2
ポストペットの真価はネットワーク上にこそ存在する。
それは純然たる事実だったが、その日、八神はやてはそのネットワークから隔離されたそれに対し、外部メモリからデータを興してみるという、なんとも不思議な作業を依頼されていた。
しかもデータはすべて抜き取っておくようにというご下命付きだ。
平たく考えて、お釈迦にしますといわれているようなものだが、彼らは何かあったら弁償するとまでの言い出していた。ちょっとつつけば血判まで押しかねない勢いで。
そこまでした頼んできたいとこ以下総勢十数名にも昇る謎のメンバーたちだが、結局詳しい話は聞いていない。
聞いていないが・・・・・・
「まぁやればわかるやんなぁ」
一人ごち、彼女はわざわざそのためにと用意されたUSBをミッドチルダPCとの変換ポートに差した。
電源からして違うのだから統一しないと面倒だしコストもかかることはわかっているが、それ故に一つのセキュリティとしてはやてはいわば「日本製PC(中身は窓なのであまり正しい表現ではないかもしれないが)」を愛用している。
どだいミッドチルダタイプでは向こうのDVDとか観れないし。あぁSUIどうの新作はいつDVDになるんだろう?
「なんやこのデータ」
果たして開いたデータは彼女の予想を大きく超えたものだった。
写真が1枚。いとことその親友だという少年。それから向こうで一度顔を合わせた記憶がある彼らより少し年下のやはり少年二人。
四人四様、大分揃って印象が違う組み合わせが、なにやら無理矢理笑ったような無理のある様子で写っていた。
一番キャパシティの低いUSBではあったが、まさかこれ1枚?流石に事態を理解できず、はやては彼らにその意図を問おうと連絡をしようとし・・・・・・
視界から外さなかったその画面がチラつくのをみた。
「え?」
ちょ、まさかウィルス?!些か信用のない発想は多分ミッドチルダ、というよりも管理局嫌いを隠していない情報・技術班の少年を思ってしまったからに他ならない。だが、もちろんそんなわけはない。だったら最初からネットワークをわざわざ切れと指示するわけないし、わざわざ自分たちの情報をそれに入れておく理由にはならない。
それではまるで挑戦状ではないか。
「挑戦状?」
自分でたどり着いた発想に、はやてはなぜかしっくりしてしまった。
なぜなら画面のちらつきは大きくなっていき、その荒れた画像の中にはっきりと「ミッドチルダ語」ではない言葉をみつけたからだ。
<ミツケタ>
音ではないのに、はっきりとした意志を感じる、たった4文字のカタカナ。
怖いと想った。
よくわからないものが、自分のすぐ背中でにたりと笑ったような。
そこから逃れたいという本能がPCの電源を落とさせた。
落とした、はずだった。
<タイチ♪ヤマト♪>
画面ディスプレイは変わらず浮かび上がっている。
たったひとつ、見覚えのある姿を映しだして。持たぬはずの意志を持って、まるで祭を前にはしゃぐ幼子のように。
「いやや、なにこれ」
お釈迦になった方がずっとマシだ。
やはりこれはミッドチルダのネットワークを混乱させるためのウィルスの予行練習なのだろうか?
