴、こいつ頭がおかしいんじゃないですかい?」

 

おいおい、貴方達に言われたら終わりですよ・・・

そんな事を思いながら彦兵は立ち上がる。

 

「伏見じゃ無いですよねぇ・・・そもそもこんなに広い荒野は見た事が無いんですけど」

 

「伏見?こいつ何を言ってやがるんだ?」

 

う~む・・・

彦兵は心の中で首を捻る。

自分は確かに伏見にいた、しかも死ぬ直前に。

それが全く見覚えの無い所で目を覚まし、恐らくはあまり好意的じゃない男が目の前に3人

その男は伏見を知らない。

 

(これはどう言う事でしょう?)

 

あの官軍の男達が自分をここまで連れて来たのか?

いや、それは考え難い、そんな面倒な事をする理由が無い。

 

(まぁ、考えても仕方無いですかね)

 

今は考えてる場合じゃ無い。

新撰組での数々の修羅場が相手の力量を教えてくれている。

とりあえずは目の前の危機を何とかしよう・・・

そこまで考えて一言

 

「ですよねぇ」

 

「あぁ?」

 

不意に声をかけると彦兵は行動を開始する。

不用意に近づいていた兄貴と言われた男の武器を持った手を掴むと捻りあげる。

 

「ぐわぁ!」

 

不意をつかれてあっさりと捻られた男は情けない声をあげた。

彦兵は相手の武器を奪うと、兄貴をさっさと蹴り飛ばす。

 

「ん?なんですかこの武器・・・」

 

彦兵は奪った武器を見て声を失う。

明らかに違うのだ。

日本刀など日本の武器は斬る・突くを主体とする。

だが、この武器では明らかに斬れない。むしろ叩き斬るといった感じである。

 

「う~ん、これ使えますかねぇ」

 

斬れないし突いても体に刺さったら抜けそうにない。

力で斬ると言っても・・・

 

(あの体では)

 

3人の中でデブと呼ばれてる巨漢な男。

無理無理と彦兵は頭を振る。

 

「兄貴、大丈夫ですかい?」

 

「くそ!チビ、デブ2人がかりでやっちまえ!」

 

兄貴の指示に2人は彦兵を挟むようにして距離を少しづつ距離を縮めてくる。

彦兵も奪った剣を青眼に構え挟まれない様に後ろに下がっていく。

 

(多少不利でもやるしかないですね)

 

あまり追い込まれても困るだけなので、彦兵は覚悟を決めた。

 

「死ねぇぇぇ」

 

「ふごおおおお」

 

雄叫びをあげながら突っ込んでくる2人

まずはチビからと彦兵が動いたその時

 

「お主は小さい方をデブの方は私に任せよ!」

 

その声に彦兵は一瞬だけ視線を向けるがすぐに視線を向かってくる男に戻す。

 

ガン ゴン

 

なにやら鈍い音が2つ響き転がるチビとデブの男。

 

「世を乱す盗賊共め!この槍が成敗してくれよう」

 

そう言い放つ白き影・・・

 

(って女性ですか?)

 

「あ、あの~」

 

彦兵は恐る恐る女性に声をかける

 

「うむ、お主は心配しなくても大丈夫だ。

この程度の盗賊など私に任せられよ」

 

白い服の女性は興奮気味に話すと槍を振り回す。

それを見た3人は慌てて逃げるが、逃がすものかと追う女性。

あっと言う間に4つの影は小さくなって行った。

 

「・・・なんなんでしょうねぇ」

 

彦兵は軽く溜息をつくとその場に座り込むと

 

「大丈夫ですかー?」

 

いきなり声をかけられて振り向くと、人形を頭に乗せ飴をくわえている女の子だった。

 

「傷は・・・大したことは無いな。」

 

もう1人、さっきの女の子よりは大人っぽい子に声をかけられる。

 

「あ、ああ大丈夫な様です」

 

「やれやれ。すまん、逃げられた」

 

そう言いながら帰ってきたのは助けてくれた白い服の子

 

「星ちゃんでも逃げられちゃいましたか~」

 

「うむ、相手が馬だったんでな。で、その男は大丈夫だったのか風」

 

