「初詣に行こう!」
恭介の鶴の一声で僕らリトルバスターズの面々は全員で初詣に行くことになった。
「俺の知り合いの貸衣装屋から晴れ着を何着か借りてきた、好きなのを着ていくといい」
との恭介の提案で、女性陣は着物を着ていくことにしたので僕ら男性陣は一足先に校門前で待っているのだけどなんかおかしい。
僕と恭介はいい、普通の冬服とコート姿だ。しかし問題は真人と謙吾だ。
「……二人とも寒くないの?」
そう、二人とも真冬であるにもかかわらず真人は制服姿、謙吾は剣道着とジャンバー、と夏の時点と変わらない格好だった。
「へへ、何言ってやがるんだ理樹、俺のこの鍛えぬいた筋肉に寒さなんか通用するわけねえだろ?」
そう言って自らの筋肉を誇示するかのように上着を脱いでたくましい二の腕の力こぶを盛り上げる真人。
なるほど、ついには神経まで筋肉になったんだね真人。すごいや! 真人が理想とする脳みそ筋肉まであと一歩だ!
「真人の言うとおりだぞ理樹、まあ筋肉ばかり……でいいわけではないが心身共に鍛えていればこの程度の寒さはどうということはない」
流石は謙吾だ、最強男子の肩書きは伊達じゃない。
「なによりこの手作りジャンバーに込められた熱い思いの前ではこの程度の寒さなど物の数にも入らん、よかったら理樹もどうだ?」
……流石は謙吾だ、頭のネジが飛んでいる人間に暑さ寒さなんて論じるだけ時間の無駄だということか。
「お、着付けが終わったみたいだな」
「え? あ……」
女子寮のほうからやってくるみんなを見て思わずドキッっとした。
普段見慣れているみんなだけど着物を着ているととても新鮮に見えて、リトルバスターズの女性陣は一人一人が相当にレベルが高いのだと痛感させられてしまった。
「おいどうした理樹? 顔が赤いぞ?」
近づいてきた鈴を見て思わず赤面してしまう。
「……ちがいますよ棗さん、直枝さんは照れているのですよ」
「そうなのか?」
見透かしたような西園さんの涼やかな目にギクッとする。
「私達のいつもと違う和服姿に直枝さんは照れています。今この瞬間にも「いやっほぉ! 和服最高! さり気にみえるうなじがたまんねぇぜ! ハァハァ」と……」
「思ってないからね」
流石にそこまでマニアックなことは思ってないのでツッコミは忘れない。
「と、直枝さんが私達のうなじに欲情している点はさておき」
「最低だな」
「いやいや、おいとかないでね!? 欲情してないから、そこ重要だから!」
「直枝さんが私達の和服姿を魅力的に感じているのは事実です、とくに和服は古き良き日本女性の体型に合わせて作られていますので私や棗さんや能美さん、そして笹瀬川さんにはよく似合う服なのです」
「わふ? そうなのですか西園さん」
「どうなんだ理樹?」
「……褒められているのかどうなのかは微妙なところですわね」
そ、そうだったのか、和服にそんな効果が……どおりで見慣れているはずの幼馴染の鈴にもドキドキするわけだ。
「つまり今日に限り、日頃から自慢げに胸元をひけらかしている来ヶ谷さんやひけらかしてないのにさりげない動作でバインバイン揺らしている小毬さんより私達は有利に立てるというわけです」
……時々だけど西園さんがわからなくなる、まあ来ヶ谷さんは愉快そうに笑ているし小毬さんはよくわからないのかキョトンとしているから別にいいけど。
神社には何事もなくたどり着いた。小銭を賽銭箱に入れて願うこと、以前の僕なら「今、このときがいつまでも続いて欲しい」だったのだけど……
(いつまでもみんなと一緒にいられますように……)
人は変わらずにはいられない、世界が動いている以上それは避けられないことだと僕はあの時思い知った。
だけどそんな世界であってもみんなと一緒にいたいと願うこと、それが今の僕の願いだった。
「じゃあおみくじでも引いていくか」
と、恭介に誘われてみんなでおみくじを引くことになった。なんでもここのおみくじはよく当たると評判で、それがこの神社にみんなを誘った理由との事だった。
さっそく引いたおみくじの中身を確認する、僕の引いたおみくじの内容はこうだった。
吉
金運・フツー
健康・フツー
学業・フツー
失せ物・フツー
恋愛・きちんと本命を選べよ? 刺されても知らねえぜ? ハーレム王
ツッコミ・冴えまくり、相方次第で天下も狙える!
