霊夢や魔理沙が紅魔館を訪れて以来、私は物心ついて初めて地下から出ることを許された。
いまだに館の外に出ることは敵わないが館の中だけでも始めて見る光景は新鮮さでいっぱいだ。
そんな中でも私の一番のお気に入りは広い図書館だ、特に幻想郷の外に関する本は館から外に出れない私にとってドキドキすることにあふれている。
今日も私はパチュに外の本を貸してもらって読んでいたが、あるページに目が釘付けになり、気がつけばその本を片手にお姉さまの元まで駆け出していた。
「あらフラン、どうしたの?」
「お姉さまお姉さま、クリスマスパーティーしようよ!」
「は?」
テラスで紅茶を飲んでいたお姉さまは目を点にして私を見た。
「クリスマス?」
「うん、この本に書いていたの」
そう、私が見たのはクリスマスについて書かれた本だった。ついていた写真にはきらびやかに飾り付けられた部屋に色とりどりのライトが光るもみの木、ケーキやチキンが乗ったテーブルをみんなが楽しそうに囲んでいるものだった。そして今日の日付は12月24日、こうしてはいられないとお姉さまにパーティーを開いてもらうようにお願いに来たのだ。
「あのねフラン、クリスマスっていうのは聖人の誕生日を祝う祝祭なのよ?」
「うん知ってるよ」
たしかキリストさんって茨の冠をかぶって十字架に貼り付けにされている人……だっけ? 変な趣味だとは思うけど噂に聞いた天人と同じ趣味の人なのかもしれない、なんていうんだっけ? 魔理沙が言ってたのは……ドMだったかな? どういう意味だろう?
「フラン、ここ紅魔館は悪魔の館なのよ、どこの世界に成人を祝う悪魔がいるというの?」
「え? ――じゃあパーティは……」
「他の場所ではどうかはしらないけど紅魔館では開かないわ」
お姉さまそう断言された時、私の頭の中は真っ白になってしまった。
「……どうしてもダメ?」
「ダメよ、どうしてもパーティがしたいというならサバトならやってもいいけどね」
「お、お姉さまの……」
「え?」
「お姉さまのバカーーーーーッ!」
気がつくと私はお姉さまの顔面にレーヴァテインを叩き込んで地下の自分の部屋まで駆け出していた。
――どうしてお姉さまはあんなことを言うんだろう、私はただお姉さまや紅魔館のみんなと一緒にパーティを開きたかっただけなのに……
「お嬢様!? ご無事ですか?」
「だ、大丈夫よ咲夜なんでもないわ。頭が半分吹き飛んだだけ、すぐに治るわ」
「いえ、お嬢様が頑丈なのは存じておりますのでそのすっからかんの頭はまったく心配しておりません。それよりお洋服が……ああ、やっぱり血が染みになってますね、これ落ちにくいんですよ、どうしましょう?」
「ゴメン訂正するわ、あなたの忠誠心の高さに結構深く心が傷ついたんだけど……」
「つばでもつけておいてください」
「つけられないわよ! と、まあ冗談はさておき」
「えっ?」
「……冗談よね?」
「え? ええ、はい冗談です」
「……まあいいわ、それより準備して欲しいものがあるの、まずは――――」
「それはもちろんすぐに用意できますが……よろしいのですか?」
「悪魔にだって情愛はあるのよ」
「かしこまりました、一瞬でご用意させていただきます」
「お姉さまのバカ、お姉さまのバカ、お姉さまのバカ」
部屋に戻った私は泣きながら1/2サイズのストレス解消用美鈴人形をひたすら叩き続けた(ちなみにこの人形は地下から出る許可をもらった記念に咲夜にプレゼントしてもらったものだ。なんでも河童の最新技術を使っているらしくて吸血鬼の力で思いっきり叩いても壊れない優れものだ。美鈴の形をしているわけを咲夜に聞いたら「一番叩きやすい形だからですよ」とあっさり答えてたが妙に納得してしまった、いじられてこその美鈴だと思う)。
そしていつの間にか泣き疲れて眠ってしまっていた……
「――様、妹様、おられますか?」
どれくらい眠っていたのだろう? ノックの音と咲夜の声で私は目が覚めた。