大人の世界に晒されたせいで、いささか疑心暗鬼になっていた、芯は強いがまだ幼いだけの少女が呼吸を早くする中、まるで救いのためのように電話が鳴った。
次元間通話の可能なそれからのサウンドは間違いなくいとこからのもの。
飛びかかるようにそれに手を伸ばし、通話ボタンを押す。
上擦った悲鳴がはやての口から飛び出した。
「なんやの、たいちにぃ!?わたしのクラゲが怖くなってん?!しかもミツケタって兄ちゃんたちの名前いっとったでっ」
「あー。やっぱビンゴか」
「え」
彼女の恐怖を理解しているのかいないのか。
比較的冷静に、そうと呟いたいとこの声は悪意こそないが、それ故の薄情さで予想通りといいたげであった。
「はやて。そのPC,ネットワークにはつながってないな?」
「ないよ、そうしろいうたやん」
「じゃぁわりぃが、PC壊してもらっていいか?」
「ふぇ」
ほんとわりぃ。
ちゃんと弁償するから。
あくまで真剣にそうと言ういとこは、一体なにを察しているのか。
一度パニックになれば、あとは人間冷静になるしか手段はない。
聞こえてくる声が落ち着いているのも一つの理由だろう。
はやては大きく深呼吸する。
「理由聞いてえぇん?」
「それ、デジモンなんだ」
「へ?」
あっさりと言われた言葉を、逆を言えば想像していなかった自分にこそ、はやては驚いていた。
デジモン。
それは「あのせかいでしかいきられない」生命体だときいていたからだが、考えてみれば彼らは「それについての専門家」でもあったのだ。
「そいつは特別。ありがたくない意味でな」
「ありがたないって」
「ともかく俺たちの担当なんだ。ってわけではやて。
俺たちを秘密裏に、言ってしまえばミッドチルダに密入国させてもらいたいんだけど、手段あるか?」
それ、犯罪教唆ですよね?間違いなく。
一方。
犯罪を承知でもこの件に関してはナシを着けにいくべきものと頭から考えている彼らの話はざくざくと進んでいた。
半ばはやてをだます形にはなったが、確証がなかったからには仕方がない。
確証がなかっただけだが、実際そいつがいるとし、しかも自分たちに反応したとなれば、放っておくわけにもいくまい。
こっちが引き金引いたという説もあるが。
「ってわけで全員というわけにもいかないからチーム選抜。とはいっても、オメガ組とインペリ組と情報班、以上」
「天使組も戦力としては使えると自分を売り込んでみるけど。ねぇヒカリちゃん」
「そうよね、タケルくん。ついでに例の組織の一部を壊しちゃっても不可抗力だものね」
「そこが参戦させねぇ理由だよ」
なにその真っ黒発言。真っ白な笑顔でいうせりふじゃないから。
「じゃぁ上の人をヘブンズゲートで」
「勘弁してくれ。これ以上連中と関わりたくない」
「それは勿論そうだけれど、向こうにいけばいやがおうにも顔を晒すよ?先のトラブルに関して既に面が割れている以上、危険な部分もある」
丈が冷静にと提案する内容は当然のものだった。
「他人のそら似とか」
「だめだろ、パートナー連れていくんだからさ」
「そっか」
実際オメガモンをみたのはごく一部だし、インペリドラモンに至っては姿も見せていない。
基本(一部とはいえ)知られたサイズからはとんでもなくかけ離れた膨張率を誇るわけだから、パートナーの姿で「ばれる」ということはないだろう。
もっとも手のひらサイズのイタチに化けれるという謎の人型種族やら、彼らは知らないが召還者の意志に応じてでっかくなる竜というデジモンモドキな生物がいる世界だから膨張率云々は今更だろうか。
とにかくとりあえず、しすぎといえばそうかもしれないが用心に越したことはない。
未だに連中がけしかけてきた理由は(クロノたちが探っているとはいえ)不明瞭なままなのだ。
もっとも、実を言えば光子郎あたりには疑っている可能性があった。
おもしろくも何ともないし、全くの筋違いな思考だが、大概の巨大権力を手にした人間が行き着く「お約束」だ。実際クロノからはその予想に見合っただけの可能性を聞いていた。
現在がどんな状況かを推し量ることはできないが、どのみち時間はこちらを味方していた。
さっきまでは。
(可能性は、捨て切れませんね)
招かれたという。
舞台を用意されたのはこちらだという可能性。
だがそんな推測だけを言って場を混乱させる必要はない。
彼はそう結論づけて小さく息をついた。
頭を切り替える為に。
大体その手の人物は表舞台には出刃ってこないだろう。
ふつうの権力者というのはそういうものだ。
大体出刃ることができる「状態」であるかどうかも疑わしいのだし。
「光子郎?」
「どうしましたか?」
・・・・・・
「ナンデモナイデス」
「・・・・・・・・・・・・そうですか」
=========
はやてが怯え過ぎかなとも想ったんですが、それだけ異質なのが「あいつ」ということで。
そういえば2話中にも名前でてきてないなぁ(バレバレだけど
そしてこの黒子郎をはやく誰かなんとかしないと
Tweet |
|
|
4
|
0
|
追加するフォルダを選択
すちゃらかデジなのクロスオーバー・デペイズマンシード最終シリーズ第2話。
そういえば来月地元にリアルパトレイバー(デザインが出淵氏のヒューマンフォームロボット)が来るってんで浮かれています。科学館なのでガキんとぉに混じってみてこようかな、と。歩いて20分くらいの山の中ですが。とんでもない立地。ちなみにその科学館の丁度山越えて真裏辺りに神社で東方オンリーを大学の学園祭に乗じてやりやがったというカオスな地元万歳。