いやいや、なにかおかしい。
おみくじなのに随分フランクな口語で書いてるし始めの四つは随分テキトーだしそもそも最後の項目は運勢ですらない。
「ふむふむ、なるほどな」
「うわぁあ!?」
気がつくと来ヶ谷さんにおみくじを覗き込まれていた。いい加減気配を消して背後を取るのは止めて欲しい。
「はっはっは、運勢はともかく恋愛に関してはおねーさんもそのおみくじと同意見だぞ少年」
「え?」
それはいったいどういうことだろう? 確かにリトルバスターズには女の子は多い(というか新メンバーは全員女の子だ)けどまさか何人かが僕に好意を持っているとでも……?
「君がはっきり誰かを選んでくれんと私が遠慮せずに愛でることができないだろう?」
一瞬でも悩んで損をした気分だ。
「もっとも君がどうであろうと私が遠慮などするはずも無いがな」
「意味ないよねその同意見!?」
色々台無しである。
「それはそうと来ヶ谷さんはどんなおみくじを引いたの?」
これ以上この会話を長引かせるのは色々まずいので話を逸らすことにした。
「私か? さほど面白いものでもないがよかったら見るかね?」
うん、だけどおみくじに面白さを期待するのは間違っていると思う。
大吉
金運・良し、困ることはない
健康・健やかなり、特に胸元
学業・順調なりさすがはアミバさまレベルの大天才!
失せ物・足りないものは見つかったろ?
恋愛・あんまりふざけてると本気の時に困るぜセニョリータ♪
……これもまたなんともいえない。大吉だから悪いことは書いてないんだけど、一部のセクハラやふざけた感じの口語のせいでありがたみがまったく感じられない。
「面白いといえば……葉留佳くん、こっちにきたまえ」
「ん? 姉御呼んだ?」
「葉留佳! 返しなさいってば!」
来ヶ谷さんに呼ばれて葉留佳さんがやってきた手には二枚のおみくじを持っている。佳奈多さんが追いかけてきたということはあれは二人のおみくじなのだろう。
「君達のおみくじを少年に見せてやってくれないか?」
「理樹くんに? いいっすよ」
ほい、と二枚のおみくじを僕に差し出してくる葉留佳さん。だけどそのうちの一枚は佳奈多さんのものだ、さっきから葉留佳さんから取り返そうとしていたものを勝手に僕が見てもいいのだろうか?
ふと視線を上げると佳奈多さんと目が合った。
「な、なによ、見たければ見ればいいじゃないの! べ、別に直枝に見られて困るものはないんだからっ!
だけどすぐにそっぽを向かれてしまった。顔が少し赤くなっているのは気のせいだろうか?
凶
金運・悪し、節約を心がけよ
健康・ちっとくらい悪いほうが世のため人のためかもね
学業・真面目にやれよ
失せ物・もう無くすなよ
恋愛・ライバルが身内か……愛ゆえに人は悲しまねばならぬ、愛ゆえに人は苦しまねばならぬ!
「どうかな♪ 理樹くん?」
「いやいや、どうして凶なのにそんなにうれしそうなの?」
「え~、だって凶だよ? こんなの滅多に引けないじゃん」
「いやいや、おみくじってそういうもんじゃないよね?」
葉留佳さんにとっては書かれている内容以上にレアか否かのほうが大事なようだ。
中吉
金運・悪くはない、平常どおり
健康・良し、ただし精神衛生上ストレスを溜め込むことなかれ
学業・順調なり、でも無理はすんなよ
失せ物・もう無くすなよ
恋愛・ライバルが身内か……愛ゆえに人は悲しまねばならぬ、愛ゆえに人は苦しまねばならぬ!
そんでもってこっちが佳奈多さんのもの。もう文法には何も言うまい。
「べ、別にどうってこと無いでしょ! さあ返しなさいよ」
うん、変なところだらけではあるがそれは他のみんなのものも一緒だ。ん? ちょっと待てよ、これは……
「んっふっふ~♪ おそろいだね~お姉ちゃん♪」
そうだ、最後の二つの項目が葉留佳さんと同じなんだ!