「妹様、お嬢様がお呼びです。直ちにいらしてください」
「……行きたくない」
お姉さまはきっと怒っているんだろう、私は謝らなきゃいけない、そんなことはわかっている。わがままを言ってお姉さまにひどいことをしたのは私だ、だけど今の私はお姉さまに素直に謝れる気分ではなかったからだ。
「そうですか……では仕方ありませんね」
「え?」
気がつくと私は大広間の扉の前にいた。
「申し訳ございません、ご無礼ではありますが時間を止めてお連れしました」
お姉さまに忠実な咲夜にしては随分あっさり引き下がってくれたと思ったらそういうことだったのね。
「……帰る」
「よろしいのですか?」
咲夜に呼び止められて部屋に戻ろうとした私はピタリと足を止めた。
「お嬢様と仲直りがしたいのでしょう?」
「それは……そう……だけど」
それでも心の整理がつかない、どうしてもこの戸を開くことがためらわれてしまう。
「私にできるのはここまでです、あとは妹様しだいですよ」
確かに咲夜に無理やりつれてきてもらわなかったら私は当分の間部屋にこもったまま、お姉さまと顔を合わそうとはしなかっただろう。
だけど今私はこの扉の前にいる。あとは私の勇気だけ、私は決意を固めて扉を開けた。
「「メリークリスマス!」」
扉を開けたとたんクラッカーの音が鳴り響いた。クラッカーを鳴らしたのは美鈴と小悪魔の二人だ。
「……メリークリスマス」
少し遅れてパチュリーもクラッカーを鳴らす。
「よくきたわねフラン、今から紅魔館のクリスマスパーティーを始めるわ!」
唖然として固まる私にお姉さまが高らかに宣言した。
「で、でも紅魔館ではクリスマスはやらないんじゃあ……」
「悪魔には悪魔のクリスマスがあるのよ、咲夜!」
お姉さまが指をパチンと鳴らすと咲夜が真っ白なケーキをテーブルに用意した。
「まずはこの純白のケーキを血のように赤い果実で……汚す!」
「わあい♪ イチゴのケーキだ♪」
お姉さまの手で白いクリームのケーキに瞬く間にイチゴのトッピングがされていく。
「そして真っ赤な返り血で汚れた老人を配置!」
「うわあ♪ お砂糖のサンタさんだ♪」
「さらにはその老人の腹の中のように真っ黒な家!」
「チョコレートのおうち~♪」
「トドメは火あぶりの刑よ! 蝋の溶ける熱でじわじわといたぶってあげるわ!」
「綺麗なロウソク~♪」
初めの困惑もなんのその、私はお姉さまの手で演出されていくクリスマスの雰囲気にワクワクし始めていた。
「さあ咲夜、伴奏よ! コンプレックスの塊で悩む畜生に強制労働を強いる歌よ!」
みんなで一緒に『赤鼻のトナカイ』を歌った。とても楽しい!
「最後は用済みになったケーキの始末よ、さあ咲夜、切り刻んでしまいなさい!」
咲夜がケーキを綺麗にカットしてみんなに取り分けてくれた。
「どうフラン、これが紅魔館流のクリスマスパーティーよ。神を冒涜するかの悪魔の宴、楽しんでくれたかしら?」
並んでケーキを食べていたお姉さまが不意に微笑みかけてきてくれた。
お姉さまは初めから怒ってなんかいなかった、それどころか私のわがままをかなえるために私が部屋にこもったあともずっとこの準備をしてくれていたんだ。私はとても嬉しくて胸が温かくなるのを感じた。
「うん! とっても楽しいよ!」
だから私がお姉さまに送るのは謝罪じゃなくて感謝の言葉、心からの本心。
「お姉さま、大好き♪」
「ぶほぉ!?」
「お姉さま!?」
紅魔館の聖夜は静かにふけていった、お姉さまの鼻血と一緒に……
フランの日記
きょうはおねえさまがくりすますぱーてぃーをひらいてくれた
こうまかんのみんなとすごしたぱーてぃーはとてもたのしかったです
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
めっさ時期遅れのネタですw
なんだかんだでレミリアはシスコンだと思うのですがどうでしょうね?