「はい~お兄さんも大丈夫みたいですよ~」

 

おっとりと間延びした声に彦兵も思わず安堵する。

 

(おっと、ここが何処か聞いとかないといけませんね)

 

彦兵は疑問を解決すべく間延びした話し方をする女の子に声をかける。

そう、お約束の如く・・・

 

 

「風殿と言いましたよね?少し聞きたい事があるのですが・・・」

 

「・・・ひへっ!?」

 

「貴様・・・・・!」

 

ガキン

 

鳴り響く金属音

それは先程のチンピラを追い散らした女の子の槍の穂先と彦兵が持っていた剣が交錯した音であった。

 

「い、いきな何を・・・」

 

「む・・・

お主、どこの世間知らずの貴族かは知らんが・・・いきなり人の真名を呼ぶなど、どういう了見だ!」

 

「訂正してください!」

 

彦兵の問いに星と呼ばれた子と風と呼ばれた子が迫る。

 

「・・・え?」

 

そこまで言われて彦兵は気づく。ここは自分が居た国とは違う別の国だと。

そして自分が国の風習にそぐわない事をやったのだと

 

(って呑気に考えてる場合じゃ無いですね・・・この星とかって子は私より遥かに強い)

 

この一撃も脅しだったのだろう、だから自分でも受け止められたのだ、もし彼女が本気だったら。

彦兵は背中に冷たい物を感じ慌てて訂正する。

 

「わ、わかりました。訂正します。本当に申し訳ない。」

 

そこまで言うと槍から力が抜けていくのが分かる。

 

「結構。」

 

「はふぅ・・・。いきなり真名で呼ぶなんて、びっくりしちゃいましたよー」

 

安堵したように喋る風。

 

「真名ですか・・・では何と呼べば良いのでしょう?」

 

そこまで切り出して彦兵は自分が名乗ってない事に気づいた。

 

「これは失礼しました。私は早上彦兵と申します。先程は危ない所をご助力いただきかたじけない。」

 

そう頭を下げると

 

「はい。程立と呼んでくださいー」

 

「今は戯志才と名乗っております」

 

(今はって・・・)

 

まぁ、今は名前の事で云々言っても始まらないと彦兵はスルーして話を進める。

 

「しかし・・・その名前から察するに唐の人間ですか?」

 

確か新撰組の近藤局長が勉強だと唐の劇を見に言った時にお供をした事がある。

 

(あれは確か三国志とかって話でしたかね)

 

あの時はお供のためにあまり話は聞けなかったが程とかなんとかって名前は聞き覚えがあった。

 

「から?そんな地名は聞いたことないですねー」

 

「私も無いな。それよりお主、その格好を見るに戦争でもしてきたみたいだが何処のものだ?」

 

星の問いかけに彦兵は

 

「会津藩預かりの新撰組5番隊です」

 

一抹の期待を胸にしながら彦兵はそう素直に答えてみる。

 

「小豆が新鮮でどうしたって?」

 

星のボケに皆が星をじっと見る。

 

「ゴホン、あいず?なんだそれは?」

 

若干だが顔を赤くしながら星はわざとらしく咳をすると答えた。

 

「風も聞いたことがないのですー」

 

「私もありませんね」

 

程立と戯志才の答えに彦兵は確信と軽い絶望を覚える。

 

(やっぱりですか・・・日本じゃないのですね)

 

そんな感じはしていた。だが確信するとやはり気持ちが沈む。

 

「なら・・・」

 

もう少し情報を集めようと彦兵が声をあげた時

 

「あ、あれは曹の旗」

 

戯志才が指を指す。その先には砂煙と紫で染め抜いた曹と書かれた旗が翻っていた。

 

「あれがこの地方の刺史の軍隊だ。あそこに頼ると良い。」

 

星はそう言ってさっさと荷物を纏める。

 

「あれ?行ってしまうのですか?」

 

その彦兵の問いに返ってきたのは一言だけだった。

 

「官は好かぬ」

 

それだけ言うと3人はあっという間に姿を消した。

そして彦兵は騎馬の群れに周囲を囲まれて途方に暮れるのであった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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