もし失せ物の「無くすな」というものが葉留佳さんとの姉妹関係というのならばそれは当たっていると言える。だったらこの恋愛の項目は……
「た・だ・の! おみくじの結果よ! 余計なことを詮索しないの! いいわね、直枝!」
「う、うん」
……ものすごい剣幕だった。でも余計な詮索ってなんだったんだろう?
「やれやれ、あいかわらずだな少年は。これは葉留佳くんも佳奈多くんも苦労するな」
「やっはっは~、まあそうですね」
どうやら来ヶ谷さんと葉留佳さんにはわかっているみたいだ。ますます謎だ。
「……直枝さん」
「え?」
かすかに袖を引っ張られたので振り返るとそこに西園さんがいた。
「直枝さんは晴れ着を着るつもりはありませんか?」
「着ないからね!?」
前振りもなくいきなりものすごい攻撃がきた。
「何で唐突にそんな話になるの?」
「……これを」
末吉
金運・使いすぎに注意、趣味もいいけどほどほどにな?
健康・身体弱いんだから無理はすんなよ? 太陽には当たるように
学業・問題なし、でも妄想で授業を聞き逃すなよ?
失せ物・返してもらったものは大切にな?
恋愛・退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!
BL・時代は男の娘ブームらしいぜ? 逸材が近くにいるんだから存分に活かそうぜガール♪
とてつもなく嫌な項目が追加されていた! これに比べれば僕のおみくじの追加項目なんて軽いジャブに思えてくる。
「……直枝さんは晴れ着を着るつもりはありませんか?」
「絶対に嫌だからね!?」
静かな口調とは裏腹に、強い意思を込めた西園さんの目に僕はその場から逃げ出すことしかできなかった。
ふと見ると謙吾が青い顔をしておみくじを見ていた。何かよくないことでも書いていたのだろうか?
「どうしたの謙吾?」
「ああ、理樹か、ちょっとな……」
大凶
金運・貯まることはない、気をつけろ
健康・怪我に注意! 特に頭は打つなよ? これ以上はどうにもなんねえぞ?
学業・まずは常識からだな
失せ物・とっくの昔にいろいろ無くしちまってるんじゃね?
恋愛・……まあいつかはいいことあるさ
ジャンバー・誰も着ねえよ、あきらめろ!
予想通り大凶だった、というかジャンバーって……
「ま、まあ謙吾、ただのおみくじだからあんまり落ち込まないで、ね?」
「俺はせっかく作った全員分の手作りジャンバーをどうすればいいんだ……」
「落ち込むポイントはそこだけ!?」
流石にネジが外れていると落ち込むポイントもずれている。
ちなみに落ち込む謙吾の隣では真人がうれしそうな顔でおみくじを見ていた。
「よう理樹、今年はいいことがありそうだな」
「いい結果だったの真人?」
「おう、まさに俺のためにあるようなおみくじだったぜ!」
そうして僕は真人がうれしそうに見せてくれたおみくじを見た。
大胸筋
筋運・真っ盛り!
健康・脳筋
学業・カナディアンマン
失せ物・あらゆる常識が死滅したかに見えた、だが! 筋肉は死滅していなかった!
恋愛・考える必要なくね?
もはや吉凶ですらなかった! 大凶とかけているつもりなんだろうか?
「どうよ?」
「いや、まあ……いいんじゃないかな? すっごく真人らしいよ」
「だろ?」
とりあえずさり気に真人の学業が国辱レベルだと言われている事に関しては言及しないことにした。
「ふわあぁああ!?」
小毬さんの悲鳴が聞こえたのでそっちの方に行ってみると近くにいた恭介と鈴、クドも集まってきた。
「どうした小毬ちゃん!?」
「なにがあったのですか?」
「はわわ!? えっとね、な、なんでもないよ」
そう入ってもあわてて後ろに何かを隠す様は何かあったと言っているようなものだ。
「ひょっとしてこいつが原因か?」
「ふぇ? はわわわ!? どーして!?」
恭介が地面に落ちていたおみくじを拾い上げた。どうやら後ろに隠した時にそのまま落してしまったようだ。
太吉
金運・買い食いに注意! ま、お菓子は控えめにな
健康・気をつけろよ? 奴は気がつきゃ胸だけじゃなくて脇腹にも忍び寄ってるぜ
学業・良し、でもまあ個人的に栄養学も勉強したほうがよくね?
失せ物・むしろなくなったほうがいいんじゃね?
恋愛・ロリコンに注意!
「「「……」」」
あまりの内容に一瞬言葉を失ってしまった。というか一瞬大吉に見えるぶん性質が悪い。ってロリコン?
「小毬ちゃん太ったのか?」
「ふぇえええん、太ってないよぅ」
鈴、ストレート過ぎ……
「心配するな神北、お前は太ってなんかいない。俺が断言してやるさ!」
あれ? どうして恭介が小毬さんの体型についてそんなに自信満々で言えるんだろう?
「はわわわわ!? 恭介さんのバカーッ!」
「なに小毬ちゃん泣かしとんじゃコラーッ!」
「ぐはっ!」
小毬さんは走って向こうにいっちゃったし鈴に蹴り飛ばされた恭介も追いかける形で向こうへ行ってしまった。
「わふ、見てはいけないものを見てしまったのです」
「そうだね」
とりあえず僕とクドは今見てしまったおみくじの内容を忘れることにした。それがきっと平和のためだろう。
「あ、そうだリキのおみくじはどうでしたか? 私のはこうです」
そしてすぐに話題を変える気配りのよさが実にクドらしいと思う。
犬吉
金運・ここ掘れワンワン
健康・予防接種は早めにね♪
学業・バウリンガル!
失せ物・ん~と、成長期?
恋愛・ワンダフル!
食事・朝は米だよね♪
「これはいい運勢なのでしょうか?」
「うん、まあ悪いことは書いてないけどね」
もはやただの言葉遊びだ、この神社の神主さんはやる気がないのではないかと思えてくる。
朝は米ってまさか和風(わふー)ってことだろうか? わかりにくいよ!
「理樹のはなんというかすごく理樹らしいな、ふつーだ」
「む? じゃあそういう鈴はどうだったの?」
「あたしか? あたしのはこうだ」
猫吉
金運・これからは自分で計画的に!
健康・九つの命ですこやかにゃり
学業・にゃんともいえにゃい
失せ物・失くし物はにゃいんじゃにゃいかい?
恋愛・キャット驚く展開に
「どうだ! きっと一番いいくじだぞこれは」
「う~んそれはどうなんだろうね」
どうやらもう言葉遊びすらするつもりもないようだ。
そのとき一枚の紙がひらひらとこっちに飛んできた。紙が飛んできた方向を見ると笹瀬川さんが固まってる、というか石化していた。
「理樹、それはいったいなんなんだ?」
と、鈴が僕が反応するまもなく僕の手から紙、と言うかおそらくは笹瀬川さんおみくじをひったくっていた。そして僕とクドも少し遅れて鈴が見ているおみくじを覗き込む。
ナイチチ
金運・良し、でも金で解決できないことってあるよね?
健康・健やかなり、一部を除いて
学業・いたって順調、でも別に脳に栄養が取られてるとかそんなんじゃねーから
失せ物・もとより失くすほどない
恋愛・ちょいっとアピールポイントが足りないんじゃないかい? まあどこがとは言わんがな
胸・ここまで言えばもうわかるだろ?
「「「……」」」
小毬さんに続いてこりゃまたすごいのがきた。もはや言葉もない。
「あのなざざみ、なんと言っていいかわからんが……まあ元気出せ」
「わふ……きっといいこともあるのです」
クドはおろかいつもは仲が悪い鈴も笹瀬川さんの肩に手を置いて慰めている。……でもたぶん二人がやっても説得力はゼロだと思うのは気のせいだろうか?
「新年早々あんまりですわーーーーーーーーッ!!!!!」
元旦の神社に響く笹瀬川さんの絶叫に僕は慰めの声をかけることすらできなかったのだった。
<完>
――おまけ――
「恭介さんこれ……」
ロリ吉
金運・ロリグッズの買いすぎには気をつけるんだな
健康・身体は健康、精神はダメぽ
学業・身体は大人頭脳は子供って感じ
失せ物・最低限の倫理はなくさないようにな?
恋愛・犯罪には走るなよ
ロリコン・手遅れ、諦めろ
「恭介さんのバカぁあああああ!!!!!」
「ま、待て神北! こんなのはただのおみくじで……」
「小毬ちゃんを泣かすな! この変態兄貴!」
「ぐわああああああ!」
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新年一本目ということでリトバスメンバーにおみくじを引いてもらいました。とはいえ本物のおみくじほど運勢を詳しくは書いてませんがw
あと恭介×小毬って相性けっこういいですよね? 四コマでもプッシュしてましたし。